少し思ったことです。
自分の思いつきを、さり気なく表現する際
の常套口語。
“It’s just a thought.” の略。
「ちょっと思ったのです」
「つまらぬ考えかもしれません」
「ただの思いつきです」
◆ 提案方法は、状況にかなり左右される。
特に、自分の立ち位置を考慮せずして、
アイデアなど出せるものではない。
社会人なら、きっと理解できる感覚。
例えば、自分がそのプロジェクトのリーダー
であれば、気兼ねなく発言できるだろう。
もし、オブザーバーや新入りの場合はどうか。
たとえ同内容の指摘であっても、時宜と言い回しに
配慮して、他メンバーの反発を買わぬよう自制する。
何よりも自分のためである。
“Just a thought.” を、ふと感じたことを述べる際に
使うことも当然あるが、実際のところ、そうでない場面
も少なくないはず。
それなりに意義ある着想だからこそ披露する。
仕事中なら、なおさらである。
単なる思いつきをやたら口にする行為は、自分を貶める。
聞き入れられる自信がなければ、黙るのが普通だろう。
–
つまり、”Just a thought.” の本来の役割は、自分の意見を
すんなり聞いてもらうため前置き。前口上のみならず、
発言後に、フォローとして起用することも多い。
とにかく相手を刺激しないようにして、自論を展開する。
日本語でも「ちょっと思ったんですが」などと言って、
話の糸口を見出そうとする。
「ちょっと」どころではなく、実はずっと考えていたりする。
「愚考」とは、あくまで謙称であり、自分の考えを
本気で愚かと信じて、わざわざ話す社会人は珍しい。
◆ 辞書には、通り一遍の説明しか書かれていない。
“it’s just a thought” =
spoken
used to say that what you have just said is
only a suggestion and you have not thought about
it very much.
(ロングマン、LDOCE6)
used when offering an idea or a suggestion.
(Macmillan Dictionary)
“Just a thought.” =
単なる思い付きなんだけど。
なんてちょっと考えてみたんだけど。
【用法】思い付きを口にしているだけなので、
あまり真剣に取らないでほしい、という意味。
(英辞郎 on the WEB Pro)
※ 下線は引用者
LDOCE6 の下線部「単なる提案であり、深く考えていない」。
そうでないケースが多いと思われる現実は、既記の通り。
英辞郎「あまり真剣に取らないでほしい」も同様。
聞き流してもらうのが本意ではない。
仕事中の “Just a thought.” には、とりわけこうした傾向がある。
◆ “thought” には2種類ある。すなわち、
名詞 “thought” と自他動詞 “think” の過去・過去分詞形。
ここでは前者で、可算と不可算を兼ねる。
名詞 “thought” は、最頻出かつ最重要レベルの英単語。–
– 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
– 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
– 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
(ロングマン、LDOCE6)
【発音】θɔ́ːt
→ “th”(θ) の発音は、”smooth out” 参照
語源は、古英語「考えること」(thōht)。
動詞 “think” や “thank” と同根である。
可算と不可算は、次のように大きく区分できる。
– 可算名詞「思いつき」「考え」
– 不可算名詞「思考」「思想」
【注意】可算・不可算どちらも使える
用途もあり、線引きの難しい名詞
表題では、可算扱いの「思いつき」や「考え」。
よって、不定冠詞 “a” がつく。
これに、副詞 “just”(ただの)が加わる。
同じ用法例は、
- “Just a joke.” “It’s just a joke.”
(ただの冗談です。) - “It’s just a scratch.”
(ただの擦り傷です。) - “It’s just a hobby.”
(ただの趣味です。)
いずれも「大したことはない」との意味合い。
しかし、本心はそうとも言えないだろう。
これらにも、先の推測が当てはまる。
◆ そもそも「思いつき」自体があいまいで、
良くも悪くも解釈できる。
おもいつき【思い付き】=
–
思いついたこと。工夫。着想。
または、いいかげんな考え。気まぐれ。
(広辞苑 第七版)
(1) ふと心に浮かんだこと。
(2) よい考え。よい工夫。着想。
(大辞林 第三版)
※ 下線は引用者
「いいかげんな考えだから」「気まぐれだから」
の意味で “Just a thought.” を用いるケースは、
一般的でない点には触れた。
話したくてたまらない自分の考えや思い。
表題の主な趣旨は、相手の抵抗を抑えつつ、
それを提言することにある。
先述の「愚考」を含め、日本語にも
似たような物言いがいくらでもある。
理解するべき本質は、コミュニケーションと心の作用
であり、反発回避のためのアプローチである。
言語面は、二の次になる。
【関連表現】
“It’s the thought that counts.”
https://mickeyweb.info/archives/4224
(大事なのは気持ちのほうだから)