私に無断で、私の知らぬ間に
<3語ワンセット>で「私に無断で」の意。
沈着をよそおいつつも、心中穏やかではない。
「勝手なことしやがって!」といまいましそうに
舌打ちしつつ、悔しさに業を煮やす印象がよどむ。
それでも、表面的には冷徹な態度を保てるので、
静かな怒りを理知的に伝えるには大変便利。
さらに、「自分は知らなかった」と責任回避の言い逃れ
を計る際にも使える。
こちらはマイナー用法だが、なおさら重宝する用途であろう。
基礎単語のみで、筆舌不問、公私を問わず使用可能。
相手も選ばない。
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当事者の自省を促す表現として押さえておきたい。
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◆ “without my knowledge” は、重苦しい、苦し紛れ
の状況で堂々と使える、陰影豊かな言い回し。
辛気臭い気持ちを、どうにかして相手に伝えたい。
無念やるかたないこの気持ちを、絶対晴らさねば!
こうした気重な言い分を、すっきりシンプルに表せる。
- 前置詞 “without“(~なしに)
- 人称代名詞 “my“(私の)ー※ “I” の所有格
- 不可算名詞 “knowledge“(知識)
直訳は「私の知識なしに」。
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どれも中級学習者が見慣れた単語。
文法的にも難しくはないだろう。
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◆ 3語のうち、ポイントとなるのが “knowledge”。
語源は、中期英語「認める」(knowleche)。
細かく見ると、古英語 「知る」(cnāwan)
に「行為」を表す接尾辞 “leche” が加わったもの。
不可算名詞のみ。
“knowledges” と複数形にならないのが普通。
ただし、次の構文では、不定冠詞 “a” が使われる。
- a + 形容詞 + knowledge + of
- a + 形容詞 + knowledge + about
※ 形容詞なしでも可
- “She has a knowledge of medicine.”
(彼女は医学的知識を有する。)
ー - “He has a basic knowledge about Japanese.”
(彼には日本語の基礎知識があった。)
ー - “You need a good knowledge of the Internet.”
(インターネットについての豊富な知識が必要となる。)
“of” の代わりに “about” を用いると「歴史や構造についての知識
の有無を問題とする文脈になる」(ジーニアス英和大辞典より)。
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◆ LDOCE6(ロングマン)の指標によれば、”knowledge” は、
- 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
- 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- 話し言葉の頻出度:<1001~2000語以内>
口頭よりも文面の方が使われるとある。
英単語全体における立ち位置で上位に食い込み、
なかなか大した存在である。
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“without” と “my” が、全項目で最上位なのは、
言うまでもない。
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◆ “knowledge” は、近年の国語辞典にも載っている。
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「ナレッジ」か「ノレッジ」か。
これが英語発音。
ナレッジ【knowledge】
知っていること。知識。
(大辞林 第三版)
ノレッジ(名)【knowledge】
知識。ナレッジ。
(三省堂国語辞典 第七版)
「ナ」と「ノ」、両方あった。
国語辞典の語釈は、英語の基本的意味と重なる。
先の語源「認める」から連想できる語義ばかり。
- 知識
- 自覚、認識
- 学問
- 知っていること
Knowledge is power.
(知識は力なり。)
【参考】 辞書・事典中心の有料データベース
「ジャパンナレッジ」ー
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◆ さて、3語とも基礎単語であることは確認できた。
文法的にも、すんなり把握できるだろう。
繰り返すと、
- 前置詞 “without“(~なしに)
- 人称代名詞 “my“(私の)ー※ “I” の所有格
- 不可算名詞 “knowledge“(知識)
“my knowledge”(私の知識)+ “without”(なしに)
で、「私の知識なしに」が直訳。
以下のように言い換えることもできる。
- “without my knowing it”
(私の知らないうちに)
この “knowing” は、名詞「知ること」「認識すること」。
“it” は、人称代名詞の目的格「それを」。
「私がそれを知ることなしに」が直訳となる。
したがって、表題とほぼ同義。
使用場面も同然。
“without my knowledge” の方が、総じて単純で使いやすい
ため、表題に掲げている。
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◆「私の知識なしに」が直訳だが、「私に無断で」くらい
の意味合いで使うのが日常用法。
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「私に無断で」は「勝手なことしやがって!」などの
口吻を漏らした言葉であったりする。
むだん【無断】
《名》相手の許可や承諾を得ないこと。
(明鏡国語辞典 第二版)
私の「許可や承諾」がないということは、
私の許しを得ていないということ。
承諾前というよりは、はじめから与り知らない立場のまま、
進行した場合が少なくない。
となると、まったく知らないのだから、
「知識なしに」で「知らぬ間に」。
完全無視された我が面子は丸つぶれ。
「勝手なことしやがって!」
ぶりぶり憤慨しているものの、
“without my knowledge” と表せば、
上品に包み巻くことができる。
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この辺の心理は、とば口にて考察済みである。
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◆ “without my knowledge” の有益性にもかかわらず、
4大学習英英辞典(EFL辞典)の最新版に独立項目はない。
※ 2019年4月29年 初稿時点
すなわち、4点の辞書に項目立てされていなかった。
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・ LDOCE6(ロングマン)
・ OALD9(オックスフォード)
・ CALD4(ケンブリッジ)
・ COBUILD9(コウビルド)
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主要なオンライン英英辞典を調べたところ、唯一掲載
していたのが、メリアム ウェブスター。
“without someone’s knowledge”
idiom
used to say that when something was done
the personspecified did not know about it.
https://www.merriam-webster.com/dictionary/
without%20someone’s%20knowledge
代名詞は、一人称単数の所有格 “my” 以外でもよい。
my / your / his / her / their / our / its
以上が、人称代名詞の所有格。
先に触れた通り、複数形 “knowledges” は一般的でない
ため、複数の所有格でも単数形が原則。
- “Reviews were rewritten without our knowledge.”
(レビューは我々の許可なく書き直された。)
ー - “The hotel cancelled our reservation
without our knowledge.”
(そのホテルはうちらに無断で予約をキャンセルした。)
ー - “Without our knowledge, our daughter
stopped making payments.”
(娘は私たちに無断で支払いを止めたのよ。)
単複を考える必要がないから、かなり気楽。
使い勝手がよいことを、ご理解いただけるだろう。
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◆ 煮え立つ憤りと未練。
こっそり隠れて行う不気味さ。
はたまた逃げ口上の鉄面皮。–
各文から感じ取ることができるか。
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- “My ticket has been cancelled without my knowledge.”
(私のチケットは勝手にキャンセルされた。)
ー - “They got married without our knowledge.”
(あの子たち、私たちの知らぬ間に結婚していたのよ。)
ー - “Mary left her job without their knowledge.”
(メリーは彼らに無断で仕事を辞めた。)
ー - “I want to track down her phone number
without her knowledge.”
(彼女に知られることなく、電話番号を突き止めたいのです。)
ー - “My friends did everything without my knowledge.”
(私の知らぬ間に、友人たちがすべてやったのです。)
ー - “I was away in Tokyo when they did all that
without my knowledge.”
(その時、私は東京に行って不在でしたが、私に無断で
彼らが全部やったことです。)
ー - “They published that without my knowledge.”
(彼らは私に無断でそれを出版したのです。)
– - “He recorded conversations without my knowledge.”
(彼は私に無断で会話を録音したのです。)
ー - “I find it disturbing that you would do that
without my knowledge.”
(私に無断でそんなことするのを不快に思います。)
ー - “Can I block someone without his knowledge ? ”
(相手に知られることなく、ブロックできますか。)
ー - “I want to leave here without my parents’ knowledge.”
(両親に知られることなく、ここを去りたい。)
和訳は一例である。
既に述べた通り、「無断」と「知らぬ間」の流れに矛盾はない。
【類似表現】
“Without one’s awareness”
(~が知らないうちに)
【関連表現】
“Did I miss something ? ”
https://mickeyweb.info/archives/24426
(私は何か逃しましたか?)