責任・説明責任 を負う
職務 や 立場相応に、 付いて回るのが 「 責任 」。
せきにん【 責任 】
(1) 人が引き受けてなすべき任務。
(2) 政治・道徳・法律などの観点から
非難されるべき責( せめ )・ 科( とが )。
法律上の責任は主として対社会的な刑事責任
と主として対個人的な民事責任とに大別され、
それぞれ一定の制裁を伴う。
–
『 広辞苑 第七版 』
新村 出(編) 岩波書店、 2018年刊
( ロゴヴィスタ アプリ版 )
–
英語では、” responsibility ” と ” accountability ”
が真っ先に挙げられる。
◇ “ fault ” 及び “ blame ” は、最初から付随する責任
ではなく、落ち度や過失に対する責任。
【発音】 fɔlt
【音節】 fault (1音節)
【発音】 bléim
【音節】 blame (1音節)
–
◆ ” responsibility ” は、最も一般的な「 責任 」。
【発音】 rispɑ̀nsəbíləti
【音節】 re-spon-si-bil-i-ty (6音節)
性質的に最初から付随する責務。
親の責任、 利用者の責任、 自由に伴う責任など。
- “She oversees responsibilities of the users.”
(彼女は利用者の責任を監視している。)
可算と不可算を兼ねるが、 原則は不可算名詞である。
報酬の有無を問わない。
この形容詞が ” responsible “。
【発音】 rispɑ́nsəbəl
【音節】 re-spon-si-ble (4音節)
「 責任を負う 」 の意。
–
–
◆ 一方、 表題 ” accountable ” も「 責任を負う 」。
【発音】 əkáuntəbl
【音節】 ac-count-a-ble (4音節)
” responsibility ” と異なり、基本的に報酬を伴う。
そのため、仕事中心に使う。
特に公務と大組織で好まれる、きっちり堅めの言い回し。
【参照】 ” on duty / off duty ”
大手企業の 不祥事 報道の際も、よく出てくる形容詞 ” accountable “。
■ responsibility / accountability ( 責任 )
■ responsible / accountable ( 責任を負う )
こうして和訳は重なる。
かなり分かりにくい。
–
◆ 英語ネイティブにとっても、判別は単純ではない模様。
その証左に、 解説サイト は多数存在する。
もはや、学術論文の世界なので、一般人が必要以上に深入りするのは、
あまりよくないと考える。
英語学習者が向き合うべき、語学上の問題を超えている。 ※ 後述
–
◆ 基本イメージは、 次の通り。
まずは、 ざっくり見ていく。
accountability
–
結果に対し、根拠に基づく説明を求められる
プロの責任
responsibility
–
保護者としての日頃の責任
–
◆ 一般社員向けの事務連絡では、大雑把に、
■ accountability ( 説明責任 )
■ responsibility ( 責任能力 )
やや厳密さに欠けるとはいえ、 定訳ばりに幅を利かせた和訳である。
大づかみだが、 通常はこのくらいでOKだろう。
もっと掘り下げると、
–
■ accountability
プロの責任
【例】 実務担当者
- 報酬あり = 責任範囲はピンポイントで明確
– - < 結果 >に対する責任と説明責任に焦点
→ 万一の場合、
数値などの根拠 で説明する覚悟を要す
– - 担当者の責任なので、共同責任にそぐわない
■ responsibility
役割としての責任
【例】 未成年の保護者
- 報酬不問 = プロ・アマ可
→ 普段は自覚しづらい責任
–
- 性質上、最初から付随し、事前事後に焦点はない
→ 状況に関係なく、役割に伴う常識的責任
– - 共同責任でも可
→ ただし、責任範囲・内容はあいまい
–
大まかにはこうなる。
” accountability ” を負う人は、
役割としての ” responsibility ” も負う。
しかし、 ” responsibility ” を負うからといって、
根拠を提示して、 事細かに説明する ” accountability ”
まで負うとは限らない。
–
–
◆ ” accountable ” の名詞形が、 不可算名詞の ” accountability ” 。
–
アカウンタビリティー 【 accountability 】
(1) 財産管理の受託者がその委託者に対して
負う 会計上の責任。 株式会社の場合、取締役が
株主に対して負う。 会計責任。
(2) 企業・行政など が自らの諸活動について
公衆や利害関係者に説明する社会的責務。
説明責任。
『 広辞苑 第七版 』
新村 出(編) 岩波書店、 2018年刊
( ロゴヴィスタ アプリ版 )
◇ 下線は引用者
–
上記『 広辞苑 第七版 』は、2018年発行。
3本の下線をご覧いただきたい。
「 会計上の責任 」「 企業・行政など 」「 説明責任 」とある。
2021年発行のこちらも同様。
–
アカウンタビリティー 【 accountability 】
[名]
行政・企業など が社会に対して
事業内容 や 収支 の情報公開をする責任。
説明責任。
『 明鏡国語辞典 第三版 』
北原保雄(編集)大修館書店、 2021年刊
( 物書堂 アプリ版 )
<大修館書店HP>
◇ 下線は引用者
–
比較的最近に発行された日本語の国語辞典でも、
こうした語釈が典型的である。
–
◆ ところが、一般実務で使われる英語の ” accountability ”
は、 はるかに広義で「 責任全般 」を指す。
責任は、「 会計上 」「 収支 」に限定されない。
主体は、「 企業・行政 」などの組織に限らず、役職なしの
平社員の責任も ” accountability “ の対象となる。
–
” accountability “
formal
the fact of being responsible for your decisions
or actions and expected to explain them
when you are asked.
( オックスフォード、OALD9 )
–
a situation in which someone is responsible
for things that happen and can give a satisfactory
reason for them.
( ケンブリッジ、CALD4 )
◇ 下線は引用者
【発音】 əkàuntəbíləti
【音節】 ac-count-a-bil-i-ty (6音節)
–
以上が、 EFL辞典 ( 学習英英辞典 )の記す、
不可算名詞 ” accountability ” の語釈。
” formal ” とOALD9 にあるように、 堅い言葉。
2冊は大同小異で、二本柱で構成される。
–
(1) 自分の言動や結果への 責任
(2) その 説明責任
–
「 会計上 」 や 「 企業・行政 」 の記載はなく、
広範囲に適用可能なことが推認できよう。
会計職にない、一般従業員にも適用できるということ。
間違った解釈ではないものの、 射程が狭すぎで、
” accountability ” の一側面を切り取った様相。
したがって、 広辞苑の語釈は、 狭義の解釈。
accountability >> アカウンタビリティー
その意味で、 和製語に近い 「 カタカナ語 」 とも考えられる。
accountability ≒ アカウンタビリティー
–
→ 「 責任 」と「 説明責任 」 を 広範に表す
–
■ 「 アカウンタビリティー 」
→ 専門用語 に準じる
–
こんな印象か。
意味合いが限られ、ビジネス用途では定着しても、
日本の世間一般に広まる見込みは薄い気がする。
–
◆ 一般向けの「 カタカナ語辞典 」では、
–
–
『 コンサイス カタカナ語辞典 第5版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 2020年刊
<三省堂HP>
–
語釈全文である。
この「 第5版 」は、2020年9月10日に発行された。
それから、ちょうど26年前の1994年9月10日に発行
された「 初版 」の全文はこちら。
–
–
–
『 コンサイス カタカナ語辞典 初版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 1994年刊
–
「 初版 」 はこれだけ。
「 説明 」 には一切触れていない。
「 日本の世間一般に広まる見込みは薄い気がする 」としたためつつも、
「 初版 」 から 「 第5版 」 に至るまでの26年間の日本社会の変化こそ、
” accountability ” の中身の充実をもたらした、と推断する自分がいる。
–
◆ ” accountability ” は、 形容詞 ” accountable ” から
派生した不可算名詞。
” accountable ”
responsible for the effects of your actions
and willing to explain or be criticized for them.
( ロングマン、LDOCE6 )
◇ 下線・赤字は引用者
【発音】 əkáuntəbl
【音節】 ac-count-a-ble (4音節)
–
◆ ” accountability ” の二本柱は、” accountable ” にも共通。
派生元なので、それが自然だろう。
(1) 自分の言動や結果への 責任
(2) その 説明責任
LODCE6は、さらに「 批判されること 」(赤字)
を加える。
つまり、説明責任はもちろんのこと、自分の行動
及びその結果に対する批判込みである。
赤字 ” them ” は、” your actions “( 自分の言動 ) を指す。
” the effects of your actions “( 自分の言動の影響 )まで指す
解釈もできそうだが、どうだろうか。
–
「 自分の行動の結果 」
の説明責任を背負うことが、
” accountable “
–
◆ 上掲 3大EFL辞典 ( 学習英英辞典 )の語釈を、ざっと
まつめると、以上になる。
「 平社員 」も対象になると先に述べたが、学卒の新人に
対しても普通に使われる。
” accountable “、 ” accountability ” ともに、 社内規則
に明記されたりしている。
よって、 新人 も対象とする。
やはり、この2語の意味する 「 責任 」 は、身分不相応
の大袈裟なものではないのである。
お金をもらって仕事をする 「 プロ 」 として、
その担当者が当然負うべき範囲の 「 責任 」。
それが ” accountability ” であり、 ” accountable ” であること。
片や、 ” responsibility ” は、 報酬不問の責任。
実際の使用場面を考慮すると、「 専門用語 」に入れるべき内容でもない。
担当者として、当たり前に想定される責任。
–
◆ その責任を相手に負わせるための動詞が、
他動詞 ” hold “( 思う )( みなす )。
【発音】 hóuld
【音節】 hold (1音節)
【活用形】 holds – held – held – holding
- “She holds a good opinion of you.”
(彼女はあなたを好意的に思っている。)
と同じ用法。
- “She hold me accountable.”
(私に責任があると彼女は思っている。)
ー - “I hold her accountable.”
(私は彼女に責任があると思う。)
– - “He should be held legally accountable for his actions.”
(彼は自分の行動に対する法的責任を問われるべきだ。)
責任転嫁みたいで、 言われた側はたまらないが、
相手に責任を負わせるための常套句。
” hold – responsible ” と一緒に、
” hold – accountable ” を押さえておこう。
ダッシュ部には、目的格を入れる。
人称代名詞であれば、
me / you / him / her / us / them / it。
–
◆ 以下例文のように、関連の前置詞 “ for “( ~ について)
と対象の前置詞 “ to “( ~ へ )を伴うのが、頻出パターン。
先述の通り、通常の和訳では ” responsibility / responsible ”
とそれぞれ重なるから、混乱はやまない。
- “You are accountable for your actions.”
(あなたは自分の行動に責任を負う。)
– - “Our president should be accountable to all the employees.”
(うちの社長は全従業員に責任を持つべきだ。)
–
- “This is my accountability to the shareholders.”
(これが私の株主に対する責任です。)
– - “We demand greater accountability from our mayor.”
(より大きな責任を負うよう、我々は市長に求める。)
–
- “I am accountable only to my immediate boss.”
(私は直属上司に対してのみ、責任を負います。)
– - “Politicians should be accountable to voters.”
(政治家は有権者に対して責任を負うべきだ。)
– - “The city government should be held accountable.”
(市が責任を負うべきだ。)
– - “He must be held accountable for the accident.”
(その事故の責任は彼が負わなくてはならない。)
– - “Lawmakers are accountable to the Diet.”
(議員は議会に対して責任を負う。)
– - “Managers are accountable to the committee.”
(マネージャーたちは委員会に対して責任を負う。)
◆ ここまで、 英語学習者の視点より考察してきた。
締めくくりに、 応用編にトライ。
米国には、 有力な法律辞典が存在する。
–
” Black’s Law Dictionary ”
= 『 ブラックス法律辞典 』
–
1891年に発刊され、130年以上の歴史を誇る。
判例などに最も引用される辞典である。
英米法を学ぶ学生で、知らない者は皆無レベルの 存在感。
これから、” accountability ” 及び ” responsiblity”
の語釈をご紹介したい。
2024年時点における直近2版、 すなわち「 第10版 」 と 「 第11版 」
より全文転載する。
「 第10版 」は、2014年刊。
「 第11版 」は、2019年刊。
( Amazon Japan / Amazon US )
◆ ” accountability ” から見ていく。
【発音】 əkàuntəbíləti
【音節】 ac-count-a-bil-i-ty (6音節)
独立した大見出しとしては、 最新の第11版( 2019年刊 )で初登場 !
第10版( 2014年刊 )までは、見出しとして設けられていなかった。
旧版の文中には、ばんばん出ていたものの、第11版で格上げされた。
” accountability ” は、いわば 「 新語 」。
それでも、 初出は ” 18c “、すなわち「 18世紀 」とある。
” 18c ” とは、 ” 18th century ” で、「 18世紀 」の意。
辞書・事典類を含む、レファレンス本に共通の表記法。
–
–
“ Black’s Law Dictionary, 11th Edition ”
p. 24. (Thomson Reuters 2019).
–
全文である。
目を引くのは、 ” responsibility ” と同義扱いしている点。
相違点を探ろうとしてきた、 これまでの努力は徒労か。
がっくり拍子抜け。
–
–
–
◆ お次は、” responsibility “。
【発音】 rispɑ̀nsəbíləti
【音節】 re-spon-si-bil-i-ty (6音節)
–
–
“ Black’s Law Dictionary, 10th Edition ”
p. 1506. (Thomson Reuters 2014).
“ Black’s Law Dictionary, 11th Edition ”
pp. 1569 – 1570. (Thomson Reuters 2019).
–
これまた全文。
「 第10版 」から「 第11版 」までの5年間で増補されている。
実は、 小見出しの ” international responsibility “( 国際的な責任 )
に関する12行が追加されただけである。
事細かく言えば、” duty-bound “( 義務である )が、
” being answerable ” の2語の間に挿入されてもいる。
この ” being answerable ” こそが、 前出の ” accountability ”
の語釈の基幹をなしているわけだから、やはり同義に近い。
形容詞 ” answerable ” は、「 答えることのできる 」 「 解答可能な 」 。
同時に、叙述的用法として、行為や人に対する「 責任があって 」。
「 叙述的用法 ( predicative use )」の形容詞は、名詞を説明する。
「 名詞+動詞 」の後、または「 名詞 」の後に来るのが原則。
英和・和英では「 叙述 」、 英英では ” not before noun ”
などと表記されている。
名詞の前に置き、名詞を直接修飾する 「 限定的用法( attributive use )」
の対をなす。
” being duty-bound answerable ” は、
「 義務である責任があって 」 が直訳。
【発音】 dúːti
【音節】 du-ty (2音節)
【発音】 báund
【音節】 bound (1音節)
【発音】 ǽnsərəbəl
【音節】 an-swer-a-ble (4音節)
–
【参考】 ※ 外部サイト
・ 形容詞の「 叙述的用法 」と「 限定的用法 」
・ 形容詞の限定用法と叙述用法
・ 英語の連結動詞とは?
◇ 詳細は、 ” Please be aware that – ”
‐
◆ なによりも、 ここで申し上げたいことは、 教材以外の英文を
読みまくれば、 ご自分の英語力を把握しやすくなるということ。
いかがだろう。
これが、 世界一有名な英米法辞典。
法律家とその卵たちが用いる専門辞典であっても、案外、読めたのでは。
中級学習者 の場合、単語集・表現集などの市販の教材よりも、
リアルな英文を読む方が、 きっと 「 自信 」 がつく。
–
勇気を鼓して、
力量相応の英文を がんがん読もう
–
「 単語力 」 以上に 「 多読 」 を優先することを、 強く
お勧めする理由は、 ” no need “ にて詳らかにしている。
【参考】 ※ 外部サイト
- 日本語にはない「 責任 」に関する「 RESPONSIBILITY 」
と「 ACCOUNTABILITY 」の違いとは ?
https://www.huffingtonpost.jp/hisami-oshiba/responsibility-accountability_b_8046218.html
2015年08月27日付
- 責任( accountability = 落とし前 )
https://secblog.pipedohd.com/?p=277
2017年7月25日付
- Accountability vs. Responsibility ※ 英文
https://www.diffen.com/difference/Accountability_vs_Responsibility
Undated
- YouTube 公式ブログ : 4つの Responsibility
https://youtube-jp.googleblog.com/2019/09/4-responsibility-remove.html
2019年9月12日
【関連表現】
“ at fault ”
https://mickeyweb.info/archives/11563
(落ち度がある、 責任がある)
” take the blame ”
https://mickeyweb.info/archives/15094
( 責任を取る )
” unaccounted for ”
https://mickeyweb.info/archives/24131
( 行方不明である )
” by all accounts / from all accounts ”
https://mickeyweb.info/archives/25345
( 皆の話によれば、 誰に聞いても )