Integrity
2022/05/24
(1) 誠実、 高潔 (2) 完全性
産学官軍を問わず、米国のリーダー
の演説に付いて回るのが、” integrity “。
【発音】 intégrəti
【音節】 in-teg-ri-ty (4音節)
語源は、中世フランス語 ( intégrité )または
ラテン語 ( integritatem ) の 「 完全 」。
初出は14世紀。
これから見ていくように、そこそこ重要なものの、
とにかく訳しにくい。
ー
和訳が難しい、英単語の代表格である。ー
ー
翻訳者として、毎度もどかしく感じている。
” vulnerable ” 同然の、翻訳者泣かせの厄介さ。
–
–
◆ ” integrity ” は 名詞のみ で、基本的意味は冒頭の2つ。
一般社会で、より頻出なのは (1) 誠実、高潔
–
よって、本稿では (1)中心に取り上げる。
–
ー
(1) 誠実、高潔
The quality of being honest and strong
about what you believe to be right.
( ロングマン、LDOCE6 )
–
理想の人格や心構えを示す際に使われる。
ー
心が清くて、後ろ暗いところがない。
” integrity ” は、米国人リーダーの大好きな言葉。
そんな印象が強い。
それを端的に表す表現がこちら。
- a man of integrity
( 清廉潔白な人物 )
英和辞典に欠かせない言い回し。
- a man of caliber
( 優秀な人物 )
ともに、人品骨柄への最大級の賛辞に起用される。
ー
” integrity ” は、不可算名詞。
” a man of integrity ” の 不定冠詞 ” a ” は、
可算名詞 ” man ” についたもの。
格言・成句・ことわざに使われる ” man ” であり、
男女不問の不特定な 「 人 」。
ー
ー
◆ 人の性格や態度を、言葉で表現するのは容易でない。
ー
いずれも無形ゆえ、不可視的で抽象的。ー
イメージばかりが先行し、つかみどころがないのだ。
ー
ポジティブな言葉で飾り立てると、眉唾物になりがち。
ー
白黒つけがたいことだらけの、厳しい現実を生きる人々
にとって、自ずと疑いが生じやすくなるからであろう。
とりわけ人格面は、斜に構えた見方をする大人が少なくない。
ー
ー
◆ にもかかわらず、米国の指導者たちは、
事も無げに ” integrity ” を多用する。
ー
東西文化の違いなのだろうか。
孔子一門のたまわく 「 水清ければ魚棲まず 」。
ー
人格が清廉すぎると、人に親しまれなくなってしまう。
おまけに、受け手の嫉妬・ひがみを刺激しないよう、
細心の配慮を要するのが日本社会。
称賛しあうような色合いに乏しい文化であるから。
【参照】
” stand tall “、 ” well-liked “、 ” dazzling “、 ” against all odds ”
ー
そのため、和訳は難しい。
ー
反発を遠ざけ、美点を汲み上げて訳出 するのに難儀する。
この辺りは、語学力以外に「 異文化理解力 」も問われる。
ー
結局、定訳をそのまま使う のが、私の常。
歯がゆく、もどかしい理由はここにある。
ー
◆ 長年、新聞・雑誌・ウェブ記事における
” integrity ” の和訳に注目してきた。
” integrity ” 頻出和訳 < トップ6 >
( 1990 – 2021年 ) ※ 私見
- 誠実
- 高潔
- 品位
- 真摯
- 清廉潔白
- 公正
◇ 名詞をつくる接尾辞 「 ~ さ 」 及び
「 ~ 性 」などの接尾辞的な語を加えた形も含む
–
◆ 直近5年( 2017 – 2021年 )は、
「 誠実 」 と 「 真摯 」 が目立ってきている。
しっくりこない気もするが、これら6つに大概収まる。
- ” professional integrity ”
( 仕事上の誠実さ → 意訳 : 高いプロ意識 )
ー - ” moral integrity ”
( 道義面の誠実さ ← 善悪基準などがまとも )
ー - ” intellectual integrity ”
( 知的誠実さ ← 事実のでっち上げや嘘偽りなど、
知性への信頼を損なう行為をしないこと )
ー - “Men of talent and integrity are rare.”
(才能と誠実さを具える人はまれです。)
ー - “We have to behave with integrity.”
(私たちは公正に行動しなければならない。)
ー - “Act with integrity.”
(やましいことをするな。)(誠実に行動しろ。)
ー - “I expect every employee to act with integrity.”
(各従業員には誠実に行動することを期待する。)
ー - “You are the only custodian of your own integrity.”
(自分の品位を管理できるのは自分自身のみ。)
ー - “People are raising questions about her integrity.”
(彼女の人間性について、人々は疑問を投げかけている。)
ー - “I never doubted his integrity.”
(彼の品位を疑ったことはありません。)
–
◆ 「 経営学の父 」 ピーター・F・ドラッカー (1909-2005) の
数ある作品中の ” integrity ” で、定訳扱いされているのは「 真摯さ 」。
主要著作の和訳を長年担当された、上田 惇生 (1938-2019)が、
「 真摯さ 」と和訳している。
世界で一番読まれた経営学書は、言わずと知れた『 マネジメント 』。
英文原著の発売は、1973年。
–
They may forgive a person for a great deal:
incompetence, ignorance, insecurity, or bad manners.
But they will not forgive a lack of integrity in that person.” Management: Tasks, Responsibilities, Practices ”
Harper Business (Reprint ed. 1993).※ 原著初版は、1973年刊
–
無知や無能、態度の悪さや頼りなさには、寛大たりうる。
だが、真摯さ の欠如は許さない。『 [ エッセンシャル版 ] マネジメント – 基本と原則 』
上田 惇生 ( 翻訳 ) 、ダイヤモンド社、 2001年刊
–
マネジャーに絶対不可欠な素質は、 ” integrity ” = 「 真摯さ 」。
” integrity in leadership ” であり、「 真摯さ なくして組織なし 」。
有名なくだりである。
直前の一文も、相当怖い。
–
The people with whom a person works, and especially subordinates,
know in a few weeks whether he or she has integrity or not.ともに働く者、特に部下に対しては、真摯 であるかどうかは
二、三週間でわかる。( 同上 )
–
◆ 奈良大学の教授が書いた、次の和文論文も興味深い。
300万部超え のベストセラー『 もしドラ 』と併せて、
キーワードの「 真摯さ( Integrity )」を解明している。
2020年発表。
–
領内 修 (2020)「 『 もしドラ 』の Integrity 」、
『 奈良大学紀要 』 48, pp.75-97., 2020-02.
http://repo.nara-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php
/AN00181569-202002-1006.pdf?file_id=7400
※ PDF 全24頁、 1.5MB
–
読みどころは、「 Ⅲ Integrity 」 解説 ( 83~86頁 )。
ー
ー
◆ LDOCE6( ロングマン )の指標によると、
名詞 ” integrity ” の位置づけは、
- 重要度:<6001~9000語以内>
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
【発音】 intégrəti
【音節】 in-teg-ri-ty (4音節)
” integrity ” の意味合いからして、日々出番が生じるはずはない。
したがって、頻出度がランク外であることに不思議はない。
–
一方、重要度は < 6001~9000語以内 > にランクイン。
–
上述の指標は、英単語全体における立ち位置ゆえに、
先の「 そこそこ重要 」たる所以になると考える。
ー
加えて、< Academic Word List >(※)入りしている。
※ 英語圏の大学教科書の頻出単語570語
演説では、キーワードになったりする。
ー
ーー
(2) 完全性
formal: the state of being united as
one complete thing.
( ロングマン、LDOCE6 )
※ ” formal ” = 正式な表現、堅めの表現
–
全体的に欠けてるものがなく、 ぴしっと整っている具合。
ー
システム構築をはじめとする、 技術分野に使われることが多い。
JIS・ISOの工業規格やIT( 情報技術 )の分野では当たり前
でも、 世間一般では今ひとつ馴染みのない日本語であろう。
ISO/IEC 27001( 情報セキュリティマネジメントシステム )
の3大要素( 機密性 ・完全性 ・可用性 )の一つでもある。
対応する 日本工業規格( JIS )を引用すると、
–
3.28 情報セキュリティ( information security )
情報の機密性(3.10),完全性(3.36)及び可用性(3.7)を維持すること。3.36 完全性( integrity )
正確さ及び完全さの特性。JIS Q 27000:2019
情報技術−セキュリティ技術−情報セキュリティ マネジメントシステム−用語
https://www.kikakurui.com/q/Q27000-2019-01.html
–
英文の ” ISO/IEC 27000:2018 ” に当てはめると、
- 機密性 ( Confidentiality )
- 完全性 ( Integrity )
- 可用性 ( Availability )
定義上の「 完全性 」とは、情報が 正確かつ完全 な状態を指す。
「 完全性 」が保たれていないと、情報としての信頼性を欠く。
この対策の一例は、情報の ダブルチェック を義務づけること。
近年のビジネスでは、デジタル署名や電子署名 などの導入により、
改ざん・虚偽のデータ作成を予防し、「 完全性 」を維持している。
「 保全性 」とも言う。
ソフトウェアなどの「 整合性 」を意味する
「 インテグリティ 」は、 IT業界 で定着済み。
◆ 2019年発行の国語辞典では、
–
◆ 2021年発売の辞書アプリでは、
インテグリティー [ integrity ]
- 誠実。 正直。 完全無欠。
- コンピューターのシステムやデータの整合性、 一貫性、 無矛盾性、 完全性。
–
物書堂 『 大辞泉 』 ( アプリ版 )
–
▲ この 物書堂 版アプリは、2012年発売の小学館『 大辞泉 第2版 』の
書籍版 を底本とするものの、その後も継続更新している小学館データ
ベースの最新データが反映されているため、書籍版を超える収録数を誇る。
◇ 小学館 『 デジタル大辞泉 』 特設サイト
https://daijisen.jp/digital/index.html
–
以上、語釈全文である。
◆ 2020年発行の「 カタカナ語辞典 」では、
–
同じく、語釈全文。
映画などの作品名に 「 インテグラル 」 と添えてある場合、
「 ノーカット 完全版 」を指すのが通例。
この「 第5版 」は、2020年9月10日に発行された。
それから、ちょうど26年前の1994年9月10日に発行
された「 初版 」の全文はこちら。
–
インテグリティー [ integrity ]
完全。 不可欠性。
–
『 コンサイス カタカナ語辞典 初版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 1994年刊
–
「 統一(性) 」 がない。
–
◆ 英語では「 4音節 」。
in – teg – ri – ty
イン – テグ – リ – ティ
–1 – 2 – –3 – 4 音節
第2音節に、アクセント( 強勢、ストレス )を置く。 ※ 後述
音節( syllable、シラブル )とは、発音の最小単位。
–
◆ 片や、日本語では「 6音節 」。
平板で、均一なリズムが、日本語の持ち味
—イ – ン – テ – グ – リ – ティ
—1 – 2 – 3 – 4 – 5 – 6 音節
初っ端の第1音節「 イ 」にアクセントが来る感じ。
第4音節「 グ 」に置く人もいるかもしれない。
音節の長さは均等、同じ速さで発音し、高低のアクセントを使う。
これが、日本語の基本。
–
–
◆ アクセントは、言語体系によって、大きく二分される。
アクセントとは、音声学の用語で「 単語を区別する 」もの。
音の強弱か高低かで、「 強弱 アクセント 」 または 「 高低 アクセント 」。
英語は強弱、 日本語は高低。 ドイツ語は強弱、 中国語は高低。
- 英語 ← 音の 強弱 による、
「 強さアクセント 」 = 「 強弱アクセント 」
– - 日本語 ← 音の 高低 による、
「 高さアクセント 」 = 「 高低アクセント 」
–
さらに、「 イントネーション 」との違いを大まかに述べると、
- アクセント( accent )は、「 単語単位 」の強弱か高低
- イントネーション( intonation )は、「 文単位の抑揚 」
アクセント( 強勢 )は、英語で ” stress ” とも言う。 ※ 後述
なおかつ説明すると、「 イントネーション 」は、
「 単語の単位を超えた、文などの全体に現れる音調で、
話し手の聞き手に向けた態度表明の役割を持つもの 」。
英語のような強弱アクセントの言語では、 おおよそ、
「 アクセントは強さ、イントネーションは高さの変化 」。
【音節】 ac-cent (2音節) ※ 動詞は、 ac-cent (2音節)
【音節】 in-to-na-tion (4音節)
◆ アクセントも、音節も、異なる「 カタカナ発音 」( 後述 )
では、英語母語話者( ネイティブ )には、まず通じないのが、
” integrity ” 。–
–
◇ 日本語母語話者が、英語を学ぶ上で、一段と留意
する必要があるのは、音節 ( syllable、シラブル )
–
◆ 「 音節 」がおかしいと、通じないケースが多々ある。
私たち日本人は、やたらと「 発音( pronunciation ) 」
のせいにしがちだが、
★★★ 「 音節 」も 大きな課題 ★★★
–
実際のところ、発音以上に影響することすら珍しくない。
日本語の場合、原則として「 仮名一字が1音節 」。
日頃、音節を意識する機会はなきに等しい。
–
日本の英語教育は、「 音節 」をもっと重視するとよい
本質的に、「 音節 」は 「 発音 」 と同時に学ぶべきもの。
「 音節 」とは 「 発音の最小単位 」 だから、それが道理である。
「 音節 」の概念が身につくまでは、英単語に接する都度、
- この単語は 何音節 ?
- How many syllables does this word have ?
‐How many syllables are in this word ?
と考える習慣をつければ、すぐ慣れる。
「 発音 」とペアで確認しよう。
「 音節 」が分かるようになれば、 英語を見る目が変わる。
もしも、「 音節 」を知らずに、英語を学んできたとすれば、
それは根本的に間違っており、 悲劇の英語教育だと感じる。
正直申し上げると、 素っ裸で通勤するレベルの異常な有様。
総毛立つ衝撃を受けるあまり、 もうどうにも我慢ならない。
教材その他の適否を見直すよう、 その尻を乱暴に引っぱたきたくもなる。
【参照】 「 お尻 」 の英語表現
【 音節とアクセントを学べる動画 】 ※ YouTube ( 全長 13分51秒 )
” syllable ” と ” word stress ” の概要を、 この1本で習える。
” word stress ” とは、「 強勢 」 = 「 強さアクセント 」 の意。
男女のネイティブ講師が、 懇切丁寧に基礎から教えてくれる。
とても秀逸な出来映え。
一見の価値ありと思うので、 ご高覧いただければ幸い。
全編英語 ( 男性側はイギリス英語 ) だが、 自信がなくても大丈夫。
先生と一緒に( ” Repeat after me. ” )、 声を出して、 練習してみたい。
–
–
◆ 世界中の英語学習者に対して発信される、 本場の講義動画を推奨する。
私自身、 年がら年中お世話になっており、 心より感謝、 恩に着ます。
今回の ” Oxford Online English ” は大いにお勧め。
各国の学習者が書き寄せたコメントも必見。
勇気を出して、 英文の投稿にトライしてみよう。
ここは英語学習者ばかりなので、 気後れなんていらない。
学習仲間から返信が来たりするので、 英作文にも申し分のない場。
「 いいね( Like )! 」もあり、 結構尽くめで、 励みになる。
相性のよさそうなチャンネル・番組を見つけよう。
市販の教材にしがみつくよりは、 きっと成長する。
なにより、 楽しい。
【参照】 ” No need. ”
–
–
【 音節が一発で出てくるサイト 】 ※ 外部サイト
–
◆ 日本語の「 音節 」は、 「 拍( はく ) 」とも称する。
英語では ” clap ” (1音節)。
「 拍手 」( 可算名詞 )と「 拍手する 」( 動詞 )の意味もある。
俗語の ” the clap ” は、 性病の「 淋病( りんびょう ) 」 = ” gonorrhea ”
- 「 1拍 」 → a clap
- 「 半拍 」 → half of a clap
- 「 1拍半 」 → a clap and a half
- 「 3拍 」 → three claps
–
【参考】 ※ 外部サイト
- 日本語の音 ( 大辞林 特別ページ )
http://daijirin.dual-d.net/extra/nihongoon.html
– - 音節の構造
http://culture.cc.hirosaki-u.ac.jp/english/utsumi/linguistics/lingusitics_c4_ja.html
–
【 ご注意 】
ローマ字表記と音声記号表記は、別物。
いわゆる「 発音記号 」とは、音声記号のこと。
英語用として、大正時代以降の日本で有力視されて
きた音声記号は、以下3つ。
音声記号は、ブラケット [ ] で括るルールがあり、
ローマ字表記とは区別されている。
【発音】 brǽkit
【音節】 brack-et (2音節)
例えば、日本語の「 う 」 のローマ字表記は “u”。
IPA記号では、通常は [ɯ] 、まれに [u] 。
- 口を丸めない 「 う 」 … [ɯ] ( 非円唇母音 ) ※ 後述
- 口を丸める 「 う 」 … [u] ( 円唇母音 )
[ ] の代わりに、 スラッシュ // で括る場合もある。
【発音】 slǽʃ
【音節】 slash (1音節)
–
言語学者の慣習としては、
- [ ] … 物理的な音
- // … 抽象概念の音素
[ ] は、 最も正確な表音の「 精密表記 」 とみなすことも。
言語学者の用いる正式名は、
本稿では、[ ] と // を併用している。
◆ なお、 [ ] は、引用した書き手が注釈を加える際にも使う。
引用者による補足的説明を、 原文から区別する役目。
ニュース記事や学術論文でも用いられる。
具体例は、 ” He is in a better place now. ” に示した。
◆ 弊サイトで取り上げた単語のうち、日英の音節の
差異が著しい「 12語 」を例示してみる。
–
■ strike / stráik / 1音節
【日】 5音節 「 ス – ト – ラ – イ – ク 」
【英】 1音節
ストライクッ
「ライ」を強調。
https://mickeyweb.info/archives/11891
–
■ spike / spáik / 1音節
【日】 4音節 「 ス – パ – イ – ク 」
【英】 1音節
スパイクッ
破裂音[p]に力を込めて「パイ」。
https://mickeyweb.info/archives/38396
■ stand / stǽnd / 1音節
【日】 4音節 「 ス – タ – ン – ド 」
【英】 1音節
スタンデュッ
破裂音[ t ]で「タン」を強調。
https://mickeyweb.info/archives/40016
■ trump / trʌmp / 1音節
【日】 4音節 「 ト – ラ – ン – プ 」
【英】 1音節
トウランプッ
第45代米国大統領 “ Trump ” も同様。
https://mickeyweb.info/archives/3272
■ blast / blǽst / 1音節
【日】 4音節 「 ブ – ラ – ス – ト 」
【英】 1音節
ブラストッ
表面処理の「 エアブラスト 」「 ショットブラスト 」「 サンドブラスト 」
がこれ。
https://mickeyweb.info/archives/7795
■ chance / tʃǽns / 1音節
【日】 3音節 「 チャ – ン – ス 」
【英】 1音節
チヤンスッ
複数形 ” chances ” は「2音節」になる。
https://mickeyweb.info/archives/20490
–
–
■ thrill / θríl / 1音節
【日】 3音節 「 ス – リ – ル 」
【英】 1音節
スリッル
過去形・過去分詞形・形容詞の ” thrilled ” も「1音節」。
https://mickeyweb.info/archives/50437
■ slam / slǽm / 1音節
【日】 3音節 「 ス – ラ – ム 」
【英】 1音節
スラム
「 スラム街 」も「1音節」だが、別単語の ” slum “。
https://mickeyweb.info/archives/14790
■ test / tɛst / 1音節
【日】 3音節 「 テ – ス – ト 」
【英】 1音節
テッストウ
破裂音[ t ]が、殊に強調される感覚。
https://mickeyweb.info/archives/7468
■ time / taɪm / 1音節
【日】 3音節 「 タ – イ – ム 」
【英】 1音節
タイム–
「ム」は消え入るようで、聞こえないくらい。
https://mickeyweb.info/archives/7468
■ help / hélp / 1音節
【日】 3音節 「 ヘ – ル – プ 」
【英】 1音節
ヘル ップ
カタカナ発音でも、ぎりぎり通じるかも。
https://mickeyweb.info/archives/6691
■ ink / íŋk / 1音節
【日】 3音節 「 イ – ン – ク 」
【英】 1音節
インックッ
同義扱いの 「 インキ 」は、オランダ語 ” inkt ” より。
https://mickeyweb.info/archives/6217
◇ 12語 すべて「 1音節 」( one syllable )
どれも、 腹の底から ゲロする 勢いで、
思いっきり吐き出し、一息に発声する。
「 発音の最小単位 」に切れ目がない1音節
のため、 一気にゲロする凄みが出る。
■ うえ っ (1音節)
■ おえ っ (1音節)
■ げ~ っ (1音節)
–
–
1 音節 = 1 シラブル
–
少々下品だが、 英語音の肝「 シラブル 」
の感触を、 生理的に体得できればと願う。
–
◇ もし分からなければ、 ペットに耳を傾けてみよう。
■ 犬 ワン ! (1音節)
■ 猫 ニヤン ! (1音節)
■ ハムスター キュッ ! (1音節)
■ インコ ギャッ ! (1音節)
–
◆ 日本語母語話者が、擬音語 ( オノマトペ、 onomatopoeia )
で表現すると、
■ ワン / 1音節
【日】 2音節 「 ワ – ン 」
【犬】 1音節
–
【参考動画】 ※ YouTube ( 全長 6秒 )
https://www.youtube.com/watch?v=Ct6edeHVUVs
–
■ ニヤン / 1音節
【日】 2音節 「 ニャ – ン 」
【猫】 1音節
–
【参考動画】 ※ YouTube ( 全長 40秒 )
https://www.youtube.com/watch?v=Yie9Bgo69m8
ゲロも似たようなもの。
■ うえっ / 1音節
【日】 2音節 「 う – えっ 」
【?】 1音節–
–
■ おえっ / 1音節
【日】 2音節 「 お – えっ 」
【?】 1音節
うなり声・うめき声に乗せて、「 1音節 」のリズムをつかむとよい。
ワン / ブラストッ / ニヤン / スタンデュッ
スパイクッ / うえっ / トウランプッ / おえっ
1 音節 = 1 シラブル
ワンコと合唱し、 練習しましょう。–
–
–
◆ 身近な犬猫の鳴き声と、日本語表記の隔たりからも、先述の
「 平板で、均一なリズムが、日本語の持ち味 」
をなんとなく体感できると思う。
日本語の基本を再度挙げると、
音節の長さは均等、同じ速さで発音し、高低のアクセントを使う。
聞く音声と表記のギャップこそ、 我らが母語の特色の反映。
違和感めいた手応えがあれば、 英語の「 音節 」に近づける。
–
◆ 立場を逆にして、 普通の英語ネイティブの皆様に、 私が
日本語をお教えすると、 最初のうちは、こんな風に仕上がる。
【日】 5音節 「 す – み – ま – せ – ん 」
【?】 2音節
■ スンマッ センッ / 2音節
皆一様に、「 2音節 」で発声する。
なんて器用で、 けったいな … なんでこうなる?
なんとも、 すごすぎ …
我々日本語ネイティブには、皆目不明な感。
幾度となく、繰り返してもらっても、なかなか改善しない。
お互い様ね。
◆ お手持ちの「 虎の巻 」を見せていただいた。
- Excuse me
sue-me-mah-sehn
( すみません )
–
学術的な教本ではなく、旅行ガイドに準じる実用書。
旅行者向けなので、無論、音声記号とは無縁である。
ローマ字表記( su-mi-ma-se-n )と驚くほど異なる。
sue-me-mah-sehn
英語母語話者にとっては、 この方が把握しやすい
ということだろう。
–
◆ 日本語を習いたての外国人の発音が不自然なのも、
実は「 音節 」に問題があることが多い。
そろいもそろって「 スンマッ センッ 」 と返されるので、
なにふざけているんだと、 始めの頃は本気で憤慨していた。
両言語の 音節構造の違い を、当時の私は知らなかったのである。
- 英 → 「 子音の連続 」 が目立つ
- 日 → 「 子音 + 母音 」 が基調で、「 子音の連続は不可 」
既出単語のうち、「 子音の連続 」 の好例は、” strike ” / stráik / 1音節。
- /CCC/ → 「 子音 + 子音 + 子音 」 ( 例 ” s t r i k e ” )
のっけから、子音の3連発 ( str- ) で、日本語ならありえない / CCC– / 。
- 子音 /C/ → consonant / kɑ́nsənənt / con-so-nant (3音節)
- 母音 /V/ → vowel / váuəl / vow-el (2音節)
ローマ字表記は、 su-to-ra-i-ku ( 5音節 )。
–
◆ 日本語の音声の大部分は、母音で終わる 「 開音節 」( open syllable )。
ただし、子音で終わる音節「 閉音節 」( close syllable )は、日本語にもある。
すなわち、「 促音 」 と 「 撥音 」。
母音が付かなくても、1拍分の長さを持ち、1拍とカウントされるのが特徴。
- 促音 ( そくおん )
→ 「 つまる音 」 = 小さい「っ」の直後に出てくる子音。
( 例 「 待った 」 matta )
–
小さい「っ」自体を促音と称することもある。
–
副詞 「 すっごく 」のごとく、促音化することで、
感情の高ぶりを露わにして、語気を強める効果も。
–
– - 撥音 ( はつおん ) ※ 後述
→ 「 はねる音 」 = 「 ん 」
( 例 「 本気 」 honki )
日本語で、子音だけを表す表記は、以上の
- 促音 「 っ 」
- 撥音 「 ん 」
を除いて存在しない。
もっとも、 これらを音声記号( IPA など )で表す際は、
そう単純でなく、 複数の音声記号に分かれたりする。
既述の通り、 ローマ字と音声記号表記は、 まったく別。
◇ 「 子音 」 多めの 英単語の発音が 苦手で、
無意識にも 「 カタカナ発音 」
になってしまう 日本人が大勢いる、根本原因
ー
は、 日英の 音節構造の違い にある。
–
/CV/ → 「 子音 + 母音 」
日本語の音の基調
( 結合音節 )
–
1音節 の英単語 ” strike ” を、 日本語の語彙の中に組み込むためには、
子音の間と語尾に「 母音 」を挿入し、5音節 に 組み替える しかない。
–
なぜなら、 日本語音は「 母音 」と組む のが大原則 なので、
基本的に、 「 母音 」がつかないと、日本語になりえない。
–
◆ 英語の ” strike ” は、 [ stráik ] → / CCCVSC / で、 1音節。
” S ” は、 ” semivowel ” ( 半母音 )。
–
■ 子音3連発 の1音節 ” strike ” を
日本語に 迎え入れるため、 無理やり、
ウ [ɯ] と オ [o] という 母音 を 添加
ー
【日】 5音節 [ sɯtoraikɯ ]
【英】 1音節 [ stráik ] –
- [ɯ] ( 非円唇母音 ) … 口を丸めない 「 う 」
–
こうして、 日本語に取り入れるため、
子音3連発 ( str- ) の “ strike ” に、
母音 ( ɯ、o、ɯ ) を 突っ込んだ結果、
1音節 から 5音節 になってしまった。
[ stráik ] → [ sɯtoraikɯ ]
–
もはや、 どうしようもない開き。
英語の音の原形をとどめていない。
これでは、 通じるわけない。
■ 「 母音 」を組み合せる「 結合音節 」が、日本語の音
原則、 日本語に取り込むには「 母音 」必須
-
–
強引すぎるが、 やむを得ない、 母音添加。
かくして、おあつらえ向きの 「 カタカナ語 」 の 出来上がり。
前掲のその他 「 11語 」 も、同様のパターン。
–
◆ こうした流れを踏まえると、行き着く先はこうなる。
–
–◇ 日本語が母語だと、–
—どうしても––
–「 母音を添加 」して–
—発音してしまう––
–
「 カタカナ発音 」 の正体だ–
–
–
日本語音の性質上、 必然の 言語習慣 ゆえに、
子音だらけの英語発音のハードルは、 ひときわ高くなる。
日本語ネイティブならば、 当然の 成り行き。
–
–
◆ 音節構造の違い を再掲すると、
- 英 → 「 子音の連続 」 が目立つ
- 日 → 「 子音 + 母音 」 が基調で、 「 子音の連続は不可 」
「 子音 」 の取り扱いが、真逆 に近い。
–
さらに、日本語の母音は 5個 しかないのに対し、
英語の母音は 10個以上 ( 一説によると、24個 )。
「 ア 」は、 日本語の母音では、 [a] の1つだけ。
英語の母音では、 舌の位置や隣接点の違いにより、
[ʌ]、 [æ]、 [ɑ]、 [a]、 [ə] の5つ ( 諸説あり )。
◆ 先ほどの「 虎の巻 」の続き。
英語母語話者には、次のように聞こえているらしい。
- Good Morning
oh-HI-oh goh-zigh-mahs
( おはようございます )
–- Good Afternoon
kon-nee-chee-wah
( こんにちは )
–- Good Evening
kon-bahn-wah
( こんばんは )
–- Good Bye
Sigh-oh NAH-rah
( さようなら )
–- How are you ?
oh-GEHN-kee dess kah ?
( おげんきですか ? )
–- Nice to meet you
hah-jee-meh-MAHSH-teh
( はじめまして )
–- Please
Oh-nee GUY-ee shee-mahs
( おねがいします )
–- Thank you
Ah-ree-gah-toh goh-zye-mahs
( ありがとうございます )
–- I’m sorry
goh-men nah-sigh
( ごめんなさい )
–- You are welcome
doy dah-shee-mahsh-teh
( どういたしまして )
–- Do you speak English ?
Ey-ee-goh oh hah-nahs sehmahs kah ?
( えいごをはなしますか ? )
–
日本語母語話者が見ると、 思わず笑ってしまう。
もう滅茶苦茶で、 突っ込みどころ満載。
私たちのカタカナ英語と、 どっこいどっこい。
ジョン万次郎 (1827-1898 ) の 英会話教本 (1859年刊)
を彷彿させる、 ユニークな音声表記の長所と短所。
ここで、 ローマ字表記との大差を、 再び指摘しておきたい。
やはり、 子音の連続 が目に付く。
とりわけ、” gh ” と ” hs “。
加えて、語末の ” h ” と ” y “。
日本語には、ありえないのに。
言語習慣 及び 音節構造 の相違点を見せつけられた感。
–
※ 「 滅茶苦茶 」と前記したものの、 学術的な音声記号
とは別に、 実はそれなりに確立されている表記法である。
–
◆ 日本語を一切知らない、 並大抵の英語ネイティブが、
日本語のローマ字表記を、 どう認識し、 発音するか。
発音向上に有効な着眼点であると、 経験上、 確信している。
それゆえ、折に触れて、 多種多様な試行錯誤 を重ねてきた。
同僚を含む、 数多くの外国人に頭を下げて、 ご協力を求めた。
–
尾籠で赤面の至りだが、 卑近な例では、
–
■ ちん こ~う (2音節) chinko
■ ちえ ん ちえ ん (2音節) chinchin
–
–
米国人数名にお願いして、 語意は伝えずに、
ローマ字表記を読み上げていただいたもの。
–
■ ぱっ ちん こ~う (3音節) pachinko
■ ちん ぱあ か~う (3音節) chinpoko (※)
–
–
私の耳には、 だいたいこう聞こえるが、 いかがだろう。
例外なく、 「 ちん 」 を「 1音節 」 の 音声で発していた。
–
【日】 3音節 「 ち – ん – こ 」 chi – n – ko
【英】 2音節 「 ちん – こ 」 chin – ko
【日】 4音節 「 ち – ん – ち – ん 」 chi – n – chi – n
【英】 2音節 「 ちん – ちん 」 chin – chin
【日】 4音節 「 ぱ – ち – ん – こ 」 pa – chi – n – ko
【英】 3音節 「 ぱ – ちん – こ 」 pa – chin – ko
【日】 4音節 「 ち – ん – ぽ – こ 」 chi – n – po – ko (※)
【英】 3音節 「 ちん – ぽ – こ 」 chin – po – ko
–
確かに、英語の ” chin ” は、1音節。
可算名詞の「 顎 ( あご ) 」である。
【発音】 tʃín
【音節】 chin (1音節)
日本語の 「 ん 」は子音で、 前述の 撥音( はつおん、 はねる音 )。
外国人風に、「 ちんこ 」「 ちんちん 」 と発音してみよう。
恥ずかしがらずに、 元気な声で威勢よく発声する。
語学の基本は「 真似 」だから、 幼児のように無邪気に真似る。
語意はともかく、 両言語の音の違いを会得するには、 もってこい。
とはいえ、 学校教育では採用されにくい、 卑猥さを帯びるのが残念。
【参照】 ” smooth out “、 ” hiatus ”
–
◆ 正式な ヘボン式 及び 訓令式 のローマ字表記は、
それぞれ以下の通り。
【ヘボン式】 chinko
【訓令式】 tinko
【ヘボン式】 chinchin
【訓令式】 tintin
【ヘボン式】 pachinko
【訓令式】 patinko
【ヘボン式】 chimpoko
【訓令式】 tinpoko
–
※ 比較の便宜上、 ” chinpoko ” と表したが、 ヘボン式では、
” P ” の前の 撥音「 ん 」は、” N ” の代わりに ” M ” となる
ため、” chimpoko ” が正しい表記である。”
パスポートの表記は、 原則ヘボン式( the Hepburn system )。
学術的な音韻論では、同一の音素 /N/ として、日本語でも、
「 ちんこ 」「 ちんちん 」 もろとも 「 2音節 」とする解釈がある。
その他、 ” chimpo ” ( ちんぽ ) については、
” What’s the use of – ? ” で言及した。
–
【ヘボン式】 chimpo
【訓令式】 tinpo
–
–
◆ 私たちが予想だにできない読み方をしかねない点は、
上掲一覧に目を通せば、 嫌でも察するに違いない。
的外れであっても、微妙な一貫性を感じ取り、気づきが生じる。
まさしく、日英の音 ・ 言語習慣 ・ 音節構造 のヒントの宝庫。
–
ちなみに、 志村けん (1950-2020) の伝説の英語授業コントも、
日英の音 のずれを面白おかしく誇張することで、笑いをとっている。
–
【参考動画】 ※ YouTube ( 全長 5分21秒 )
https://www.youtube.com/watch?v=Ic53hhFllPM
https://www.youtube.com/watch?v=ugDIYqWmbX8 ( 英語字幕付き )
◆ 英文を書く時の日本語のローマ字表記は、 SWET
が作成した、こちらのガイドブック( 英文 )が役立つ。
PDF版は無料。
–
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第3版
2020年 2月16日 更新
※ PDF 全92頁、 810 KB
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「 1950年代から 日本で活動した プロたちの経験と助言による蓄積 」
–
–
◆ 英語力が確実に上がってくると、
” gh “、 ” hs “、 ” h ” 、 ” y ”
で日本語の発音を表している理屈が見えてくる。
英語が母語の一般人向けなら、日本で普及している ヘボン式 や 訓令式
よりも、 これらの表記が好ましいわけが、すんなり分かるようになる。
–
日英の音 ・ 言語習慣 ・ 音節構造
の根本的な違いの基礎知識が身についた証左である。
–
◆ 英語ネイティブの発する英語音が、なんだか短く、不足気味
に聞こえる一因は、文単位でも 強弱 が激しく作用しているから。
つまり、「 強弱アクセント 」の英語には、文にも単語にも、
強弱 が存在するのである
そして、言語習慣上、母音 を加えたくなる 日本語ネイティブ
と裏腹に、連続する単語の発音時に、子音 が挿入されたりする。
- there [ ðεə ] is [ iz ] → [ ðεəriz ]
- there [ ðεə ] are [ ɑː ] → [ ðεərɑː ]
これは、「 リエゾン ( liaison ) 」という、「 連音 ( れんおん ) 」
の一種。
音韻論の現象で、英語よりはフランス語で顕著である。
–
–
◆ ネイティブの英語が聞き取れない主要因は、発音などが
「 速すぎるから 」と思い込んでいる日本人は極めて多い。
けれども、 決して 速度だけの 問題ではない 。
これまで見てきた、 日英の音 ・ 言語習慣 ・ 音節構造
の恐るべき乖離から、 ご理解いただけるのではないだろうか。
日英の音の基礎はおろか、 「 音節 」の概念さえ知らなければ、
どんなに ゆっくり きれいに 穏やかに 話してもらっても、
「 ぜんぜん 聞き取れない … 」と相変わらず落ち込むはめに。
超スローな発音により、 超たやすくなるかどうか。
話し手・聞き手になり、 自ら実際に試してみるとよいと思う。
この時点で「 速度の問題ではないのか 」と自覚するのが望ましい。
「 速度 」よりも、はるかに本質的な上記3点を押さえておきたい。
この点の正しい知識が、日本人学習者を救うと私は信じる。
単なる「 努力不足 」なんかではない。
私たちのせいではない。
先生のせいでもない。–
–
◇ 英語の不得手な日本人が
過半を占めるのは、自然の数
■ 「 本能的に 」 習い覚えた第一言語( 母語 )の影響力は、常に絶大
■ 人間は言語を用いて考えるため、母語こそ「 思考の土台 」を形作る
- 発音・音節のみならず、日英は、文法から何から共通点が乏しい
- 「 言語系統が別次元 」なので、糸口を得がたく、習得が困難
–
◆ 英語教育の内容の適不適は、第二義的な問題にすぎない。
「 受験英語の弊害 」 ?
本当は、そんな程度の話ではないのだ。
大胆に例えると、ワンコ を ニャンコ に仕立てようとするくらい、
一般的な環境に育った日本人にとって、英語習得は難易度が高い。
からくりをきちんと解かずして、むやみに詰め込む、こんな様相。
「 ワン ! 」 はダメ、 正しくは 「 ニヤン ! 」
挙句の果てに混乱し、授業についていけない脱落者が続出する。
「 なんで、ニャン が正解で、ワン は間違いなんだよ ? 」
どうやら、先生方もよく分かっておらず、堂々と教える自信がないのかも。
母語に比べて、「 言語系統が別次元 」とは、こういうこと。
” conclusive ” では、 歴史を振り返りつつ、 世上流布しない
正負の側面を事細かに検証した。
” aware ” では、 日本人教師の皆様にとって、 強みとなる勉強法を述べた。
–
–
◆ 英学界の巨人、斎藤秀三郎(1866-1929)いわく、
- ” English, though a comparatively easy language,
is far from being so to the Japanese student. ”
( 英語は比較的平易な言語であるが、日本人学習者に
とっては、平易から程遠い。 )
– - ” a pronunciation wholly alien to that of his mother-tongue ”
( 母語の発音に対し、完全に異質な発音 )
–
p. 5. “ PREFACE ”
『 正則英文教科書 第4冊 ( 第4学年用 ) 』
斎藤秀三郎 (著)
興文社、 1908年刊
–※ 斎藤秀三郎は、世界初の EFL辞典を生んだ 影の立役者
→ 辞書は「 紙 」か「 電子版 」
–
同感します。
–
◆ 日本語音の 基調 / CV / を十分に理解した外国人は、
「 外国人なまり 」が減り、みるみるうちに上達していく。
特に熱心な学習者だと、別人並みに変わるから、こっちはびびる。
目を見張る見事な変身ぶりに、 発音のポイントは「 音節 」
に宿ると改めて気づかされる。
◆ やや際どいが、大事な器官の発音を、またぞろ練習しておこう。
初めて耳にすると、おそらく分からない。
–
■ penis / píːnis / pe-nis (2音節)
【日】 3音節 「 ペ – ニ – ス 」
【英】 2音節
ピー ニス
ピー ナス
↑「ぺ」 でなく 「ピ」
–
語源は、ラテン語 「 尾 」 ( pēnis )。
https://mickeyweb.info/archives/18907
■ vagina / vədʒáinə / va-gi-na (3音節)
【日】 3音節 「 ワ – ギ – ナ 」
【英】 3音節
ヴァ ジャイ ナ
———-↑「ギ」 でなく 「ジャイ」
↑「ワ」 でなく 「ヴァ」
–
語源は、同じくラテン語 「 鞘 = さや 」 ( vāgīna )。
「 お袋 」に似通う発想で、あそこの形状と機能を示唆する。
https://mickeyweb.info/archives/18907
なお、「 お袋 」の語源説は、複数存在する。
( 男性生殖器 を指すこともある )
◆ ” vagina ” は、甘い香りの 「 バニラ 」 ( vanilla ) と同源。
既記の通り、ラテン語 「 鞘 = さや 」 ( vāgīna ) が出自。
–
■ vanilla / vənílə / va-nil-la (3音節)
【日】 3音節 「 バ – ニ – ラ 」
【英】 3音節
ヴァ ニイ ラッ
両方とも、第2音節に強いアクセント(強勢)。
ヴァ ニイ ラッ
ヴァ ジャイ ナ
1 – 2 – 3 音節
3音節同士で、真ん中に強勢、リズムはやんわり重なる。
◆ 今後は、バニラを食すたびに、
” vanilla, vagina, vanilla, vagina “
と小声でささやき、発音を反復練習しましょう。
これで、第2音節に強勢を置く3音節単語は、大丈夫。
–
–
◆ ご自分の生活の中に、学習機会を見出し、あたかもパズル
みたいに、 巧みに練り込んでいけば、 ストレスなく学べる。
ほどよい弾みが気分を盛り上げ、心身の不調を遠ざけてくれる。
見慣れているはずのいつもの光景に、 趣のある変化が訪れる。
良くも悪くも心が躍り、 軽微な不平不満にかまう隙が消えたりする。
心地よいリズムが暮らしに加わり、 生きることが楽しくなってくる。
これが「 語学 」の喜び。
–
◆ 私自身、日常のふとした隙を突いて、いろいろ訓練する毎日。
【参照】 ” hiatus “、 「自分の世界」が広がる英語 、 単語の覚え方
–
–
” vanilla ” と聞いて、ぱっと即座に ” vagina ” を想起する
レベルにないと、プロの通訳翻訳官は 務まらない気がする。
語源はもちろん、 連想語を調べることなく、 氏名・芸名・
ペット名などをつけるのは、控える方がよいかもしれない。
–
–
–
◆ 本題 ” integrity ” に戻る。
(1) 誠実、高潔 と異なり、 (2)完全性 の場合、
人となりの描出に使われる場面を、そうそう見かけない模様。
(2)は、専門的な堅い文脈中心で、技術分野 及び 権利関係 が、
主たる用法。
既に記した(2)の使用例でご覧いただいたように、
「 技術分野 」は判別しやすく、大半が(2)に該当。
「 権利関係 」については、「 人格 」も関係してくるので、要注意。
ただし、道徳的に高尚な人柄を表す(1)の「 人格 」ではない。
生存に必要な自由・独立といった、人間の権利としての
法律的な「 人格権 」を主に示すのが(2)。
とかく手強いのは、こっちの「 権利関係 」 の ” integrity “。
(1)と(2)ともども、適用できそうな用途が少なくないのである。
これまた難問で、 翻訳者泣かせ。
公開されている翻訳を調べても、どこかあいまいな和訳が珍しくない。
一応の目安としては、「 権利 」を意味する語、
” a right “、” the right “、” rights ” を伴う時は、(2)中心。
【発音】 ráit
【音節】 right (1音節)
「 人権 ( human rights )」 や 「 人間の尊厳 」を扱う中身で
あれば、 個人の(2)「 完全性 」「 統一性 」を指す可能性が高い。
- ” human dignity, human identity and human integrity”
(人間の尊厳、人間の独自性、 人間の完全性)
「 完全無欠 」のまま、丸ごと保護する「 個の保全 」との趣旨。
- ” physical and mental integrity ”
(精神と肉体の完全性)(精神と肉体の統一性)
「 完全な状態 」を旨とするのが、” integrity ” の語釈(2)で、
前掲の通り、「 完全性 」「 統一性 」「 保全性 」「 整合性 」。ー
- ” personal integrity ”
( 個人の誠実さ ← 人としての品性 ) → (1) 誠実、高潔
( 個人の完全性・統一性 ← 人間の尊厳の一部 ) → (2) 完全性
– - ” integrity of Olympics”
( オリンピックの高潔さ ) → (1) 誠実、高潔
( オリンピックの完全性・統一性 ) → (2) 完全性
– - ” the integrity of competition”
( 競技の高潔さ ) → (1) 誠実、高潔
( 競技の完全性・統一性 ) → (2) 完全性
– - ” the right to the integrity of the person”
( その人の完全性に対する権利 )( 人格の完全性に対する権利 )
(1)と(2)は、矛盾する語意ではない。
普段、接する分には、あまり神経質に分別しなくてもよいと考える。
–
(1) 誠実、高潔
The quality of being honest and strong
about what you believe to be right.
( ロングマン、LDOCE6 )
–
–
(2) 完全性
formal: the state of being united as
one complete thing.
( ロングマン、LDOCE6 )
※ ” formal ” = 正式な表現、 堅めの表現
–
主な類義の不可算名詞は、
” completeness “、 ” unity “、 “ solidarity “。
- ” the integrity of the nation ”
( 国家としての統一性 )
– - ” data integrity ”
( データの完全性 ) ( データの整合性 )
–
→ “Hackers tend to focus on compromising the integrity of data.”
( ハッカーはデータの完全性を侵害することに重点を置く傾向がある。)
– - ” structural integrity ”
( 構造完全性 ) ※ 頑強な構造など
– - ” the integrity of hair ”
( 髪の毛のまとまり )
– - ” the territorial integrity of the country ”
( 領土の保全 ) ※ 定訳、 「 領土の一体性 」のこと
–
→ ” maintain Japan’s sovereignty and territorial integrity ”
( 日本の主権と領土保全を維持 )
– - ” skin integrity ”
( 皮膚統合性 ) ※ 定訳
–
→ 「 皮膚統合性 障害( impaired skin integrity ) 」
をもたらすのが「 褥瘡 ( 床ずれ ) 」などの皮膚損傷
–
・ ” impaired “( ~ に障害のある ) … 形容詞
–
【発音】 ɪmˈperd
【音節】 im-paired (2音節)
◆ 締めくくりに、世界最大の英語辞典 “ OED ” をご紹介。
” integrity ” 全文である。
“Integrity.” The Oxford English Dictionary. 2nd ed. 1989.
–
これぞ、 “ OED ” ( オーイーディー )の略称で名高い、
“ The Oxford English Dictionary ” ( オックスフォード英語辞典 )。
–[ 公式サイト ] → http://www.oed.com/
1884年にイギリスで刊行が始まり、
全20巻、 2万1730頁、 29万1500の見出し語、
語義の配列は、頻出順ではなく、発生順の「 歴史主義 」。
成り立ちを、系統的にたどれる利点がある。
–
◆ 「 発生順」「 歴史主義 」の ” OED ” によれば、
” integrity ” の成立は、世間的な「 頻出順 」と逆になる。
つまり、既に述べた下記は、二の次。
一般社会で、より頻出なのは (1) 誠実、高潔
すなわち、
【成立】 完全性 → 誠実、 高潔
【頻出】 誠実、 高潔 → 完全性
–
上記 ” OED ” の語釈 ( sense ) 1、2、3 に当てはめると、
【成立】 完全性 [ 1 、2 ] → 誠実、 高潔 [ 3 ]
【頻出】 誠実、 高潔 [ 3 ] → 完全性 [ 1 、2 ]
–
◆ 前出の ” OED ” の語釈全部を転記する。
キーワードには、ハイライトを施した。
1. The condition of having no part or element
taken away or wanting; undivided or unbroken
state; material wholeness, completeness,
entirety.
b. Something undivided; an integral whole.
–
2. The condition of not being marred or
violated; unimpaired or uncorrupted condition;
original perfect state; soundness.
–
3. In moral sense. a. Unimpaired moral state;
freedom from moral corruption; innocence,
sinlessness.
b. Soundness of moral principle; the character or
uncorrupted virtue, esp. in relation to truth
and fair dealing; uprightness, honesty, sincerity.
–
” OED ” には、難解な記述がままあるのが常例。
ところが、” integrity ” の語釈は、シンプルな文章で構成されている。
中級学習者の実力があれば、一目で把握できるレベル。
–
◆ 語義の配列は、各辞書の編集方針に従う。–
手元の 著名英和を調べると、 概ね以下の模様。
- 『 リーダーズ英和辞典 第3版 』 → 発生順
- 『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』 → 発生順
- 『 ジーニアス英和大辞典 』 → 発生順
- 『 研究社 新英和大辞典 第6版 』 → 頻度順
学習者対象の 学習英英辞典(EFL辞典)は、大方「 頻度順 」。
英語ネイティブ向けの英英辞典は「 発生順 」が目立つ印象。
–
弊サイトが日本人にお勧めするネイティブ用辞書は、
- “ Webster’s New World College Dictionary ” → 発生順
※ 辞書のご案内(写真入り): ” tapped out “
国語辞典では、『 広辞苑 』は 発生順、『 大辞林 』は 頻度順。
発生順(歴史主義)は、語義を系統的にたどるには最適。
しかし、一般的な英語学習者には、頻度順の方が実用的。
【参照】 ” initial “、 ” just checking in ”
‐
“ OED ” 編集主幹の James Murray 博士 (1837-1915)
については、” in place ” で触れている( 写真入り )。
◆ 世界最大 ” OED ” に比肩する偉大な存在として、 日本最大
の国語辞典『 日国 』(※)の語釈も、 ぜひご案内したかった。
※ 『 日本国語大辞典 第二版(全13巻+別巻) 』
小学館、 2000~2002年刊、 B5判変型、 平均 1,456頁
–
残念ながら、見出し「 インテグリティ 」、「 インテグリティー 」
のどちらも設けられていなかった。
◇ 『 日国 』 と “ OED ” は入手済み → 辞書の「自炊」と辞書アプリ
【類似表現】
” Do the right thing.”
https://mickeyweb.info/archives/1552
( 正しいことをする。)
” Honest with – ”
https://mickeyweb.info/archives/472
( 〜 に対して正直である )
【参考】 ※ 外部サイト
◇ 英語母語話者を対象とする「 言語習得難易度表 」
米国務省の外務職員局( FSI : Foreign Service Institute )発表
日本語は最難関 ( 4段階中、最高位 )
「 超難しい 」
Super-hard
exceptionally difficult for native English speakers
–
割かし頻繁に引用される資料なので、信用に値すると考えられる。
” 70 years of experience in teaching languages to U.S. diplomats ”
米外交官に、70年間、外国語教育を施した実績が叩き出したランキング。
英語ネイティブにとって、日本語がかなり難しいのは、確かであろう。
要は、我ら双方にとって大変であり、本稿で挙げた側面からも明らか。
まったくもって、お互い様。
–
【参照】 ” I have a question for you. ”