公然と非難する、責める、名指しする
トラブル発生時に、責任をなすりつけ合う
険悪な場面に出てくる表現。
人間の浅ましさを見せつける行為。
単なる非難や批判にとどまらず、
自分側の責任や過失は問わない卑怯さを
含むからである。
当事者であれば、何らかの責任は伴うもの。
真っ当に仕事をしてきた社会人であれば、
理解できることだろう。
それを不問に帰するとなれば、
関係者から悪辣と思われても不思議でない。
こうして、自ら信用を落としていく。
長期的に見れば、自滅行為(a career suicide)に近い。
一方的な “point the finger” は、できれば避けたい。
【参考】“take the blame”(責任を取る)
◆ “point the finger” は、”point a finger”とも表す。
直訳は「指で指し示す」。
1本の指を用いるので、単数形 “finger”。
特に「名指しする」場合は、”point fingers” と
複数形で表現する場合もある。
こちらの図のように、指差しは「人差し指」を
用いるのが一般的。
その役割がそのまま名称になったのが日本語。
ひとさしゆび【人差指・食指】
名詞
(人をゆびさす指の意)親指のとなりにある指。
親指と中指の間の指。ひとさしの指。ひとさし。
【語誌】上代・中古には、人を指す時に用いる指
ということからヒトサシノオヨビと呼ばれた。
(精選版 日本国語大辞典)
※ 「オユビ」でなく「オヨビ」
英語では、”index finger” または “forefinger”。
“first finger” とも言うが、日本語では「第二指」。
「第一指」は親指。
解剖学では、英語でも “first finger”(第一指)が親指。
これが、日常語で「人差し指」になった理由は、
親指(thumb)は “finger” に入らないとの解釈ゆえ。
一般人にとっての “first finger” は、「人差し指」である。
◆ “finger” には、名詞・他動詞・自動詞がある。
語源は、古英語「指」(finger)。
– 名詞「手指」 ※ 足指は “toe”
– 他動詞「指で触れる」「いじる」
– 自動詞「指で触れる」
名詞は可算名詞のみで、表題でも名詞「手指」。
上述したように、この用法ではほとんど「人差し指」。
◆ “point” にも、名詞・他動詞・自動詞がある。
語源は、古フランス語「点」(point)と
「とがった先端」(pointe)の混成語。
名詞は非常に多義。
基本は可算名詞だが、不可算名詞もある。
基本的意味は語源に沿ったものが中心。
名詞の場合、カタカナ「ポイント」にそっくり重なる。
ポイント【point】
1. 点。地点。
2. 要点。
3. 小数点。
4. 得点。点数。
5. 二つの百分率の値を比べた時に差。
パーセント・ポイント。
6. 釣りで、魚が集まりよく釣れる所。
7. 鉄道の転轍機。
8. ポイント活字の大きさの単位。
9. 尖頭器。
(広辞苑 第七版)
表題では、名詞ではなく、動詞。
– 他動詞「~を向ける」「~を指し示す」
「~をとがらせる」」「~に点を打つ」
– 自動詞「~を示す」「~を指差す」「~に面する」
ここでは、”somebody”(誰々) との目的語を
伴うパターン(後述)のため、他動詞。
したがって、”point the finger” であれば、
「指で指し示す」が直訳。
◆ 指差しできるということは、当人の意識では、
対象を特定できているということ。
日本でも英米でも、特定の他者を指差す行為は、
通常は失礼に当たる。
事の真相が検証される前から、むやみに指差すことが、
いかにぶしつけで誤解を招く行為か。
「名指し」にも言えることである。
本来「指で指し示す」意味の ”point the finger” が、
「非難する」「名指しする」
まで派生したのは、趣旨が似ているから。
どちらも対象者を特定の上、指定している。
“point the finger” が無礼な一因は、対象者を
独善的に決め込んで、極印を押すような身勝手な
振る舞いだから。
先述の通り、自分には責はないとの前提だから、
たちが悪い。
<建設的な批判>ではなく、<犯人探し>に他ならない。
そんな軽侮の念を含む表現が、”point the finger”。
“point the / a finger at somebody”
to blame someone or say that they have
done something wrong.
(ロングマン、LDOCE6)
“point the finger at somebody”
to accuse someone of being responsible
for something bad that has happened.
(ケンブリッジ、CALD4)
※ 下線は引用者
下線部に「非難する」「名指しする」
の意味合いが込められている。
上の2冊の解説にあるように、この用法では、
目的語を伴い、”at 誰々” と続くのがパターン。
そのため、”point” は他動詞となる。
“at” は、方向・目標の前置詞「~に対して」
「~に向かって」。
意図的な目標を示す “at” であり、指差す相手
に対する非難や敵意という攻撃的な姿勢
がありありと見える。
表題が不穏な場面で使われがちなのは、
以上の説明から明らかであろう。
配慮に欠け、感じのよくない表現である。
◆ 特定の人を非難する意図がないのであれば、
自動詞または他動詞の “point” に、手段の前置詞
“with” を用いることが多い。
- “He pointed the house with his finger.”
(彼は家に向かって指さした。)
– - “Do not point someone with your finger.”
(人を指差すな。)
- “They always point the finger at him.”
(彼らはいつも彼を公然と非難する。)
上の文が示す通り、 主語が複数(ここでは “they”)でも、
“finger” は単数が原則。
もっとも、複数で示している実例も随分見かける。
- “I know he would point the finger at me.”
(彼が私のせいにすることは分かっていた。)
– - “It would be premature to point the finger at him.”
(彼を名指しで非難するのは時期尚早であろう。)
– - “Parents have pointed the finger at teachers.”
(親は先生を公然と非難した。)
– - “He doesn’t want to point a finger at anyone.”
(彼は誰も責めたくない。)
– - “She was reluctant to point fingers.”
(彼女は名指しをしたくなかった。)
【関連表現】
“cross one’s finger”
https://mickeyweb.info/archives/19655
(成功を祈る)
【類似表現】
“slam“
https://mickeyweb.info/archives/14790
(激しく非難する)
“lambaste”
https://mickeyweb.info/archives/14647
(酷評する、非難する)
“lash out”
https://mickeyweb.info/archives/25403
(食ってかかる、激しく非難する)