方向づける
頻出には至らないが、討論番組では比較的聞く。
一見すると意味を推測しにくいが、
一度覚えたら忘れにくい成り立ちなので、
この場で覚えてしまおう。
◆ ポイントは “tone“。
語源は、ギリシア語「音調」(tonos)。
名詞・他動詞・自動詞がある。
中心となる名詞は多義で、可算と不可算を兼ねる。
その上、専門用語としても多岐に渡る。
(言語・音楽・絵画・写真・医学)
だが、基本的意味はカタカナの「トーン」に沿う。
すなわち、「音調」「色調」「口調」。
語源通りである。
「トーンダウン」は「勢いや調子を和らげること」。
「モノトーン」は「単調。単色で濃淡を表現すること」。
(広辞苑 第六版)
それぞれ “tone down” と “monotone” そのもの。
したがって、”tone” は割合イメージしやすいはず。
– 名詞「音調」「色調」「口調」「風格」
– 他動詞「調子を整える」
– 自動詞「ある調子を帯びる」
–
表題の “tone” は、不可算名詞の単数名詞。
「単数名詞」(singular noun)とは、
単数扱いされるのが一般的な名詞。
英英辞書では “S” または “sing” と略記されたりする。
“set the tone” では、この不可算の単数名詞 “tone”
が定冠詞 “the” とセットで用いられる。
意味は、抽象的な「調子」「傾向」「流れ」(後述)。
いずれも、上記の基本的意味から派生した意味合い。
◆ “set” もまた、カタカナで馴染み深い。
他動詞・自動詞・名詞・形容詞があり、
頻出かつ重要、そして非常に多義。
口語・文面とも、頻出度は<トップ1000語以内>。
重要度も<トップ3000語以内>。
(ロングマン、LDOCE6 の表記より)
英単語として、最重要レベルに位置する点で、
“tone” の比ではない。
語源は、古英語「置く」(settan)。
「セットする」=「配置する」「設定する」
基本的意味は、カタカナとほぼ同じ。
– 他動詞「置く」「定める」「近づける」
– 自動詞「(太陽が)沈む」「衰退する」「流れる」
– 名詞「一式」「仲間」「態度」「傾向」
– 形容詞「規定の」「慣習的な」「動かない」
“set” はとても多義で、これら以外にも、
収拾がつかないほど多数の意味がある。
どの品詞も、語源からかけ離れた意味が多い。
しかも、日常的に出てくる用法ばかりなので、
実に英語学習者泣かせの単語である。
語形変化も不規則。
過去形 set、過去分詞 set、現在分詞 setting。
現在・過去・過去分詞のすべてが “set”。
表題では、他動詞「定める」。
カタカナ「セットする」とほぼ重なる。
以上より、
■ “set the tone” は、
「調子を定める」
「傾向を定める」
「流れを定める」
つまり、「方向づける」
口頭でも文面でも使うフレーズである。
“set the tone”
establish the general attitude or feeling of
an event, activity etc.
(ロングマン、LDOCE6)
to establish a particular mood or character
for something.
(ケンブリッジ、Cambridge Academic Content Dictionary )
<下線の参考和訳>
態度、感覚、雰囲気、性質(上から順に)
下線部のように、ここでの”tone” は漠然としている。
<抽象的な「調子」「傾向」「流れ」>
との既述通り。
“set the tone” には定訳はなく、
文脈に合わせた和訳を当てる必要がある。
基本となる考え方は、上掲黄枠に示した。
つかみどころのない感じは、日英共通。
このような表現の場合、日本語の語彙力が特に問われる。
- “His speech set the tone for the conference.”
(彼のスピーチは、その協議会を方向づけた。)
– - “Her message set the tone for his birthday.”
(彼女からのメッセージが、彼の誕生日の雰囲気を築いた。)
– - “My boss set the tone for the party.”
(私の上司がそのパーティーの流れを決定づけた。)
– - “This experience set the tone for the rest of my life.”
(この経験が自分の人生を方向づけた。)
– - “That loss set the tone for our team last season.”
(あの敗北が昨シーズンのチームの成り行きを決めた。)
5つの例文からも分かるが、”set the tone” 直後の前置詞は、
方向・対象の “for“(~に対して) が圧倒的。
関連の前置詞 “of“(~について)も使われる。