Revere
2022/06/21
尊敬する、 敬愛する
人物紹介記事で目にする褒め言葉の動詞。
【発音】 rivíər
【音節】 re-vere (2音節)
口頭よりは文面中心。
主要な英和辞書には「 あがめる 」とある。
次の「大辞典」3冊とも、「 あがめる 」を筆頭に挙げる。
・ 新英和大辞典 第6版
・ ランダムハウス英和大辞典 第2版
・ 新編 英和活用大辞典
また「 崇敬する 」をトップに置くのが、
英語の専門家なら、誰もがご存知の4冊。
押しも押されもせぬ「大辞典」である。
「あがめる」は、漢字で「崇める」。
表外音訓( ひょうがいおんくん )である。
常用漢字表にない読み方を指し、常用外( じょうようがい )とも称す。
あがめる【崇める】
1. 非常に尊いものとして扱う。
2. 寵愛する。
すうけい【崇敬】
あがめうやまうこと。
ちょうあい【寵愛】
特別に愛すること。
けいあい【敬愛】
うやまい、親しみの心を持つこと。
( 広辞苑 第七版 )
–
◆ 日本語で「あがめる」「崇敬する」と聞くと、
ふと、こんなイメージが浮かぶ。
崇め奉る
「 あがめたてまつる 」と読む。
「 アイドルをあがめる 」感じか。
一般人の日常にそぐわない情景かもしれない。
少なくとも「 あがめる 」「 崇敬する 」は、
日本語の常用語とは言い難い。
もし、” revere ” の使用場面がこんな具合であれば、
恐れ多くて、常用などしにくいだろう。
既記のように、実際には人物紹介で普通に目につく。
とすれば、英和辞典や上図と使い方が異なると推測できる。
ここで考察してみたい。
–
◆ “revere” は他動詞のみ。 自動詞はない。
【発音】 rivíər
【音節】 re-vere (2音節)
語源は、ラテン語「恐れる」「畏敬する」(reverērī)。
語源の意味をほぼ引き継ぎ、これ以外に意味はない。
したがって、辞書の語義はことごとくシンプル。
英英は1文、英和は2~3語で完結する。
単義に近いため、簡潔にならざるえないのである。
今回調べた英英9点すべての語釈は1文完結
( 同義語と注意点の表示は除く )。
3大学習英英辞典( EFL辞典 )も、この通り。
“revere”
■ formal
to respect and admire someone or something
very much.
(LDOCE6、ロングマン)
■ formal
to feel great respect or admiration for something /
somebody.
(OALD9、オックスフォード)
■ formal
to very much respect and admire someone or something.
(CALD4、ケンブリッジ)
【発音】 rivíər
【音節】 re-vere (2音節)
※ 下線は引用者
皆一様に “formal”(格式張った) とある。
また、各辞書のキーワード(下線部)も同然で、
<誰かまたは何かを大変 respect >として一致する。
ここでの “respect” は、カタカナ「リスペクト」と
ちょうど重なる。
リスペクト【respect】
尊敬。敬意。敬意をはらうこと。
(広辞苑 第七版)
この内容が日常用法の “revere” である。
「あがめる」よりも、よほど的確である。
しかるに、上掲「大辞典」4冊の語釈は、
“revere”
■ (強い尊敬・愛情・敬意の念で)
崇(あが)める、崇拝する、尊敬する
(新英和大辞典 第6版)
■ (畏怖の念で)あがめる、畏敬(崇敬)する
(ランダムハウス英和大辞典 第2版)
■ あがめる、尊ぶ
(新編 英和活用大辞典)
■ ~を(…のことで)崇敬する、あがめる
(ジーニアス英和大辞典)
【発音】 rivíər
【音節】 re-vere (2音節)
「あがめる」が定訳なのが、はっきりと分かる。
しかし日常的には、先の「リスペクト」の語釈
の方がよく合う。
–
◆ 定訳「あがめる」に、私は物言いたい。
語源には忠実だが、厳かすぎて、場違いに
なりやすい和訳である。
特に、近くの人物を対象とする場合はそうである。
一方、<神様>や<物故者>のような手に届かない存在、
または<山>や<海>のような自然を含む「無生物」であれば、
「あがめる」「崇敬」「崇拝」でも、さほど大仰に聞こえない。
そもそも「あがめる」などと言われたら、
褒められた側は、きっと困る。
あたかも <教祖> <導師> <guru> 扱いされるかのようで、
真っ当な社会人なら、気恥ずかしいどころか、気持ち悪いだろう。
“He is revered by his friends.” の和訳として、
「 彼は友人からあがめられています。」
なんて紹介された時には、からかわれている気分。
いい迷惑である。
だから「 あがめる 」は、やや都合悪い。
日本語として、非日常すぎる。
これは、” devastated ” = 「 打ちひしがれた 」
と共通する問題であり、定訳をそのまま使用すると、
不自然な印象 を帯びる。
「使いづらい定訳」として弊サイトで詳説したものには、
などがある。
–
◆ 無論、英和辞典が間違っているのではない。
語源の観点からは正しいのだが、もう一歩工夫が
必要なだけ。
このうち唯一『新英和大辞典 第6版』が示した通り、
「尊敬する」の記載が必要だったと私は考える。
「 あがめる 」「 崇敬する 」よりは、
「 尊敬する 」「 敬愛する 」が自然。
さらに、「 褒める 」「 評価する 」などの、
身近な褒め言葉を用いないと、日常から浮きがち。
大げさな称賛は、往々にして逆作用をもたらす。
すなわち「 褒め殺し 」。
ほめごろし【褒殺】
〚名〛
いやみになるほどほめること。
極端にほめることで、
かえって相手をひやかしたりけなしたりすること。
( 精選版 日本国語大辞典 )
純な尊重や好意が、皮肉っぽく和訳される
のは、絶対避けたいことである。
“revere” の和訳時に気をつけるべき点なのだが、
英和辞典のみ参考にすると、気づきにくい。
なぜなら、これまで見てきたように、どの辞書も
「あがめる」とあるから。
「定訳」の落とし穴について注意喚起するべく、
ここで取り上げてみた。
- “Her parents are revered by her.”
(彼女の両親は彼女に敬愛されている。)
(彼女は両親を敬愛している。)
– - “He is revered as a great national hero.”
(彼は偉大なる国民的英雄として尊敬されている。)
(彼は偉大なる国民的英雄として崇めら得ている。)
※ この内容ならば「あがめる」でも可
– - “His final resting place is revered by students.”
(彼のお墓は学生に崇拝されている。)
– - “She was revered for her huge success.”
(彼女は大成功したことで、尊敬されていた。)
– - “His can-do spirit was revered by all of us.”
(彼のなせばなる精神は、私たち全員から
敬われていた。)
–
◆ 例文にも該当するが、”revere” は原則として、
受け身 (受動態)で使う。
LDOCE6 と OALD9 は ” usually passive ” と明記する。
だから、過去分詞形 ” revered ” が目立つ。
能動態でも使えるものの、あまり一般的ではない。
- “He reveres his parents.”
(彼は両親を敬愛する)
– - “We revered her for her success.”
(成功した彼女を尊敬した。)
– - “I revered his can-do attitude.”
(彼の意欲を尊敬した。)
【同義語】
◇ 「あがめる」意味合いでは、「他動詞」中心
→ 表題 “revere” には、自動詞はない
ほとんど盲目的な称賛は、
- ” idolize “ ※ 他動詞・自動詞
偶像視する
【発音】 áidəlàiz
【音節】 i-dol-ize (3音節)
– - ” worship “ ※ 他動詞・自動詞
集団的に崇拝する
【発音】 wə́rʃip
【音節】 wor-ship (2音節)
– - ” adore “ ※ 他動詞・自動詞
敬愛する、 大好きである
【発音】 ədɔ́r
【音節】 a-dore (2音節)
【関連表現】
” reverence ”
– 名詞 「尊敬」「崇敬」「敬愛」、
牧師・僧侶の敬称
– 他動詞 「崇敬する」
【発音】 révərəns
【音節】 rev-er-ence (3音節)