Vulnerable to –
2021/02/19
〜にやられやすい、 〜に傷つきやすい
“vulnerable” は、形容詞 のみの単語。
ビジネス・プライベート、口頭・文面を問わず、
日常的に多用される。
ぴたりと該当する日本語は見当たらない
実に和訳しにくい。
おまけに、私たち日本人の苦手な「L」と「R」込み。
【発音】 vʌ́lnərəbl
【音節】 vul-ner-a-ble (4音節)
発音しずらいこともあり、相当とっつきにくい。
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◆ 定訳のひとつが「 脆弱な(ぜいじゃくな)」。
日本工業規格(JIS)の一規格から引用すると、
赤字部分が “vulnerable” の要点。
3.16 危害を受けやすい状態にある消費者(vulnerable consumer)
年齢,理解力,身体的・精神的な状況又は限界,製品の安全(3.14)
情報にアクセスできないなどの理由によって,製品又はシステムから
の危害(3.1)のより大きなリスク(3.9)にさらされている消費者。JIS Z 8051:2015
安全側面―規格への導入指針
https://kikakurui.com/z8/Z8051-2015-01.html–
JIS・ISOの工業規格やIT(情報技術)の分野では当たり前
でも、世間一般では今ひとつ馴染みのない日本語であろう。
次いで、『広辞苑』 のお出まし。
ぜいじゃく【脆弱】
身体・器物・組織などが、 もろくよわい こと。
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ぜいじゃくせい【脆弱性】
もろくてよわい性質。コンピューターやネットワーク
などの情報システムでは、障害・事故・災害・不正使用・
攻撃・情報漏洩などに対する もろさ。
ヴァルネラビリティー。
(広辞苑 第七版)
※ ヴァルネラビリティー = vulnerability (後述)
いずれも全文なのだが、やや物足りない。
よって、日本最大の国語辞典と名高い 『日国』 を援用してみる。
『日本国語大辞典 第二版』第7巻、p. 1189、
小学館(2001年刊)より転載
ともに全文である。
詳細な「用例」「語源」「発音」は、さすがに立派なものの、
「 もろくて弱い 」
こちらの「語釈」自体は簡素すぎ。
先の『広辞苑 第七版』(2018年刊)に軍配が上がる。
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◆ とにかく、
たやすく壊れがちで、
ダメージを受けやすい
こんな「状態」が、形容詞 “vulnerable”。
形容詞ゆえ、「be動詞」(※)に続くのが基本パターンになる。
(※) be、am、was、been、will be、is、
なぜ「be動詞」に続くのかは、”aware”、”vocal about”、
“conclusive” で詳述した。
英文法の基本であるので、ぴんとくることがなければ、
この機会におさらいしていただくとよいかもしれない。
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◆ 英語の “vulnerable” は、実は難しくない。
多義でなく、意味合いは一貫しているからである。
■ “vulnerable“
1. someone who is vulnerable
can be easily harmed or hurt.
2. a place, thing, or idea that is vulnerable
is easy to attack or criticize.
(LDOCE6、ロングマン)
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■ “vulnerable (to somebody / something) “
weak and easily hurt physically or emotionally.
(OALD9、オックスフォード)
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■ “vulnerable“
able to be easily physically, emotionally, or mentally
hurt, influenced, or attacked.
(CALD4、ケンブリッジ)
※ 下線は引用者
【発音】 vʌ́lnərəbl
【音節】 vul-ner-a-ble (4音節)
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このように、3大学習英英辞典(EFL辞典)の語釈は比較的シンプル。
にもかかわらず、
日本語の語彙にないタイプなので、
すんなり理解しにくく、難しいと感じてしまう。
この点、形容詞 “unsolicited“、名詞 “threshold” に
共通する思い違い。
あぁ、もったいない。
◇ “vulnerable” は、多岐に渡る分野に出てくる。
日本語に馴染みのない言葉のため、
和訳がまちまちで、混乱を引き起こす。
※ 例文参照
ー
実際のところ、単語そのものの難しさではない。
ー
ー
◆ 語源は、ラテン語「 傷つける 」 (vulnerabilis)。
この意味は一貫しているのだが、先述の通り、
和訳は一筋縄にはいかない。
押さえるべきは、次の弱点。
◇ 精神・肉体不問で、
「 傷つきやすい 」 「 やられやすい 」
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■ 反意語は、否定の接頭辞 “in“(無、不、非)を加えた、
“invulnerable“(傷つくことのない)。
【発音】 invʌ́lnərəbl
【音節】 in-vul-ner-a-ble (5音節)
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■ 名詞は、不可算名詞の “vulnerability“(脆弱性)(脆弱さ)。
- financial vulnerability (金銭的脆弱性)
- cybersecurity vulnerability (サイバーセキュリティの脆弱性)
【発音】 vʌlnərəˈbɪləti
【音節】 vul-ner-a-bil-i-ty (5音節)
可算名詞扱いされる場合もあり、複数形は、”vulnerabilities”。
Wi-Fi の「 脆弱性 」をチェック
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◆ 再び、日本工業規格(JIS)から引用。
3.77 ぜい弱性(vulnerability)
一つ以上の脅威(3.74)によって付け込まれる
可能性のある,資産又は管理策(3.14)の弱点。JIS Q 27000:2019
情報技術−セキュリティ技術−情報セキュリティ マネジメントシステム−用語
https://www.kikakurui.com/q/Q27000-2019-01.html
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◆ 一般向けの「カタカナ語辞典」では、
『 コンサイス カタカナ語辞典 第5版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 2020年刊
<三省堂HP>
語釈全文である。
この「第5版」は、2020年9月10日に発行された。
それから、ちょうど26年前の1994年9月10日に発行
された「初版」の全文はこちら。
『 コンサイス カタカナ語辞典 初版 』
三省堂編修所(編集)三省堂、 1994年刊
「ヴァ」でなく、「バ」を引き継いでいるのは、割かし新鮮。
前出『広辞苑 第七版』(2018年刊)では、「ヴァ」。
「急務」( ★ )は、1994年当時から現在に至るまで、
世界各国の課題であり続けている。
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■ 主な反義語は、”resilient“(立ち直りが早い)。
【発音】 rizíliənt
【音節】 re-sil-ient (3音節)
–
–
■ 主な同義語は、”fragile“(壊れやすい)。
【発音】 frǽdʒəl
【音節】 frag-ile (2音節)
ー
イメージは分かりやすい。
イメージから会得するとよい。
“vulnerable” に重なるイメージ
–
- “Protect the vulnerable parts of your body.”
(自分の身体の急所を守りなさい。)
vulnerable (傷つきやすい) + parts (部位)
「急所」
“private parts“(陰部)に限らず、頭部や顔も含む。–
◆ 表題の “vulnerable to” は、対象の前置詞 “to”(~に)を伴い、
-
~に 傷つきやすい
-
~に やられやすい
-
~に 弱い
繰り返すと、”vulnerable” は、
日本語にずばり該当する言葉がないゆえに、
混乱を招く単語の典型。
このような場合、
和訳をざっと学び、
その後は多くの英文に触れて、
イメージを強化する方が早かったりする。
なにせ日本語に存在しないのだから、その方が現実的。
【参照】 日本語にない文法は、原文で慣れる
ー
◆ 日常的によく使われる印象があるが、
こちらが形容詞 “vulnerable” の立ち位置。
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:<2001~3000語以内>
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
(LDOCE6 の指標より)
英単語全体における位置づけなので、
そこそこ重要であると言える。
現に、ウェブサイトを英文検索すれば、
多彩な用法に出会える。
対となる日本語がないなら、まずは
イメージで把握してしまおう。
受験勉強や通訳翻訳者でないならば、
必ずしも和訳する必要はない。
これが「英語のまま理解する」ということかもしれない。
【参照】
- “perceive”
(知覚する、気づく)
– - “once and for all”
(これを最後に、今度限り、きっぱりと)
ー
◆ “vulnerable” は、文脈次第で和訳がかなり違ってくる。
以下の例文が理解できれば、基本はOK
どれも頻出かつ代表的な使われ方。
和訳は一例。
- “Erika was vulnerable to drug addiction.”
(エリカは薬物依存症に弱かった。)
(エリカは薬物依存症に負けやすかった。)
(エリカは薬物依存症に屈しやすかった。)
(エリカは薬物依存症に陥りやすかった。)
(エリカは薬物依存症になりやすかった。)
(エリカは薬物依存症にかかりやすかった。)
(エリカは薬物依存症に冒されやすかった。)
(エリカは薬物依存症にやられやすかった。)
(エリカは薬物依存症にむしばまれやすかった。)
(エリカは薬物依存症にとりつかれやすかった。)
- “vulnerable people”
(弱い立場の人々)
(傷つきやすい人々)–
- “a vulnerable city”
(攻撃を受けやすい都市)
– - “a vulnerable position”
(弱い立場)
– - “Unattended children are vulnerable.”
(付き添われていない子たちは狙われやすい。)
– - “Every organization is vulnerable to hacking.”
(どんな組織もハッキングに狙われやすい。)
– - “They are vulnerable to Alzheimer’s disease.”
(彼らはアルツハイマー病にかかりやすい。)
– - “Smokers are vulnerable to lung cancer.”
(喫煙者は肺がんになりやすい。)
– - “Your computer is vulnerable to fake websites.”
(あなたのコンピューターは、偽サイトの被害を受けやすい。)
– - “She is vulnerable to criticism.”
(彼女は批判に弱い。)
– - “His story was crappy and vulnerable to ridicule.”
(彼の話はくだらなくて、馬鹿にされやすかった。)
(彼の話はくそすぎて、笑われてもしかたなかった。)
– - “We are vulnerable to a takeover.”
(我が社は買収されやすい状態にある。)
(我が社は乗っ取りされやすい状態にある。)
– - “Your device is vulnerable to fake websites.”
(あなたのデバイスは偽ウェブサイトの被害を受けやすい。)
(あなたのデバイスは偽ウェブサイトに狙われやすい。)
– - “A person’s blood type could affect how vulnerable
they are to developing the disease.”
(この病気にどれくらいかかりやすいかは、血液型
が影響を与えうる。)
– - “I was vulnerable to racial slurs.”
(私は人種的中傷に弱かった。)
(私は人種的中傷を受けやすかった。)
– - “I felt vulnerable.”
(自分が無防備に感じた。)
– - “She is vulnerable to stress.”
(彼女はストレスに弱い。)
(ストレスにやられやすい。)
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◆ 最もしっくり合うのは「 やられやすい 」だと私は考えている。
本稿のすべての例文で「 やられやすい 」と訳しても、ほぼほぼ通じる。
言い回しとして、時に微妙だとしても、理解には十分役立つ。
とりあえず、「 やられやすい 」とだけ覚えておけば、気が楽。