老朽化した、経年劣化した
「老化」といえば、”aging”。
こう覚えておけば、とりあえず通じる。
<形容詞 / 不可算名詞 / 自他動詞の現在分詞形>
“aging” = 老化・老化した・老化する
人間・動物・植物・建物・施設・機械・物品
など、おおかたカバー
日本語の「老化」と同じく応用が利く。
<最適>な表現とは限らないが、当たらずとも遠からず。
大きく外れることはない。
◆ “aging” には、上掲の通り、形容詞・名詞(不可算)・
自動詞及び他動詞の現在分詞形がある。
イギリス英語では “ageing” とつづることもある。
“aging” は “age” から派生した。
“age” には、名詞(可算、不可算)・自動詞・他動詞
があり、語源はラテン語「生涯」「時」(aevum)。
品詞にかかわらず、”age” の基本的意味は語源に忠実で、
「時」に直結する。
そして、”aging” もこの流れを汲んでいる。
– 形容詞
「老化した」「年代物になってきた」
– 不可算名詞
「老化」「高齢化」
– 自動詞の現在分詞形
「年をとる」「古くなる」
– 他動詞の現在分詞形
「年をとらせる」「古めかせる」
◆ LDOCE6(ロングマン)の “aging” は明解である。
– 形容詞:
becoming old.
– 不可算名詞:
the process of getting old.
– 自動詞・他動詞の現在分詞形
1. to start looking older or to make someone
or something look older.
2. to become older.
ところで、「劣化」と言えば、形容詞 “old”(古い、
年老いている) を想起する英語学習者は少なくない。
しかし、これは適切ではない。
新しくても(若くても)、劣化の著しいケースは
あり、その逆も少なくない。
<古い=劣化>とは限らない。
したがって、”old” の単独使用は「劣化」の英訳
として誤訳となる。
「劣化」の主な英語は、不可算名詞の
“deterioration“(ditìəriəréiʃən)
“degradation“(dègrədéiʃən)
自他動詞の “deteriorate” と ”degrade”
の名詞形である。
それぞれに形容詞 “aging”(または、同 “aged”)
を前付けすれば「経年劣化」となる。
経年劣化【経年劣化】
年月を経て製品の品質や性能が低下すること。
(大辞林 第三版)
- aging deterioriation
- aging degration
- aged deterioration
- aged degration
実務では、
上記 “aging” や “aged” 抜き で、
「経年劣化」と訳されることが多々ある。
こう見ると、”old” は「劣化」に直結しない一方、
なぜ “aging” ならOKなのか、疑問に思う。
“old” には形容詞と名詞があり、最も基本となる
形容詞「老化した」は “aging” と重なる。
最大の違いは、”old” は「老化した」状態そのもの
の表現なのに対し、
“aging” は老化のプロセスに着目している点である。
“the process of getting old”(上記 LDOCE6 赤字)
“the process of becoming older”(Wikipedia)
と定義されるように、
”aging” は、
経過(process)による変化を含む表現
その時点での老いた様子を示す “old” と異なる。
※ “getting old” であれば、変化を示す
だからこそ、<old = 劣化>にはならず、
<aging = 劣化> はありうるのである。
“old” には動詞がないのに対し、”aging” に
自動詞・他動詞があるのも無関係でない。
和訳は同然なので、混乱しやすい。
「老化した」または「年老いた」だが、
静的な “old” と動的な “aging” の違い
は、押さえておきたい。
もっとも、“aging” の基本イメージは “old” と
等しくネガティブである。
ただ、単に毛嫌いされているだけでなく、
「生あるもの」「形あるもの」の宿命として、
諦念とともに受容されている感がある。
–
◆ その反面、”aging” は経年変化によって熟成させる
技法を指す専門用語でもある。
すなわち「ねかす」こと。
自動詞・他動詞の “aging” には、先に挙げた2つ
に加えて、次の意味もある。
“aging”
3. to improve and develop in taste over a period
of time, or to allow food or alcohol to do this.
(ロングマン、LDOCE6)
※ 下線は引用者
– 自動詞の現在分詞形「熟成する」
– 他動詞の現在分詞形「熟成させる」
この用法の具体例を挙げる。
- 電化製品:
工場出荷前に初期不良除去と特性安定化のため、
製品に通電すること。「ならし」。 - ファッション・家具:
わざと使い込まれたように渋くみせること。
風合いを再現すること。「エイジング加工」。 - チーズ・酒・木材:
「熟成」「ねかし」 - 冶金:
「時効硬化」「ねかし」 - コレクション全般:
「年代物」「アンティーク加工」
どれも、経時に伴う製品の変化を味方にし、
商品価値を上げている。
“improve and develop”(LDOCE6 下線)である。
–
◆ 一方、人間はどうか。
悲しいかな、人間の “aging” は「老い」一筋。
ポジティブな意味合いを期待して、懸命に調べたが、
<加齢を前向きに捉えよう>の論調の記事が
辛うじて見つかるばかり。
つまり、「アンチエイジング」か「エイジングケア」
の一点張り。
日本語の【老】には、「物慣れる」「長い経験を積む」
の意味も含み、「老熟」「老成」「老練」の印象は良好。
これらの代表的な英訳は、以下の通り。
- 形容詞・自動詞・他動詞・名詞 “mature“
- 形容詞・自動詞・他動詞・名詞 “mellow“
- 形容詞 “experienced”
結局、人間の「老熟」「老成」「老練」と “aging”
を確実に結びつける拠り所は見つからなかった。
人間の場合、上記 LDOCE の語釈「3」は対象外なのだろうか。
- “rapidly aging population”
(急速に高齢化する人口)
– - “aging baby-boomers”
(高齢化しつつある団塊世代)
– - “an aging society”
(高齢化社会)
※ 3つとも、現代日本を表すのに多用される
– - “aging actresses”
(老いつつある女優たち)
– - “an aging building”
(老朽化している建物)
– - “due to aging”
(老化のため)
– - “My parents show some signs of aging.”
(両親に老化の兆候が見られている。)
– - “We need to dismantle aging plants”
(老朽化している工場を解体する必要がある。)
– - “Hearing loss is often a part of aging.”
(難聴は加齢に伴うものであることが多い。)
ー
【類似表現】
“decrepit“ ※ 形容詞
1.(人が)老いぼれた、よぼよぼの
2. (物が)老朽化した、おんぼろの
3.(経済などが)弱体化した
【発音】dikrépit