プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Public domain

      2019/09/26

著作権が切れた状態(にある創作物) 

“public domain” の基礎知識は、著作権(copyright)
との関係で欠かせない。

次のマークを目にされた方もおられるだろう。


カタカナ「パブリックドメイン」を
見聞きする機会も増えてきた。

IT関連だと、パソコン通信時代にも
「パブリックドメインソフト」
(public-domain software)という言葉が
使われていた。

これは、”public domain” の間違った解釈のまま、
適用されたものである。

当初の和訳である「公有」が定着しそびれたため、
今だ定訳がない。

その結果、カタカナで普及しつつあるようだ。

そもそも、著作権関係の “public domain” の場合、
「公有」は和訳として不適切。およそ似て非なるもの。

「公有」の一般認識は「私有」の反対である。

◆ 国語辞書にもこうある。

「公有」

・ 国家または公共団体の所有。↔ 私有
(広辞苑 第七版)

・ 公の機関が所有していること。↔ 私有
(大辞林 第三版)

だが本稿の用法の “public domain” と「公の機関」は直接関係ない。
すなわち、所有者が「公(おおやけ)の機関」とは限らない。

これからご案内する “public domain” が大体理解できれば、
和訳として「公有」が不十分であることが分かるだろう。

誤解を招くような和訳なら定着しない方がよい。
カタカナの方がましであると私は考える。

◆ 著作権との関係で出てくる “public domain” とは、
創作物の知的財産権がない状態(消滅または不発生)を指す。

著作権は、特許権や商標権と同じく知的財産権のひとつ。

作者が自分の著作物の権利を排他的・独占的に行使するため
に認められている。

日本の著作権法では、著述に加えて、音楽・写真・彫刻・絵画・
建築などの作品も著作物に含まれる。

その複製・翻訳・上演・演奏・展示・放送に適用されるから、
かなり幅広い。

しかも、プロ・アマ不問で、死後も一定期間は存続する。
著作権を含む知的財産権は、強力な権利と言える。

無断で上記に触れる行為をすれば、著作権侵害となる可能性が高い。

ところが、そのような行為をしても、法に触れないケースがある。
“public domain” がそのひとつ。

知的財産権で守られているはずの著作物なのに、
その権利を伴わない状態。それが “public domain”。


◆ “public domain” は、大きく分けて3パターンがある。

  1. 保護期間の満了
  2. 継承者不在
  3. 権利放棄

1については、原則一律適用されるため、著作者
の没年から計算できる。

著作物の種類や公表方法によって保護期間が異なるが、
ざっくり言えば、著作者没後50年、映画は公表後70年。
※ 旧著作権法では、もっと短い

2018年3月の日本の現行法ではこうだが、TPPの影響で、
米国同様に没後70年に引き伸ばされることが確定している。

問題になりがちなのは 1 。
現実には、2 も 3 も珍しくないのだが、ここでは取り上げない。

知的財産権で保護されない状態が、”public domain”。

となれば、その権利を行使できる者はいな
だから、利益を侵害される者もいない結果、誰でも利用可能
との流れになる(後述の法律辞典参照)。

実際にはそう単純でもなく、その他の権利(人格権など)や
別の知的財産権(意匠権など)に触れるケースもありうる。

したがって、著作物が “public domain” にあるとしても、
すべてが自動的に無制限になるわけではない

以上の説明で、”public domain” の大略はつかめるだろう。
「公有」の和訳が根づかなかった理由も推察できよう。

◆ アメリカには、Black’s Law Dictionary
ブラックス法律辞典)という有力な法律辞典
が存在する。

image.png
Amazon Japan / Amazon US

1891年に発刊され、100年以上の歴史を誇る。

判例などに最も引用される辞典であり、
英米法を学ぶ学生で知らない者は皆無レベルの存在感

現時点(2018年3月)での最新版(第10版、2014年刊)
の ”public domain” の解説は、以下の通り。

public domain  (17c)

1. Government-owned land.

2. Government lands that are open to
entry and settlement.
Today virtually all federal lands are
off-limits to traditional entry and settlement.

3. Intellectual property.
The universe of inventions and creative works
that are not protected by intellectual-property rights and
are therefore available for anyone to use without charge.
When copyright, trademark, patent, or trade-secret rights
are lost or expire, the intellectual property they had protected
becomes part of the public domain and can be appropriated
by anyone without liability for infringement.

 

Black’s Law Dictionary, 10th Edition
p. 1,423  (West Group 2014)

※ 下線は引用者

  • 1は「公有地」または「公有財産」が定訳。
    PD” と略記されることもある。
    上掲の国語辞典の「公有」は、この意味では該当する。

本来の “public domain” は、確かに「公有地」である。

形容詞 “public“(公の)+ 名詞 “domain“(領地)
で、「公の領地」→「公有地」。

■ “public” の語源は、ラテン語「公の」(pūblicus)。
“people” や “popular” と同根である。

■ “domain” の語源は、ラテン語「主人」(dominium)。

よって、”public domain” が「私」の対に位置する
のは、語源からも理にかなう。

  • 2は米国の連邦政府または州所有の公有地の説明。
  • 3が本稿主題の知的財産(intellectual property)。
    1~3に共通するのは、「私」の所有ではない点。
    その反面、何度も述べているように、3は
    「公の機関が所有」の「公有」では

消滅または不発生のため、知的財産権で保護されない
状態が “public domain”。

ただし、その他の権利に抵触する可能性も残るため、
自由に利用できるとは限らないのは、先述の通り(緑字)。

この側面を一切記載していないのは、次の原則(3の下線部)
のみに重点を置いたためであろう。

“public domain” の原則

  1. not protected by intellectual-property rights
    (著作権で保護されない)
  2. available for anyone to use
    (誰でも利用可能)
  3. without liability for infringement
    (権利侵害に対する責任なし)

    “Black’s Law Dictionary“ (2014), page 1424.

天下の『ブラックス法律辞典』ですら原則のみ。
英英辞典における扱いは言うを俟たない。

“public domain”

  • [singular]
    available for anyone to have or use.
    (ロングマン、LDOCE6)
  • [singular]
    available for everyone
    to use
    or 
    to discuss and is not secret.
    (オックスフォード、OALD9)
  • [singular]
    available for everyone
    to see
    or know about.
    ※ 唯一、”the public domain” で項目立て
    (ケンブリッジ、CALD4)

以上、3大学習英英辞典(EFL辞典 )の語釈。

“singular” とは、単数名詞(singular noun)を指す。
単数形で使われるのが一般的な名詞のこと。
英英辞書では “S” または “sing” と略記されたりする。

この3冊のうち、CALD4のみ、反意語の “the private domain”
も項目立てしている。やはり “the” つき。

“the private domain”

[singular]
it belongs to a particular person or organization
that may allow others to see or use it with
permission or if they pay for it.
(ケンブリッジ、CALD4)

“private domain” に比べ、一般社会には普及していない模様。

◆ 最後に、”public domain” の活用事例のご紹介。

まずは、無料公開の電子図書館。

  • プロジェクト・グーテンベルク
    英文中心に5万点以上。1971年設立で、
    デジタル図書館として世界最古。
  • 青空文庫
    和文中心に1万5千点。1997年設立。
    夏目漱石や芥川龍之介の作品も対象。
  • ウィキソース
    ウィキメディアプロジェクトのひとつ。
    ウィキソースは図書館で、ウィキペディアは
    百科事典。2003年設立。

書籍以外の卑近な例には、<激安DVD>がある。
大半が、”public domain DVD に他ならない。

また、保護期間の満了に加え、エンドロールに著作権表記
が欠けていたために、権利放棄とみなされてしまった
作品も含まれる。

『ローマの休日』や『東京物語』(ともに1953年公開、
旧著作権法が適用)などの名作がワンコインで買えるのは、
著作権が消滅しているおかげである。

◆ 時の経過に従い、著作権の保護期間が満了する
知的創作物は増える一方である。

“public domain” 入りする作品が必然的に激増
するということ。

情報を含む無形の財産は、SNS などを介して世界的に
拡散していくのが、<コンテンツ時代>の趨勢である。

そのため、著作権と “public domain” についての知識が、
今後あらゆる分野で必要となっていくのは、容易に想像できる。

本稿の内容を押さえておけば、”public domain” の
基礎知識は十分だと考える。

日本語のみならず、英語でも見てきたのだから、
二重の安心があるかもしれない。

 

【関連表現】

  • fair use
    (フェアユース)著作権などの「公正利用」のこと。
    使用の目的(非営利、教育目的など)と著作物の性質
    などを総合的に判断し、権利者の判断により、無償利用できる。
    米国の著作権法であり、日本は未導入(2018年3月現在)。
  • creative commons license
    (クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)

    Image result for クリエイティブ・コモンズ
    「このような条件を守れば、自由に使ってよい」
    との権利者の意思表示が「CCライセンス」。
    国際的非営利組織が管理している。


    下記図の右端「PD」が、”public domain”。
    左端「C」が、著作権 “copyright”。
    中間「CC」が、各種クリエティブコモンズ “creative commons”。
    【出典元】https://creativecommons.jp/licenses/

 

 

 

Sponsored Link




Jetpack

 - 英語, 英語フレーズ