Struggle
2021/01/11
努力(する)、苦戦(する)
自他の頑張る姿 を表現する際に出てくる動詞・名詞。
【発音】 strʌ́gl
【音節】 strug-gle (2音節)
- 【相手】 老若男女 → 不問
- 【用途】 公私 → 不問
- 【場面】 硬軟 → 不問
- 【手段】 筆舌 → 不問
死に物狂いの真剣勝負はもちろんのこと、
じたばたもがく様子を面白おかしく描写するのに
用いてもOK。
–
◆ “struggle” には、動詞と名詞がある。
–
動詞は自動詞中心。
他動詞を省略している辞書が多い。
3大学習英英辞典(EFL辞典)には、他動詞の記載がない。
断トツで簡潔な語釈を示すのが次の辞書。
“struggle”
verb [I]
– (TRY HARD) to work hard to do something.
– (FIGHT) to fight, esp. physically.
– (MOVE) to move with difficulty.
noun [C]
– (FIGHT) a fight.
– (TRYING HARD) a very great effort to do something.
(Cambridge Academic Content Dictionary)
【発音】 strʌ́gl
【音節】 strug-gle (2音節)
–
[I] = intransitive = 自動詞
[C] = countable = 可算名詞
“struggle” については、この上ない分かりやすさ。
よって、3大EFL辞典を差し置いてご紹介する。
まず、青字に着目。
<自動詞>
- try hard (努力する)
- fight (苦戦する、苦労する)
- move (もがく)
<可算名詞>
- fight (争い、闘争、戦い)
- trying hard (奮闘、苦闘、苦労)
“struggle” の骨子は、これがすべて。
カッコ内の和訳は後述の
『オックスフォード 英語コロケーション辞典』(アプリ版)
を適用した。
“struggle” は頻出の感があるが、英単語全体からはそうでもない。
LDOCE6(ロングマン)の指標では、動詞・名詞とも、
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:<2001~3000語以内>
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
◆ 語源は、中期英語「もがく」(struglen)。
もがく【踠く】
1. 苦しがって手足を動かす。
2. あせり苦しむ
(三省堂国語辞典 第七版)
もがく【踠・藻掻】(「藻掻」はあて字)
1. もだえ苦しんで手足を動かす。あがく。
2. いらだつ。あせる。じりじりする。
(精選版 日本国語大辞典)
先の青字 “MOVE” は、手足のばたばたが該当する。
もぞもぞ緩慢に動くのではなく、派手にバタつく行為。
例えば「水中でもがく」「羽交い締めにされてもがく」。
しかし、溺れかけたり、羽交い締めにされる機会はそうそう生じない。
ゆえに、実際の「もがく」は「もだえ苦しむ」意味で多用される。
したがって、「もがく」と “struggle” の日常用法としては、
「2」の用途が一般的。
–
すなわち–、
“try hard”(努力する) 及び “fight”(苦戦する、苦労する)。
同様に、名詞 “fight”(争い、闘争、戦い)も、非日常的に近い。
“trying hard”(奮闘、苦闘、苦労) の方が普通。
こう見てくると、”struggle” は「もがく」と重なることが分かる。
日英もろとも、意味合いと使われ方が似通っている。
–
◆ 戦争や事故・災害時などの非常時の情報であれば、
「闘争」「戦い」「苦しがって手足を動かす」 を指す確率
が上がるのは言うまでもない。
日頃、一般人が用いる機会が比較的少ないため、本稿では
後回しにしたものの、ニュースや論文などには出てくる。
意味が明確で混乱しにくい点も、優先順位を繰り下げる要因となった。
これ以外の “struggle” は、上掲の青ハイライトの意味中心となる。
私たち日本人が普段使う時や見聞きする際も同様である。
したがって、本稿ではこれらの語義に焦点を当てる。
“struggle”
- try hard (努力する)
- fight (苦戦する、苦労する)
- trying hard (奮闘、苦闘、苦労)
動詞と名詞の意味合いは重なるので、以下まとめて論じる。
この表を二分すると、
-
努力する → 奮闘
-
苦戦する → 苦闘
◇ 「 苦労する → 苦労 」は概ね双方に該当するため、ここでは除外
日本語の1と2では、受け手の印象に差が生じるだろう。
一見大差ないように思えるが、「苦闘」と「奮闘」は
やはり違う。
「奮闘」は「がんばっているな」で済まされても、
「苦闘」は 軽々しく口にできない雰囲気。
–
どっちも必死だが、「苦闘」はかなり苦しい努力を指す。
例えば、
- 「1. 受験勉強に奮闘する」 vs 「2. 受験勉強に苦闘する」
- 「1. 婚活に奮闘する」 vs 「2. 婚活に苦闘する」
2は、ご当人のしんどさがビシビシ伝わってくる。
つらくて、笑顔が一気に消える感じ。
悲壮感が漂い、とてもジョークにできない。
“struggle” は、1と2の両方とも意味するため、
和訳時は内容を読み取って区別する。
前置詞で区分できる場合もあるが、多用される前置詞
のほとんどが共通する。
–
すなわち、
- for
- with
- against
- on
- to
–
※ 後掲「コロケーション辞典」参照
そのため文脈から見分けるのが基本となる。
ところが、1、2のどちらなのか、明確でない場面も多い。
つまり、いずれの解釈もありうる内容が普通に存在する。
翻訳者の立場からも、あいまいすぎて迷う案件が少なくない。
–
◆ 日本人にとって、”struggle” が厄介なのは、このように
和訳時に迷いが生じやすい点にある。
努力している有様は容易に看取できるが、何だかはっきりしないのだ。
「 この人にとって、どの程度きついのだろう 」
本人でないのだから、推し量りがたいのは当然である。
「受験勉強」と「婚活」の例からも感じ取れるように、
和訳によって、受け手の認識は左右される。
どの程度なのか判明しない限り、判断は難しい。
結局、「苦闘」に至る苦労か否かは、総合的に決めることとなる。
–
◆ 一方、”struggle” の使い手側はどうか。
–
日常用法については、厳密に判別することなく使っている
可能性が高いと考えられる。
「奮闘」であろうと「苦闘」であろうと、無我夢中の
真っ最中に細かい差異を意識する余裕はないもの。
思い出す時ですら、区別はそれほど意味をもたない。
とにかく「苦労」が伴う姿を伝えたい …
これぞ使い手の意図であり、”struggle” の真骨頂。
“offensive” でも取り上げたように、使い手自身も今ひとつ
自覚していない場合が珍しくなかったりする。
“struggle” がこれらの語義を包括する以上、
きっちり区別すること自体が不自然な話なのかもしれない。
少なくとも、普段遣いでは深く考えたりしないのが大勢。
英語学習者は、的確な「和訳」をあれこれ考える習慣がある。
だからこそ、上記のような迷いが生じる。
日本語で理解する上では、欠かせないプロセスである。
それでも、”struggle” を駆使するレベルの英語力が身につけば、
区別を執拗に考える意義を見出せなくなっていく。
「努力する」意をひっくるめた “struggle” を使うのに、
日本語でああだこうだは、ちょっと変。
いちいち和訳なんてするかよ …
自ずとこんな感覚になっていたりする。
母語を介さず、英語のまま理解できるようになってくると、
このような思いをすることもしばしば。
–
日本人の英語学習者としては、良し悪しの現象である。
【参照】
・ 対となる日本語がなければ、イメージで理解
・ 日本語にない文法は、原文で慣れる
–
◆ ニュースなどメディア報道の用途ではなく、
ずっと身近な使い方を挙げてみる。
これまで述べてきた意味の区別に気を使うべきかどうか、
それぞれ考えていただきたい。
和訳は一例である。
–
ー
- “I struggled with my research on this article.”
(この記事の下調べに苦労しました。)
– - “I struggle to do knuckle push-ups.”
(拳腕立て伏せに苦戦しています。)
– - “He struggles financially.”
(彼は経済的に苦労している。)
– - “I knew John struggled with his demons for years.”
(ジョンが個人的な悩みに長年苦しんでいたことは知っていました。)
– - “She struggled all the time during her school years.”
(彼女は学生時代に絶えず苦しんでいました。)
– - “Each day is a struggle against pain.”
(毎日が痛みとの戦いです。)
– - “I’m struggling to balance my work and family life.”
(仕事と家族とのバランスを取るため、格闘しています。)
– - “They struggled with all the fame.”
(名声を得て、彼らは苦しんだ。)
– - “She struggles with alcoholism and depression.”
(彼女は、アルコール依存症と抑うつに苦しんでいる。)
– - “The military is struggling to stem infections.”
(軍は感染の阻止に苦労している。)
– - “Surviving on a single salary can be a struggle.”
(共働きでない場合、苦労もありえます。)
– - “She struggled to find a place in Hollywood as she got older.”
(年を取るにつれ、彼女はハリウッドで居場所を見つける
のに苦労した。)
– - “I struggled for words.”
(必死に言葉を探しました。)
– - “They struggle with self-respect.”
(彼らは自尊心の面で苦しんだ。)
– - “Mary opened up about her struggles in Japan.”
(メリーは日本における苦労について打ち明けた。)
– - “We struggled hard for workplace improvement.”
(職場改善に向けて、我々は奮闘しました。)
– - “She struggles with exam stress.”
(彼女は試験のストレスに苦しんでいる。)
– - “He struggled on despite his health problems.”
(健康上の問題にもかかわらず、彼は頑張り続けた。)
– - The world struggles against a deadly coronavirus pandemic.”
(世界中が致命的なコロナウイルス感染症の大流行と闘っている。)
– - “She struggles to gain freedom from her parents.”
(両親から自由を獲得するため、彼女は戦っている。)
– - “Japan struggles to contain further spread of the virus.”
(ウイルスをこれ以上拡散しないよう、日本は奮闘している。)
– - “Japan is struggling to slow the spread of the disease.”
(この病気の蔓延を遅らせるのに、日本は苦慮している。)
– - “X gave up altogether after years of struggling to ramp up output.”
(X社は、生産高を上げようと何年も奮闘した後、完全に手を引いた。)
– - “Local governments struggling with applications for virus cash”
(地方自治体、コロナ給付金の申請で大混乱)
※ ニュース見出し
–
◆ 形容詞 “struggling” の意味合いも変わらない。
【発音】 ˈstrʌɡ.lɪŋ
【音節】 strug-gling (2音節)
- “She used to be a struggling author.”
(かつて彼女は奮闘する作家であった。)
(かつて彼女は売れない作家であった。)
– - “She used to be a single mom struggling to
make ends meet.”
(彼女は家計のやりくりにもがくシンママであった。)
– - “Their struggling economy needs government help.”
(かの国の苦しい経済は政府支援を必要としている。)
– - “Japan’s government approves cash handout for
struggling students amid pandemic”
(日本政府、パンデミックで苦しむ学生のための給付金を決定)
※ ニュース見出し
–
◆ 前置詞の話で、コロケーション辞典に触れた。
–
『オックスフォード コロケーション辞典』 がこちら。
コロケーション辞典の代表格である。
“struggle” については、底本の英語版に比べ、
日本語版の方が充実した内容。
英語版にない名詞 “struggle” も、日本語版は詳説する。
コロケーション辞典は、当該単語の前後で用いられる
言葉を品詞ごとに具体的に列挙する。
英語学習者は、とりわけ前置詞に迷うケースが多い。
“struggle for” なのか、”struggle with” なのか。
意味に違いがあるのか。
あやふやな基礎知識を手っ取り早く確認できる上、
作文に行き詰まった時は慈雨となる。
表現が思いつかず “struggle” する時は、適宜まねるとよい。
そっくりそのまま、もらい受けてしまおう。
同時に、自分の語彙に追加しておく(語彙採集)。
このプロセスを繰り返すと、きっと実力がつく。
もっとも、主要単語の場合、学習英英辞典(EFL辞典)
にも、コロケーションは併記されていることが多い。
特に、“LDOCE” と “OALD” は、コロケーション満載。
【実例】 ※ 辞書アプリの転載あり
“threshold“、”damage“、 “scrutiny“、
“backdrop“、”paperwork“、”downfall“、
“bombshell“、”alternative”、”feasible“、
“disparity“、”presence”
–
◆ 日本語のコロケーション辞典は、『 てにをは辞典 』(三省堂)
をお勧めしたい。
書籍版と「自炊」した電子版を併用しているが、大変便利。
◇ 使用 ipad mini → 写真 ( 辞書の「自炊」と辞書アプリ )
日英のコロケーション辞典がないと、弊ブログは立ち行かない。