著作権が切れた状態 ( にある創作物 )
” public domain ” の基礎知識は、著作権( copyright )
との関係で欠かせない。
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次のマークを目にされた方もおられるだろう。
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カタカナ 「 パブリックドメイン 」 を見聞きする機会も増えてきた。
IT関連だと、 パソコン通信時代にも、
「 パブリックドメインソフト 」( public-domain software )
という言葉が使われていた。
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間違った解釈の ” public domain ” が 適用されてしまった。
当初の和訳である「 公有 」が定着しそびれたため、
今だ定訳がない模様。
その結果、 カタカナで普及しつつあるようだ。
そもそも、 著作権関係の ” public domain ” の場合、
「 公有 」は和訳として不適切。
およそ似て非なるもの。
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「 公有 」の一般認識は、「 私有 」の反対である。
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◆ 国語辞書にもこうある。
「 公有 」
・ 国家または公共団体の所有。 ↔ 私有
( 広辞苑 第七版 )
・ 公の機関が所有していること。 ↔ 私有
( 大辞林 第四版 )
だが本稿の用法の
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これからご案内する ” public domain ” が大体理解できれば、
和訳として「 公有 」が不十分であることが分かるだろう。
誤解を招くような和訳なら、 定着しない方がよい。
カタカナの方がまし、 と翻訳者として思ってしまう。
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◆ 著作権との関係で出てくる ” public domain ” とは、
創作物の知的財産権がない状態 ( 消滅または不発生 )。
著作権( copyright )は、 特許権( patent )や 商標権( trademark )
と同じく、
- 「 知的財産権 」 ( intellectual property rights )
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作者が自分の著作物の権利を排他的・独占的に行使するため
に認められている。
日本の著作権法では、著述に加えて、音楽・写真・彫刻・絵画・
建築などの作品も著作物に含まれる。
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その複製・翻訳・上演・演奏・展示・放送に適用されるから、
かなり幅広い。
しかも、プロ・アマ不問で、死後も一定期間は存続する。
著作権を含む知的財産権は、強力な権利と言える。
無断で上記に触れる行為をすれば、著作権侵害となる可能性が高い。
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ところが、そのような行為をしても、法に触れないケースがある。
” public domain ” がそのひとつ。
知的財産権で守られているはずの著作物なのに、
その権利を伴わない状態。
それが ” public domain “。
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◆ ” public domain ” は、大きく分けて3パターンがある。
- 保護期間の満了
- 継承者不在
- 権利放棄
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1については、原則一律適用されるため、著作者
の没年から計算できる。
著作物の種類や公表方法によって保護期間が異なる。
ざっくり言えば、 著作者没後50年、 映画は公表後70年。
※ 旧著作権法では、もっと短い
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2018年3月の日本の現行法ではこうだが、 TPPの影響で、
米国同様に没後70年に引き伸ばされることが確定している。
問題になりがちなのは 1 。
現実には、2 も 3 も珍しくないのだが、 本稿では取り上げない。
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◆ 知的財産権で保護されない状態 が、 ” public domain “。
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となれば、その 権利を行使できる者はいない。
だから、利益を侵害される者もいない 結果、 誰でも利用可能
との流れになる( 後述の法律辞典参照 )。
実際にはそう単純でもなく、その他の権利( 人格権など )や
別の知的財産権( 意匠権など )に触れるケースもありうる。
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したがって、 著作物が ” public domain ” にあるとしても、
すべてが自動的に無制限になるわけではない。
以上の説明で、 ” public domain ” の大略はつかめるだろう。
「 公有 」の和訳が根づかなかった理由も推察できよう。
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◆ アメリカには、“ Black’s Law Dictionary “
( ブラックス法律辞典 )という有力な法律辞典
が存在する。
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( Amazon Japan / Amazon US )
1891年に発刊され、130年以上の歴史を誇る。
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判例などに最も引用される辞典であり、
英米法を学ぶ学生で知らない者は皆無レベルの 存在感。
現時点( 2018年3月 )での最新版( 第10版、2014年刊)
の ” public domain ” の解説は、 以下の通り。
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public domain (17c)
1. Government-owned land.
2. Government lands that are open to
entry and settlement.
Today virtually all federal lands are
off-limits to traditional entry and settlement.
3. Intellectual property.
The universe of inventions and creative works
that are not protected by intellectual-property rights and
are therefore available for anyone to use without charge.
When copyright, trademark, patent, or trade-secret rights
are lost or expire, the intellectual property they had protected
becomes part of the public domain and can be appropriated
by anyone without liability for infringement.
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“ Black’s Law Dictionary, 10th Edition ”
p. 1423. (Thomson Reuters 2014).
※ 下線は引用者
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- 1は「 公有地 」または「 公有財産 」が定訳。
” PD ” と略記されることもある。
上掲の国語辞典の 「 公有 」は、 この意味で該当する。
本来の ” public domain ” は、 確かに「 公有地 」である。
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形容詞 ” public “( 公の ) + 名詞 ” domain “( 領地 )
で、「 公の領地 」 → 「 公有地 」。
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■ ” public ” の語源は、 ラテン語 「 公の 」( pūblicus )。
【発音】 pʌ́blik
【音節】 pub-lic (2音節)
” people ” や ” popular ” と同根である。
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■ ” domain ” の語源も、 ラテン語 「 主人 」( dominium )。
【発音】 douméin
【音節】 do-main (2音節)
よって、” public domain ” が 「 私 」 の対に位置する
のは、 語源からも理にかなう。–
- 2は、米国の連邦政府または州所有の公有地の説明。
– - 3が、本稿主題の知的財産 ( intellectual property )。
1~3 に共通するのは、「 私 」の所有ではない点。
その反面、 何度も述べているように、3は
「 公の機関が所有 」 の 「 公有 」ではない。
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◆ 消滅または不発生のため、 知的財産権で保護されない状態が、
” public domain “。
ただし、その他の権利に抵触する可能性も残るため、
自由に利用できるとは限らない のは、 先述の通り。
この側面を一切記載していないのは、 次の原則( 3の下線部 )
のみに重点を置いたためであろう。
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” public domain ” の原則
- not protected by intellectual-property rights
( 著作権で保護されない )
– - available for anyone to use
( 誰でも利用可能 )
– - without liability for infringement
( 権利侵害に対する責任なし )
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“ Black’s Law Dictionary, 10th Edition ”
p. 1424. (Thomson Reuters 2014).
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天下の『 ブラックス法律辞典 』ですら原則のみ。
英英辞典における扱いは言うを俟たない。
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” public domain “
- [singular]
available for anyone to have or use.
( ロングマン、LDOCE6 )
– - [singular]
available for everyone to use
or to discuss and is not secret.
( オックスフォード、OALD9 )
– - [singular]
available for everyone to see
or know about.
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※ 唯一、” the public domain ” で項目立て
( ケンブリッジ、CALD4 )
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以上、3大学習英英辞典( EFL辞典 )の語釈。
“ singular ” とは、単数名詞( singular noun )を指す。
単数形で使われるのが一般的な名詞 のこと。
英英辞書では “ S ” または “ sing ” と略記されたりする。
この3冊のうち、CALD4のみ、反意語の ” the private domain ”
も項目立てしている。
やはり ” the ” つき。
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” the private domain “
[ singular ]
it belongs to a particular person or organization
that may allow others to see or use it with
permission or if they pay for it.
( ケンブリッジ、CALD4 )
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” private domain ” に比べ、一般社会には普及していない感じ。
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◆ 最後に、 ” public domain ” の活用事例のご紹介。
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まずは、無料公開の電子図書館。
- プロジェクト・グーテンベルク
英文中心に5万点以上。
1971年設立で、デジタル図書館として世界最古。
– - 青空文庫
和文中心に1万5千点。
1997年設立。
夏目漱石や芥川龍之介の作品も対象。
– - ウィキソース
ウィキメディアプロジェクトのひとつ。
ウィキソースは図書館で、ウィキペディアは百科事典。
2003年設立。
◆ ” public domain ” の作品の朗読を例示すると、
【参照】 ” no need “、 「 TuneIn Radio 」 で英語リスニング
【参照】 自習教材を自作するために使っている道具
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【 無料のデジタルアーカイブ 】
- 国会図書館 が保存するデジタル資料の検索・閲覧
「 国立国会図書館デジタルコレクション 」
https://dl.ndl.go.jp/
–- 個人向けデジタル化資料送信サービス ( 個人送信 )
https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html
※ 2022年5月開始 ↓
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法改正で実現した国会図書館のウェブサービスがコロナ禍でヒット
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20221025/se1/00m/020/057000c
2022年10月13日付
–- 人間文化研究機構 国文学研究資料館
「 電子資料館 」
–- 日本の分野横断型統合ポータル
「 ジャパンサーチ 」
–- 世界中の美術館・博物館・図書館で公開中の日本文化の美術品
100万件を集めた電子博物館
「 カルチュラル・ジャパン 」–
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◆ Public domain の作品ではないものの、 販売促進戦略の一環
として、「 フリー戦略 」 と称するマーケティング手法を用いて、
一部を無料提供する無料キャンペーンのサービスも多々ある。
例えば、
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▲ 縦読みマンガが毎日無料 ( アマゾン フリップトゥーン )
【参照】 ” freebie ”
◆ 書籍以外の卑近な例には、< 激安DVD >がある。
大半が、” public domain DVD “ に他ならない。
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また、 保護期間の満了に加え、 エンドロールに著作権表記
が欠けていたために、 権利放棄とみなされた作品も含まれる。
『 ローマの休日 』や『 東京物語 』( ともに1953年公開、
旧著作権法が適用 )などの名作が、 ワンコインで買えるのは、
著作権が消滅しているおかげである。
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【参考】 ※ 外部サイト
- ミッキーマウス、 2024年に著作権が失効
https://newspicks.com/news/7284946
2022年7月12日付
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→ 米著作権延長法は、 ミッキーマウスの著作権
を保護するため、 延長を繰り返した歴史がある。
– - ミッキーマウスの著作権保護期間
https://www.kottolaw.com/column/190913.html
2019年9月13日付
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◆ 時の経過に従い、著作権の保護期間が満了する
知的創作物は増える一方である。
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” public domain ” 入りする作品が、必然的に激増
するということ。
情報を含む無形の財産は、 SNS などを介して世界的に
拡散 していくのが、 < コンテンツ時代 > の趨勢である。
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そのため、 著作権と ” public domain ” についての基礎知識が、
今後あらゆる分野で必要となっていくのは、 容易に想像できる。
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【関連表現】
- fair use
( フェアユース )著作権などの「 公正利用 」のこと。
使用の目的( 非営利、教育目的など )と著作物の性質
などを総合的に判断し、 権利者の判断により、無償利用できる。
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米国の著作権法であり、 日本は未導入( 2018年3月現在 )。
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creative commons license
( クリエイティブ・コモンズ・ライセンス )
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「 このような条件を守れば、自由に使ってよい 」
との権利者の意思表示が「 CCライセンス 」。
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国際的非営利組織 が管理している。
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下記図の右端「 PD 」が、 ” public domain “。
左端「 C 」が、 著作権 ” copyright”。
中間「 CC 」が、各種クリエティブコモンズ ” creative commons “。
「 非営利 」や 「 改変禁止 」などの権利主張は、 以下の通り。
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【出典元】 https://creativecommons.jp/licenses/