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Hot water

      2020/01/13

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 5 minutes

苦境  

hot water” とは、「温水」「湯」。
in hot water” は、「湯の中に」。

とすれば、

He is in hot water.

♪ いい湯だな  いい湯だな ♪

ぬくぬくして気持ちよさそう … ああ、うらやましい。

◆ とんでもない。

この用法の「湯」は、ぐらぐら煮え立つ「熱湯」
苦しい立場の「苦境」を例えた “hot water”。

たぎる湯の中に身を置けば、相当しんどいに違いない。

  まずい。 大変。 どうしよう。

ここでの “hot water” は、瀬戸際に追いつめられた状況。

♪ いい湯だな  いい湯だな ♪
♪ ピンチだぞ  ピンチだぞ ♪

一刻も早くどうにかしなければ

  • “I need to get out of hot water.”
    (苦境から脱出しなければならない。)

       苦境脱出       

 

◆ “hot water”(苦境)の主体は、個人・団体の別を問わない。

実例として、今年2019年発表のニュース見出しをご紹介する。

まずは、企業などの団体。

  • “X in hot water over splashy phone ads”
    (携帯電話の派手な広告でX社が窮地に)
  • “Hospital in hot water over HIV case”
    (HIV事件で病院が苦境に陥る)

  • “Y in Hot Water after Controversial Management Decision”
    (Y社、物議をかもす経営判断でトラブルに)

  • “Cyberattack lands ship in hot water
    (サイバー攻撃で船が窮地に追い込まれる)

  • “Networking giant in hot water for selling
    US govt buggy spy kit”
    (大手ネットワーク企業 – 米政府にバグだらけ
    の監視装置を販売し、窮地に立たされる)

次いで、個人。

  • “Policymaker in hot water for past sexual harassment lawsuit”
    (政策担当が過去のセクハラ訴訟で窮地)

  • “Minister in hot water over his fake degree”
    (学歴詐欺で大臣が苦境に陥る)

  • “Police chief in hot water over Facebook post”
    (警察署長がフェイスブック投稿でトラブルに)


  • “Academic in hot water for racist comments
    (人種差別的発言で学者が窮地に立たされる)

  • “Leaving dogs in hot cars could land owners in hot water
    (暑い車内に犬を放置すると、飼い主が責任を負うことも)


◆  上掲見出しは、一様に “in hot water”。

このパターンを選んだわけでない。
検索結果として、出てきたのが “in hot water” ばかりだった。

冒頭で触れたように、”in hot water” は、「湯の中に」。
場所の前置詞 “in”(~の中に、~の中で、~の中の)。
前置詞 “in” の最も基本となる語義。

今回、取り上げた見出しに限らず、”hot water” の場合、
“in hot water” が最頻出パターンである。

◆ 裏打ちするため、英英辞書の項目立てを確認する。

3大学習英英辞典(EFL辞典)を含む、合計9点。

“in hot water”
if someone is in hot water, they are in trouble because

they have done something wrong.
(LDOCE6、ロングマン)

“be in / get into hot water”
(informal) to be in or get into trouble.
(OALD9、オックスフォード)

“in hot water”
in a difficult situation in which you are likely to be punished.
(CALD4、ケンブリッジ)

“in hot water” 
[informal]
If you are in hot water, you are in trouble.
(COBUILD9、コウビルド)

“hot water”
noun
TROUBLE, DIFFICULTY
Merriam-Webster、メリアム ウェブスター)

“hot water”
noun [noncount] informal
a difficult situation: TROUBLE
used with in or into
Merriam-Webster’s Learner’s Dictionary
→ メリアム ウェブスター提供の英語学習者向けサイト

“in hot water”
(informal) in trouble, esp with those in authority.
(Collins English Dictionary, 12th Edition)

“hot water”
noun [informal]
trouble; difficulty; preceded by in, into, etc.
(Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition)

“in hot water”
in trouble because of something that you have done.
Macmillan Dictionary

軒並みすっきりした語釈である。

全9点中3点のみ、名詞 “hot water” で項目立て。
英語学習者向けのメリアム ウェブスターが枠内で示す通り、
不可算名詞noncount または uncountable noun)である。

その他6点は、”in” あるいは “into” を伴う。
“into” もまた、場所の前置詞。

【参照】 “into” は、動きと動作の結果を同時に表現

以上のニュース見出しと辞書の表記から、”in hot water”
が最頻出パターンと考えてよいだろう。

上掲用途の “hot water” の初出年は論が分かれる。

いずれも、定評のある情報源にかかわらず、
なんと3世紀近くずれている。


◆ 辞書9点の共通語は、”trouble” または “difficult(y)“。

どの辞書も、実質これだけ。
すなわち「トラブル」「苦境」「窮地」「ピンチ」。

 トラブル【trouble】
1. いざこざ。厄介なこと。

 くきょう【苦境】
苦しい境遇・立場。

 きゅうち【窮地】
1. 追いつめられて逃げようのない苦しい立場。
窮境。

 ピンチ【pinch】
1. 危機。窮地。危急の場合。

(広辞苑 第七版)

※ 語釈該当引用

♪ ピンチだぞ  ピンチだぞ ♪

これは
的を射た筆法なのかもしれない。

ちなみに『ロジェ類語辞典』はこちら。
名詞扱いである。

Roget’s II: The New Thesaurus, Third Edition “
(アプリ版)より転載


◆ “in hot water” が単純な意味合いであると確認できた。

また、”hot water” が不可算名詞であり、
場所の前置詞 “in” または “into” と一緒に
使われることも、英英辞書で見てきた。

  • 前置詞 “in” (~の中で、~の中に)
  • 前置詞 “into” (~の中に、~の中へ)
  • 形容詞 “hot” (熱い、暑い)
  • 名詞 “water” (水)
    →  “hot water” で不可算名詞の「湯」

全部が、最頻出かつ最重要レベルの英単語。
中級学習者であれば、分かり切った話。

  • 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
  • 書き言葉頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
  • 話し言葉頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
    (ロングマン “LDOCE6” 指標より)

4語のうち、おさらいしておきたいのが “water”。

「水」にとどまらない多面性があり、おもしろい。


◆ “water” の語源は、古英語「水」(wæter)。

イギリス英語とアメリカ英語の発音の違いが比較的大きい。

【発音】  wɔ́ːtər

アメリカ人は「ーラー」と発音するのが普通。
平板な「ウォーター」では、おそらく通じない。

名詞に加えて、他動詞・自動詞・形容詞がある。
どの品詞も、語源「水」に関連するもの中心。

  • 名詞
    「水」「水分」「水面」「水の流れ」
  • 他動詞
    「(植物に)水をまく」「(動物に)水を飲ませる」
    「水で薄める」「水増しする」「和らげる」
  • 自動詞
    「(目が)涙を出す」「(器官が)分泌液を出す」
    「(動物が)水を飲む」「(船が)水を供給される」
  • 形容詞
    「水に関する」「水中の」

圧倒的に使われるのは、名詞用法。
物体の形のない「液体」であり、おいそれと数えられない。

「気体」と並んで、不可算名詞の代表格である。

<液体>
beer、wine、coffee、juice、blood、rain、snow
<気体>
air、gas、smoke、steam、wind

文法的には、不可算名詞の「物質名詞」(material noun)。
同じく不可算名詞の「抽象名詞」(abstract noun)の対。
抽象概念を表す抽象名詞は、”kindness” や “beauty” など。

【参照】 不可算名詞は「物質」「抽象」「固有」の3つ


◆  “water” の基本は「不可算名詞」。 この点に争いはない。

表題の “hot water” も然り。

単位ないし容器による<輪郭づけ>で、数えられる形に
しても、”water” は不可算名詞に変わりはない。

paper“(紙)と重なる側面である。

・  a glass of water
・  a bottle of water
・  two waters(口語)← “two glasses of water” の略

そして、複数形 “waters” が原則となる「複数名詞」の例は、

・  水域
・  海域
・  洗い水
・  鉱泉水

一方、「可算名詞」として『ジーニアス英和大辞典』
に明示されているのは、

・ 《金融》水増し株、水増し資本
・ (織物・金属板などの)波紋、波模様
・ 《絵画》水彩画(watercolor)

英訳が併記されておらず、別途調べたところ、それぞれ

・  watered share、watered stock、watered capital
・  watering、water pattern
・  water painting、water-color painting、watercolor

どれも形容詞的な印象の “water”。

このように、可算名詞 “water” は一般的ではない

◆ それより大切なのは、”water” は温度に関係ない点。

日本語では、温度により「水」と「湯」に分ける。
ところが、英単語で「湯」に該当する1語は存在しない。

誤解を防ぐため、”hot water” と表す場合が多いものの、
“water” は「湯」も指すことを押さえておきたい。

◆ “hot water” で最も多用されるのが “in hot water”
である点は、繰り返し述べてきた。

場所の前置詞 “in” を添えて、「窮地に」「窮地で」。

困難な「状態」を表しているため、<3語ワンセット>で
形容詞的な用法となる。

だから、先ほど引用した “OALD9” が示すように、
be動詞” (下線部) に続くパターンが基本となる。  

be in / get into hot water”
(informal) to be in or get into trouble.
(OALD9、オックスフォード)

【参照】
  英英辞典の基本:スラッシュ( / )=「または (or) 」
→ “be in hot water” または “get into hot water”

ご案内したニュース見出しでは、be動詞が見当たらない。
なぜなら、be動詞を省略するのが、見出しの基本書式だから。

【参照】英語ニュースの読み方(見出し編)RNN時事英語
ーーーーー→「その3 冠詞・be動詞の省略」

先の見出しに、be動詞を青字で付け足すと、例えばこうなる。

  • “X is in hot water over splashy phone ads”
  • “Hospital is in hot water over HIV case”
  • “Y is in Hot Water after Controversial Management Decision”
  • “Cyberattack lands ship in hot water
    → 他動詞 “land”(陥る)があるため、be動詞は不要

  • “Networking giant is in hot water for selling
    US govt buggy spy kit”
  • “Policymaker is in hot water for past sexual harassment lawsuit”
  • “Minister is in hot water over his fake degree”
  • “Police chief is in hot water over Facebook post”
  • “Academic is in hot water for racist comments
  • “Leaving dogs in hot cars could land owners in hot water
    → 他動詞 “land”(陥る)があるため、be動詞は不要

そもそも、なぜ形容詞的な用法だから「be動詞(※)」に続くのか。
ぴんとこなければ、aware” をご参照いただければと思う。

片や “get into hot water“(OALD9)については、
自動詞 “get”(行き着く)及び場所の前置詞 “into”
を伴う。

形容詞的意味合いも薄く、be動詞は不要となる

※「be動詞」= be、am、was、been、will be、is、were、are

 

 

 

 

 

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