~ におじけづく、 威圧される
日本語ではあまり見かけない意味合いの
ひとつに “intimidated by” がある。
【発音】 ɪnˈtɪm.ə.deɪ.t̬ɪd
【音節】 in-tim-i-dat-ed (5音節)
インタビュー記事を読んでいると、
I was intimidated by him (her).
このような表現をよく見かける。
” intimidate ” を理解していないと、
一律「 脅された 」と解釈しかねない
私自身、そんな記事を読むたびに、外国には
「 脅迫する怖い人たちが、そんな多いのか! 」
と勘違いしていた時期があった。
–
◆ もっとも、どちらとも解釈できる場合もある。(例文参照)
◆ インタビューなどで多用されるケース
相手の「才能」「美貌」などに圧倒され、
■ おじけついた
■ 恐れを抱いた
■ 気圧された (後述)
■ 気後れした
■ ひるんだ
「 びびった 」感じ
★ 少々下品に 「 めっちゃびびって、ちびりそうだった 」
けおされる 【 気圧される・気押される 】
- 全体の感じや相手の勢いに圧倒される。
(広辞苑 第七版)
– - 相手の勢いなどに気持ちの上で圧倒される。
(明鏡国語辞典 第二版)
– - 相手の意気ごみにおされる。圧倒される。
(三省堂国語辞典 第七版)
– - 相手の勢いに負ける。気分的に圧倒される。
(大辞林 第四版)
– - (「け」は接頭辞)
勢いに押される。なんとなく気分的に圧倒される。
(精選版 日本国語大辞典)
びびらす
◆ “intimidate” には、自動詞はなく、他動詞のみ。
【発音】 ɪnˈtɪm.ə.deɪt
【音節】 in-tim-i-date (4音節)
語源は、ラテン語「怖がらせる」(intimidāre)。
多義でなく、語源に沿った意味だけなのだが、
上述の通り、誤解の余地がある。
意味は、ざっくり二分できる。
■ “intimidate”(品詞は他動詞のみ)
–
(1) 「おじけづかせる」 「臆病にする」
→ “discourage”
–
(2) 「脅す」 「威圧する」
→ “threat“
【活用形】 intimidates – intimidated – intimidated – intimidating
枠内が “intimidate” の全体像。
これほどシンプルなのに、なぜ混乱しがちなのか。
一因として、日本語では、
特定の人物に「おじけづく」または「威圧される」
旨の描写が、さほど一般的ではない
からだと私は考えている。
「おじけづく」感覚そのものは、大勢が経験済みであろう。
だが、英語に比べると、その描写は目立たないと感じる。
同じ感情は沸き起こるのに、上掲の
” I was intimidated by him (her). “
に比べて、日本語で表現される機会は少なめ。
–
◆ 「おじけづく」は、漢字で「怖気付く」。
『三省堂国語辞典 第七版』のように、
「怖じ気付かせる」と表記する国語辞典もある。
おじけづく【怖気付く】
- おそろしいという気持が生ずる。 おぞけづく。
(広辞苑 第七版)
– - 恐ろしい、かなわないという気になる。ひるむ。
(大辞林 第四版)
– - おそろしい、逃げたいと思う気持ちになる。
(三省堂国語辞典 第七版)
“discourage” も “threat” も、通常は <恐怖心>を伴う。
先に少し触れた「びびった」に重なる。
このため、<誤解>を招きやすい。
ましてや、表題 “intimidated by” は受動態。
分かりにくさに拍車がかかる。
“by” は、動作主を示す前置詞。
” intimidated by ” は「 おじけづく 」が基本
実際には、「 脅される 」「 脅迫される ( × 強迫 )」
と訳すことも多い。
矛盾はしないだろう。
【例】
” I refuse to be intimidated by the stalker. “
( そのストーカーに脅されるのはまっぴらだ。)
( そのストーカーの脅迫には屈しない。)
( そのストーカーにおびえるのはまっぴらだ。)
( そのストーカーにおじけづくのはまっぴらだ。)
最初の2文が、本稿の示す<誤解>を招きやすい和訳。
ニュアンスに差があるものの、4文どれも適切。
“intimidate” は他動詞のみで、多義ではない。
「脅迫する」は、比較的分かりやすい感情である
片や、「おじけづく」は思い浮かべにくい。
これが誤読の一因となる。
和訳以前に、意味合いをイメージできることが大切。
–
◆ これまでの説明をしっかり理解すれば、
文脈から正しく意味を読み取れる。
例文で慣れると早い。
定訳はないに等しいので、工夫して和訳している。
繰り返すが、いずれとも解釈できる場合もある。
( ※ つき)
(1) 「おじけづかせる」「臆病にする」 → “discourage“
“I was intimidated by her beauty.”
(彼女の美しさに圧倒された。)
“She was not intimidated by his height.”
(彼女は彼の背の高さにおじけづかなかった。)
“He was intimidated by her intelligence.”
(彼女の知性に彼はおじけづいた。)
“I was intimidated by making a speech.”
(スピーチするのが怖かったのです。)
“My mom feels intimidated by computers.”
(母はコンピュータにおじけついています。)
(2) 「脅す」「威圧する」 → “threat“
“I was intimidated by his ex-girlfriend yesterday.”
(昨日、彼の元カノに脅されたわ。)
“He has a reason to be intimidated by her.”
(彼女に脅迫される理由が彼にはあるのです。)
“I won’t be intimidated by you.” ※
(あんたなんかに脅されないから。)
“Japan cannot be intimidated by this incident.”
(日本はこの事件なんかで屈しない。)
“I don’t want to be intimidated by your wife.” ※
(あなたの妻から脅迫されたくないの。)
“I was intimidated by all the bullies”
(すべてのいじめっ子から脅された。)
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◆ よい機会なので、次の2つも一緒に覚えておこう。
- 形容詞 ” intimidating “ ( 威圧的、 怖い )
–
【発音】 ɪnˈtɪm.ə.deɪ.t̬ɪŋ
【音節】 in-tim-i-dat-ing (5音節)
–
- 不可算名詞 ” intimidation “ ( 脅し、 威嚇 )
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【発音】 ɪnˌtɪm.əˈdeɪ.ʃən
【音節】 in-tim-i-da-tion (5音節)
“My ex-husband was very intimidating.”
(別れた夫は、とても威圧的だった。)
“I have to confront my intimidating boss.”
(威圧的な上司に立ち向かわなければ。)
“My teacher is intimidating.”
(私の先生は怖い。)
“I am not afraid of your intimidation.”
(あなたの脅迫なんて、怖くない。)
“I won’t surrender to intimidation.”
(脅迫に屈しない。)
いあつ【威圧】
- 威力や威光などで相手をおさえつけること。
(明鏡国語辞典 第二版)
– - 威勢や権力などで相手を恐れさせること。
(大辞林 第四版)
–
いあつてき【威圧的】
- 相手を押さえつけるようなさま。
(広辞苑 第七版)
– - 《形動》
他人に対して、おどしつけるような態度であるさま。
(大辞林 第四版)
– - 《形動》
頭からおさえつけるさま。
(精選版 日本国語大辞典)
–
◇ 「形動」とは、「 形容動詞 」の略。
形容詞と異なり、「 威圧的 である 」と表現できる。
日本語の形容詞と形容動詞の違いは、” conclusive ”
で、『 日国 』を転載しつつ、事細かに取り上げた。
【参考】 ※ 外部サイト
‘ I Cannot Be Intimidated. I Cannot Be Bought. ‘
The Women Leading India’s Farmers’ Protests
https://time.com/5942125/women-india-farmers-protests/
2021年3月4日付