プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Draw the line

      2018/08/17

限界を設ける、一線を画する、線引きする

直訳は「一線を引く」。
“draw a line” も「一線を引く」。

私たち日本人には、同じ意味に感じる。
だが、あの厄介な「冠詞」の区別を思い起こせば、
何らかの違いがあるはずだと見当が付く。

image.png

結論から述べると、共通点も相違点もある
また後述の通り、大差はなく、ごっちゃに
されていたりする。

両者の比較は、特に中級学習者にとっては、
復習を兼ねた思考を巡らすきっかけとなる。

◆ 2つはニュースにも出てくる。
どっちが用いられたか、なぜそちらが起用されたのか、
代替可能か。今後、見聞きした際に考察してみるとよい。
そうしておけば、いざ自分で使う時に迷わなくなる。

外国語の場合、母語と異なり、大して意識せずに
的確な表現が出てくるまでには、相当の工夫が必要。
余裕がある時に、知識を整理していく地道な努力を
重ねて、ようやく無意識レベルで使えるようになる。

私自身、35年以上に渡り、単語帳をせっせと作成中。
地味で暗い作業かもしれないが、結構楽しんでいる。
弊サイトでは、その中から選り抜いてご紹介している。

◆ “draw” は多義の自動詞・他動詞・名詞。
ここでは、他動詞「(線を)引く」「(線で)区分する」
「引き分け」「抽選」「ドローイング」も “draw”。
語源は、古英語「引く」(dragan)。
語形変化は、draws – drew – drawn – drawing。
【発音】drɔ́ː


◆ 本稿の表題は “the” にした。なぜなら、”a”
よりも数多くの辞典で項目立てされていたから。
そのため、”the” の方が熟語的だと目星が付く。

調べてみると、果たして予想通りであった。
まずは、LDOCEで比較。

■ “draw a line (between something) ” =
to think or show that one thing is different
from another.
両者の区別を考えたり示したりすること

■ “draw the line (at something) ” =
to allow or accept something up to a 
particular point, but not beyond it.
受容する限界を定めること

■ “where do you draw the line ? ” =
spoken
used to say it is impossible to decide at
which point an acceptable limit has been
reached.
「どこに限界を設ければよいのか?」
と受容する限度を判断しかねる疑問文

(LDOCE6、ロングマン)

※ 矢印は和訳の要約(私訳)

直訳は「一線を引く」と冒頭に記した。
この日本語も、実は一義にとどまらない。
ここに気づけば、話が早い。

いっせん【一線】
〚名〛
2. はっきりしたくぎり。区別。けじめ。
また、限界限度

いっせん【一線】を画(かく)する
境界をはっきりさせる。はっきりとくぎり
をつける。区別する。

(精選版 日本国語大辞典)

一線を画する =
(境界線を引いて)相互の区別をはっきり
させる。

(大辞林 第三版)

国語辞典と先のLDOCE6の語釈を比較する。

「一線」には、「区別」と「限界」の両方
の意味がある。
一方、”a line” =「区別」、”the line” =「限界」
と “LDOCE6” は示す。

とすれば、「一線」は “a line” と “the line” を兼ねる。

「一線を画する」は、「区別」しか明示していない
ものの、「一線」の意味を考慮すれば、「限界」
も含むこととなる。

さらに、次の「一線を越える」からも、「区別」「限界」
とも適用できることが分かる。

一線を越える =
けじめや限界を越える。現状を変えるような
思い切った行動をする。

(広辞苑 第七版)

要するに、日本語の「一線」は、文脈次第で
“a / the line” いずれも可能。

これは「線引きをする」にも言える。

■ せんびき【線引】
〚名〛
4. 一般に区分すること。境界を定めること。

(精選版 日本国語大辞典)

こうなると、”draw a line” と “draw the line”
の和訳は「一線を画する」「線引きをする」
で間に合ってしまう。

現に英和辞典を引くと、そんな感じ。
名だたる「英和大辞典」では、

■  “draw the [a] line (at…)” =
(…に)行動の限界をおく,
(…まで [以上]は)やらない

新英和大辞典 第6版

■ “draw a [or the] line” =
(2)(…を)区別する《between …》
(3)一線を画す, 限界をおく;
(…の)一線を越えない, (…の手前で)一線を画す,
(…までは)やらない《at …》

ランダムハウス英和大辞典 第2版

■ “draw the [a] line” =
(1)(…に)制限を設ける(set a limit),
(…の点で)いけないと言う(object);
(…するのを)断る(at, against).
(2)(…の間に)一線を画す,
(…を)区別する(between).

ジーニアス英和大辞典

日本が誇る錚々たる「英和大辞典」3点である。
英語の専門家なら誰もが知る、堂々の存在感。

ところが、今回調べた9点の英英辞典では、
一括りに項目立てしたものは1つだけ(後述)。

先に触れたように、”the” は多くの英英(9点中7点
が独立項目を設けていたが、”a” は “LDOCE6” と
“COBUILD9” のみが該当した。

また、英英7点のうち6点において “a” は併記
されていなかった。留意すべき相違点である。

◆ とはいえ、先述の通り「大差はない」ことは
確認できた。

前掲の LDOCE6 を除いた6点の語義を挙げる。

■ “draw the line
(between something and something” =
to distinguish between two closely
related ideas.

(OALD9、オックスフォード)※ 

■ “draw the line” =
to never do something because you 
think it is wrong.
(CALD4、ケンブリッジ)

■ “draw the line at” =
If you draw the line at a particular activity,
you refuse to do it, because you disapprove
of it or because it is more extreme than 
what you normally do.
(COBUILD9、コウビルド)

■ “draw the line” =
to reasonably object (to) or set a limit (on).
(Collins English Dictionary, 12th Edition)

■ “draw the line” =
to say that you will definitely no allow or 
accept something.
(Macmillan Dictionary、マクミラン)

■ “draw the line or draw a line” =
1. to fix an arbitrary boundary between
things that tend to intermingle.
2. to fix a boundary excluding what one will
not tolerate or engage in. 
Merriam-Webster、メリアムウェブスター)

ここには、”a line” であっても違和感のない語釈
「区分」が含まれている。すなわち「」のOALD9。

」の Merriam-Webster は、「英和大辞典」
同様に、一括して説明する唯一の英英。

「英和大辞典」の一括りは、間違いとまでは
言えないのだろう。

以下の英語学習サイト(英文)を見ても、
両者の違いについて、歯切れの悪い回答が並ぶ。
https://forum.wordreference.com

以上の英英・英和辞書より、“draw a line”  と
“draw the line” 
の区別は、それほど神経質に
なる必要はない
と考えられる。

そして、国語辞典3点より、「一線を画する」及び
「線引きをする」を兼用できる
点も検証した。

目安としては、

  • draw the line
    限界のために「線引きをする」
  • draw a line
    区別のために「線引きをする」

◆ 両者を同一視する英和・英英辞典も存在する。

・ 新英和大辞典 第6版
・ ランダムハウス英和大辞典 第2版
・ ジーニアス英和大辞典
・ Merriam-Webster(オンライン版)

  厳格に区別できるものでないと考えられる。

“I don’t mind helping them out, but I
draw the line at working overtime.”
(彼らの支援にやぶさかでないが、残業はしない。)

image.png

“He helps us out but draws the line at
working overtime.”
(彼は手伝ってくれるものの、残業はしない。)

“He didn’t know where to draw the line.”
(彼はどこで制限すべきか分からなかった。)

“We must draw a line between good and bad.”
(善悪の区別は必要です。)

“She always draws a line between her personal
and professional lives.”
(彼は常に公私の区別はつけています。)

“It is difficult to draw a line between what is
power harassment and what is not.”
(パワハラの線引きは難しい。)

“We draw the line with my clients.”
(弊社では顧客との関係に制約を設けている。)

“Where do you draw the line between rich
and superrich ? ”
(金持ちと大金持ちはどこで線を引くべきか。)

“I will do whatever you want me to, but I
draw the line when you ask me to lie.”
(あなたの希望なら何でもやりますが、嘘を
つくことはしません。)

“We draw the line at racial slurs.”
(我々は人種的中傷を許しません。)

 

【関連表現】
draw a line under –
(~を終わりにする。~に終止符を打つ。)

 

 

Sponsored Link




Jetpack

 - 英語, 英語フレーズ