~ と引き換えに
近年、ニュースでやたらと見聞するのが、
こちらの用法。
- in exchange for sex
(性交と引き換えに)
– - in exchange for sexual favors
(性的関係と引き換えに)
(性的接待と引き換えに)
日本では「 枕営業 」「 枕する 」という表現が、
2013年頃から普通に通じるようになっている。
芸能界などでは、かなり昔から使われている模様だが、
2017年現在では一般社会でも広く認知された意味となっている。
本稿末尾でご紹介する ” quid pro quo “( 代償型セクハラ )
の一種と考えられる。
◆ 今年2017年の米国では、各界の有力者による
“sexual misconducts“(性的不正行為)が
次々と明るみに出た。
勇気ある複数人が声を上げることで、長年積もり
積もった不満が顕在化した流れである。
加害者・被害者の双方が、誰もが知るレベルの
有名人である事件が多かったため、社会全体を
揺るがすような衝撃をもたらした。
連日の報道でも、冒頭2つの英語表現は何度も
出てきている。
–
◆ ポイントは “exchange“。
【発音】 ɪksˈtʃeɪndʒ
【音節】 ex-change (2音節)
後半の第2音節にアクセント(強勢)。
音節(syllable、シラブル)とは、発音の最小単位。
英語では「2音節」だが、カタカナでは「6音節」。
平板で、均一なリズムが、日本語の持ち味。
「エ – ク – ス – チェ – ン – ジ」
—1 – 2 – 3 – 4 – 5 – 6 音節
初っ端の第1音節「エ」にアクセントが来る感じ。
→ 音節の差異が顕著な日英比較は、”integrity” 参照
“exchange” の基幹は、下記の「エクスチェンジ」が示す。
エクスチェンジ 【exchange】
1. 交換。
2. 両替。 両替所。
3. 為替(かわせ)。 為替相場。
(広辞苑 第七版)
語源は、古フランス語「交換する」(eschange)。
- 接頭辞 ” ex- ” (離れる)
- 動詞 “ change ” (換える)
で、「 手離して交換する 」の意
“exchange” には、名詞・他動詞・自動詞がある。
名詞は、可算と不可算を兼ねる。
多義でなく、語源に忠実な意味合いばかり。
「 交換 」
これだけ覚えておけば、あらかた間に合う。
– 名詞「交換」「交替」「言葉のやりとり」
– 他動詞「交換する」「両替する」
– 自動詞「交換できる」「両替できる」
一部の高校や大学に定着しているのが、
- a student exchange program (交換留学制度)
- an exchange student (交換留学生)
–
◆ ” in exchange for ” は、”exchange” の 代表的なフレーズ。
ここでは、不可算名詞の “exchange“「交換」 で、無冠詞。
“in” は、目的の前置詞 「~のために」「~として」。
“for” は、代償の前置詞 「~に対して」「~の報酬として」。
※ “for” の他、”of” もある
よって、直訳は「~に対する交換のために」。
つまり、「~と引き換えに」。
–
◆ ニュース報道では、印象のよくないケースで用いられることが多い。
報道価値を要するニュースなので、ネガティブ用途に偏りがちとなる。
しかし、
■ 本来は 中立的な表現
■ 交換条件を表すのが趣旨
■ 本質的にポジネガは関係なく、等価を示唆
–
米ドル金為替本位制
–
- “The US government used to issue the new dollars
in exchange for gold at the fixed exchange rate.”
(かつて米政府は、金と引き換えにドルを固定為替相場
で発行していた。) ※ 「 米ドル金為替本位制 」
– - “We were given food in exchange for work.”
(労働と引き換えに食物が提供された。)
– - “I sold my soul in exchange for payment.”
(お金と引き換えに、自分の魂を売り払った。)
– - “In exchange for 5 USD, I gave her 600 JPY.”
(5ドルと引き換えに、彼女に600円渡した。)
– - “Customers receive this product for free in exchange
for reviews.”
(商品レビューを書くことと引き換えに、客はこの品を
無料で受け取る。)
– - “I offered him lunch in exchange for his time.”
(彼に昼食をおごるかわりに時間を割いてもらった。)
–
◆ それでも、報道記事の用法に限ると、やはりネガティブが目立つ。
2017年のニュース見出しから、冒頭の実例を拾ってみた。
たった1分間の「タイトル検索」で、以下7例採集。
<タイトル検索>
単一キーワード「intitle:」
複数キーワード「allintitle:」
- “Landlord wanted sex with tenants
in exchange for rent”
(大家が家賃がわりに性交をせがむ)
【参考】 ※ 外部サイト
- 「家賃はセックスで」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-9939.php
2018年4月11日付
– - “Rent For Sex : Landlords Offering Free Rooms For Sexual Favours”
https://www.youtube.com/watch?v=isalsNYgTtU
2018年3月1日付 ※ 英 BBC 動画
- “X offered me a job in exchange for sex”
(性交と引き換えに、Xに仕事をオファーされた私)
– - “Teacher offered pupils good grades
in exchange for sex”
(よい成績のかわりに性交を求めた教師)
– - “Landlords are offering free rent
in exchange for sex”
(性交と引き換えに家賃を無料にする大家たち)
– - “Former lawmaker offered vote
in exchange for sex”
(元議員が性交と引き換えに投票を申し出)
– - “X asked HG for sex in exchange for
movie role”
(映画出演と引き換えに性交をねだるX)
– - “Sex in exchange for legal services
not uncommon”
(性交と引き換えの法的支援は珍しくない)
–
◇ 「見出し」英語の解説は、ここが秀逸 ↓
英語ニュースの読み方(見出し編)RNN時事英語
【類似表現】
■ ” in return for – “
( ~と引き換えに、 ~に対する返礼として、 ~の見返りとして )
【発音】 ritə́rn
【音節】 re-turn (2音節)
–
■ ” quid pro quo ” ※ 名詞
( 交換物、 しっぺ返し、 代償型セクハラ )
【発音】 ˌkwɪd prəʊ ˈkwəʊ
【音節】 quid pro quo (3音節)
ラテン語のままだが、社会の闇を暴くような、暗めの
時事ニュース及びビジネス会話で見聞きする印象がある。
『 羊たちの沈黙 』( “ The Silence of the Lambs “、
米 1991年 )のレクター博士の決め台詞としても有名。
【参考動画】 ※ YouTube ( 2分37秒 )
https://www.youtube.com/watch?v=YlRLfbONYgM