私たちの(経てきた)問題
回顧録や送別の辞で接する文言。
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日本語の解説はあまり見当たらない。
だから、こちらで取り上げてみたい。
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◆ しみじみと述懐する際によく出る話題は、
過去の困難の数々。
楽しい思い出以上に、無我夢中で克服した
難事を人は語りたがるようである。
当時の辛苦を穏やかに振り返る当事者の様子を
うんと見聞きすると、心中に最後まで残るのは、
かつての耐え難い塗炭の苦しみなのだろうか。
日頃「平凡が一番」とうそぶいていた上司も、
退職式(retirement ceremony)のスピーチでは、
自らの武勇談を控え目ながら述べていた。
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誇らかな微笑で輝いていた姿を思い出す。
可もなく不可もない安穏な日常よりは、七転八倒
した記憶を、人は長く愛でるものなのかもしれない。
【参照】
“just a phase“(ほんの一過性にすぎない)
代表的な使用例を10点挙げてみた。
“We will have – “、”We are going to experience – ”
のような未来形の使い方もあるが、実際には過去形
または完了形で使われる場合が目立つ。
なぜなら「これから試練を経験するだろう」
と予測する以上に、追想談に起用されるケース
が多いからである。
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◆ 便宜上、本稿における主格は “we” に統一した。
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“I” でも “s/he“(= “she” または “he”)でもよい。
その際、続く所有格(our、my、his、her など)
も変わる。
英文法の基本である。
また、10文の<時制>をあえて分散させた。
それぞれ正しく読み取ることができるだろうか。
例えば、“had“(過去形)と “have had”
(現在完了形)の違いを理解しているか。
【参照】”I’ve had it.“(もうたくさんだ。)
よい機会なので、おさらいしてみるとよい。
※ <時制>お勧めサイト ↓
英語の時制はたったの12種類
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◆ 表題に使われている単語はどれも基本。
“our”、”share”、”of”、”issue” の4語すべてが、
最頻出かつ最重要レベルの英単語。
以下3項目にて、最高ランク。
- 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
- 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
(ロングマン、LDOCE6 の表記より)
ポイントとなる “share” には、名詞・他動詞・
自動詞がある。
【発音】 ʃέər
語源は、古英語「区分、鼠径部」(scearu)。
「分割」が原義で、基本的意味はこれに従う。
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“Let’s increase our share.”
(うちらの取り分を増やそうぜ。)
– 名詞「取り分」「分け前」「負担」「役割」
「出資」「共有」「株」「占有率」
– 他動詞「分ける」「分担する」「共有する」
– 自動詞「参加する」「分担する」
名詞 “share” は、「株式」「株券」「市場占有率」を
意味する重要ビジネス用語でもある。
細かく見れば多義なのだが、そのほとんどが語源
「区分」の想定範囲内にある。
さらに、カタカナ「シェア」は近年、日本社会
に急速に浸透してきている。
■ シェア【share】
1. 株式。持分。
2. 共有すること。分かち合うこと。
3. マーケット – シェアの略。
■ マーケット – シェア【market share】
市場占有率。
■ ルーム – シェア【room share】
他人同士が一つの部屋を共同で借りて住むこと。
■ シェア – ハウス
(和製語 share house)
他人同士が一つの家を共同で借りて住むこと。
また、その家。
■ シェアリング【sharing】
分かち合うこと。共有すること。
(広辞苑 第七版)
特に「情報をシェアする」との言い回しは、
若い人の間で完全定着した。
英語では “share information“。
名詞なら “information sharing“。
「情報共有」そのまんま。
広辞苑の語釈のみで、英語 “share” の
基本的意味は把握できるほどである。
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◆ さて、表題の “our share of issue(s)”。
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まず、分解してみる。
ここでの “share” が名詞なのは、所有格 “our”
の直後に置かれていることから分かる。
厄介なのは、この意味である。
「取り分」「分け前」「負担」を漠然と意味する
感じであるが、フレーズ全体の定訳がない。
よって、和訳は一筋縄ではいかない。
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◆ 表題の名詞 “share” を英英辞典で調べた。
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調べた7点で最も明解だったのが、
“share”
[singular]
a reasonable or normal amount of
something.
(Macmmillan Dictionary、マックミラン)
【発音】 ʃέər
“singular” とは、「単数名詞」(singular noun)。
単数形で使われるのが一般的な名詞を指す。
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“singular” は、可算名詞と不可算名詞を兼ねるが、
この用途では “singular” とだけ書いてある
英英辞典が多い。
原則 “our share of” として単数扱いになり、
“our shares of” にはならないということ。
表題では “issue(s) ” を挙げたが、これまた便宜上。
【発音】 ʃέər
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先の一覧に掲げた名詞(太字)も、多用される。
この部分は単複不問だが、内容からして複数形が多い。
※ “bitterness” のみ、不可算名詞
以上より、”our share of issue(s)” の直訳は、
「私たちの取り分の問題」。
これだけ見ると、何だかよく分からない。
だからこそ、10点の例文を先に置いた。
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◆ 3大学習英英辞典(EFL辞典)の関連フレーズは、
次の通り。
■ “your (fair) share”
a) if you have had your share of something,
for example problems, success, or adventure,
a lot of it has happened to you.
“have had more than your fair share
of something“
to have had more of something, especially
something unpleasant, than seems reasonable.
(LDOCE6、ロングマン)
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■ “(more than) your fair share of something”
(more than) an amount of something that is
considered to be reasonable or acceptable.
(OALD9、オックスフォード)
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■ “have your (fair) share of something”
to have a lot or more than enough of
something bad.
(CALD4、ケンブリッジ)
※ 下線は引用者
“fair share” は「公正な分け前」が最初に浮かぶ。
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ところが、ここでの形容詞 “fair” は「かなりの」。
程度が相当ないし過分であることを示す。
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カッコ入りの箇所は、なくてもよい。
2本の下線部が示す通り、助動詞 “have” に続くと、
大抵 <よくないこと>に使われる。
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◆ “our share of” にしても、<試練>の流れで
映えるフレーズだと感じる。
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既述したように、私が直接触れたものは奮闘記中心。
米詩人の Emily Dickinson(1830–86)の作品に、
次の詩(※)がある。
“Our Share of Night to Bear”
Our share of night to bear –
Our share of night to bear –
Our share of morning –
Our blank in bliss to fill,
Our blank in scorning –
Here a star, and there a star,
Some lose their way!
Here a mist – and there a mist,
Afterwards – Day!
Emily Dickinson (1859)
【朗読】動画全長:1分9秒
https://www.youtube.com/watch?v=We5czQ8Vz0g
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※『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選〈3〉』
(岩波文庫)の全50篇に含まれていないので、ご注意
「ともにすごす夜にたえて」
「私たちが一緒に過ごした夜に耐えて」
「共に耐え忍ぶ夜」
インターネット上は、こんな邦題が目につく。
この “share” は、二重の意味を含むはず
なので、おそらく間違いではない。
「ともに」以外の意味は、本稿を読んでくださった
方であれば、ご理解できることであろう。
掛詞の多い英詩の和訳は難しい。
英文のまま読む方が、すっきりしたりする。
ディキンスンの詩は特にそうである。
既に著作権が切れており、ほとんどが
“public domain” にある。
そのため、原文の多くが無料で入手できる。
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◆ 最後に、明るい文脈での “our share of” の例を
ご紹介したい。
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あまり見かけない感があるが、普通に使われている。
- “We all have encountered our share of stupid
bosses.”
(私たちは皆、間抜けな上司に出くわしている。)
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- “We had our share of happy days.”
(私たちは幸せな日々を過ごした。)
– - “We enjoyed our share of stardom.”
(私たちはスターの地位を楽しんだ。)