懸念をもたらす
心細く、気がかりな思いにとらわれる機会は、
人生を通じて珍しくない。
「不安を抱かせる」
「懸念を生じさせる」
「心配を引き起こす」
こんな気遣わしい様子を、平易な英語で表すなら、
“cause concern” が筆頭に挙げられるだろう。
これに次ぐのは、”raise concern” くらい。
“raise concern” は少々堅めの表現で、”formal” 扱い
する英英辞書もある。(”LDOCE6″ ロングマンなど)
よって、基本的な “cause concern” を先に身に
つけるとよい。
「不安を抱かせる」
「懸念を生じさせる」
「心配を引き起こす」
どれも “cause concern” で表現できる。
“cause concern” とだけ表せば、
何らかの「懸念」が生じていることを、
端的に相手に伝えることができる。
公私問わず、便利に使える<2語ワンセット>。
ぜひ押さえておこう。
◆ “cause” と “concern” のどちらも、基本的用法。
すなわち、語釈の筆頭に出てくる意味である。
しかも、2語とも英単語として最重要。
LDOCE6(ロングマン)の表記によれば、
■ 他動詞 “cause”
– 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
– 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
– 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
【発音】kɔ́ːz
■ 名詞 “concern”
– 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
– 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
– 話し言葉の頻出度:<2001~3000語以内>
【発音】kənsə́ːrn
「平易な英語」と先述した理由である。
–
◆ “cause” には、名詞と他動詞がある。
語源は、ラテン語「理由」(causa)。
–
– 名詞「原因」「理由」「信条」※ 可算・不可算兼用
– 他動詞「もたらす」「原因となる」「させる」
表題では、他動詞「もたらす」。基本的意味である。
<他動詞「もたらす」代表例>
◆ “concern” にも、名詞と他動詞がある。
語源は、中世ラテン語「関連させる」(concernere)。
–
– 名詞「関心」「懸念」「用事」※ 可算・不可算兼用
– 他動詞「関係する」「影響する」「心配させる」
–
表題では、名詞「懸念」。こちらも基本的意味。
名詞 “concern” は、かなり多義である。
可算(countable)と不可算(uncountable)
を兼ねるが、この区別が非常に分かりにくい。
主要な英和と英英辞典を比べてみたが、英英の方が
割と明確な印象がある。
3大学習英英辞典(EFL辞典)では、OALDが最も
すっきりまとまっている感があった。
以下は、”OALD9″(オックスフォード)の語釈に、
英和辞書の和訳(緑字)を追加したもの。
“concern” =
1. worry 懸念、心配
uncountable, countable
a feeling of worry, especially one that is
shared by many people
2. desire to protect 気遣い
uncountable
a desire to protect and help
somebody / something.
3. something important 重大事、関心事
countable
something that is important to a person, an
organization, etc.
4. responsibility 利害関係、関連
countable, usually singular (formal)
something that is your responsibility or
that you have a right to know about.
5. company 会社
countable
a company or business.
(オックスフォード、OALD9)
1~5の緑字は、ざっと把握しておきたい。
英文もシンプルなので、中級学習者であれば、
すらすら読めるはず。
4の青字 “singular” とは「単数名詞」。
単数形で使われるのが一般的な名詞のこと。
◆ 表題 “cause concern” の “concern” は、
「1. 懸念、心配」に該当する。
けねん【懸念】=
気にかかって不安に思うこと。心配。気がかり。
(広辞苑 第七版)
ここで問題となるのは、1には可算と不可算
の両方がある点。
“OALD9″ では、一緒くたに説明している。
しかたないから、”LDOCE6” の助勢を乞おう。
緑字は、参考和訳。
“concern” =
1. WORRY
–
a) uncountable 懸念、心配
a feeling of worry about something important.
何か重要なことを心配する気持ち
b) countable 懸案事項、心配事
something that worries you.
心配の種になる対象
(ロングマン、LDOCE6) ※ 下線は引用者
可算と不可算を区別する頻出パターンである。
同じく可算・不可算兼用の名詞 “worry“、”pain“、
“wonder” にも共通する。
<concern>
a)「懸念の気持ち」そのもの → 抽象的ゆえ「不可算」
b) 特定の「懸念対象」→ 数えられるから「可算」
<worry>
・「心配」「悩むこと」→ 抽象的ゆえ「不可算」
・ 特定の「悩みの種」「心配事」→ 数えられるから「可算」
<pain>
・「苦しみ」「苦痛」→ 抽象的ゆえ「不可算」
・ 特定箇所の「痛み」→ 数えられるから「可算」
–
<wonder>
・「不思議」「驚き」→ 抽象的ゆえ「不可算」
・ 特定の「不思議」な対象 → 数えられるから「可算」
「抽象的」(abstract、concrete の反義語)とは、
概念的で実際の形・内容を持たない様子。
何だかつかみどころのない、もやもやした感覚。
可算名詞なら、それぞれ
「これが懸念点」「心配なのはあれ」「ここが痛い」
とほぼ特定できる。指差しできるから、数えられる。
–
不可算名詞の場合、それぞれ
「懸念する気持ち」「心配な気分」「苦しい思い」
との様相。これでは、どうにも数えようがない。
だから「不可算名詞」となる。
◆ 表題 “cause concern” では、無冠詞。
ということは「不可算名詞」扱いで「懸念、心配」
を示す。
もともと「懸念をもたらす」の英語表現を掲げた
から、当然「不可算名詞」の方を示す。
この場合、”s” なしの単数形で使うのが通例。
それでは、可算名詞の “cause a concern” はどうか。
この使い方も間違いではなく、普通に多用される。
ただし、意味が違ってくることは、上掲の語釈から、
理解できよう。
- “cause concern”
→ 漠然とした懸念をもたらす(抽象的で不可算) - “cause a concern”
→ 何らかの懸念事項をもたらす(具体的で可算)
◆ 表題で抽象的な「不可算名詞」を取り上げたのは、
こちらの方が幅広く応用できると考えるからである。
数えられるような懸念や不安よりも、正体不明の
ぼんやりした不安の方が、よほどきつかったりする。
芥川龍之介(1892~1927)は、その自殺の動機として、
僕の将来に対する唯ぼんやりした不安
と書き遺した。(『或旧友へ送る手記』1927年発表)
このおぼろげな感じが、不可算名詞の
“worry” や “concern” に近いものと考えられる。
“The increasing popularity of headphones has caused
concern about the hazardous effects on hearing.”
(ヘッドホンの人気が高まるにつれ、聴覚に対する
悪影響の懸念をもたらした。)
“The news will cause concern among parents.”
(そのニュースは、親たちに心配をもたらすだろう。)
“The accidents caused concern over safety.”
(それらの事故は、安全への懸念を引き起こした。)
“Mental health issues are causing widespread
concern.”
(メンタルヘルスの問題が不安を広めている。)
“Recent changes to the policy had caused great
concern among employees.”
(最近の方針変更が、従業員間に大きな懸念を生んだ。)
“It was not serious enough to cause immediate concern.”
(それが直接の懸念になるほど、深刻ではなかった。)
◆ 上記後半の3文にあるように、形容詞を挟んで使われる
ことも普通にある。
【関連表現】
“fight for the cause of – ”
https://mickeyweb.info/archives/24021
(~のために戦う、~のための戦い)