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Not to mention

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言うまでもなく

文頭と文中に用いる<3語ワンセット>の表現。

定訳は次のいずれか。

  1. 言うまでもなく~
    ~は言うまでもなく
  2. もちろん~
    ~はもちろん

1、2 にそのまま置き換えられる単一の意味合い。
口頭・文面ともに使える利点も日本語と一緒。

手軽で使い勝手がすこぶるよい。
それでいて知的な香りがうっすら漂う。
自ら駆使できると、便利でかっこいい。

比較的簡単だから、この場で覚えてしまおう。

  本が大好き。もちろん、図書館も。

ーー

定訳 1と2 は、国語辞典では同義扱いされている。

  もちろん【勿論】

1.(議論の余地がないの意。多く 副詞的 に用いる)
言うまでもなく自明であること。無論。
(精選版 日本国語大辞典)

《副》 いうまでもなく。無論。
(広辞苑 第七版)

《副》 言うまでもなく。当然。無論。
(明鏡国語辞典 第二版)

 副詞的 に用いる点も、”not to mention” と同じ。

同義にもかかわらず、定訳が二分されていることで、
もっと自然な和訳を充てることができる。

選択肢があれば、改善の余地も出てくる。

上掲の国語辞典の語釈は、英英辞典と重なる。
実際には、より丁寧に解説する。

 

◆ 3大学習英英辞典(EFL辞典)はこの通り。

“not to mention something”
used to introduce an additional thing that 
makes a situation even more difficult, 
surprising, interesting etc.
(LDOCE6、ロングマン)

“not to mention”
used to introduce extra information and
emphasize what you are saying.
(OALD9、オックスフォード)

“not to mention”
used when you want to emphasize something
that you are adding to a list.
(CALD4、ケンブリッジ)

国語辞典は「言うまでもなく」の理由を示さない。
なぜ、言うまでもないのか。

杳たる有様のまま、何気にはぐらかされた感じ。

 

◆ 片や、英英辞典は理由を明示する。

下線と赤ハイライトが該当箇所。
「これまでの主張に加えて(後続の何かを)強調」。

これぞ、”not to mention” の機能。

「後続の何か」とは、上記 “something” を指す。
すなわち、定訳 1と2 の「~」部分。

ここを具体的に説明するのが LDOCE6。

“an additional thing that makes a situation
even more difficult, 
surprising, interesting
「ある状況をさらに難しくしたり、意外にしたり、
興味深くしたりする、追加的な何か」を導くとある。

こうして「~」の「何か」を強調(emphasize)し、
導く(introduce)趣旨をそなえる、
“not to mention”、「もちろん」、「言うまでもなく」。

導くために、続く内容(~)に呼応する副詞。
国語では「陳述副詞」。  呼応副詞とも言う。

既存の状態を「さらに難しくしたり、意外にしたり、興味深くし
たり
する」何かを加える(additional thing、extra information)
流れゆえに、「もちろん」「言うまでもなく」に行き着く。

◆ 英日がこれほど共通する一因は、”not to mention”
の直訳が「言うまでもない」にほぼ等しいから。

全単語を合わせると「言及することでない」
つまり「言うことでない」で「言うまでもない」。
「言うまでもない」理由は、上の青ハイライトに記した。

3語のうち、ポイントとなるのは “mention”。
他動詞と名詞がある。 自動詞はない。

名詞は可算と不可算兼用で、基本は可算名詞。

他動詞と名詞では、重要度と頻出度に差が見られる。

他動詞の位置づけは、最頻出かつ最重要であり、
以下3項目すべて最高ランク。

LDOCE6(ロングマン)の表記によれば、

■ 他動詞 “mention” 
– 重要:最上位 <トップ3000語以内>
– 書き言葉頻出:最上位 <トップ1000語以内>
– 話し言葉頻出:最上位 <トップ1000語以内>

■ 名詞 “mention” 
– 重要:<3001~6000語以内>
– 書き言葉頻出:3000語圏外
– 話し言葉頻出:3000語圏外

– 他動詞
言及する」「述べる」「表彰する」
– 名詞
言及」「特筆」「表彰」 ※ 可算・不可算兼用

【発音】 ménʃən

他動詞も名詞も「言及」中心で、”mention” の定訳。
語原は、ラテン語「言及すること」(mentiō)。
語原を忠実に引き継いでおり、定訳にふさわしい。


◆ 英日とも筆舌不問で、「書く」「言う」両方表す。

今回調べた英英9点、国語5点から精選した語釈に
下線を引いてみた。

“mention”   ※ 他動詞
to write or speak about something / somebody,
especially without giving much information.
(OALD9、オックスフォード)

“mention”   ※ 名詞
when someone mentions something or someone
in a conversation, piece of writing etc
.
(LDOCE6、ロングマン)

【発音】 ménʃən

  げんきゅう【言及】
[文]話しているうちに、その話題にふれること。
文章の中で取り上げること。
(三省堂国語辞典 第七版)

言っても書いても使える。

先述の「手軽で使い勝手がすこぶるよい」
根拠のひとつ。

「知的な香りがうっすら漂う」持ち味も、
「言及」と同様。

“not to mention” の場合、文頭と文中に置ける。
冒頭で触れた強味は使用上心強い。


◆ 今月 2019年1月発表のニュース記事から、使用例を挙げる。

既述の通り「陳述副詞」のため、前後の文章がないと、
文脈がつかみがたい。

結果的に引用が長くなってしまったが、ご了承いただければと思う。

<文頭>

<文中>

 

以上10例。 採集時間は15分ほど。

うじゃうじゃ出てきてくれて助かった。

 

他動詞 “mention” の落とし穴

よくある間違いがこちら。

  関連の前置詞 “about(~について)を付け足してしまう。

オンライン版 “LDOCE” の注意書きが分かりやすい。
※ 書籍版 “LDOCE6” にも同一記載あり

https://www.ldoceonline.com/dictionary/mention

黄色で囲った “transitive verb” は「他動詞」の意。
【発音】 trǽnsətiv  və́ːrb

  他動詞なので、前置詞なく 目的語が続く。

【参考】   ※ 外部サイト
・ 自動詞と他動詞の違いをイラストで説明
・ 動詞の直後に前置詞や副詞が続くのは自動詞

 

 

 

 

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