氏名の公表を差し控える
「匿名」と言えば、まず “anonymity“。
とくめい【匿名】
実名実名をかくして知らせないこと
(広辞苑 第六版)
不可算名詞で、形容詞「アノニマス」
(anonymous)の名詞形である。
- anonymous
【発音】 ənɑ́nəməs
【音節】 a-non-y-mous (4音節)
◆ ニュースで頻出なのが、次の2つ。
- speaking on condition of anonymity
(匿名を条件として話す)–
- ask to remain anonymous
(匿名のままでいることを求める)
とっつきにくい単語である。
字面から意味を推測しにくく、あらかじめ意味を
知らなければ、完全にお手上げだろう。
おまけに、どちらも発音が複雑。
英語ネイティブにとっても、言いにくい模様。
- anonymity
【発音】 æ̀nəníməti
【音節】 an-o-nym-i-ty (5音節)
– - anonymous
【発音】 ənɑ́nəməs
【音節】 a-non-y-mous (4音節)
アクセントの位置が異なる。
一般人に対し、簡潔に情報伝達する意図
からは、これらは大きな弱点となる。
◆ そこで「匿名」には、”anonymity” に加え、
定着した言い回しがいくつかある。
(1) withhold the name
——–(氏名の公表を差し控える)
(2) ask not to be named
——–(氏名を明かさぬように求める)
(3) ask his/her name not be used
——–(彼・彼女の氏名を明かさぬように求める)
この3つが代表例。
“anonymity” や “anonymous” と異なり、
大意ならどうにか把握できるだろう。
(2)~(3)は中学英語のみなので、
表題では(1)を取り上げてみたい。
◆ “withhold” には、自動詞と他動詞がある。
少々堅い表現だが、13世紀から使われている。
それほど多義でなく、理解は難しくない。
連結形 “with”(~離して)+ 自他動詞 “hold“(持つ)
「連結形」(combining form)は、
独立した単語 “with” から生じた点で、
単独使用できない「接頭辞」(prefix)と異なる。
→ 詳細は、”well-established”
自他動詞の意味はほぼ重なり、
「抑える」「差し控える」「源泉徴収する」。
「離して持つ」から「そのまま与えずにおく」
で、さらに「抑える」。
多用されるのは、他動詞用法。
表題も他動詞「差し控える」。
【活用形】 withhold – withheld – withheld
“withhold” は多義でない上、使いやすい。
自他動詞の「抑える」「差し控える」を意味する
ので、応用も効く。
◆ 日々<自制>を強いられる社会人のため、
5つのシンプル表現をご紹介する。
すべて他動詞用法。
- withhold my anger
(自分の怒りを抑える)
– - withhold information
(情報を知らせない)
– - withhold payment
(支払いを差し止める)
– - withhold my opinion
(自分の意見を抑える)
– - withhold as tax
(税金として源泉徴収する)
※ “withholding tax” = 源泉徴収税
◆ 話を表題に戻すと、”withhold the name” は
「氏名を差し控える」で文字通り。
過去形、過去分詞形は、”withheld the name”。
“name” は、可算名詞「氏名」。
「氏名」は、一人に一つずつなので、”the”。
–
◆ SNS全盛のインターネット時代の
情報拡散の勢いはすさまじい。
あっという間に広まり、収集がつかなくなる
ことも珍しくなくなっている。
無防備に氏名を公開すると、知らぬ間に複数サイト
でさらされてしまい、思わぬ影響を招いたりする。
家族や関係者まで、被害が及ぶこともあるのだ。
多くの人にとって、”withhold the name” の
重要性は、今後ますます高まるに違いない。
- “name withheld by request” ※ 過去分詞形
(「匿名希望」の定訳)
– - “Please withhold my name.”
(私の氏名を出さないでください。)
– - “Police withheld the victim’s name.” ※ 過去形
(警察は被害者の氏名を明かさなかった。)
– - “Their names have been withheld
at the request of their families.” ※ 過去分詞形
(家族の希望のより、彼らの氏名は公表されなかった。)
– - “Her name is withheld under the law.” ※ 過去分詞形
(法律に基づき、彼女の氏名は公表されていない。)