プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Presence

      2019/10/11

存在感  

「存在感」といったら、名詞 “presence”。

定訳である。

【発音】 prézns

逆に、”presence” ときたら「存在感」に加えて、
次を意味する。

  • 存在
  • 風采
  • 出席
  • 面前
  • 舞台度胸
  • 臨場感
  • 駐留

“presence” は、少々堅めの言い回し。

英語ネイティブなら、中学生くらいから自ら使い始めるレベル。
平均的な事務系社会人であれば、日常卑近の名詞である。

さらに、勢力争いに明け暮れる、政治経済軍事
ニュース報道には欠かせない。

◆「存在感」を冒頭に掲げた理由は、メディアに出てくる
用法で最も目立つ感があるからである。

「存在感」さえ覚えておけば、別の意味の “presence” も、
どうにか推測できるはず。

青字で並べたように、細かく見ると多義。

それでも、複雑多岐ではなく、つながりは見出しやすい。
芋づる式に連想可能な語義中心である。

特定の「存在感」が報道価値を高めるためか、”presence” の語意
のうち、最も存在感を示すのが「存在感」との印象を抱いている。
No pun intended.)

そこにいたり、あったりするだけで、人々の注意を引き寄せ、
話題を提供するため、メディアに重宝されるのが「存在感」。

良くも悪くも強烈な個性が匂い立つ存在には、目も心も、
つい吸い付けられてしまう。

 

image.png     「存在感」に視線が釘付け      

逆に、個性のかけらもなく、似たり寄ったりの様子には目をそらしたくもなる。
そんな「コピペ」ばりの語釈がこちら。

  そんざいかん【存在感】

  1. 独特の持ち味によって、その人が紛れもなく
    そこにいると思わせる感じ。
  2. 自分がそこに確かに存在しているという実感。
    (広辞苑 第七版)
  1. その独特の持ち味によって、その人が紛れもなく
    そこにいると
    思わせる感じ。
  2. そこに確かに存在しているという実感。
    (大辞林  第三版)
よくあることだが、ここまでの酷似ぶりは珍しい。
著名な辞書がこうだと、がっかりしてしまう。
さて、どちらが「底本」だろうか。

先述のように、政治経済軍事分野は、勢力・権力の
争奪戦が常態化しており、その動向が国際ニュースとなる。

そのため、”presence” =「存在感」が記事中のキーワード扱い
されることもしばしば。

最新の実例をご覧いただくと、きっと手早く理解が深まる。
2019年8月~9月に受信したニュースメルマガから選んでご案内。

  • “X, provocative presence in civil rights, dies at 91″
    (公民権運動の挑発的存在のXが死去、91歳)
  • “Build an Online Presence Without Giving Up Privacy”
    (プライバシーを保ちつつ、オンライン上の存在感を築く)
  • “Japanese firms seek to boost presence in Africa”
    (アフリカにおける存在感を高めようと努める日本企業)
  • “We live in a world where there is the presence of violence.”
    (我々は暴力が存在する世界に住んでいるのです。)
  • “E-commerce has became universal as major retailers
    ramp up their online presence.”
    (大手小売店がオンライン上の存在感を強化するにつれ、
    eコマースは普遍的なものになった。)
  • “President says U.S. will keep a presence in Afghanistan.”
    (米国はアフガニスタンに駐留し続けると大統領が述べる)
  • “She has been a constant presence at anti-government
    demonstrations.”
    (彼女は、反政府デモの常連であった。)
  • “Researchers point to women’s increased presence
    in the workforce.”
    (研究者は、労働人口における女性の増加を挙げる。)
    (研究者は、女性の社会進出を指摘する。)
  • “His presence was a serious threat to public safety.”
    (彼の存在は公安に対する深刻な脅威であった。)
  • “I was always awestruck by her presence.”
    (彼女の存在感には、常に畏敬の念に打たれていました。)
  • “The military presence has been cut to somewhere around
    1,000 troops now.”
    (駐留する兵員数は、今や1,000名程度まで削減されている。)

  • “Colombia declared a national emergency after confirming the
    presence of the fungus.”
    (その菌の存在を確認後、コロンビアは国家非常事態宣言を出した。)
  • “The first-year assistant coach is making his presence felt.”
    (アシスタントコーチ1年目の彼は、自分の存在感を発揮している。)
  • “Residents did not know of her presence until the reporters
    showed up.”
    (記者らが現れるまで、入居者たちは彼女の存在を知らなかった。)
  • “He said he had 10 weeks left to serve, in the presence of
    prison guards.”
    (彼は看守立ち会いのもと、刑期は10週間残っていると述べた。)

出るわ出るわ。絞り込むのが大変なほど。
上記は、47件から精選した粒ぞろいで、基本的なニュース用法。

存在感」か「存在」か、悩ましいものもあるが、
ニュース報道では、概ねこの2つが
中心となる。

◆ 軍事関連の場合、「存在」よりは「駐留」の方が的確
だったりするが、意味合いに矛盾はない。

  ちゅうりゅう【駐留】

  • 軍隊が一定期間、ある土地に滞在すること。
    (明鏡国語辞典 第二版)
  • 軍隊が、外国の土地などにいちじとどまっていること。
    (三省堂国語辞典 第七版)
国防関連は、特に慎重を要するため、次のような
カタカナ表記も一部で定着している。
  • military presence
    軍事プレゼンス
  • peacetime presence
    平時プレゼンス

新訂・最新軍事用語集 英和対訳
(日外アソシエーツ、2019年刊)

無用な誤解を防ぐため、カタカナで書き出しているのであろう。
一般人が用いる用語ではないため、問題なく通用している模様。

「プレゼンス」は、国語辞典でも項目立てされている。

  プレゼンス【presence】

  • 存在。存在感。特に、軍事・国家などがある地域へ駐留・進出
    して軍事的、経済的に影響力をもつ存在であること。
    (精選版 日本国語大辞典)
  • 存在すること。特に、国外での軍事的・経済的影響力の存在。
    (広辞苑 第七版)
  1. 存在。
  2. 威力を誇示すること。示威行為。
    (三省堂国語辞典 第七版)

    ※ 下線・ハイライトは引用者
特に、他国における「軍事的・経済的影響力」とある。
確かにデリケートな内容に違いない


  • “Rally against presence of U.S. nuclear aircraft carrier”
    (米原子力空母のプレゼンスへの反対集会)
  • “Tensions continue to rise over U.S. military presence
    (米軍のプレゼンスに対する高まり続ける緊張感)

  • “Resentment over the disproportionately large military presence
    (軍の大きすぎる存在感に反発)
  • The U.S. military presence has provided security benefits.”
    (米軍の存在は、安全保障面で利益をもたらしてきた。)

  • “The military presence, however, is widely unpopular.”
    (しかし、軍の存在は大いに嫌われている。)

「存在」や「存在感」では、表現しきれない重厚な中身。
カタカナで表記せざるを得ない苦渋を、汲み取れる気がする。


報道価値を考慮すれば、「存在感」と「存在」が主となる。

軍事関連では「駐留」も大事(後述)。

その他の語義は日頃使われるものの、ニュース沙汰にはなりにくい。

  • 風采
  • 出席
  • 面前
  • 舞台度胸
  • 臨場感
したがって、ニュース頻出の「存在感」「存在」をまず押さえておくとよい。
どのみち、似通った語義ばかりで、語源「出席」から当たりをつけることも可能。

◆ “presence” の語源は、ラテン語「出席」(praesentia)。
初出は14世紀で、16世紀に「舞台度胸」、17世紀に「霊」と
意味が広がっていった。
「霊」とは、「存在を感じられる」ものとしての「精霊」や「神霊」。
可算名詞である。
マイナー用法なので触れなかったが、「存在」が関わる点は同じ。
先の例文に出てきた(最後)”in the presence” の定訳は「~の面前で」
であるが、「存在するところで」として、これまた「存在」から想起できる。
語源「出席」を皮切りに、「存在感」「存在」と思考を巡らすと、
上掲の主な語義(青字)を網羅することが想定できる。
<核>となる「出席」「存在感」「存在」で、まず柱を立てる。
残りは、追々肉付けしていけばよい


こうした流れを取り入れると、単語学習が楽になる。

語源は、発生順の語義の配列をする辞書には必ず載っている。

しかし、頻度順に配列する辞書の方が、<核>は分かりやすい。
ゆえに、一般的な英語学習者には、頻度順の方が実用的と考える。

学習者対象の学習英英辞典(EFL辞典)は、大方「頻度順」。

英語ネイティブ向けの英英辞典は「発生順」が目立つ印象。

【参照】
語源に遡ることで、理解へ足掛かり作る
語義の配列 → 発生順(歴史主義)か頻度順か



◆ “presence” は、名詞のみ。

可算と不可算を兼ねるが、基本は不可算名詞。
なぜなら、<核>たる「出席」「存在感」「存在」が
不可算名詞であるから。

どちらも抽象的でつかみどころがない概念。
つまり、不可算名詞の「抽象名詞」(abstract nouns)。

【参考】 ※ 外部サイト
・ 不可名詞は「物質」「抽象」「固有」の3つ
・ 不可を見分ける簡単なコツ
・ 不可を兼ねる名詞について
・ 不可についてよくある質問


4大学習英英辞典(EFL辞典)に基づき、”presence” の
可算・不可算を仕分けると、原則は次の通り。

  • 存在感 不可算
  • 存在 不可算(または単数名詞)
  • 風采 不可算
  • 出席 不可算
  • 面前 不可算
  • 舞台度胸 不可算
  • 臨場感 不可算
  • 駐留 不可算
  • プレゼンス 単数名詞
  • 霊 可算

    ※「単数名詞」singular noun”
    単数形で使われるのが一般的な名詞

このように不可算が圧倒的に優位である。
から、「基本は不可算名詞」。

 

◆ こうして、例文やら語義やら数多く見てくると、”presence” は
大した存在に思えてくる。

ところが、英単語全体における立ち位置はそうでもない。

  • 重要:<3001~6000語以内>
  • 書き言葉の頻出:<2001~3000語以内>
  • 話し言葉の頻出:3000語圏外
    (ロングマン、LDOCE6 の表記より)

話し言葉がランク外であることは、先ほど記した
「少々堅めの言い回し」の裏付けのひとつになる。

にもかかわらず、特定分野で多用される傾向は既述した。
すなわち、政治経済軍事の方面。

国際社会の潮目の変化に伴う勢力の趨勢を論じる都合から、
存在感」「存在」「駐留」= “presence” への言及は必須となる

有力な『新編 英和活用大辞典』及び『オックスフォードコロケーション辞典
はたっぷり紙幅を割いている。

■ 名詞 “presence”

image.png

画像の拡大
新編 英和活用大辞典』(アプリ版)より転載 

image.png

“presence” たった1語のために、このボリューム。
ちょいと見掛け倒しな重要度・頻出度であったはずなのに。
いくらなんでも、分不相応ではないか。
これは <実務上の需要> があることを示唆する。

以下に似通う特色である。

  • threshold(敷居、境界、しきい値、基準値)
  • downfall(転落、失脚、没落)
  • bombshell(爆弾、突発事件 、衝撃)
  • disparity(相違、格差)
何度も触れてきた政治経済軍事が、グローバルな課題として、
どれほど重きを置かれているか。

ご紹介した例文から垣間見えるように、いつの時代も
勢力・権力にまつわる報道は重要視されるものである。


【関連表現】

  • presence of mind
    (心の平静)

→「心ここにあらず」(absence of mind) の逆。
心が 存在 (presence) することより。

フランス語 “présence d’esprit” からの借用翻訳
peace of mind” に似た意味合い。

※「見出し」英語の解説は、ここが秀逸 ↓
英語ニュースの読み方(見出し編)RNN時事英語

 

 

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