プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Acting

      2021/09/07

一時的な代行、  代理 

組織に属しておられる方であれば、出張などで
一時不在の管理職のために、代理・代行が指名される
状況をご存知であろう。

通常業務が滞らないよう、部下らに一時的に兼任させる。

時には、承認・決裁まで代行するので、必ずしも形式的な
臨時職というわけでない。

責務の度合いは、代行する職務内容に左右されるが、
兼任者の負担が増すのは確実。

外資系では「 彼女は、今、アクティング 」などと言って、
代行中の状態( 立ち位置・立場 )を表現したりする。

  兼務
  兼任
  代行
  代理

つまり、代わりにやっている状態が  ” acting “

【発音】   ǽktiŋ
【音節】   act-ing  (2音節)

「状態」を示すので、形容詞(adjective)。

形容詞ゆえ、直接名詞を飾るのでなければ、
be動詞 」に続くのが基本パターンになる。

※ 「 be動詞 」= be、am、was、been、will be、is、were、are

なぜ「 be動詞 」に続くのかは、” aware ” や ” vocal about ” で詳述した。 

” acting “

doing the work of another person for a short time.
SYN: temporary
(オックスフォード、OALD9

※  SYN  =  synonym  =  同義語、下線は引用者

【発音】   ǽktiŋ
【音節】   act-ing  (2音節)


形容詞 “acting” は、代行する職位にかぶさる形が基本。

さらに、後付けカッコの表記も、頻繁に見かける。

  • acting captain
  • acting chairperson
  • acting manager
  • acting head
  • acting chief
  • acting director
  • acting president
  • acting mayor (市長)
  • acting leader
  • acting successor (後任者)
  • Acting Secretary of Defense (国防長官代行)
    →  「 国防長官代行 」の実物署名を、本稿末尾に掲載

< 後付けカッコ例 >

  • chief (acting)
  • manager (acting)
  • Secretary of the Navy (Acting)
    →  主要メディアは「海軍長官代行」と和訳

< 後付けカッコなし例 >

  • Secretary of the Navy,  Acting
    →  主要メディアは「海軍長官代行」と和訳 

以上が代表例。

短期間だけ代わる際、メール末尾の署名には、こう書いたりする。

Taro Yama  (Mr.)
Customer Service Manager  (Acting)
through June 30, 2021

2021年6月30日まで、期間限定の代行。

社内外を問わず使える。

◆  職名の前または後に、” acting ” を挿入するだけだから、
そう難しくないだろう。

それより、分かりにくいのは、役職と冠詞の関係。

< 冠詞の原則 >

  官職・身分を表す語が 「 補語 」 となる時は、 無冠詞

「 補語 」 ( complement )

英文法では主語や目的語の性質・状態を表す
名詞・形容詞をいう。

(広辞苑 第七版)

→  主語・目的語に対し、述語の働きをして、
意味を補う 名詞 または 形容詞

【発音】
名詞    kɑ́mpləmənt
動詞    kɑ́mpləmènt

【音節】
名詞    com-ple-ment  (3音節)
動詞    com-ple-ment  (3音節)

◇  英語の5文型の 「 C 」 こそ、 ” complement “。

  •  第2文型    SVC  ( 主語+動詞+補語
  •  第5文型    SVOC  ( 主語+動詞+目的語+補語


◆  上掲例にある “acting” 直後の単語
( president、chairperson など )が
補語になる場合、冠詞(a / an、the)は不要。

それが原則。

通常の「補語」例は下線部。

  • Mary is honest.(形容詞)
  • He is a teacher.(名詞)
  • She made him mad.(形容詞)

「官職・身分を表す語」が補語の例は、次の通り。

  • He was elected leader.
  • She was appointed chairperson.
  • His father is president of this firm.
  • We selected her captain.
  • I was removed as head of the group.

下線が補語で、先の原則に従い無冠詞となる。

< 注意点 >

その職にある人が一人に限られる場合、
または世襲か選挙などで選ばれる地位が条件となる。

私たち日本人学習者には分かりにくい、役職の冠詞。

そこで、こんな視点で考えてみるとよい。

◇ 「 官職・身分を表す語 」が補語の場合、その人を、

個々の「 人間 」としてではなく、
単なる「 役割
として見ている。

「役割」は  抽象的  な概念  =  冠詞は不要

抽象的  =  カタチがない

★ 「 人間扱い 」 していない  ★

【参照】   ” in place “、 ” take action “、 ” paperwork

上述の例では、

  • He was elected leader.
    →  選ばれた「リーダー」の役割
  • She was appointed chairperson.
    →  選ばれた・唯一の「会長」の役割
  • His father is president of this firm.
    →  唯一の「社長」の役割
  • We selected her captain.
    →  選ばれた・唯一の「キャプテン」の役割

下線部は、単なる「役割」で、「機能」に過ぎない

役割 」 「 機能 」は、抽象的 な概念

 カタチがない から、冠詞も不要

★ 「 人間扱い 」 していない  ★

なお、実際の使用例を多数調べると、
ここに記した<冠詞の原則>が厳密に適用
されていないケースも少なくない。

 

◆  職名・職位・肩書(job titles)は、組織により大差がある。

外国企業の場合、一般的な日本企業の職名に該当するものが
見当たらないことが多々ある。

それらしきものがあっても、地位の位置づけが異なること
が少なくない。

好例は、” vice president “。

副大統領 」または「 副社長 」が定訳。

日本のほとんどの企業では、副社長は役員職である。

ところが、一部の米国企業では、普通の管理職 を指す。

そのため、” vice presidents ” が社内にごろごろいたりする。

当然のことながら、職級は格別高くない。

” vice president ” を寄こすと連絡を受け、かしこまって
厚遇したところ、実は課長相当だった。

こんな肩透かしを食らった経験が、私にも何度かある。

外国企業の ” job titles ” は、和訳する者にとって、
なかなかの鬼門なのである。

職級の誤解・誤認は、社内外問わず問題になる。

実態より、高すぎても低すぎても不都合が生じがち。

相手のポジションを勘案して対応を決めるのが、
ビジネス社会の慣習だからである。

詳細を組織に確認するのがベストだが、
それができない時は、無理に漢字に置き換えずに、
カタカナで表すこともしばしば。

外資系の企業に、カタカナ職が多い一因は、
こうした 誤解を予防するため。

組織に与えうる潜在リスクを考慮の上、
「誤解されやすい」和訳よりも、「理解されにくい」原文を
採用した結果であろう。

 

◆  “acting” は、不在時の 一時的な任務

上述OALD9の下線部、” a short time “、” temporary
が明記する。

常置ポジションである、
「 副〇〇 」( vice – )「〇〇補佐」( deputy – )
とは扱いが異なるのが一般的。

“acting” の意味合いは、同じく形容詞の
「暫定」( interim )に似ている。

  •  interim CEO
  •  interim executive director
  •  interim president
  •  interim prime minister

米アップル社の故スティーブ・ジョブズは、
1997年から2000年まで、「 暫定CEO 」を勤めた。

【参考記事】      ※   外部サイト

interim

intended to last for only a short time until 
somebody / something more permanent 
is found.

(オックスフォード、OALD9)

【発音】   íntərim
【音節】   in-ter-im  (3音節)

 

  ざんてい【暫定】

本式に決定せず、しばらくそれと定めること。
臨時の措置。

(広辞苑 第七版)

※  下線は引用者


◆  加えて、名詞  ” relief ”  も使われる。

「 交代要員 」の意で、野球の救援投手「リリーフ」がこれ。

【発音】   rilíːf
【音節】   re-lief  (2音節)

一時的な「 代理 」以外にも、正式決定した「 後継者 」も意味する。

文面からはいずれとも解釈できるが、事情通なら判別可能。

  •  “My relief will be Mr. X.”
    (私の代理は、Xさんとなります。)
    (私の後継者は、Xさんとなります。)

動詞では、”relieve”(交代する)。

自動詞と他動詞があるが、他動詞中心。
自動詞の載っていない中型辞書もある。

【発音】   rilíːv
【音節】   re-lieve  (2音節)
【活用形】  relieves – relieved – relieved – relieving

  • “X relieved Y as Captain.”
    (XはYとキャプテンを交代した。)
    (XはYの次のキャプテンになった。)
  • “X relieved Y.”
    (XはYと交代した。)
    (XはYの後任となった。)

◆  繰り返すが、職名と職級は組織次第。

実に多彩を極める。

本稿の内容が該当しない組織も普通に存在する。

あくまでも、一般論をご紹介した。

 

しばし President 代行

 

  • “He became acting president while
    his father was in the hospital.”
    (父親の入院中、彼が社長代理となった。)
  • “He has been appointed acting division 
    head until a replacement can be found.”
    (後任が見つかるまで、彼がディビジョンヘッド
    代行となった。)

  • “They accomplished everything under acting captain
    T. Johnson.”
    (キャプテン代理のT. ジョンソンの指揮下で、
    彼らはすべてを成し遂げた。)

  • “She stepped in as acting chief.”
    (彼女がチーフ代行となった。)

  • “I will be the acting director until then.”
    (それまで私がディレクター代理となります。)
  • “Her acting successor is her son.”
    (彼女の息子が後任代理である。)

【関連表現】

“fill in for”
https://mickeyweb.info/archives/6085
(~の代役を務める)

“on behalf of”
https://mickeyweb.info/archives/21017
(~の代理として、~を代表して)

“step down”
https://mickeyweb.info/archives/21087
辞任する

“sit in for – ”
(~の代役を務める)

 

 

【参考記事】      ※   外部サイト

リチャード・スペンサー国防長官代行の署名 ( 一般公開済み )

2019年7月15日付 米軍と国防総省の職員に向けた就任文書

件名 : 国防長官代行に就任

「 本日より( effective immediately )、国防長官代行に就任いたしました。 」

署名の直下 ” Acting ” に着目

【出典】   https://news.usni.org/2019/07/15/letter-from-acting-secretary-of-defense-richard-v-spencer-to-pentagon

 

 

 

 

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