He is in a better place now.
2021/02/21
今はもっと快適な場所にいます。
典型的な弔辞( condolence、 eulogy )の一句。
有名人の逝去時の弔意として、引用されたりする。
欧米人の示す哀悼の意( pay tribute、 pay homage )は、
日本人とは視点が異なると以前より感じてきた。
そこに興味を抱き、長らくメディア報道より
悼辞を収集してきた。
これまで集めた文言から、5点をご案内したい。
< 選択基準 >
a. 当事者の信仰宗教は不問
b. 適切かつ印象的な弔慰
c. 遺された者を慰め、勇気づける内容
d. 基礎的な英文
e. 一般人でも使用可能
設定上、故人は男性(he)とした。
女性ならば、主格を “she” に置き換える。
- He is in a better place now.
(今はもっと快適な場所にいます。)
– - He will never be in pain again.
(もう二度と苦しむことはないでしょう。)
– - He is in a safer and happier place now.
(今はもっと安全で幸せな場所にいます。)
– - He lived long enough to see you succeed.
(あなたの成功を見届けるまで長生きしました。)
– - He died doing what he really loved.
(大好きなことをしつつ旅立ったのです。)
–
◆ 直前には、次のような表現が置かれたりする。
1~5と考えることで、遺された者たちが救われる
と考える発言者の願いを反映する。
- “It makes me happy to know that – “
(~と思えば、私はうれしいです。)
– - “We have the comfort of knowing that – “
(~と思うと、私たちも安心できます。)
– - “I take comfort in knowing that – “
(~なので、私も安心できます。)
– - “We are at peace knowing that – ”
(~と思い、私たちも安心しています。)
以上の使用対象は、有名人限定ではない。
普遍性のある内容なので、私たちも使える。
この点、上の「選択基準 e.」に掲げた通り。
中身が無難であることは、自明であろう。
どれも実際に多用されている。
ー
◆ では、1~5 を順繰りに見ていこう。
基本的な英文ばかりなので、それぞれ
ポイントを絞って取り上げてみたい。
1.
He is in a better place now.
(今はもっと快適な場所にいます。)
◆ 2つの要点に分けて、考察してみる。
まず、私たち日本人学習者の苦手な「時制」(tense)。
現在形 “is” なので、「 今は ~ にいます 」。
“is” は、be動詞の三人称単数直説法現在形。
これを 完了形 で言い換えると、
He has gone to a better place.
(もっと快適な場所に行ってしまった。)
結果を表す「 現在完了形 」であり、今も続いている
ニュアンスを含む。
「 旅立ってしまって、今はここにはいない 」
もしも、彼が戻ってきたならば、同じ「現在完了形」で表すと、
He has been to a better place.
(もっと快適な場所に行って、帰ってきた。)
どちらも「 現在完了形 」(present perfect)であるものの、
- “has gone” は、「行ったままである 」との 結果
- “has been” は、「 行ったことがある 」との 経験
悲しくも「帰らぬ人」なので、前者 “ has gone ” が正しい。
まさに、「 逝ってしまった 」 で、この状態が永遠に続く。
さらに、「過去形」(past)で表すとすれば、
He was in a better place.
(もっと快適な場所にいました。)
これまた、不成立なのは言うまでもない。
逝って「帰らぬ人」で、現在もあちらにいるからである。
表題通り、「現在形」(present)の “is” が正しい。
–
◆ もうひとつの要点は、”a better place”。
–
可算名詞 “place”(場所)なので、不定冠詞 “a” がつく。
定冠詞 “the” で “He is in the better place now.”
と表すこともある。
この場合、特定・限定された「もっと快適な場所」の印象
を帯びる。
名詞 “place” には、不可算名詞もある。
語源は、ラテン語「広い通り」(plātea)。
【発音】 pléis (1音節)
つかみどころのない、抽象概念の「場所」は不可算。
“time and place”(時間と場所)も、通常は概念的に使う。
特定・限定されていないので、”time” も “place” も
不可算の用法となる。
–
◇ 可算・不可算は、”in place” で詳述した
–
–
◆ 表題では、物故者が「今いる場所」。
よって、用途が特定された具体的な場所 として、
可算名詞の “place” となる。
“better” は、名詞 “place” を直接飾るため、
副詞でなく形容詞。
副詞 “better” は、”well” と “very much” の比較級。
形容詞 “better” は、”good” と “well” の比較級。
両者の違いは、”better yet” で説明している。
「よりよい場所」だから、弔意としての用途を考慮
すると、和訳は「より快適な場所」くらいになる。
キリスト教であれば、神のもとで霊魂が永久の
祝福を受ける天国、すなわち神の国が該当する。
“a better place” 自体は一般的な表現である。
–
現世であるこの世、つまり「地上」よりも、
“better” な場所を指すのみ。
したがって、宗教の別は問わない。
ー
2.
He will never be in pain again.
(もう二度と苦しむことはないでしょう。)
“be in pain” がポイント。
–
“pain” には、名詞・他動詞・自動詞がある。
語源は、ギリシア語「罪」 (poinē)。
身体または精神の激しい苦痛を幅広く表す語。
先述の “place” 同様、可算名詞と不可算名詞
がある。
原則は不可算名詞で、特定箇所の痛みが可算名詞。
それが基本的な考え方。
【参照】 “worry“、 ”concern“、 “wonder”
ここでも不可算。 特定の苦しみでないから。
–
生きる苦しみや病む苦しみという、誰の人生にも
つきまとう抽象的な苦痛を指す。
不可算名詞のため無冠詞。
状態を示す前置詞 “in”(~の状態で) を伴う
“in pain” の直訳は「苦痛の状態で」。
転じて、「痛みがある」「苦しむ」の意。
be動詞つきの “be in pain” は「苦しんでいる」。
–
“I am in pain.”(私は苦しんでいます。)
と同じ自動詞 “be” である。
“will never be in pain” は「二度と(決して)
苦しむことはないでしょう」と単純未来を示す。
–
イギリス英語なら “shall never be in pain”
とも言える。
ー
3.
He is in a safer and happier place now.
(今はもっと安全で幸せな場所にいます。)
これは「1」と同じ構造。
“a better” の代わりに、
“a safer and happier place” なので、
「もっと安全で幸せな場所」となる。
“better” 同様、比較級を用いる。
- “safe” → “safer” (もっと安全な)
- “happy” → “happier” (もっと幸せな)
「1」と同じく、”in” は場所の前置詞「~に」。
“is” は、三人称の単数現在形のbe動詞「~ある」。
“safer and happier”(もっと安全かつ幸せ)
との全体が可算名詞 “place” にかかるので、
不定冠詞 “a” はひとつだけ。
“a safer and a happier place” とする場合、
「もっと安全な場所ともっと幸せな場所」
と2つに分かれるはずだが、日常使用では
同義扱いされている感がある。
「もっと安全で幸せな場所」とは、
「1」と同様、苦しみの絶えない人間界から
解放された楽園を指す。
ー
4.
He lived long enough to see you succeed.
(あなたの成功を見届けるまで長生きしました。)
受け手 “you” よりも、故人がずっと年配に
あたるケースが多い。
–
祖父母や親、恩師など。
本人が、まだ海の物とも山の物とも知れない頃から
目を掛け、温かく見守り、成長に目を細めつつ支援。
–
ついに功成り名遂げた後、ほどなく他界。
- ああ、あれほどお世話になったのに …
- まともに恩返しする前に、死んじゃった …
本人の自責の念が尽きないことは、容易に想像できる。
もう取り返しがつかない。
–
なんとも泣かせる話である。
激しい後悔と悲嘆に暮れている姿に、声を掛ける
としたら、この「4」だろう。
ポイントは、”to see you succeed”。
“to” は他動詞 “see”(見る)にかかる前置詞。
“succeed” は、自動詞「成功する」。
語源は、ラテン語「後に続く」(succēdere)。
– 自動詞 「成功する」「相続する」
– 他動詞 「後任になる」「次いで起こる」
“lived” は、自動詞「生き延びる」の過去形。
特に<主語+live+to do>の場合、
「 生きた結果 ~ する 」の意味がある。
さらに、”live long enough to” は、
「 長生きして ~ する 」。
- 主格 “he“(彼は)
- 他動詞の過去形 “lived“(生きた)
- 形容詞 “long“(長い)
- 副詞 “enough“(十分に)
- 結果の前置詞 “to“(~になるまで)
- 他動詞 “see“(見る)
- 目的格 “you“(あなたが)
- 自動詞 “succeed“(成功する)
よって、直訳は、
「 彼は長生きした結果、あなたが成功したことを見た 」
弔文としてはそっけないので、少々工夫して、
「 彼はあなたの成功を見届けるまで長生きしました 」
など。
- 立派になったあなたを、しっかり見てもらえた。
- あんなに喜んでいたから、ちゃんと恩返しできた。
- だから、そんなに悲しまなくてもいいんだよ。
ー
5.
He died doing what he really loved.
(大好きなことをしつつ旅立ったのです。)
比較的若くして、事故死した人を悼む言葉。
いわゆる ” an untimely death “(早すぎる死)
である。
危険の伴う仕事の他、スポーツや趣味を
している最中の死が該当する。
“died” は、”die” の過去・過去分詞形。
ここでは、自動詞「死んだ」。
“doing what he really loved” がポイント。
“doing” は、他動詞 “do” の現在分詞。
ここでは「~しながら」。
その対象となる “what he really loved” は、
- 関係代名詞 “what“(こと、もの)
- 主格 “he“(彼が)
- 副詞 “really“(本当に)
- 他動詞の過去形 “loved“(愛した)
よって「彼が本当に愛したこと」。
–
日本語の「愛した」は強すぎるため、
「彼が大好きだったこと」くらい。
死は悲しいが、遅かれ早かれ訪れるもの。
大好きなことをしつつ昇天したのだから、
ご本人としては、それほど残念でないはず。
日本人には新鮮味を感じるような慰め方だが、
「5」は事故死による早世によく出てくる。
–
–
–
◆ 最後に、個人的にぐっときた弔詞をご紹介したい。
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「 神様を笑わせてやれ 」
2014年8月に亡くなった米俳優の
ロビン・ウィリアムズを悼む掲示版。
抱腹絶倒の傑作コメディを幾多も残してくれた、
ロビンを称える力強い3語である。
” MAKE GOD LAUGH “
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【弔辞の文言集】 ※ 英文サイト
・ Condolence Examples
・ Choosing the Perfect Words of Condolences
・ What to Write in a Sympathy Card
・ How To Express Sympathy
・ 64 Quotes About Grief, Coping and Life After Loss
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【「死」関連表現 】
“passed away”
https://mickeyweb.info/archives/347
(亡くなりました)
“with regret”
https://mickeyweb.info/archives/318
(残念ですが)
“declared dead”
“Pronounced dead”
https://mickeyweb.info/archives/1636
(死亡宣告された、死亡した)
“Confirmed dead”
https://mickeyweb.info/archives/2131
(1. 死亡が確認された 2. 確認された死者)
“took his / her own life”
https://mickeyweb.info/archives/4466
(自殺した)
“do away with oneself”
https://mickeyweb.info/archives/15503
(自殺する)
“a moment of silence”
https://mickeyweb.info/archives/3513
(黙祷)
“My prayers are with -.”
“My thoughts and prayers are with – . ”
https://mickeyweb.info/archives/3471
(~のために心からお祈りいたします。)
“the beyond”
https://mickeyweb.info/archives/29487
(あの世)
“final resting place”
https://mickeyweb.info/archives/28844
(墓、埋葬地)
“terminally ill”
https://mickeyweb.info/archives/29801
(末期症状の)