(1)そこで働くすべての人 (2)労働人口
「従業員」は、可算名詞の “employee”。
日本の学校ではこう教わる。
その通りなのだが、実務では “workforce” も多用される。
口頭・文書ともに、見聞きする機会は多い。
音声と文面のニュースでも同様。
“workforce”
all the people who work in a particular industry
or company, or are available to work in a particular
country or area.
(ロングマン、LDOCE6)
【発音】 wə́ːrkfɔ̀ːrs
※ 下線は引用者
–
◆ “workforce” は名詞のみ。
–
2語の “work force” の表記もあるが、まれ。
上記 LDOCE 通りの意味で、
(1) 特定の業界または会社で働くすべての人、
ひいては「労働力」
–
(2) 特定の国または地域の労働人口
基本は(1)。
両者の判別が難しい場合もある。
“workforce” は可算名詞だが、
集合的な「単数名詞」と「複数名詞」を兼ねる点が特徴。
すなわち、”workforce” のスペルのまま、
単数扱いと複数扱いのどちらもありうる。
冠詞は、定冠詞 “the” または所有格
(our、their、your、its など)が通例だが、
不定冠詞 “a” の場合もある。
冠詞も単複も複雑である
トップマネジメントの公式通知やスピーチでは、
その組織で働く人を “our workforce” と表現する
ことが少なくない。
業種によっては、”our employees” よりも普通である。
–
◆ 私の現職場がそれに該当する。
–
雇用形態が多様であるためか、”employees” は
ほとんど出てこない。
“workforce” の視点
個々の従業員ではなく、
「働く人すべて」
正規・非正規は、不問
「我が社で働くすべての人」という言い回しは、
日本語ではどこか不自然なため、「我が社の従業員」
などと和訳するのが通例となっている。
–
◆ ここで、「従業員」の定義を見てみよう。
■ “employee”
someone who is paid to work for someone else.
(ロングマン、LDOCE6)
和訳:他人に雇用されている人
■「従業員」
業務に従事している人。
(広辞苑 第六版)
雇われて業務に従事している人。
(大辞林 第三版)
雇われて、ある業務に従事している人。
(デジタル大辞泉)
■「労働者」
(1)肉体労働をしてその賃金で生活をする者。
(2)労働力を資本家に提供し、その対価として
賃金を得て生活する者。肉体労働をなす者に限らず、
事務員などをも含む。賃金労働者。
■「雇用」
当事者の一方(労務者)が、相手方(使用者)に対して、
労務に服することを約し、相手方がこれに報酬を与える
ことを約する契約。
■「雇う」
賃金や料金を支払って、人や乗物を自由に使える状態におく。
■「労働力」
生産物を作るために費やされる人間の精神的および
肉体的な諸能力。労働力の具体的な発現が労働である。
(広辞苑 第六版)
※ 下線は引用者
“workforce” の定義と違うのが、緑の下線。
「雇用」(賃金」を含有)の要素が加わっている。
※ 『広辞苑』以外
単に「働くすべての人」と定義する “workforce” と異なる。
翻訳者から見ると、看過できない相違点である。
“our workforce” は「我が社の従業員」よりも、
包括的な「我が社で働くすべての人」の意味合い
一見、同じ意味に感じるかもしれない。
しかし、短期雇用の「アルバイト」や「派遣」の労働者
を「従業員」と称することに、抵抗を感じる人は、
日本では少なくない。
「従業員」の定義からは、何ら問題ないはずである。
どちらも「雇われて業務に従事している」から。
ところが、正社員・正職員側だけでなく、アルバイト・派遣
の方にも、すんなり受容しがたい傾向が根強くみられる。
責任負担や待遇面での格差を考慮すれば、確かに一理ある。
–
「従業員」という十派一絡げの呼称に、双方から反発が生じても
不思議でない。
結果として、本来の定義にもかかわらず、慎重に取り扱うべき
言葉となってしまったのが「従業員」。
日本の山積する労働問題の生んだひずみの一端である。
ー
◆ この点、”workforce” は安全である。
ー
先述の通り、そこで働くすべての人を指す。
“workforce”
そこで働く全員 ひいては 全体としての労働力
※ (1) の意味
ここに神経を刺激する要素は見当たらない。
雇用形態・給料・職位は、
無関係な “workforce”
トップマネジメントが好んで用いる一因である。
この意味合いを汲む表現は、日本語に見当たらない。
そのため、“workforce” も「従業員」と和訳せざるえない。
(1) 特定の業界または会社で働くすべての人・「労働力」
- “We need to do away with the aging workforce.”
(高齢の従業員を処分する必要がある。)
ー - “The industry’s workforce has been cut by 30%.”
(その業界の労働力は30パーセント削減された。)
ー - “Most of our workforce are women.”
(我が社の従業員のほとんどが女性である。)
ー
- “We have a 500-plus workforce.”
(我が社には500名余りの従業員がいる。)
ー - “The company is increasing its female workforce.”
(その会社は女性従業員を増やしている。)
ー - “We should hire highly-skilled workforce.”
(熟練の従業員を雇用するべきだ。)
ー
- “We have a highly-motivated workforce.”
(我が社は意欲満々の従業員に恵まれている。)
(2) 特定の国または地域の労働人口
- “Our generation enters the workforce soon.”
(我々の世代がまもなく労働人口に加わる。)
ー - “The workforce is growing in this industry.”
(この業界の労働人口は増大している。)
ー
- “Japan’s workforce is shrinking.”
(日本の労働人口は減少している。)
ー
- “We want women back into the workforce.”
(労働人口に女性を戻したい。)
ー
- “A half of the local workforce is unemployed.”
(地元の労働人口の半数が失業中である。)
ー
- “We have a workforce shortage in the nursing industry.”
(介護業界では労働人口が不足しています。)
ー - “The workforce problems are likely to get worse.”
(労働人口の問題は悪化しそうである。)ー
ー
- “Researchers point to women’s increased presence
in the workforce.”
(研究者は、労働人口における女性の増加を挙げる。)
(研究者は、女性の社会進出について指摘する。)
繰り返すが、(1) と (2) の区別があいまいなケースも珍しくない。