プロ翻訳者の単語帳

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Draw the line

      2020/09/24

限界を設ける、  一線を画する、  線引きする

直訳は「一線を引く」。
“draw a line” も「一線を引く」。

私たち日本人には、同じ意味に感じる。

だが、あの厄介な「冠詞」の区別を思い起こせば、
何らかの違いがあるはずだと見当が付く。

 

 

結論から述べると、共通点も相違点もある
また後述の通り、大差はなく、ごっちゃに
されていたりする。

両者の比較は、特に中級学習者にとっては、
復習を兼ねた思考を巡らすきっかけとなる。

 

◆  2つはニュースにも出てくる。

どっちが用いられたか、なぜそちらが起用されたのか。
代替可能か。

今後、見聞きした際に考察してみるとよい。
そうしておけば、いざ自分で使う時に迷わなくなる。

外国語の場合、母語と異なり、大して意識せずに
的確な表現が出てくるまでには、相当の工夫が必要。

余裕がある時に、知識を整理していく地道な努力を
重ねて、ようやく無意識レベルで使えるようになる。

私自身、35年以上に渡り、単語帳をせっせと作成中。

地味で暗い作業かもしれないが、結構楽しんでいる。
弊サイトでは、その中から選り抜いてご紹介している。

 

◆  “draw” は多義の自動詞・他動詞・名詞。

【発音】  drɔ́ː  (1音節)

ここでは、他動詞「(線を)引く」「(線で)区分する」
「引き分け」「抽選」「ドローイング」も “draw”。

語源は、古英語「引く」(dragan)。

【活用形】  draws – drewdrawn – drawing


◆  本稿の表題は “the” にした。

なぜなら、”a”よりも数多くの辞典で項目立てされていたから。
そのため、”the” の方が熟語的だと目星が付く。

調べてみると、果たして予想通りであった。

まずは、LDOCEで比較。

■  draw a line (between something)
to think or show that one thing is different
from another.
両者の区別を考えたり示したりすること

■  draw the line (at something)
to allow or accept something up to a 
particular point, but not beyond it.
受容する限界を定めること

■  where do you draw the line ?
spoken
used to say it is impossible to decide at
which point an acceptable limit has been
reached.
「どこに限界を設ければよいのか?」
と受容する限度を判断しかねる疑問文

(LDOCE6、ロングマン)

※  矢印は和訳の要約(私訳)

直訳は「一線を引く」と冒頭に記した。
この日本語も、実は一義にとどまらない。

ここに気づけば、話が早い。

■   いっせん【一線】
〚名〛
2. はっきりしたくぎり。区別。けじめ。
また、限界限度

■  いっせん【一線】を画(かく)する
境界をはっきりさせる。はっきりとくぎり
をつける。区別する。

(精選版 日本国語大辞典)

■  一線を画する
(境界線を引いて)相互の区別をはっきり
させる。

(大辞林 第三版)

国語辞典と先のLDOCE6の語釈を比較する。

「一線」には、「区別」と「限界」の両方
の意味がある。

一方、”a line” =「区別」、”the line” =「限界」
と “LDOCE6” は示す。

とすれば、「一線」は “a line” と “the line” を兼ねる。

「一線を画する」は、「区別」しか明示していない
ものの、「一線」の意味を考慮すれば、「限界」
も含むこととなる。

さらに、次の「一線を越える」からも、「区別」「限界」
とも適用できることが分かる。

■  一線を越える
けじめや限界を越える。現状を変えるような
思い切った行動をする。

(広辞苑 第七版)

要するに、日本語の「一線」は、文脈次第で
“a / the line” いずれも可能。

これは「線引きをする」にも言える。

■  せんびき【線引】
〚名〛
4. 一般に区分すること。境界を定めること。

(精選版 日本国語大辞典)

こうなると、”draw a line” と “draw the line”
の和訳は「一線を画する」「線引きをする」
で間に合ってしまう。

 

◆  現に英和辞典を引くと、そんな感じ。

名だたる「英和大辞典」では、

■  draw the [a] line (at…)
(…に)行動の限界をおく,
(…まで [以上]は)やらない

新英和大辞典 第6版

■  draw a [or the] line
(2)(…を)区別する《between …》
(3)一線を画す, 限界をおく;
(…の)一線を越えない, (…の手前で)一線を画す,
(…までは)やらない《at …》

ランダムハウス英和大辞典 第2版

■  draw the [a] line
(1)(…に)制限を設ける(set a limit),
(…の点で)いけないと言う(object);
(…するのを)断る(at, against).
(2)(…の間に)一線を画す,
(…を)区別する(between).

ジーニアス英和大辞典

日本が誇る錚々たる「英和大辞典」3点である。

英語の専門家なら誰もが知る、堂々の存在感。

ところが、今回調べた9点の英英辞典では、
一括りに項目立てしたものは1つだけ(後述)。

先に触れたように、”the” は多くの英英(9点中7点
が独立項目を設けていたが、”a” は “LDOCE6” と
“COBUILD9” のみが該当した。

また、英英7点のうち6点において “a” は併記
されていなかった。留意すべき相違点である。

 

◆  とはいえ、先述の通り「大差はない」ことは確認できた。

前掲の LDOCE6 を除いた6点の語義を挙げる。

■  draw the line
(between something and something”
to distinguish between two closely
related ideas.

(OALD9、オックスフォード)   ※ 

■  draw the line
to never do something because you 
think it is wrong.
(CALD4、ケンブリッジ)

■  draw the line at
If you draw the line at a particular activity,
you refuse to do it, because you disapprove
of it or because it is more extreme than 
what you normally do.
(COBUILD9、コウビルド)

■  draw the line
to reasonably object (to) or set a limit (on).
(Collins English Dictionary, 12th Edition)

■  draw the line
to say that you will definitely no allow or 
accept something.
(Macmillan Dictionary、マクミラン)

■  draw the line or draw a line
1. to fix an arbitrary boundary between
things that tend to intermingle.
2. to fix a boundary excluding what one will
not tolerate or engage in.   
Merriam-Webster、メリアムウェブスター)

ここには、”a line” であっても違和感のない語釈
「区分」が含まれている。すなわち「」のOALD9。

」の Merriam-Webster は、「英和大辞典」
同様に、一括して説明する唯一の英英。

「英和大辞典」の一括りは、間違いとまでは
言えないのだろう。

以下の英語学習サイト(英文)を見ても、
両者の違いについて、歯切れの悪い回答が並ぶ。
https://forum.wordreference.com/threads/draw-a-the-line.2506269/

 

◆  以上の英英・英和辞典より、

“draw a line” と “draw the line” の区別に、
さほど神経質になる
必要はない

と考えられる。

そして、国語辞典3点より、「一線を画する」及び
「線引きをする」を兼用できる
点も検証した。

目安としては、

  • draw the line

    限界 のために「線引きをする」

  • draw a line
    区別 のために「線引きをする」

  厳格に区別できるものでないと考えられる。

両者を 同一視 する英和・英英辞典も存在する。

・ 新英和大辞典 第6版
・ ランダムハウス英和大辞典 第2版
・ ジーニアス英和大辞典
・ Merriam-Webster(オンライン版)

 

  • “I don’t mind helping them out, but I
    draw the line at working overtime.”
    (彼らを支援することにやぶさかでないが、残業はしない。)
    ※  “overtime” (時間外勤務、残業) =  “OT”
  • “He helps us out but draws the line at
    working overtime.”
    (彼は手伝ってくれるものの、残業はしない。)
  • “He didn’t know where to draw the line.”
    (彼はどこで制限すべきか分からなかった。)
  • “We must draw a line between good and bad.”
    (善悪の区別は必要です。)
  • “She always draws a line between her personal
    and professional lives.”
    (彼は常に公私の区別はつけています。)
  • “It is difficult to draw a line between what is
    power harassment and what is not.”
    (パワハラの線引きは難しい。)
  • “We draw the line with my clients.”
    (弊社では顧客との関係に制約を設けている。)
  • “Where do you draw the line between rich
    and superrich ? ”
    (金持ちと大金持ちはどこで線を引くべきか。)
  • “I will do whatever you want me to, but I
    draw the line when you ask me to lie.”
    (あなたの希望なら何でもやりますが、嘘を
    つくことはしません。)
  • “We draw the line at racial slurs.”
    (我々は人種的中傷を許しません。)

【関連表現】
draw a line under –
(~を終わりにする。~に終止符を打つ。)

 

 

 

 

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