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Our share of issue(s)

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私たちの(経てきた)問題 

回顧録や送別の辞で接する文言。

日本語の解説はあまり見当たらない。
だから、こちらで取り上げてみたい。

◆ しみじみと述懐する際によく出る話題は、
過去の困難の数々。

楽しい思い出以上に、無我夢中で克服した
難事を人は語りたがるようである。

当時の辛苦を穏やかに振り返る当事者の様子を
うんと見聞きすると、心中に最後まで残るのは、
かつての耐え難い塗炭の苦しみなのだろうか。

日頃「平凡が一番」とうそぶいていた上司も、
退職式(retirement ceremony)のスピーチでは、
自らの武勇談を控え目ながら述べていた。

誇らかな微笑で輝いていた姿を思い出す。

可もなく不可もない安穏な日常よりは、七転八倒
した記憶を、人は長く愛でるものなのかもしれない。

【参照】
just a phase“(ほんの一過性にすぎない)

We have been through our share of issue(s).
(私たちもあらゆる問題を経てきました。)
We overcame our share of hardship(s).
(私たちもそれなりの苦難を乗り越えました。)
We have our share of natural disasters.
(私たちにも自然災害が襲います。)
We have experienced our share of grief(s).
(私たちも悲しい経験をしてきました。)
We had our share of ups and downs.
(私たちにも浮き沈みがありました。)
We made our share of mistake(s).
(私たちも間違いを犯しました。)
We have endured our share of disappointment(s).
(私たちも失望を耐え抜いてきました。)
We have faced our share of embarrassment(s).
(私たちも困難に直面してきました。)
We have had our share of difficulties.
(私たちにもあらゆる苦境が訪れました。)
We have tasted our share of the bitterness.
(私たちも苦渋をなめてきました。)

代表的な使用例を10点挙げてみた。

“We will have – “、”We are going to experience – ”
のような未来形の使い方もあるが、実際には過去形
または
完了形で使われる場合が目立つ。

なぜなら「これから試練を経験するだろう」
と予測する以上に、追想談に起用されるケース
が多いからである。

◆ 便宜上、本稿における主格は “we” に統一した。

“I” でも “s/he“(= “she” または “he”)でもよい。
その際、続く所有格(our、my、his、her など)
も変わる。

英文法の基本である。

また、10文の<時制>をあえて分散させた。
それぞれ正しく読み取ることができるだろうか。

例えば、had“(過去形)と “have had
(現在完了形)の違いを理解しているか。

【参照】”I’ve had it.“(もうたくさんだ。)

よい機会なので、おさらいしてみるとよい。

※ <時制>お勧めサイト ↓
英語の時制はたったの12種類

◆ 表題に使われている単語はどれも基本。

“our”、”share”、”of”、”issue” の4語すべてが、
最頻出かつ最重要レベルの英単語。

以下3項目にて、最高ランク。

ポイントとなる “share” には、名詞・他動詞・
自動詞がある。

【発音】  ʃέər

語源は、古英語「区分、鼠径部」(scearu)。
「分割」が原義で、基本的意味はこれに従う。

“Let’s increase our share.”
(うちらの取り分を増やそうぜ。)

– 名詞「取り分」「分け前」「負担」「役割」
「出資」「共有」「株」「占有率」
– 他動詞「分ける」「分担する」「共有する」
– 自動詞「参加する」「分担する」

名詞 “share” は、「株式」「株券」「市場占有率」を
意味する重要ビジネス用語でもある。

細かく見れば多義なのだが、そのほとんどが語源
「区分」の想定範囲内にある。

さらに、カタカナ「シェア」は近年、日本社会
に急速に浸透してきている。

シェア【share】
1. 株式。持分。
2. 共有すること。分かち合うこと。
3. マーケット – シェアの略。

マーケット – シェア【market share】
市場占有率。

ルーム – シェア【room share】
他人同士が一つの部屋を共同で借りて住むこと。

シェア – ハウス  
和製語 share house)
他人同士が一つの家を共同で借りて住むこと。
また、その家。

シェアリング【sharing】
分かち合うこと。共有すること。

(広辞苑 第七版)

特に「情報をシェアする」との言い回しは、
若い人の間で完全定着した。

英語では “share information“。
名詞なら “information sharing“。

情報共有」そのまんま。

広辞苑の語釈のみで、英語 “share” の
基本的意味は把握できるほどである。

◆ さて、表題の “our share of issue(s)”。

まず、分解してみる。

  1. 代名詞所有格 “our“(私たちの)
  2. 名詞 “share“(分け前)→ ʃέər
  3. 部分の前置詞 “of“(~の)
  4. 可算名詞 “issue“(問題)→ íʃuː

ここでの “share” が名詞なのは、所有格 “our”
の直後に置かれていることから分かる。

厄介なのは、この意味である。
「取り分」「分け前」「負担」を漠然と意味する
感じであるが、フレーズ全体の定訳がない。

よって、和訳は一筋縄ではいかない。

◆ 表題の名詞 “share” を英英辞典で調べた。

調べた7点で最も明解だったのが、

share

[singular]
a reasonable or normal amount of 
something.
(Macmmillan Dictionary、マックミラン)

【発音】  ʃέər

“singular” とは、「単数名詞」(singular noun)。
単数形で使われるのが一般的な名詞を指す。

“singular” は、可算名詞と不可算名詞を兼ねるが、
この用途では “singular” とだけ書いてある
英英辞典が多い。

原則 “our share of” として単数扱いになり、
“our shares of” にはならないということ。

表題では “issue(s) ” を挙げたが、これまた便宜上。

【発音】  ʃέər

先の一覧に掲げた名詞(太字)も、多用される。
この部分は単複不問だが、内容からして複数形が多い。
※ “bitterness” のみ、不可算名詞

以上より、”our share of issue(s)” の直訳は、
「私たちの取り分の問題」。

これだけ見ると、何だかよく分からない。
だからこそ、10点の例文を先に置いた。

◆ 3大学習英英辞典(EFL辞典)の関連フレーズは、
次の通り。

■ “your (fair) share
a) if you have had your share of something,
for example problems, success, or adventure, 
a lot of it has happened to you.

have had more than your fair share 
of something
to have had more of something, especially
something unpleasant, than seems reasonable.

(LDOCE6、ロングマン)

■ “(more than) your fair share of something
(more than) an amount of something that is
considered to be reasonable or acceptable.
(OALD9、オックスフォード)

■ “have your (fair) share of something
to have a lot or more than enough of 
something bad.
(CALD4、ケンブリッジ)

※ 下線は引用者

“fair share” は「公正な分け前」が最初に浮かぶ。

ところが、ここでの形容詞 “fair” は「かなりの」。
程度が相当ないし過分であることを示す。

カッコ入りの箇所は、なくてもよい。

2本の下線部が示す通り、助動詞 “have” に続くと、
大抵 <よくないこと>に使われる。

◆  “our share of” にしても、<試練>の流れで
映えるフレーズだと感じる。

既述したように、私が直接触れたものは奮闘記中心

米詩人の Emily Dickinson(1830–86)の作品に、
次の詩(※)がある。

Our Share of Night to Bear

Our share of night to bear –
Our share of night to bear –
Our share of morning –
Our blank in bliss to fill,
Our blank in scorning –

Here a star, and there a star,
Some lose their way!
Here a mist – and there a mist,
Afterwards – Day!

Emily Dickinson (1859)

【朗読】動画全長:1分9秒
https://www.youtube.com/watch?v=We5czQ8Vz0g

※『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選〈3〉
(岩波文庫)の全50篇に含まれていないので、ご注意

「ともにすごす夜にたえて」
「私たちが一緒に過ごした夜に耐えて」
「共に耐え忍ぶ夜」

インターネット上は、こんな邦題が目につく。

この “share” は、二重の意味を含むはず
なので、おそらく間違いではない。

「ともに」以外の意味は、本稿を読んでくださった
方であれば、ご理解できることであろう。

掛詞の多い英詩の和訳は難しい。
英文のまま読む方が、すっきりしたりする。
ディキンスンの詩は特にそうである。

既に著作権が切れており、ほとんどが
public domain” にある。
そのため、原文の多くが無料で入手できる。

◆ 最後に、明るい文脈での “our share of” の例を
ご紹介したい。

あまり見かけない感があるが、普通に使われている。

 

 

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