Vulnerable to –
2022/05/23
〜 にやられやすい、 〜 に傷つきやすい
” vulnerable ” は、形容詞 のみの単語。
ビジネス・プライベート、口頭・文面を問わず、
日常的に多用される。
ぴたりと 該当する 日本語は 見当たらない
実に和訳しにくい。
おまけに、私たち日本人の苦手な「 L 」と「 R 」込み。
【発音】 vʌ́lnərəbl
【音節】 vul-ner-a-ble (4音節)
発音しずらいこともあり、相当とっつきにくい。
–
◆ 定訳のひとつが「 脆弱な( ぜいじゃくな ) 」。
日本工業規格( JIS ) の一規格から引用すると、
赤字部分が ” vulnerable ” の要点。
3.16 危害を受けやすい状態にある 消費者( vulnerable consumer )
年齢, 理解力, 身体的・精神的な状況又は限界, 製品の安全(3.14)
情報にアクセスできないなどの理由によって, 製品又はシステムから
の危害(3.1)のより大きな リスク(3.9)にさらされている 消費者。JIS Z 8051:2015
安全側面―規格への導入指針
https://kikakurui.com/z8/Z8051-2015-01.html–※ 赤字は引用者
–
JIS・ISOの工業規格やIT( 情報技術 )の分野では当たり前
でも、世間一般では今ひとつ馴染みのない日本語であろう。
次いで、 『 広辞苑 』 のお出まし。
–
ぜいじゃく【脆弱】
身体・器物・組織などが、 もろくよわい こと。
–
ー
ぜいじゃくせい【脆弱性】
もろくてよわい性質。コンピューターやネットワーク
などの情報システムでは、障害・事故・災害・不正使用・
攻撃・ 情報漏洩 などに対する もろさ。
ヴァルネラビリティー。
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『 広辞苑 第七版 』
新村 出(編) 岩波書店、 2018年刊
( ロゴヴィスタ アプリ版 )
–
※ ヴァルネラビリティー = vulnerability ( 後述 )
–
いずれも全文なのだが、やや物足りない。
よって、日本最大の国語辞典 と名高い 『 日国 』 を援用してみる。
全14巻( 全13巻+別巻 )。
–
『 日本国語大辞典 第二版 』 第7巻
小学館( 2001年刊 )
–
ともに全文である。
詳細な「 用例 」「 語源 」「 発音 」は、さすがに立派なものの、
「 もろくて弱い 」
こちらの「 語釈 」自体は簡素すぎ。
先の『 広辞苑 第七版 』( 2018年刊 )に軍配が上がる。
–
◆ とにかく、
たやすく壊れがちで、
ダメージを受けやすい
こんな「 状態 」が、形容詞 ” vulnerable “。
形容詞ゆえ、「 be動詞 」(※)に続くのが基本パターンになる。
(※) be、am、was、been、will be、is、
なぜ「 be動詞 」に続くのかは、” aware ” と ” vocal about ”
で詳述した。
英文法の基本であるので、ぴんとくる ことがなければ、
この機会におさらいしていただくとよいかもしれない。
–
–
◆ 英語の ” vulnerable ” は、実は難しくない。
多義でなく、意味合いは一貫しているからである。
■ ” vulnerable “
1. someone who is vulnerable
can be easily harmed or hurt.
2. a place, thing, or idea that is vulnerable
is easy to attack or criticize.
( LDOCE6、ロングマン )
–
■ ” vulnerable (to somebody / something) “
weak and easily hurt physically or emotionally.
( OALD9、オックスフォード )
–
■ ” vulnerable “
able to be easily physically, emotionally, or mentally
hurt, influenced, or attacked.
( CALD4、ケンブリッジ )
※ 下線は引用者
【発音】 vʌ́lnərəbl
【音節】 vul-ner-a-ble (4音節)
–
このように、3大学習英英辞典 ( EFL辞典 )の語釈は比較的シンプル。
にもかかわらず、
日本語の語彙にないタイプなので、
すんなり 理解しにくく、難しいと感じてしまう。
–
形容詞 ” unsolicited “、 名詞 ” threshold ” に共通する思い違い。
もったいない。
–
◇ ” vulnerable ” は、多岐に渡る分野に出てくる。
日本語に馴染みのない言葉のため、
和訳がまちまち で、混乱を引き起こす。
※ 例文参照
ー
実際のところ、 単語そのものの難しさではない。
–
「 脆弱 」 なデバイスをチェック
–
ー
◆ 語源は、ラテン語「 傷つける 」 ( vulnerabilis )。
この意味は一貫しているのだが、先述の通り、
和訳は一筋縄にはいかない。
押さえるべきは、次の 弱点。
◇ 精神・肉体不問 で、
「 傷つきやすい 」 「 やられやすい 」
vulnerable
–
■ 反意語は、否定の接頭辞 ” in “( 無、不、非 )を加えた、
” invulnerable “( 傷つくことのない )。
【発音】 invʌ́lnərəbl
【音節】 in-vul-ner-a-ble (5音節)
–
–
■ 名詞は、不可算名詞の ” vulnerability “( 脆弱性 )( 脆弱さ )。
- financial vulnerability ( 金銭的脆弱性 )
- cybersecurity vulnerability ( サイバーセキュリティの脆弱性 )
【発音】 vʌlnərəˈbɪləti
【音節】 vul-ner-a-bil-i-ty (6音節)
可算名詞扱いされる場合もあり、複数形は、” vulnerabilities “。
- “Apple has released iOS XX to address vulnerabilities with
older iOS versions. ”
(アップル社は、iOS の旧バージョンの脆弱性に対処するため、
iOS XX をリリースした。)
Wi-Fi の 「 脆弱性 」 をチェック
–
◆ 再び、 日本工業規格( JIS ) から引用。
3.77 ぜい弱性( vulnerability )
一つ以上の脅威(3.74)によって 付け込まれる
可能性のある,資産又は管理策(3.14)の 弱点。JIS Q 27000:2019
情報技術−セキュリティ技術−情報セキュリティ マネジメントシステム−用語
https://www.kikakurui.com/q/Q27000-2019-01.html※ 赤字は引用者
–
◆ 一般向けの「 カタカナ語辞典 」では、
『 コンサイス カタカナ語辞典 第5版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 2020年刊
<三省堂HP>
–
語釈全文である。
この「 第5版 」は、2020年9月10日に発行された。
それから、ちょうど26年前の1994年9月10日に発行
された「 初版 」の全文はこちら。
–
『 コンサイス カタカナ語辞典 初版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 1994年刊
–
「 ヴァ 」でなく、「 バ 」を引き継いでいるのは、割かし新鮮。
前出『 広辞苑 第七版 』( 2018年刊 )では、「 ヴァ 」。
「 急務 」( ★ )は、1994年当時から現在に至るまで、
世界各国の課題であり続けている。
–
■ 主な同義語は、” fragile “(壊れやすい)。
【発音】 frǽdʒəl
【音節】 frag-ile (2音節)
–
■ 主な反義語は、” resilient “(立ち直りが早い)。
【発音】 rizíliənt
【音節】 re-sil-ient (3音節).
–
これまた和訳しにくいためか、両方ともカタカナで
日本のメディアに登場する機会が増えている。
すなわち、「 フラジャイル 」と「 レジリエント 」。
–
■ さらに、その名詞形の ” resilience ” 「 レジリエンス 」。
「 立ち直る力 」 または 「 回復力 」と訳されることが多い。
不可算名詞である。
【発音】 rizíliəns
【音節】 re-sil-ience (3音節)
◆ 字面を見ても、 まったく手掛かりがなく、 困ったカタカナ語。
” vulnerable ” と同様の理由で、 どうにも和訳しがたいのである。
翻訳者として、 もう情けなく、 心苦しい。
けれども、「 言語が違うから、やむを得ないケース 」 と考えるしかない。
” integrity ” に等しく、 翻訳者泣かせの厄介な英単語たち。
【参照】 日本語と英語の違い
–
繰り返すと、
ぴたりと 該当する 日本語は 見当たらない
実に和訳しにくいわ。
◆ ” vulnerable ” と同じく、 ラテン語由来。
- 「 壊れやすい 」 ( frangilis )
- 「 跳ね返る 」 ( resiliēns )
語源に忠実であり、この点も ” vulnerable ” と一緒。
ー
イメージは分かりやすい。
イメージから会得するとよい。
” vulnerable ” に重なるイメージ
–
- “Protect the vulnerable parts of your body.”
( 自分の身体の急所を守りなさい。)
vulnerable ( 傷つきやすい ) + parts ( 部位 )
「 急所 」
” private parts ” ( 陰部 ) に限らず、 頭部や顔も含む。–
◆ 表題の ” vulnerable to ” は、 対象の前置詞 ” to “( ~ に )を伴い、
-
~ に 傷つきやすい
-
~ に やられやすい
-
~ に 弱い
–
◆ 繰り返すと、” vulnerable ” は、
日本語にずばり該当する言葉がないゆえに、
混乱を招く単語の典型。
このような場合、
和訳をざっと学び、
その後は多くの英文に触れて、
イメージを強化する方が早かったりする。
なにせ日本語に存在しないのだから、 その方が現実的。
–
【参照】
- 日本語にない文法は、原文で慣れる
– - 中級に達したら、「 単語力 」 以上に 「 多読 」 を優先
—” no need ”、 「自分の世界」が広がる英語ー
◆ 日常的によく使われる印象があるが、
こちらが形容詞 ” vulnerable ” の立ち位置。
- 重要度 : <3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度 : <2001~3000語以内>
- 話し言葉の頻出度 : 3000語圏外
( LDOCE6 の指標より )
英単語全体における位置づけなので、
そこそこ重要であると言える。
現に、ウェブサイトを 英文検索 すれば、
多彩な用法に出会える。
–
対となる日本語がないなら、まずは
イメージで把握してしまおう。
受験勉強や通訳翻訳者でないならば、
必ずしも和訳する必要はない。
–
これが 「 英語のまま理解する 」 ということかもしれない。
【参照】
- ” perceive ”
(知覚する、気づく)
– - ” once and for all ”
(これを最後に、今度限り、きっぱりと)
ー
◆ ” vulnerable ” は、文脈次第で和訳がかなり違ってくる。
以下の例文が理解できれば、 基本はOK
–
どれも頻出かつ代表的な使われ方。
和訳は一例。
- “Erika was vulnerable to drug addiction.”
(エリカは薬物依存症に弱かった。)
(エリカは薬物依存症に負けやすかった。)
(エリカは薬物依存症に屈しやすかった。)
(エリカは薬物依存症に陥りやすかった。)
(エリカは薬物依存症になりやすかった。)
(エリカは薬物依存症にかかりやすかった。)
(エリカは薬物依存症に冒されやすかった。)
(エリカは薬物依存症にやられやすかった。)
(エリカは薬物依存症にむしばまれやすかった。)
(エリカは薬物依存症にとりつかれやすかった。)
- “vulnerable people”
(弱い立場の人々)
(傷つきやすい人々)–
- “a vulnerable city”
(攻撃を受けやすい都市)
– - “a vulnerable position”
(弱い立場)
– - “Protecting the vulnerable”
(弱い立場の人々を守る) ※ ニュース見出し
–
—※ 形容詞を集団の複数扱いする 「 ~ な人たち 」。
——” the old “、 ” the poor “、 ” the weak “、 ” the sick ”
——と同じ用法。
– - “Unattended children are vulnerable.”
(付き添われていない子たちは狙われやすい。)
– - “Every organization is vulnerable to hacking.”
(どんな組織もハッキングに狙われやすい。)
– - “They are vulnerable to Alzheimer’s disease.”
(彼らはアルツハイマー病にかかりやすい。)
– - “Mary’s age made her vulnerable to COVID.”
(年齢ゆえに、メアリーはコロナウイルス感染症
にやられやすくなっていた。)
– - “Smokers are vulnerable to lung cancer.”
(喫煙者は肺がんになりやすい。)
– - “Your computer is vulnerable to fake websites.”
(あなたのコンピューターは、偽サイトの被害を受けやすい。)
– - “She is vulnerable to criticism.”
(彼女は批判に弱い。)
– - “His story was crappy and vulnerable to ridicule.”
(彼の話はくだらなくて、馬鹿にされやすかった。)
(彼の話はくそすぎて、笑われてもしかたなかった。)
– - “We are vulnerable to a takeover.”
(我が社は買収されやすい状態にある。)
(我が社は乗っ取りされやすい状態にある。)
– - “Your device is vulnerable to fake websites.”
(あなたのデバイスは偽ウェブサイトの被害を受けやすい。)
(あなたのデバイスは偽ウェブサイトに狙われやすい。)
– - “A person’s blood type could affect how vulnerable
they are to developing the disease.”
(この病気にどれくらいかかりやすいかは、血液型
が影響を与えうる。)
– - “I was vulnerable to racial slurs.”
(私は人種的中傷に弱かった。)
(私は人種的中傷を受けやすかった。)
– - “I felt vulnerable.”
(自分が無防備に感じた。)
– - “She is vulnerable to stress.”
(彼女はストレスに弱い。)
(ストレスにやられやすい。)
–
–
◆ 最もしっくり合うのは 「 やられやすい 」 だと私は考えている。
本稿のすべての例文で 「 やられやすい 」 と訳しても、 ほぼほぼ通じる。
言い回しとして、 時に微妙だとしても、 理解には十分役立つ。
とりあえず、「 やられやすい 」 とだけ覚えておけば、気が楽。