1) 私個人の意見にすぎないのですが
2) お役に立つか分かりませんが
辞書を引いても、よく分からない表現のひとつ。
” for what it is worth ” の短縮形。
” FWIW ” と略記されることもある。
直訳は「それがどんな価値があるために」。
- 目標の前置詞 ” for “( ~ のために )
- 疑問代名詞 ” what “( どんな )
- 総称的な代名詞 ” it “( それが )
- 三人称単数現在形 be動詞 ” is “
- 形容詞 ” worth “( 価値がある )
– → 前置詞説もある
雰囲気を和らげるために用いる、 < 4語ワンセット >の副詞的表現。
少々くだけた言い方で、 主に口語( 後述の英英参照 )。
クッション言葉 よろしく、 さりげなく添える。
ところが、英和辞書、英英辞書、どれを調べても
意味と使用場面がつかみにくい。
直訳すら、さっぱり要領を得ない。
その割に、 会話中で聞くことは珍しくない。
頻出ではないが、普通に出てくるレベル。
◆ 今回は調査結果を中心に書き記した。
すなわち、複数の辞書とウェブサイトを精読
した末のまとめである。
自分の経験からでは、曖昧模糊とした説明
しかできないと考えたからである。
英英辞書9点、英和辞書7点、解説サイト13点
(日英)を大胆に集約してみた。
これで少しすっきりするだろうか。
一応 言わせて
◆ 使い手の趣旨は、次のいずれか。
–
(1)
「 個人的な考えだけど、一応言わせて 」
–
= 私個人の意見にすぎないのですが
–
(2)
「 こんなこと言っても、無意味 かもしれないけど 」
–
= お役に立つか分かりませんが
※ 「 無意味 」 → 「 無益 」 または 「 後の祭 」
–
(1)(2)とも、「 聞き流してもいいから 」と
へりくだった態度で述べようとする点で一致する。
押し付けではなく、「 ご参考までに( FYI ) 」 くらい。
本心がどうであろうと、この姿勢は確か。
その反映が “for what it’s worth” なのである。
先述の通り「雰囲気を和らげる」言葉。
下手(したて)に出る意図が透けて見える。
–
したて【下手】に出(で)る
–
へりくだった態度をとる。 下に出る。( 精選版 日本国語大辞典 )
–
人間のことだから、 本音を引き出すのは難しい。
だが、辞書の語釈については、とりあえず二分できた。
両方に該当しうるものもあるが、 とにかく柱は2本。
複雑な印象があったが、意外にもあっけなかった。
ではさっそく、それぞれの使用場面を見ていく。
定訳がないので、文意に合わせて和訳してみる。
(1)
「 個人的な考えだけど、 一応言わせて 」
= 私個人の意見にすぎないのですが
- “This is my opinion, for what it’s worth.”
(私の意見にすぎないけど、一応言わせて。)
– - “For what it’s worth, you should say no
if he is harassing you.”
(私の考えを言わせてもらうと、もし彼が
いやがらせをしているなら、嫌と言うべき。)
– - “But for what it’s worth, I thought her
performance was great.”
(でも、彼女の演技は上出来だったと私は思う。)
(2)
「 こんなこと言っても、無意味 かもしれないけど 」
= お役に立つか分かりませんが
- “Here is my advice, for what it’s worth.”
(これが私の助言です。お役に立てば幸いです。)
– - “For what it’s worth,
I’m sorry I lost your pen.”
(謝っても意味ないかもしれないですが、
あなたのペンを失くしてごめんなさい。)
– - “For what it’s worth,
I decided to visit him.”
(意味あるか分からないが、彼を訪ねることにした。)
以上、3文ずつ挙げた。いずれも典型例である。
なんとなく感じがつかめただろうか。
◆ 英英、英和とも、調べた辞書のほぼすべてが、
片一方に偏った語釈になっている。
上記例文の全部には適用できない語義ということ。
これでは理解困難で当然であろう。
私自身、辞書全16点及び解説サイトを熟読し、
初めて二分化できることに気づいた。
例えば、 4大学習英英辞典( EFL辞典 )。
上掲黄枠の(1)(2)に分けてみた。
–
–
“for what it’s worth“■ spoken
used when you are giving someone information,
to say that you are not sure how useful it is.
( LDOCE6、ロングマン ) → (2)■ (informal)
used to emphasize that what you are saying
is only your own opinion or suggestion and
may not be very helpful.
( OALD9、オックスフォード ) → (1)■ INFORMAL
said when you are giving someone a piece
of information and you are not certain if
that information is useful or important.
( CALD4、ケンブリッジ ) → (2)■ If you add for what it’s worth to something
that you say, you are suggesting that what you
are saying or referring to may not be very
valuable or helpful, especially because you
do not what to appear arrogant.
( COBUILD9、コウビルド ) → (2)※ 下線・ハイライトは引用者
–
キーワードは “useful” と “helpful”(ハイライト)。
各語釈には、どちらかが入っている。
ざっくり和訳すると「役立つ」。
” not sure “、 ” may not be “、 ” not certain ”
に続いている。
「 役立つかどうか不明 」 の意。
また、 COBUILD9 の末尾( 下線 )は、
「 横柄に見られたくないから 」。
先の 「 下手に出る 」 姿勢が示されている。
” for what it’s worth ” が、 相手の立場を気遣う
表現であることが分かる。
この点、 日本語の 「 愚見 」 に似たイメージ。
–
ぐけん【愚見】
–
自分の意見や考えをへりくだっていう語。 愚考。( 大辞林 第四版 )
–
” for what it’s worth ” も 「 愚見 」 も、
謙虚な言い回し である。
代表格と言ってもよいだろう。
引用した英英、国語辞典以外の辞書でも、この
方向性に矛盾は見られない。
◆ ここで注目すべきは、聞かれもしないのに、
わざわざ発言している点である。
相手に意見を求められて、謙遜するなら分かる。
そうでなく、求められていない意見を自ら披露
する行為に、果たして「謙虚さ」は伴うか。
本当に「役に立つか不明」と考えているのだろうか。
使い手の立場で考えると推察しやすい。
本気でそう思っているとは限らない。
真に愚かな見識をさらすのは、自滅行為である。
普通の人なら避ける。
相応の価値を見出すからこそ、あえて口にするはず。
少なくとも「まあ役立つだろう」くらいには考えている。
もっとも、自ら腰を低めて意見しているのだから、
相手を思う動機が存在するのは確か。
その一方で、自分の知識をひけらかしたい、
自己顕示欲を満たしたい、相手より優位に立ちたい
などの欲求が潜んでいても、不思議ではない。
そういう人は大勢いるものだ。
相手のために、という気持ちもさることながら、
相手の反感を買わぬようにする言葉
–
こう位置づける方が、現実的な解釈かもしれない。
つまり、謙虚・謙遜よりは、言明を避けることで、
反発を予防する語。
予防線を張るための表現。
–
◆ 次の アフォリズム 辞典が、 その心を鮮やかに描き出す。
–
–
” for what it’s worth “Usually said at the beginning of the sentence
when someone is about to say something
he or she believes is worth saying.
–
–
https://www.urbandictionary.com/define.php?term=for%20what%20it%27s%20worth※ 2024年2月13日 アクセス
–
錚々たる辞書と真逆の語釈が笑える。
「 お役に立つか分かりませんが 」 どころか、
「 言うに値すると信じる 」( 下線 ) と英文に書いてある。
人の動機 ( motives ) は複雑である。
人間の内心を探るのが困難な点には既に触れた。
当の本人ですら、うまく認識できなかったりする。
口から出る言葉は、 発言者自身が選んだ表現。
しかし、 本音と裏腹な場面は多々生じる。
社会人の場合、そんなの日常茶飯である。
言葉裏に潜む意味合いを解説する ” urban dictionary “。
専門家の手によるものでないため、 評価は様々だが、
人間心理を的確に突いており、 読んでいて楽しい。
ー
<同義表現>
- for whatever it’s worth
- for all one is worth
Liam Gallagher “For What It’s Worth”
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