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Acting

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一時的な代行、  代理 

組織に属しておられる方であれば、出張などで
一時不在の管理職らのために、代理・代行が指名される
状況をご存知であろう。

通常業務が滞らないよう、 部下などに一時的に兼任させる。

【参照】  ” On duty / Off duty
→  collateral duties ( 付随的任務 )
→  temporary  duties ( 暫定職務 )( 一時的な職務 )

時には、 対外的な承認・決裁まで代行するので、 必ずしも
形式的な臨時職というわけでない。

責務の度合いは、 代行する職務内容に左右されるが、
兼任者の負担が増すのは確実。

外資系では 「  彼女は、今、アクティング  」 などと、
代行中の状態 ( 立ち位置・立場 ) を表現したりする。

■  兼務
■  兼任
■  代行
■  代理


つまり、 代わりにやっている状態が  ” acting “

【発音】  ǽktiŋ
【音節】  act-ing  (2音節)

「 状態 」 なので、 形容詞( adjective )。

形容詞ゆえ、 直接名詞を飾るのでなければ、
be動詞 」 に続くのが基本パターンになる。

※ 「 be動詞 」 =  be、am、was、been、will be、is、were、are

なぜ 「 be動詞 」 に続くのかは、 ” aware ”  にて事細かに解説している。 


” acting “

doing the work of another person for a short time.
SYN: temporary
( オックスフォード、 OALD9

※  SYN  =  synonym  =  同義語、下線は引用者

【発音】  ǽktiŋ
【音節】  act-ing  (2音節)


形容詞  ” acting ”  は、 代行する職位にかぶさる形が基本。

さらに、後付けカッコの表記も、頻繁に用いられる。

日本の一般紙でも、( 代行 )という後付けカッコを見かける。

その原文を確認すると、 ” acting ”  が大半である。

  •  acting captain
  •  acting chairperson
  •  acting manager
  •  acting head
  •  acting chief
  •  acting director
  •  acting president
  •  acting mayor ( 市長代理 )
  •  acting leader
  •  acting successor ( 後任者代行 )
  •  Acting Secretary of the Treasury ( 財務長官代行 )
  •  Acting Secretary of Defense ( 国防長官代行 )
    →  「 国防長官代行 」の実物署名を、 本稿末尾に掲載

< 後付けカッコ例 >

  •  chief (acting)
  •  manager (acting)
  •  Secretary of the Treasury (Acting)
  •  Secretary of the Navy (Acting)
    →  主要メディアは「 海軍長官代行 」と和訳

< 後付けカッコなし例 >

  •  Secretary of the Navy,  Acting
    →  主要メディアは「 海軍長官代行 」と和訳 


以上が代表例。

短期間だけ代わる際、メール末尾の署名欄には、こう書いたりする。


Taro Yama  (Mr.)
Customer Service Manager  (Acting)
through June 30, 2021


2021年6月30日まで、 期間限定の代行。

カスタマーサービスマネージャーを兼務することに
なった  Mr. Yama  が、 自分のメールに記載する。

「 カスタマーサービスマネージャー代行 」の立場で
出すメールに用いる署名であり、 本職用のメールでは、
自分本来の署名にして使い分ける。

無用の混乱を予防するためで、 社内外を問わず使える。

(Mr.) は性別を示し、 女性なら (Ms.) 。

日本名から性別を見分けられない相手を想定して、
(Mr.)  または  (Ms.)  と書くのだが、 必須ではないだろう。

後釜が予定通りに着任できない場合、
こっそり日付を延長することもある。

◆  職名の前または後に、” acting ” を挿入するだけだから、

そう難しくない。

それより、分かりにくいのは、役職と冠詞の関係。

< 冠詞の原則 >

■  官職・身分を表す語が 「 補語 」 となる時は、 無冠詞


「 補語 」 ( complement )

英文法では主語や目的語の性質・状態を表す
名詞・形容詞をいう。

( 広辞苑 第七版 )


補語は、 主語・目的語に対し、述語の働きをして、
意味を補う 名詞 または 形容詞

【発音】
名詞   kɑ́mpləmənt
動詞   kɑ́mpləmènt

【音節】
名詞   com-ple-ment  (3音節)
動詞   com-ple-ment  (3音節)

 

◇  英語の5文型の 「 C」 が、 ” complement “。

「 基本5文型 」 とは、 英文の分類を指すのではなく、
「 動詞 」 の種類を区別するための文法用語。


◆  上掲例にある ” acting ” 直後の単語
( president、chairperson など )が
補語になる場合、冠詞(a / an、the)は不要。

それが原則。

通常の「補語」例は下線部。

「 官職・身分を表す語 」が補語の例は、次の通り。

下線が補語で、先の原則に従い無冠詞となる。

< 注意点 >

その職にある人が一人に限られる場合、
または世襲か選挙などで選ばれる地位が条件となる。

私たち日本人学習者には分かりにくい、 役職の冠詞。

そこで、 下記の視点で考えてみるとよい。

◇ 「 官職・身分を表す語 」 が補語の場合、 その人を、

個々の 「 人間 」 ではなく、
単なる 「 役割
として見ている。

「 役割 」は、 抽象的 な概念

抽象的  =  カタチ( 形 )がない



カタチがない から、 冠詞不要

 

★ 「 人間扱い 」してない ★

 

 

■  英語の 「 無冠詞 」 の根本となる考え方

 

物品・人間などの カタチ は無視

 

物・人そのものはどうでもよく、 大事なのは「 役割 」

~ 「 外見よりは中身 」 に似通う考え方 ~


役割 」 「 機能 」 「 概念 」 「 用途

抽象的  な側面を見ている


無冠詞

zero  article

 

【参照】   ” in place “、 ” take action“、 ” paperwork

 

 

◆  最初は違和感しかないものの、 英語に親しみ続けると、 徐々に

「 無冠詞 」 の理屈が感覚的につかめるようになってくる。

抽象・概念に冠詞は不似合い 」 と自然に感じようになる。


これらに冠詞がつくと、「 なんか変 」 と逆に違和感を覚える。

中級学習者 のとば口にさしかかると、 大抵この域に達する。

悩んでいた頃の自分が不思議に思えるレベルに到達できる。

例外的な用法もあるとはいえ、 以上の基本は難しくはない。

 

【参照】  応用 : 冠詞は使い手の気持ちで変わる時も珍しくない

 


◆  上述の例では、

下線部は、 単なる「 役割 」で、「 機能 」に過ぎない

役割 」 「 機能 」は、 抽象的 な概念


カタチがない
  から、 冠詞不要

 

★ 「 人間扱い 」してない ★


なお、実際の使用例を多数調べると、
ここに記した < 冠詞の原則 > が厳密に適用
されていないケースも少なくない模様。

 

◆  職名・職位・肩書( job titles )は、組織により大差がある。

外国企業の場合、一般的な日本企業の呼び名に該当するものが
見当たらないことが多々ある。

それらしきものがあっても、地位の位置づけが異なること
が少なくない。

好例は、” vice president “。

副大統領 」または「 副社長 」が定訳。

日本のほとんどの企業では、副社長は役員職である。

ところが、一部の米国企業では、普通の管理職 を指す。

そのため、” vice presidents ” が社内にごろごろいたりする。

当然のことながら、 職級は格別高くない。

” vice president ” を寄こす旨の通知を受け、かしこまって
厚遇したところ、 実は課長相当だった。

こんな肩透かしを食らった経験が、 私にも何度かある。

外国企業の ” job titles ” は、和訳する者にとって、
なかなかの鬼門なのである。

職級の誤解・誤認は、 社内外問わず問題になる。

実態より、高すぎても低すぎても不都合が生じがち。

相手のポジションを勘案して対応を決めるのが、
ビジネス社会の慣習だからである。

詳細を組織に確認するのがベストだが、
それができない時は、無理に漢字に置き換えずに、
カタカナで表すこともしばしば。

外資系の企業に、 カタカナ職が多い一因は、
こうした  誤解を予防するため。

【参照】  カタカナで日本語の仲間入りさせて、リスク回避

組織に与えうる潜在リスクを考慮の上、
「 誤解されやすい 」和訳よりも、「 理解されにくい 」原文を
採用した結果であろう。

 

◆  ” acting ” は、不在時の 一時的な任務

上述OALD9の下線部、” a short time “、” temporary
が明記する。

常置ポジションである、
「 副〇〇 」( vice – )「 〇〇補佐 」( deputy – )
とは扱いが異なるのが一般的。

” acting ” の意味合いは、同じく形容詞の
「暫定」( interim )に似ている。

米アップル社の故スティーブ・ジョブズは、
1997年から2000年まで、「 暫定CEO 」を勤めた。

【参考】    ※   外部サイト


interim

intended to last for only a short time until 
somebody / something more permanent 
is found.

( オックスフォード、OALD9 )

【発音】  íntərim
【音節】  in-ter-im  (3音節)

 

  ざんてい【暫定】

本式に決定せず、しばらくそれと定めること。
臨時の措置。

( 広辞苑 第七版 )

※  下線は引用者

◆  加えて、名詞  “ relief ”  も使われる。

「 交代要員 」の意で、野球の救援投手「リリーフ」がこれ。

【発音】  rilíːf
【音節】  re-lief  (2音節)

一時的な「 代理 」以外にも、正式決定した「 後継者 」も意味する。

文面からはいずれとも解釈できるが、事情通なら判別可能。

動詞では、 “ relieve “( 交代する )。

自動詞と他動詞があるが、 他動詞中心。

自動詞の載っていない中型辞書もある。

【発音】  rilíːv
【音節】  re-lieve  (2音節)
【活用形】  relieves – relieved – relieved – relieving


補欠・補助的な役割を担う代替要員や代理を ” alternate “、
立場が上位で主要な担当者を ” primary ” として区分する。

【発音】  práimèri
【音節】  pri-ma-ry  (3音節)


※  2024年8月6日 アクセス


alternative “ より



◆  繰り返すと、 職名と職級は組織次第。

実に多彩を極める呼び名。

本稿の内容が該当しない組織も普通に存在する。

あくまでも、一般論をご紹介した。

 

しばし President 代行 やります

 

【関連表現】

 

 

【参考】    ※   外部サイト

リチャード・スペンサー国防長官代行の署名 ( 一般公開済み )

2019年7月15日付 米軍と国防総省の職員に向けた就任文書

件名 : 国防長官代行に就任

「 本日より( effective immediately )、国防長官代行に就任いたしました。 」

Letter from Acting Secretary of Defense
Richard V. Spencer to Pentagon

署名の直下 ” Acting ” に着目

【出典】
https://news.usni.org/2019/07/15/letter-from-acting-secretary-of-defense-richard-v-spencer-to-pentagon

 

 

 

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