プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Integrity

      2020/11/26

(1)   誠実、  高潔     (2)   完全性

産学官軍を問わず、アメリカのリーダー
の演説に付いて回るのが “integrity”。

【発音】   intégrəti
【音節】   in-teg-ri-ty  (4音節)

語源は、中世フランス語(intégrité)または
ラテン語(integritatem)の 「 完全 」。

初出は14世紀。

これから見ていくように、そこそこ重要なものの、
とにかく訳しにくい。

和訳が難しい単語の代表格である。

翻訳者として、毎度もどかしく感じている。


◆  “integrity” は 名詞のみ で、基本的意味は冒頭の2つ。

  頻出なのは  (1)  誠実、高潔 

よって、本稿では(1) 中心に取り上げる。

(1)   誠実、高潔

The quality of being honest and strong
about what you believe to be right.
(ロングマン、LDOCE6)

理想の人格や心構えを示す際に使われる。

  心が清くて、後ろ暗いところがない。

“integrity” は、アメリカ人リーダーの大好きな言葉。
そんな印象が強い。

それを端的に表す表現がこちら。

  • a man of integrity
    (清廉潔白な人物)

英和辞典に欠かせない言い回し。

ともに、人品骨柄への最大級の賛辞に起用される。

“integrity” は、不可算名詞。

“a man of integrity” の “a” は、
可算名詞 “man” についたもの。

格言・成句・ことわざに使われる “man” で、
男女不問の不特定な「人」。


◆  人の性格や態度を、言葉で表現するのは容易でない。

いずれも無形ゆえ、不可視的で抽象的。
イメージばかりが先行し、つかみどころがないのだ。

ポジティブな言葉で飾り立てると、眉唾物になりがち。

白黒つけがたいことだらけの、厳しい現実を生きる人々
にとって、自ずと疑いが生じやすくなるからであろう。

とりわけ人格面は、斜に構えた見方をする大人が少なくない。


◆  にもかかわらず、アメリカの指導者たちは、
事も無げに “integrity” を多用する。

東西文化の違いなのだろうか。

孔子一門いわく「水清ければ魚棲まず」。

人格が清廉すぎると、人に親しまれなくなってしまう。

おまけに、受け手の嫉妬・ひがみを刺激しないよう、
細心の配慮を要するのが日本社会。

称賛しあうような色合いに乏しい文化であるから。

【参照】  “stand tall“、  “well-liked

そのため、和訳は難しい。

反発を遠ざけ、美点を汲み上げて訳出
するのに難儀する。

この辺りは、語学力以外に「異文化理解力」も問われる。

だが結局、定訳をそのまま使ってしまう のが、私の常。

歯がゆく、もどかしい理由はここにある。

◆  長年、新聞・雑誌・ウェブ記事における
“integrity” の和訳に注目してきた。

“integrity”  頻出和訳  <トップ6
 (1990〜2019年)
※  私見

  1.  誠実
  2.  高潔
  3.  品位
  4.  真摯
  5.  清廉潔白
  6.  公正

直近5年(2015~2019年)は、
「誠実」と「真摯」が目立ってきている。

しっくりこない気もするが、大概この6つに収まる。

  • “professional integrity
    (仕事上の誠実さ  →  意訳:高いプロ意識)

  • “personal integrity
    (個人の誠実さ  ←  人としての品性)
  • “moral integrity
    (道義面の誠実さ  ←  善悪基準などがまとも)
  • “We have to behave with integrity.”
    (私たちは公正に行動しなければならない。)
  • “I expect every employee to act with integrity.”
    (各従業員には誠実に行動することを期待する。)
  • “You are the only custodian of your own integrity.”
    (自分の品位を管理できるのは自分自身のみ。)
  • “I never doubted his integrity.”
    (彼の品位を疑ったことはありません。)


◆  「経営学の父」 ピーター・F・ドラッカー (1909-2005) の
数ある作品中の “integrity” で、定訳扱いされているのは「真摯さ」。

主要著作の和訳を長年担当してきた、上田 惇生 氏(1938-2019)が、
「真摯さ」と和訳している。

世界で一番読まれた経営学書は、言わずと知れた『マネジメント』。

英文原著の発売は、1973年。

They may forgive a person for a great deal:
incompetence, ignorance, insecurity, or bad manners.
But they will not forgive a lack of  integrity  in that person.

Management: Tasks, Responsibilities, Practices
Harper Business  (Reprint ed. 1993).
※  原著初版は、1973年刊


無知や無能、態度の悪さや頼りなさには、寛大たりうる。
だが、 の欠如は許さない。

[エッセンシャル版]  マネジメント – 基本と原則  』 
上田 惇生 (翻訳) 、ダイヤモンド社、 2001年刊

マネジャーに絶対不可欠な素質は、 ” Integrity ”  =  「 真摯さ 」。

integrity in leadership ” であり、「 真摯さ なくして組織なし 」。

有名なくだりである。

直前の一文も、相当怖い。

The people with whom a person works, and especially subordinates,
know in a few weeks whether he or she has  integrity  or not.

ともに働く者、特に部下に対しては、真摯 であるかどうかは
二、三週間でわかる。

(同上)


◆  奈良大学の教授が書いた、次の和文論文も興味深い。

300万部超えのベストセラー『もしドラ』と併せて、
キーワードの「真摯さ(Integrity)」を解明している。

2020年発表。

領内 修 (2020)「『もしドラ』の Integrity」、
『奈良大学紀要』 48、p.75-97

http://repo.nara-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php
/AN00181569-202002-1006.pdf?file_id=7400

※  PDF 全24頁、1.5MB



◆  LDOCE6(ロングマン)の指標によると、
名詞 “integrity” の位置づけは、

  • 重要度:<6001~9000語以内>
  • 書き言葉頻出:3000語圏外
  • 話し言葉頻出:3000語圏外

【発音】   intégrəti
【音節】   in-teg-ri-ty  (4音節)

“integrity” の意味合いからして、日々出番が
生じるはずはない。

したがって、頻出度がランク外であることに不思議はない。

一方、重要度は<6001~9000語以内>にランクイン。

上掲の指標は、英単語全体における立ち位置なので、
先の「そこそこ重要」たる所以になると考える。

加えて、<Academic Word List>(※)入りしている。
※  英語圏の大学教科書の頻出単語570語

演説では「キーワード」となったりする。

ーー

(2)   完全性

formal: the state of being united as
one complete thing.

(ロングマン、LDOCE6)

※  “formal” = 正式な表現、堅めの表現

全体的に欠けてるものがなく、ぴしっと整っている具合。

システム構築をはじめとする、技術分野に使われることが多い。

JIS・ISOの工業規格やIT(情報技術)の分野では当たり前
でも、世間一般では今ひとつ馴染みのない日本語であろう。

ISO/IEC 27001(情報セキュリティマネジメントシステム)
の3大要素(機密性 ・完全性 ・可用性)の一つでもある。

対応する日本工業規格(JIS)を引用すると、

2.33  情報セキュリティ(information security)
情報の機密性(2.12),完全性(2.40)及び可用性(2.9)を維持すること。

2.40  完全性(integrity)
正確さ及び完全さの特性。

JIS Q27000:2014
情報技術−セキュリティ技術
−情報セキュリティマネジメントシステム−用語
https://kikakurui.com/q/Q27000-2014-01.html

英文の ISO/IEC 27001:2013 に当てはめると、

  •  機密性 (Confidentiality)
  •  完全性 (Integrity)
  •  可用性 (Availability)

定義上の「完全性」とは、情報が 正確かつ完全 な状態を指す。

「完全性」が保たれていないと、情報としての信頼性を欠く。

例えば、情報のダブルチェックを義務づける対策が挙げられる。

近年では、デジタル署名や電子署名 などを導入することで、
改ざん・虚偽のデータ作成を予防し、「完全性」を維持している。

保全性 ともいう。

ソフトウェアなどの「 整合性 」を意味する
「インテグリティ」は、 IT業界 で定着済み。

◆  英語では「4音節」。

intégrəti

in – teg – ri – ty  
イン – グ – リ – ティ
1 2 3 4 音節

第2音節に、アクセント(強勢)を置く。

音節(syllable、シラブル)とは、発音の最小単位

◆  片や、日本語では「6音節」。

平板で、均一なリズムが、日本語の持ち味

ティ
12 3 45 6 音節

初っ端の第1音節「イ」にアクセントが来る感じ。
第4音節「グ」に置く人もいるかもしれない。

アクセントも音節も異なるカタカナ発音では、
英語母語話者(ネイティブ)には、まず通じない語。

◇  日本語母語話者が、英語を学ぶ上で、一段と留意
  する必要があるのは、音節 (syllable、シラブル)

「音節」がおかしいと、通じないケースが多々ある。

私たち日本人は、やたらと「発音(pronunciation)」のせい
にしがちだが、

 ★★ 「音節」も 大きな課題  ★★ 

実際のところ、発音以上に影響することすら珍しくない。

日本語の場合、原則として「仮名一字が1音節」。

日頃、音節を意識する機会はなきに等しい。

日本の英語教育は、「音節」をもっと重視するとよい。

本質的に、「音節」は 「発音」 と一緒に学ぶべきもの。

「音節」とは 「 発音の最小単位 」 だから、それが道理である。


◆  弊サイトで取り上げた単語のうち、日英の音節
の差異が著しい8語を例示してみる。

■  strike  stráik / 1音節

【日】  5音節 「 –
【英】  1音節

ストライ

「ライ」を強調。

https://mickeyweb.info/archives/11891

■  spike  / spáik / 1音節

【日】  4音節 「 –  –  – 
【英】  1音節

パイ

「パイ」を強調。

https://mickeyweb.info/archives/38396

 

■  stand  / stǽnd / 1音節

【日】  4音節 「 –
【英】  1音節

タン

「タン」を強調。

https://mickeyweb.info/archives/40016

 

■  trump  / trʌmp / 1音節  

【日】  4音節 「 –  –  – 
【英】  1音節

第45代米国大統領の姓 “Trump” も同様。

https://mickeyweb.info/archives/3272

 

■  chance  / tʃǽns / 1音節

【日】  3音節 「チャ –  – 
【英】  1音節

チヤ

複数形  “chances”  は「2音節」になる。

https://mickeyweb.info/archives/20490

■  thrill θríl / 1音節

【日】  3音節 「 – – 
【英】  1音節

スリッル

“thrilled” も「1音節」のまま。

https://mickeyweb.info/archives/50437

 

■  slam  / slǽm / 1音節

【日】  3音節 「 –
【英】  1音節

「スラム街」も「1音節」だが、別単語の “slum“。

https://mickeyweb.info/archives/14790

 

■  ink íŋk / 1音節

【日】  3音節 「 –  – 
【英】  1音節

イン

https://mickeyweb.info/archives/6217

 

◇  8語すべて「1音節」(one-syllable

どれも、腹の底から ゲロする 勢いで、
思いっきり吐き出し、一息に発音する。

発音の最小単位 」の切れ目がない
ため、一気にゲロするような迫力が出る。

◇  もし分からなければ、ペットに耳を傾けてみよう。

     (1音節)

      (1音節)

 ハムスター    (1音節)

 インコ    (1音節)

◆  日本語母語話者が、擬音語 (オノマトペ、 onomatopoeia
として表現すると、

    / 1音節

【日】  2音節 「 
【犬】  1音節

   / 1音節

【日】  2音節 「ニャ  
【猫】  1音節

身近な犬猫の鳴き声と、日本語表記の隔たりからも、先述
平板で、均一なリズムが、日本語の持ち味
なんとなく体感できると思う。

違和感めいた感触があれば、英語の「音節」にきっと近づける。

◆  反対に、普通の英語ネイティブに、日本語をお教えすると、
最初のうちは、こんな風に仕上がる。

【日】  5音節 「 –
【?】  2音節

       / 2音節

皆一様に、「2音節」で発音する。

幾度となく、繰り返してもらっても、なかなか改善しない。

お互い様ね。

 

◆  やや際どいが、大事な器官も、発音練習しておこう。

■  penis  / píːnispe-nis  (2音節)

【日】  3音節 「  –
【英】  2音節

ピー   ニス
ピー   ナス

「ぺ」でなく「ピ」

https://mickeyweb.info/archives/18907

 

■  vagina  / vədʒáinəva-gi-na  (3音節)

【日】  3音節 「 
【英】  3音節

ヴァ   ジャイ   ナ

———-「ギ」でなく「ジャイ」
「ワ」でなく「ヴァ」

https://mickeyweb.info/archives/18907

 


◆  本題 “integrity” に戻る。

(1)  誠実、高潔  異なり、(2)  完全性 の場合、
人格の描出に使われる場面を、ほとんど見かけない模様。

(1)  誠実、高潔 

The quality of being honest and strong
about what you believe to be right.
(ロングマン、LDOCE6)

(2)  完全性

formal: the state of being united as
one complete thing.

(ロングマン、LDOCE6)

※  “formal” = 正式な表現、堅めの表現

主な類義の不可算名詞は、
completeness“、”unity“、”solidarity“。

  • “the integrity of the nation”
    (国家としての統一性)
  • “data integrity
    (データの完全性)  (データの整合性)
  • “the territorial integrity of the country”
    (領土の保全)   ※  定訳
  • “skin integrity
    皮膚統合性)   ※  定訳

    →  「皮膚統合性 障害(impaired skin integrity)」
    をもたらすのが「褥瘡(床ずれ)」などの皮膚損傷

    ・  “impaired”(~に障害のある) …  形容詞
    【発音】  ɪmˈperd
    【音節】  im-paired  (2音節)

 

 

【類似表現】

“Do the right thing.”
https://mickeyweb.info/archives/1552
(正しいことをする。)

“Honest with – ”
https://mickeyweb.info/archives/472
(〜に対して正直である)

 

 

 

 

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