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Struggle

      2023/04/17

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 7 minutes

努力( する )、   苦戦( する ) 

自他の頑張る姿  を表現する際に出てくる動詞・名詞。

【発音】  strʌ́gl
【音節】  strug-gle  (2音節)

  •  【相手】  老若男女  →  不問
  •  【用途】  公私  →  不問
  •  【場面】  硬軟  →  不問
  •  【手段】  筆舌  →  不問

死に物狂いの真剣勝負はもちろんのこと、
じたばたもがく様子を面白おかしく描写するのに
用いてもOK。

◆  ” struggle ” には、動詞と名詞がある。

名詞は、可算名詞。

  • ” Writing is not just a struggle.”
    (書くこととは、単なる苦労ではない。)

動詞は、自動詞中心。

他動詞を省略している辞書が目立つ。

3大学習英英辞典( EFL辞典 )には、他動詞の記載がない。

断トツ で簡潔な語釈を示すのが次の辞書。

” struggle “

verb  [I]
–  ( TRY HARD )  to work hard to do something.
–  ( FIGHT to fight, esp. physically.
–  ( MOVE to move with difficulty.

noun  [C]
–  ( FIGHT a fight.
–  ( TRYING HARD a very great effort to do something.

Cambridge Academic Content Dictionary

【発音】  strʌ́gl
【音節】  strug-gle  (2音節)


[I]  =  intransitive  =  自動詞
[C]  =  countable  =  可算名詞


” struggle ” については、この上ない分かりやすさ。

よって、3大EFL辞典 を差し置いてご紹介する。

まず、青字に着目。

< 自動詞 >    intransitive

  •  try hard ( 努力する )
  •  fight ( 苦戦する、苦労する )
  •  move ( もがく )

< 可算名詞 >    countable

  •  fight ( 争い、闘争、戦い )
  •  trying hard ( 奮闘、苦闘、苦労 )


” struggle ” の骨子は、これがすべて。

カッコ内の和訳は後述の
オックスフォード 英語コロケーション辞典 』( アプリ版 )
を適用した。

” struggle ”  は頻出の感があるが、 英単語全体からはそうでもない。

LDOCE6( ロングマン )の指標では、 動詞・名詞とも、

  •  重要: 3001~6000語以内
  •  書き言葉頻出: 2001~3000語以内
  •  話し言葉頻出: 3000語圏外

◆  語源は、 中期英語 「 もがく 」( struglen )。

もがく【踠く】

1.  苦しがって手足を動かす。
2.  あせり苦しむ
( 三省堂国語辞典 第八版 )

もがく【踠・藻掻】 (「 藻掻 」 はあて字 )

1.  もだえ苦しんで手足を動かす。 あがく。
2.  いらだつ。 あせる。 じりじりする。
( 精選版 日本国語大辞典 )


先の青字  ” MOVE ” は、手足のばたばたが該当する。

もぞもぞ緩慢に動くのではなく、 派手にバタつく行為。

例えば、 「 水中でもがく 」 「 羽交い締めにされてもがく 」。

しかし、 溺れかけたり、 羽交い締めにされる機会はそうそう生じない。

ゆえに、 実際の「 もがく 」 は 「 もだえ苦しむ 」 意味で多用される。

したがって、 「 もがく 」 と  ” struggle ”  の日常用法としては、
「 2 」 の用途が一般的。

すなわち、

” try hard “( 努力する )  及び  ” fight “( 苦戦する、苦労する )

同様に、 名詞 ” fight “( 争い、闘争、戦い )も、 非日常的に近い。

” trying hard “( 奮闘、苦闘、苦労 )  の方が普通。

こう見てくると、 ” struggle ” は 「 もがく 」 と重なることが分かる。

日英もろとも、 意味合いと使われ方が似通っている。

◆  戦争や事故・災害時などの非常時の情報であれば、
「 闘争 」「 戦い 」「 苦しがって手足を動かす 」  を指す確率
が上がるのは言うまでもない。

日頃、 一般人が用いる機会が比較的少ないため、 本稿では
後回し にしたものの、  ニュースや論文などには出てくる。

意味が明確で混乱しにくい点も、 優先順位 を繰り下げる要因となった。

これ以外の  ” struggle ” は、 上掲の青ハイライトの意味中心となる。

私たち日本人が普段使ったり、 見聞きしたりする際も同様である。

したがって、 本稿ではこれらの語義に焦点を当てる。

” struggle ” 

  •  try hard ( 努力する )
  •  fight ( 苦戦する、苦労する )
  •  trying hard ( 奮闘、苦闘、苦労 )


動詞と名詞の意味合いは重なるので、以下まとめて論じる。

この表を二分すると、

  1. 努力する  →  奮闘
  2. 苦戦する  →  苦闘

◇  「 苦労する  →  苦労  」 は概ね双方に該当するため、ここでは除外

日本語の 1 と 2 では、 受け手の印象に差が生じるだろう。

一見大差ないように思えるが、「 苦闘 」 と 「 奮闘 」はやはり違う。

「 奮闘 」 は 「 がんばっているな 」 で済まされても、
「 苦闘 」 は 軽々しく口にできない雰囲気。

どっちも必死だが、 「 苦闘 」 はかなり苦しい努力を指す。

例えば、

  • 「 1.  受験勉強に奮闘する 」 vs 「 2.  受験勉強に苦闘する 」
  • 「 1.  婚活に奮闘する 」 vs 「 2.  婚活に苦闘する 」

2は、 ご当人のしんどさがビシビシ伝わってくる。

つらくて、 笑顔が一気に消え失せる感じ。

悲壮感が漂い、 とてもとても ジョークにできない

” struggle ” は、 1と2の両方とも意味するため、
和訳時は内容を読み取って区別する。

前置詞で区分できる場合もあるが、 多用される前置詞
のほとんどが共通する。

すなわち、

  •  for
  •  with
  •  against
  •  on
  •  to

    ※  後掲 「 コロケーション辞典 」 参照

そのため文脈から見分けるのが基本となる。

ところが、1、2のどちらなのか、 明確でない場面も多い。

つまり、 いずれの解釈もありうる内容が普通に存在する。

翻訳者の立場からも、 あいまいすぎて迷う案件が少なくない。

◆  日本人にとって、” struggle ” が厄介なのは、 このように
和訳時に迷いが生じやすい点にある。

努力している有様は看取できるが、 なんだかはっきりしないのだ。

この人にとって、どの程度 きついのだろう


ご本人でないのだから、 推し量りがたいのは当然である。

「 受験勉強 」 と 「 婚活 」  の例からも感じ取れるように、
和訳によって、 受け手の認識は左右される。

どの程度なのか判明しない限り、 判断は難しい。

結局、「 苦闘 」 に至る苦労か否かは、 総合的に決めることとなる。

◆  一方、 ” struggle ” の使い手側はどうか。

日常用法については、 厳密に判別することなく使っている
可能性が高いと考えられる。

「 奮闘 」であろうと「 苦闘 」であろうと、  無我夢中の
真っ最中に細かい差異を意識する余裕はないもの。

思い出す時ですら、 区別はそれほど意味をもたない。

とにかく 「 苦労 」 が伴う姿を伝えたい  …

これぞ使い手の意図であり、 ” struggle ” の真骨頂。

offensive ” でも取り上げたように、 使い手自身も今ひとつ
自覚していない場合が珍しくなかったりする。

” struggle ”  がこれらの語義を包括する  以上、
きっちり区別すること自体が不自然な話なのかもしれない。

少なくとも、 普段遣いでは深く考えたりしないのが大勢。

英語学習者は、 的確な「 和訳 」をあれこれ考える習慣がある。

だからこそ、 上記のような迷いが生じる。

日本語で理解する上では、 欠かせないプロセスである。

それでも、 ” struggle ” を駆使するレベルの英語力が身につけば、
区別を執拗に考える意義を見出せなくなっていく。

「 努力する 」 意をひっくるめた ” struggle ”  を使うのに、
日本語でああだこうだは、ちょっと変。

いちいち和訳なんてするかよ  …

自ずとこんな感覚になっていたりする。

母語を介さず、 英語のまま理解できるようになってくると、
このような思いをすることもしばしば。

日本人の英語学習者としては、 良し悪しの現象である。

【参照】

・ 対となる日本語がなければ、イメージで理解
・ 日本語にない文法は、原文で慣れる

◆  ニュースなどメディア報道の用途ではなく、
ずっと身近な使い方を挙げてみる。

これまで述べてきた意味の区別に気を使うべきかどうか、
それぞれ考えていただければと思う。

和訳は一例である。

  • “I struggled with my research on this article.”      上図
    (この記事の下調べに苦労しました。)
  • “I struggle to do knuckle push-ups.”      上図
    (拳腕立て伏せに苦戦しています。)
  • “He struggles financially.”
    (彼は経済的に苦労している。)
  • “I knew John struggled with his demons for years.”
    (ジョンが個人的な悩みに長年苦しんでいたことは知っていました。)
  • “She struggled all the time during her school years.”
    (彼女は学生時代に絶えず苦しんでいました。)
  • “It’s been a struggle and a journey.”
    ( 苦しみの連続であり、 旅路でもあった。)
  • “Each day is a struggle against pain.”
    (毎日が痛みとの戦いです。)
  • “We are struggling to find a balance between
    health and economy .”
    (健康と経済のバランスを見出すべく努めています。)
  • “I’m struggling to balance my work and family life.”
    (仕事と家族とのバランスを取るため、格闘しています。)
  • “Listeners can feel her inner struggle as she sings.”
    (彼女の歌を聴くと、彼女の内面の葛藤を感じ取れる。)
  • “They struggled with all the fame.”
    (名声を得て、彼らは苦しんだ。)
  • “He is struggling to reinvent himself.”
    (彼は自己改革しようと躍起になっている。)
  • “She struggles with alcoholism and depression.”
    (彼女は、アルコール依存症と抑うつに苦しんでいる。)
  • “The military is struggling to stem infections.”
    (軍は感染の阻止に苦労している。)
  • “I’m struggling to keep things positive these days.”
    (この頃は、物事をポジティブに保つべく苦労している。)

  • “Surviving on a single salary can be a struggle.”
    (共働きでない場合、苦労もありえます。)
  • “She struggled to find a place in Hollywood as she got older.”
    (年を取るにつれ、彼女はハリウッドで居場所を見つける
    のに苦労した。)
  • “I struggled for words.”
    (必死に言葉を探しました。)
  • “They struggle with self-respect.”
    (彼らは自尊心の面で苦しんだ。)
  • “Mary opened up about her struggles in Japan.”
    (メリーは日本における苦労について打ち明けた。)
  • “Erika got candid about her substance abuse struggles.”
    (エリカは薬物乱用との闘いについて率直に語った。)
  • “We struggled hard for workplace improvement.”
    (職場改善に向けて、我々は奮闘しました。)
  • “She struggles with exam stress.”
    (彼女は試験のストレスに苦しんでいる。)
  • “He struggled on despite his mental health problems.”
  • “He kept going despite mental health struggles.”
    (心の問題があるにもかかわらず、彼は頑張り続けた。)
  • “I struggled with feelings of shame for most of my life.”
    (恥の意識に苦悩し続ける人生を送ってきた。)
  • The world struggles against a deadly coronavirus pandemic.”
    (世界中が致命的なコロナウイルス感染症の大流行と闘っている。)
  • “I struggled to gain freedom from my toxic parents.”
    (毒親から自由になるため、私は戦った。)
  • “Japan struggles to contain further spread of the virus.”
    (ウイルスをこれ以上拡散しないよう、日本は奮闘している。)
  • “Japan is struggling to slow the spread of the disease.”
    (この病気の蔓延を遅らせるのに、日本は苦慮している。)
  • “X gave up altogether after years of struggling to ramp up output.”
    (X社は、生産高を上げようと何年も奮闘した後、完全に手を引いた。)
  • “Local governments struggling with applications for virus cash”
    (地方自治体、コロナ給付金の申請で大混乱)
    ※  ニュース見出し

◆  形容詞  ” struggling ”  の意味合いも変わらない。

【発音】  ˈstrʌɡ.lɪŋ
【音節】  strug-gling  (2音節)

  • “She used to be a struggling author.”
    (かつて彼女は奮闘する作家であった。)
    (かつて彼女は売れない作家であった。)
  • “She used to be a single mom struggling to
    make ends meet.”
    (彼女は家計のやりくりにもがくシンママであった。)
  • “Their struggling economy needs government help.”
    (かの国の苦しい経済は政府支援を必要としている。)
  • “Japan’s government approves cash handout for
    struggling students amid pandemic”
    (日本政府、パンデミックで苦しむ学生のための給付金を決定)
    ※  ニュース見出し

◆  前置詞の話で、 コロケーション辞典に触れた。

『 オックスフォード コロケーション辞典 』 がこちら。

コロケーション辞典の代表格である。


■ 動詞 “struggle”

画像の拡大

Oxford Collocations Dictionary for
Students of English
“ ( アプリ版 )より転載

※  漢字は追加


” struggle ”  については、 底本の英語版に比べ、
日本語版の方が充実した内容。

英語版にない名詞 ” struggle ” も、 日本語版は詳説する。


■ 名詞 “struggle”

画像の拡大


■ 動詞 “struggle”

画像の拡大

小学館 オックスフォード 英語コロケーション辞典
( アプリ版 )より転載


◆  コロケーション辞典は、当該単語の前後で用いられる
言葉を品詞ごとに具体的に列挙する。

英語学習者は、 とりわけ前置詞に迷うケースが多い。

” struggle for ”  なのか、 ” struggle with ” なのか。

意味に違いがあるのか。

あやふやな基礎知識を手っ取り早く確認できる上、
作文に行き詰まった時は慈雨となる。

表現が思いつかず ” struggle ” する時は、 適宜真似るとよい。

そっくりそのまま、 もらい受けてしまおう。

同時に、 自分の語彙に追加しておく( 語彙採集 )。

このプロセスを繰り返すと、 力量が上がる。

もっとも、 主要単語の場合、学習英英辞典( EFL辞典 )
にも、 コロケーションは併記されていることが多い。

特に、 LDOCE ”  と  “ OALD ” は、  コロケーション満載。

【実例】    ※  辞書アプリの転載あり

threshold、  damage、  scrutiny
backdrop、  paperwork、  downfall
bombshell、  alternative、  feasible
disparity、  presence

◆  日本語のコロケーション辞典は、 『 てにをは辞典 』( 三省堂 )
をお勧めしたい。  →  写真

書籍版と 「 自炊 」 した電子版を併用しているが、 大変便利。

◇  使用 ipad mini  →  写真   ( 辞書自炊 辞書アプリ )

日英のコロケーション辞典がないと、 弊ブログは立ち行かない。

 

 

 

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