Draw the line
2020/12/02
限界を設ける、 一線を画する、 線引きする
直訳は「一線を引く」。
“draw a line” も「一線を引く」。
私たち日本人には、同じ意味に感じる。
だが、あの厄介な「冠詞」の区別を思い起こせば、
何らかの違いがあるはずだと見当が付く。
結論から述べると、共通点も相違点もある。
また後述の通り、大差はなく、ごっちゃに
されていたりする。
両者の比較は、特に中級学習者にとっては、
復習を兼ねた思考を巡らすきっかけとなる。
◆ 2つはニュースにも出てくる。
どっちが用いられたか、なぜそちらが起用されたのか。
代替可能か。
今後、見聞きした際に考察してみるとよい。
そうしておけば、いざ自分で使う時に迷わなくなる。
外国語の場合、母語と異なり、大して意識せずに
的確な表現が出てくるまでには、相当の工夫が必要。
余裕がある時に、知識を整理していく地道な努力を
重ねて、ようやく無意識レベルで使えるようになる。
私自身、35年以上に渡り、単語帳をせっせと作成中。
地味で暗い作業かもしれないが、結構楽しんでいる。
弊サイトでは、その中から選り抜いてご紹介している。
◆ “draw” は多義の自動詞・他動詞・名詞。
【発音】 drɔ́ː (1音節)
ここでは、他動詞「(線を)引く」「(線で)区分する」。
「引き分け」「抽選」「ドローイング」も “draw”。
語源は、古英語「引く」(dragan)。
【活用形】 draws – drew – drawn – drawing
ー
◆ 本稿の表題は “the” にした。
なぜなら、”a”よりも数多くの辞典で項目立てされていたから。
そのため、”the” の方が熟語的だと目星が付く。
調べてみると、果たして予想通りであった。
まずは、LDOCEで比較。
■ “draw a line (between something) “
to think or show that one thing is different
from another.
→ 両者の区別を考えたり示したりすること
■ “draw the line (at something) “
to allow or accept something up to a
particular point, but not beyond it.
→ 受容する限界を定めること
■ “where do you draw the line ? “
spoken
used to say it is impossible to decide at
which point an acceptable limit has been
reached.
→ 「どこに限界を設ければよいのか?」
と受容する限度を判断しかねる疑問文
(LDOCE6、ロングマン)
※ 矢印は和訳の要約 (参考和訳)
直訳は「一線を引く」と冒頭に記した。
この日本語も、実は一義にとどまらない。
ここに気づけば、話が早い。
■ いっせん【一線】
〚名〛
2. はっきりしたくぎり。区別。けじめ。
また、限界。限度。
■ いっせん【一線】を画(かく)する
境界をはっきりさせる。はっきりとくぎり
をつける。区別する。
(精選版 日本国語大辞典)
■ 一線を画する
(境界線を引いて)相互の区別をはっきり
させる。
(大辞林 第三版)
国語辞典と先のLDOCE6の語釈を比較する。
「一線」には、「区別」と「限界」の両方
の意味がある。
一方、”a line” =「区別」、”the line” =「限界」
と “LDOCE6” は示す。
とすれば、「一線」は “a line” と “the line” を兼ねる。
「一線を画する」は、「区別」しか明示していない
ものの、「一線」の意味を考慮すれば、「限界」
も含むこととなる。
さらに、次の「一線を越える」からも、「区別」「限界」
とも適用できることが分かる。
■ 一線を越える
けじめや限界を越える。現状を変えるような
思い切った行動をする。
(広辞苑 第七版)
要するに、日本語の「一線」は、文脈次第で
“a / the line” いずれも可能。
これは「線引きをする」にも言える。
■ せんびき【線引】
〚名〛
4. 一般に区分すること。境界を定めること。
(精選版 日本国語大辞典)
こうなると、”draw a line” と “draw the line”
の和訳は「一線を画する」「線引きをする」
で間に合ってしまう。
◆ 現に英和辞典を引くと、そんな感じ。
名だたる「英和大辞典」では、
■ “draw the [a] line (at…)“
(…に)行動の限界をおく,
(…まで [以上]は)やらない
■ “draw a [or the] line“
(2)(…を)区別する《between …》
(3)一線を画す, 限界をおく;
(…の)一線を越えない, (…の手前で)一線を画す,
(…までは)やらない《at …》
■ “draw the [a] line“
(1)(…に)制限を設ける(set a limit),
(…の点で)いけないと言う(object);
(…するのを)断る(at, against).
(2)(…の間に)一線を画す,
(…を)区別する(between).
日本が誇る錚々たる「英和大辞典」3点である。
英語の専門家なら誰もが知る、堂々の存在感。
ところが、今回調べた9点の英英辞典では、
一括りに項目立てしたものは1つだけ(後述)。
先に触れたように、”the” は多くの英英(9点中7点)
が独立項目を設けていたが、”a” は “LDOCE6” と
“COBUILD9” のみが該当した。
また、英英7点のうち6点において “a” は併記
されていなかった。留意すべき相違点である。
◆ とはいえ、先述の通り「大差はない」ことは確認できた。
前掲の LDOCE6 を除いた6点の語義を挙げる。
■ “draw the line
(between something and something”
to distinguish between two closely
related ideas.
(OALD9、オックスフォード) ※
■ “draw the line“
to never do something because you
think it is wrong.
(CALD4、ケンブリッジ)
■ “draw the line at“
If you draw the line at a particular activity,
you refuse to do it, because you disapprove
of it or because it is more extreme than
what you normally do.
(COBUILD9、コウビルド)
■ “draw the line“
to reasonably object (to) or set a limit (on).
(Collins English Dictionary, 12th Edition)
■ “draw the line“
to say that you will definitely no allow or
accept something.
(Macmillan Dictionary、マクミラン)
■ “draw the line or draw a line“
1. to fix an arbitrary boundary between
things that tend to intermingle.
2. to fix a boundary excluding what one will
not tolerate or engage in. ※※
(Merriam-Webster、メリアムウェブスター)
ここには、”a line” であっても違和感のない語釈
「区分」が含まれている。すなわち「※」のOALD9。
「※※」の Merriam-Webster は、「英和大辞典」
同様に、一括して説明する唯一の英英。
「英和大辞典」の一括りは、間違いとまでは
言えないのだろう。
以下の英語学習サイト(英文)を見ても、
両者の違いについて、歯切れの悪い回答が並ぶ。
https://forum.wordreference.com/threads/draw-a-the-line.2506269/
◆ 以上の英英・英和辞典より、
“draw a line” と “draw the line” の区別に、
さほど神経質になる必要はない
と考えられる。
そして、国語辞典3点より、「一線を画する」及び
「線引きをする」を兼用できる点も検証した。
目安としては、
-
draw the line
→ 限界 のために「線引きをする」
– -
draw a line
→ 区別 のために「線引きをする」
厳格に区別できるものでないと考えられる。
両者を 同一視 する英和・英英辞典も存在する。
・ 新英和大辞典 第6版
・ ランダムハウス英和大辞典 第2版
・ ジーニアス英和大辞典
・ Merriam-Webster(オンライン版)
- “I don’t mind helping them out, but I
draw the line at working overtime.”
(彼らを支援することにやぶさかでないが、残業はしない。)
◇ “overtime” (時間外勤務、残業) = “OT”
– - “He helps us out but draws the line at
working overtime.”
(彼は手伝ってくれるものの、残業はしない。)
– - “He didn’t know where to draw the line.”
(彼はどこで制限すべきか分からなかった。)
– - “We must draw a line between good and bad.”
(善悪の区別は必要です。)
– - “She always draws a line between her personal
and professional lives.”
(彼は常に公私の区別はつけています。)
– - “It is difficult to draw a line between what is
power harassment and what is not.”
(パワハラの線引きは難しい。)
– - “We draw the line with my clients.”
(弊社では顧客との関係に制約を設けている。)
– - “Where do you draw the line between rich
and superrich ? ”
(金持ちと大金持ちはどこで線を引くべきか。)
– - “I will do whatever you want me to, but I
draw the line when you ask me to lie.”
(あなたの希望なら何でもやりますが、嘘を
つくことはしません。)
– - “We draw the line at racial slurs.”
(我々は人種的中傷を許しません。)
–
–
【関連表現】
“draw a line under –”
(~を終わりにする。~に終止符を打つ。)