匿名を条件として話す、匿名を条件として明かす
ニュースで見聞きする決まり表現。
媒体を問わず、文面・音声ともに出てくる。
文頭・文中・文末のいずれも可。
“speaking on the condition of anonymity”
と “the” 入りも、ほぼ同頻度で使われる。
(後述)
主格(I、He、Sheなど)を立てて再構成すれば、
“He spoke on condition of anonymity.”
(彼は匿名を条件に話した。)
などと換言できる。
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◆ “speak” には、自動詞と他動詞がある。
細かく見れば、多義な単語である。
それでも、語源の古英語「話す」(sprecan)
に沿っており、<伝達>する点で一貫する。
“speak volumes“(多くを物語る)のように、
表情などの<視覚>に基づく
「物語る」「示す」意味も含む。
表題の “speaking” は他動詞で、
基本的には「話す」である。
だが、直接口で話す「直話」に限らない。
伝聞や文章による情報も、
広くカバーするのがポイントとなる。
◆ “on condition of – ” は、
「~を条件として」の頻出常套句。
“on” は、手段の前置詞「~で」。
“of” は、所属の前置詞「~の」。
◆ “condition” には、名詞・他動詞・自動詞
があり、基本的意味は、
– 名詞「条件」「状態」「前提」
– 他動詞「調整する」「条件づける」
– 自動詞「熟成する」※ まれ
「コンディショニング」(conditioning)
「コンディショナー」(conditioner)
「エアコン」(air-conditioner、A/C)
で使われているのは、動詞の意味。
表題は名詞「条件」で、英語圏での
日常使用では動詞以上に多用される。
“condition” は可算名詞と不可算名詞
を兼ねるが、不可算の場合でも単数名詞が多い。
※ 「単数名詞」(singular noun)とは、
単数形で使われるのが一般的な名詞。
英英辞書では “S” または “sing” と略記される。
よって、名詞 “condition” には 不定冠詞 “a”
をつけることが一般的である。
ところが、表題では可算名詞「条件」
よりも、実質的には<状態を表す不可算名詞>
として起用されている。
和訳は可算名詞「条件」なので混乱するが、
手段の前置詞 “on” の直後に置いて、
<副詞的な用法>で使われている。
よって、無冠詞または定冠詞 “the” を入れる。
“on condition of anonymity”
“on the condition of anonymity”
は同程度に頻出である。
文書でも口頭でも多用されるため、
<3語ワンセット> または
<4語ワンセット> で覚えるとよい。
※ 和訳が同様のため、冠詞で混乱しやすい例:
“at short notice / on short notice”
mickeyweb.info/archives/2928
(直前に、急に)
◆ “anonymity” は不可算名詞「匿名」。
形容詞「アノニマス」(anonymous)
の名詞形である。
アクセントの位置が異なるので要注意。
– anonymity(æ̀nəníməti)
– anonymous(ənɑ́nəməs)
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◆ 上述のように、”speak” は直話に限らない
ため、和訳も「話した」に限定されない。
伝聞なのか文書表明なのか、文脈から
読み取れないこともままある。
ニュースで取り上げられている以上、
裏づけ(fact-checking)は取れている
はずだが、和訳時に迷うことは少なくない。
もっとも、”speaking on condition of anonymity”
の趣旨は、<匿名だが、こんな内容が伝えられている>
と情報提供すること。
未公開の情報源を前提とし、あくまで内容が肝心。
この場合、「伝えた」「明かした」など、
どちらにも解釈できる和訳で済ますことが多い。
【例文】
” ‘They all run away,’ said one student speaking
on condition of anonymity.”
(ある生徒は匿名を条件に「全員逃げたのです」と明かした。)
“An insider speaking on condition of anonymity was
quoted by the magazine as saying that he was having troubles.”
(匿名を条件に内部者が語り、その雑誌が引用した内容
によれば、彼はトラブルを抱えていたとのことである。)
“She spoke to the media on condition of anonymity.”
(彼女は匿名を条件にメディアに話した。)
【類似表現】
“speaking on condition of not being named”
“revealing on condition of anonymity”
(匿名を条件として話す、匿名を条件として明かす)
“ask to remain anonymous”
(匿名のままでいることを求める)
“withhold the name”
(氏名の公表を差し控える)
“ask not to be named”
(氏名を明かさぬように求める)
“ask his/her name not be used”
(彼・彼女の氏名を明かさぬように求める)