Draw the line
2022/08/08
限界を設ける、 一線を画する、 線引きする
直訳は 「 一線を引く 」。
” draw a line ” も 「 一線を引く 」。
私たち日本人には、 同じ意味に感じる。
だが、 あの厄介な 「 冠詞 」 の区別を思い起こせば、
なんらかの違いがあるはずだと見当が付く。
どっちなの ?
結論から述べると、 共通点も相違点もある。
また後述の通り、 大差はなく、 ごっちゃに
されていたりする。
両者の比較は、 特に 中級学習者 にとっては、
復習を兼ねた思考を巡らすきっかけとなる。
◆ 2つはニュースにも出てくる。
どちらが用いられたか、なぜそちらが起用されたのか。
代替可能なのか。
今後、 見聞きした際に考察してみるとよい訓練になる。
いざ自ら使う時に、 あまり迷いにくくなるだろう。
外語の場合、 母語と異なり、大して意識せずに
的確な表現が出てくるまでには、相当の工夫が必要。
一般的に「 本能的に 」 習い覚える第一言語( 母語 )
と外語とでは、 習得過程が大きく異なる。
母語は、 環境・知能などに問題がなければ、 自然に
習得できるよう 「 人間の本能 」 にプログラムされている。
【参照】 日本語母語話者の英語習得はかなり難しい
知識をきちんと整理し、自ら試す地道な努力を重ねて、
ようやく無意識レベルで使えるようになるのが外語。
私自身、 40年以上に渡り、 単語帳 を日に日に作成中。
地味で暗い作業かもしれないが、 結構楽しんでいる。
弊サイトでは、その中から選り抜いてご紹介している。
◆ ” draw ” は、多義の自動詞・他動詞・名詞。
語源は、古英語「 引く 」( dragan )。
【発音】 drɔ́ː (1音節)
ここでは、 他動詞「( 線を )引く 」 「( 線で )区分する 」。
「 引き分け 」「 抽選 」「 ドローイング 」も、 ” draw “。
【活用形】 draws – drew – drawn – drawing
ー
◆ 本稿の表題は ” the ” にした。
なぜなら、 ” a ” に比べ、 数多くの辞典で項目立てされていたから。
そのため、 ” the ” の方が熟語的だと目星が付く。
調べてみると、 果たして予想通りであった。
まずは、 LDOCEで比較。
–
–
■ ” draw a line ( between something ) “to think or show that one thing is different
from another.
–
→ 両者の区別を考えたり示したりすること
–
–
■ ” draw the line ( at something ) “
to allow or accept something up to a
particular point, but not beyond it.
–
→ 受容する限界を定めること
–
–
■ ” where do you draw the line ? “
spoken
used to say it is impossible to decide at
which point an acceptable limit has been
reached.
–
→ 「どこに限界を設ければよいのか?」
と受容する限度を判断しかねる疑問文
( LDOCE6、 ロングマン )
※ 矢印は参考和訳
–
直訳は 「 一線を引く 」 と冒頭に記した。
この日本語も、 実は一義にとどまらない。
ここに気づけば、話が早い。
–
–
■ いっせん【一線】[名]
2. はっきりしたくぎり。 区別。 けじめ。
また、限界。 限度。
–■ いっせん【一線】を画(かく)する
境界をはっきりさせる。はっきりとくぎり
をつける。 区別する。( 精選版 日本国語大辞典 )
–■ 一線を画する
( 境界線を引いて ) 相互の区別をはっきりさせる。
( 大辞林 第四版 )
–
国語辞典と先の ” LDOCE6 ” の語釈を比較する。
「 一線 」には、 「 区別 」 と 「 限界 」 の両方の意味がある。
一方、 ” a line ” =「 区別 」、 ” the line ” =「 限界 」
と ” LDOCE6 ” は示す。
とすれば、「 一線 」 は “ a line ” と ” the line ” を兼ねる。
「 一線を画する 」は、「 区別 」 しか明示していないものの、
「 一線 」の意味を考慮すれば、「 限界 」 も含むこととなる。
さらに、 次の「 一線を越える 」からも、「 区別 」 「 限界 」
とも適用できることが分かる。
–
–
■ 一線を越えるけじめや限界を越える。
現状を変えるような思い切った行動をする。( 広辞苑 第七版 )
–
となると、 日本語の「 一線 」は、 文脈次第で
” a / the line ” のいずれも可能と考えられる。
これは「 線引きをする 」 にも当てはまる。
—
–
■ せんびき【線引】[名]
4. 一般に区分すること。 境界を定めること。( 精選版 日本国語大辞典 )
–
こうなると、 ” draw a line ” と ” draw the line ”
の和訳は、 「 一線を画する 」 「 線引きをする 」
で間に合ってしまう。
◆ 名だたる 「 英和大辞典 」 3点では、
–
–
■ ” draw a [or the] line “(2)( … を )区別する 《 between … 》
(3)一線を画す, 限界をおく; ( …の ) 一線を越えない,
( … の手前で )一線を画す, ( …までは )やらない《 at … 》
–
–
※ n.1. ( ペン・鉛筆などで引いた )線;( 路上に描かれた ) 白 [ 黄色 ]の線
※ n.8.限界( 線 ); 限界, 限度; 〔 法律 〕( 不動産の ) 限界線『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』
小学館、1993年刊 ( 物書堂 アプリ版 )
… ” line 1 ” の語釈より
–
■ ” draw the [a] line “(1)( … に )制限を設ける( set a limit ),
( … の点で )いけないと言う( object );
( … するのを )断る( at, against ).
(2)( … の間に)一線を画す,
( … を)区別する( between ).
–
–
『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、2001年刊 ( ロゴヴィスタ アプリ版 )
… “ line 1 ” の語釈より
<大修館書店HP>
–
■ ” draw the [a] line ( at… )“( … に )行動の限界をおく,
( … まで [ 以上 ] は )やらない
–
『 研究社 新英和大辞典 第6版 』
研究社、2002年刊 ( ロゴヴィスタ アプリ版 )
… ” line 1 ” の語釈より
–
日本が誇る錚々たる 「 英和大辞典 」 3点である。
英語の専門家なら誰もが知る、 堂々の 存在感。
ところが、 今回調べた9点の英英辞典では、
一括りに項目立てしたものは1つだけ ( 後掲 )。
先に触れたように、 ” the ” は多くの英英( 9点中7点 )
が独立項目を設けていたが、 ” a ” は ” LDOCE6 ” と
” COBUILD9 ” のみが該当した。
また、 英英7点のうち6点において ” a ” は併記
されていなかった。
留意すべき相違点である。
◆ とはいえ、 先述の通り「 大差はない 」 ことは確認できた。
前掲の LDOCE6 を除いた6点の語義を挙げる。
–
–
■ ” draw the line
( between something and something ) “to distinguish between two closely related ideas.
( OALD9、 オックスフォード ) ※
–■ ” draw the line “
to never do something because you
think it is wrong.
( CALD4、 ケンブリッジ )
–■ ” draw the line at “
If you draw the line at a particular activity,
you refuse to do it, because you disapprove
of it or because it is more extreme than
what you normally do.
( COBUILD9、 コウビルド )
–■ ” draw the line “
to reasonably object ( to ) or set a limit ( on ).
( Collins English Dictionary, 12th Edition )
–■ ” draw the line “
to say that you will definitely no allow or
accept something.
( Macmillan Dictionary、 マクミラン )
–■ ” draw the line or draw a line “
1. to fix an arbitrary boundary between
things that tend to intermingle.
2. to fix a boundary excluding what one will
not tolerate or engage in. ※※
( Merriam-Webster、 メリアムウェブスター )
–
ここには、” a line ” であっても違和感のない語釈
「 区分 」が含まれている。
すなわち 「 ※ 」 のOALD9。
「 ※※ 」 の Merriam-Webster は、
「 英和大辞典 」 同様に、 一括して説明する唯一の英英。
「 英和大辞典 」 の一括りは、 間違いとまでは言えないのだろう。
以下の英語学習サイト( 英文 )を見ても、
両者の違いについて、 歯切れの悪い回答が並ぶ。
https://forum.wordreference.com/threads/draw-a-the-line.2506269/
◆ 解釈が分かれる( 論点となる ) 箇所については、
一般学習者の場合、 時間をかけすぎない方がよい。
とりあえず、「 両方使われているらしい 」
くらいに理解しておき、 さっさと次へ進もう。
論点に深入りするのは 「 危険 」。
時間と意欲の浪費で、 学習の頓挫を招く。
典型的な挫折の経緯であり、 実にもったいない。
一般学習者が考え抜いても、 混乱するだけであろう。
論点の分析は、 学者や研究者などの専門家に任せる。
これからやるべきことは、 まだまだたくさんある。
優先して学習すべき重要点に、 もっと注力したい。
いちいち立ち止まると、 せっかくの努力が報われない。
【参照】 あらぬ方向に突き進みがちの日本人学習者
言語の世界は、 理論と運用の一致しない場面が少なくない。
恣意的・気分的要素も珍しくなく、 理屈が通らないことも。
高い素養を積んだ、 立派な学者らプロですら、
歯切れの悪い回答をしている事例はままある。
こんな分野に素人がはまると、 どうなるか。
いつまでたっても 前進 できずに、 嫌気がさす。
失意の淵に落ちて、 失望したまま段々と遠のく。
その後、 激しい自己嫌悪に襲われたりするのが、 悪しきパターン。
この流れでは、 英語学習がしんどく、 嫌いになるのも無理はない。
真面目な人が英語に挫折しやすい、 主な原因である。
分からない箇所は、 後日戻るべく目印をつけて飛ばし、 先に進め。
◆ 以上の英英・英和辞典より推断できることは、
” draw a line ” と “ draw the line ”
の区別に、 さほど神経質になる必要はない
–
そして、国語辞典3点より、「 一線を画する 」 及び
「 線引きをする 」を兼用できる 点も検証した。
–
目安としては、
-
draw the line
→ 限界 のために 「 線引きをする 」 -
draw a line
→ 区別 のために 「 線引きをする 」
draw the line / draw a line
◇ 厳格に区別できるものでないと考えられる。
–
同一視 する英和・英英辞典も存在する。
- 新英和大辞典 第6版 ※ 上掲
- ランダムハウス英和大辞典 第2版 ※ 上掲
- ジーニアス英和大辞典 ※ 上掲
- Merriam-Webster( オンライン版 )
- “I don’t mind helping them out, but I
draw the line at working overtime.”
(彼らを支援することにやぶさかでないが、残業はしない。)
※ ” overtime ” ( 時間外勤務、 残業 ) = OT
– - “He helps us out but draws the line at
working overtime.”
(彼は手伝ってくれるものの、残業はしない。)
– - “He didn’t know where to draw the line.”
(彼はどこで制限すべきか分からなかった。)
– - “We must draw a line between good and bad.”
(善悪の区別は必要です。)
– - “She always draws a line between her personal
and professional lives.”
(彼は常に公私の区別はつけています。)
– - “It is difficult to draw a line between what is
power harassment and what is not.”
(パワハラの線引きは難しい。)
– - “We draw the line with my clients.”
(弊社では顧客との関係に制約を設けている。)
– - “Where do you draw the line between rich
and superrich ? ”
(金持ちと大金持ちはどこで線を引くべきか。)
– - “I will do whatever you want me to, but I
draw the line when you ask me to lie.”
(あなたの希望することはなんでもやりますが、
頼みだからと言って、嘘はつきませんから。)
– - “We draw the line at racial slurs.”
(我々は人種的中傷を許しません。)
–
–
【関連表現】
” draw a line under – ”
( ~ を終わりにする。 ~ に終止符を打つ。 )