私には分かりません。
口語表現としてよく聞く。
次の言い回しも意味は同じ。
ニュアンスに少し違いがある。
- I don’t have a clue.
- I don’t have any clue.
- No clue.
次も同義とされる。
- I have no idea.
- I don’t have any idea.
だが、日本の学校で教わる機会のある
この2つの表現に比べ、”clue” の方は
めったにないようだ。
上記いずれも便利な口語表現。
英英辞書のほとんどに “informal”
と記されている。
すなわち、非正式でくだけた表現である。
「知らない」「分からない」と否定する
ため、投げやりな物言いさえしなければ、
が、相手や場面を問わず使える。
◆ 2文は同義なので、論理的に考えれば、
“clue” は “idea” と同義になるはず。
確かに意味のやや重なる可算名詞だが、
必ずしも同義語レベルには至らない。
類語辞典(thesaurus)で調べると、
辞書によって可否は分かれる。
例えば、オックスフォード(Thesaurus of
English)では同義語扱いされていない。
しかし、”clue” 項目下の “not have a clue” は、
“have no idea” 及び “not have any idea” の
同義フレーズとして明記されていた。
語学には、このようなケースが多い。
フレーズや文全体として同義になっても、
構成要素である単語を比較すると、
同義にならなかったりする。
<解釈>が入ることもあり、適用する論理が
理数系とは異なると考えられる。
◆ “clue” には、名詞と他動詞がある。
語源は「糸玉」(clew)。ここから「糸口」に。
発音は、klúː
基本的意味は、
– 名詞「糸口」「手がかり」
– 他動詞「手がかりを与える」
主な同義語は “hint”、”indication”、”lead”。
◆ 一方、”idea” は名詞のみだが、はるかに多義。
ギリシア語「イデア」を語源とする。
基本的意味は「考え」「見解」「観念」で、
哲学・論理学・医学・心理学・音楽など
の分野を幅広く網羅する。
「糸口」「手がかり」にとどまる “clue”
とは比較にならない。
また、“clue” は可算名詞のみだが、
“idea” は不可算名詞も兼ねる。
“idea” の主な同義語は、
“concept”、”notion”、”thought”、’plan” など。
(Oxford Thesaurus of English)
◆ “I have no clue.” や “I have no idea.”
が口語として重宝される一因は、
「私には分かりません」という英語表現が
単純でないからである。
“I don’t know.“(分かりません) は日本の中学校で必ず学ぶ。
基本中の基本の表現である。
だが、実用では要注意。
シンプルだが、実にそっけなく聞こえがちなのだ。
びしゃり「分かりません」「知りません」。
相当すげなく、取り付く島のない冷たい様子
を伴う場合が少なくない。
そもそも “I don’t know.” は、否定が目的。
あらぬ疑いなどを強く否定する上では有効だが、
日常使用には露骨すぎる勢いのある3語。
言い方に気をつけないと、
「そんなの知るか」「知らねーよ」「さあね」
みたいな冷淡で無関心な印象を与えてしまう。
そのため、もっとソフトで誤解を招きにくい、
“I have no clue.” や “I have no idea.”
が好まれるのである。
結果的に、”I don’t know.” の婉曲表現として役立つ。
◆ 反論ではない単純な否定の際は、言い振りに
気をつける必要がある。
本稿で挙げた全表現とも、状況次第では、
「そんなの知るか」「知らねーよ」「さあね」
と受け手に聞こえる可能性がある。
敬語があいまいな英語ゆえのリスクである。
◆ このような大切なことは、学校ではなかなか
教えてくれない。
自ら恥をかきつつ、覚えていくことが多い。
相手を怒らせたり、赤っ恥をかいて学んだ表現
は忘れにくい。
40年以上、こうして英語学習を重ねてきた私は、
<大きく恥をかけば得るものも大きい>と実感している。
プロの翻訳・通訳者でもない限り、
語学的な間違いはきちんと謝れば、大抵どうにかなる。
心配しすぎないで、どんどんトライしよう。