盛りを過ぎた、中年過ぎの
直訳は「丘を越えた」。
<3語ワンセット>で、形容詞として使う。
日本語の「峠を越えた」に似ている。
「危険な状態を過ぎた」に加えて、
こちらも「盛りを過ぎた」を意味する。
「峠」の語釈「2」が明記する。
おか【岡・丘】
土地の小高い所。低い山。小山。
とうげ【峠】
1.山の坂路を登りつめた所。
山の上りから下りにかかる境。
2. 物事の絶頂の時期。極限。極度。
(広辞苑 第六版)
一般的な英訳は、
- 「丘」 “hill”
- 「峠」 “pass”
両者とも上りから下りに差し掛かる
様子を示すので、分かりやすい。
<上がったものは、いずれ下がる>
との考え方は、単純で理解しやすい。
What goes up must come down.
(上がったものは、必ず下がる。)ニュートン
Sir Isaac Newton (1642-1727)
こうした格言も存在する。
中年期に入ると、体力やら記憶力やら、
衰えを自覚する機会が増えてくる。
したがって、嫌でもこのことを悟る。
加齢とともに徐々に失っていく現実を、
視覚的に表す言い回しの数々。
諸行無常とは異なる趣がある。
ほとんどの言語に、同様の表現があるという。
◆ “over” には、前置詞・副詞・形容詞・名詞
がある。非常に基本的かつ多義の単語。
口語・文面とも、頻出度は<トップ1000語以内>。
重要度も<トップ3000語以内>。
(ロングマン、LDOCE6 の表記より)
“over” の語源は、古英語の「越えて」(ofer)。
多義ではあるが、「上に」「越えて」
という原義から派生する意味が多い。
ここでは、基本の前置詞「~を越えて」。
◆ “hill” には、名詞と他動詞がある。
語源は、古英語「丘」(hyll)。
– 名詞「丘」「小山」「盛土」
– 他動詞「盛土をする」「積み上げる」※まれ
“hill” は、”mountain”(山)と “knoll”(塚)
の中間で、2,000フィート(610m)以下の
隆起を指す。
(ランダムハウス英和大辞典 第2版)
“hill” の日常使用は、名詞中心。
成句が多めなのが特徴。
– “as old as hills“(とても古い)
– “take to the hills” “head for the hills”
(逃亡する)
– “up hill and down dale”
(徹底的に、至る所に)
だが、これらの成句以上に頻出なのが、
形容詞用法の “over the hill”。
“hill” は可算名詞なので、不可算名詞 “a”
がつくのが通常。
“over the hill” の表現では、”the” を用いて
<3語ワンセット>。
ハイフン入りの “over-the-hill” で、
名詞を飾る形容詞用法も多い。
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◆ 丘 “hill” を「ピーク」と考え、
それを越えるから「盛りを過ぎた」、
または「中年過ぎの」を表す。
文脈でどちらか判断するが、いずれとも解釈
できることが多く、翻訳者泣かせ。
もっとも、両方とも該当するケースが多く、
大した問題ではなかったりする。
年齢であれば事実を示すだけだが、
「盛りを過ぎた」には<解釈>が入る。
よって、相手に対する好意があれば、
「盛りを過ぎた」という意味合いで
“over the hill” を用いることは少ない。
「落ちぶれた」と言うに等しいからである。
“over the hill” は、自嘲または意地悪な評論
で使われることが多い。
単純に「中年過ぎの」を示したければ、
誤解を招きやすい “over the hill” は避けるだろう。
“He is an over-the-hill singer.”
(彼は中年過ぎの歌手だ。)
(彼は盛りの過ぎた歌手だ。)
“I am over the hill and want to quit.”
(もう年なので辞めたい。)
“She is considered over the hill as an actress.”
(女優としての盛りを過ぎたと、彼女はみなされている。)
実際の人生は「山あり谷あり」。
加齢にかかわらず、複数のチャンスを引き寄せ、
異なるピークが何度も訪れる生き方ができれば、
と願う。
【類似表現】
“past one’s prime”
(盛りが過ぎた)
“My time is up.”
https://mickeyweb.info/archives/11257
(私の時代は終わった。)