プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

To the extent possible

      2021/10/18

可能な限り、   できる限り

堅めのビジネス文書でよく見る < 4語ワンセット >。

文頭・文中・文末を問わない。

主な定訳は、

  •  可能な限り
  •  できる限り
  •  できるだけ
  •  できる範囲で
  •  可能な範囲で

” to the extent possible ” をご紹介する理由は、
使いやすく、応用範囲が広いから。

後述の表現と異なり、個別具体的な形容詞や副詞、
活用形、時制などを考える必要はない。

< 4語ワンセット >だけで済んでしまうのである。

◆  こうした強みは、次の2つに共通する。


主に文書で使うが、いずれも < ビジネス慣用句 >
で、筆舌不問が原則。

カジュアルトークには、やや場違いだが、
ビジネストークでは、違和感はない感じ。

日常用途であれば、次の類似表現の方が一般的。

< 「 可能な限り 」「 できるだけ 」 の主な英訳  >

  • as far as possible
    as much as possible
    ( できる限り )
  • as ______as possible
    ※  下線  =  形容詞・副詞・形容詞を伴う名詞
    【例】
    ・ fast ( できるだけ速い )
    ・ large ( できるだけ大きい )
    ・ long ( できるだけ長い )
    ・ many ( できるだけ多い )
    ・ often ( しょっちゅう )    ※  副詞
    ・ soon ( できるだけ速やかに )    ※  副詞
    ・ thoroughly ( 徹底的に )    ※  副詞
  • as ______as practical
    ※  下線  =  形容詞・副詞・形容詞を伴う名詞
    ※  【例】 と同じ
    ※  「 現在の条件で、実行可能な限り 」の意
  • the most ______ possible
    ※  下線には形容詞

    ・ accurate ( できるだけ正確に )
    ・ thorough ( 徹底的に )

  • as ______as XX can
  • as ______as XX could
    ※  XX  =  主格、下線には形容詞
    【例】 とほぼ同じだが、次の例外もある

    best ( できるだけベストで )
    △  as best as possible
    ○  as best as you can imagine
    ○  as best as I could run
  • as ______as XX possibly can
  • as ______as XX possibly could
    ※  XX  =  主格、下線には形容詞

    ・ “I will study as hard as I possibly can.”
    ( できる限り頑張って勉強します。)

    ・ “Call me as soon as you possibly could.”
    ( できるだけ早めに私に電話して。)
  • as best XX can
  • as best XX could
    ※  XX  =  主格

    ・ “He is preparing as best he can.”
    ( 彼はできる限り準備している。)

    ・ “She answered their questions as best she could.
    ( 彼らの質問に彼女はできるだけ答えた。)
  • to the best of YY ability
    ※  YY  =  所有格

    ・ “I will cooperate to the best of my ability.”
    ( 自分に可能な限り協力します。)

  • maximize / minimize
    ( 最大限にする ・ 最小限にする )

    ・ “I need to maximize the chances of
    receiving a scholarship.”
    ( 奨学金受給の可能性を最大限にする
    必要がある。)

    ・ “We want to minimize the likelihood
    of food poisoning.”
    ( 食中毒の可能性を最小限に抑えたい。)


◆  日本語は「 できるだけ 」で済むが、英語の場合、
ざっと挙げても数多い。

ほとんどが基本で、中級学習者 であれば、
一度は目にされたことがあるはず。

「 できるだけ 」の意味が漠として、厳密さを欠くため、
言い回しが多彩に広がったとも考えられる。


◆  < 程度 > 表現は、 一般実務でも多様性に富む。

国家行政の場でも、混乱が見られる模様。

一例を挙げると、

「 できるだけ速やかに 」

カナダ政府の規定する連邦法( Federal legislation )
で採用されている表現の代表格 がこちら。

  •  as soon as possible
  •  as soon as practicable
  •  as soon as reasonably practicable
  •  as soon as practical
  •  forthwith       ※  直ちに( 副詞 )
  •  immediately       ※  至急に( 副詞 )
  •  without delay
  •  within __ days

現在、標準化と統一を目指している様子だが、
推奨または努力義務の段階にとどまっている。

【 出典 】  カナダ司法省
Describing Time Periods
http://canada.justice.gc.ca
※  Date modified :


◆  表現の標準化は、産業分野を問わず課題となる。

私はこれまで産学官軍を渡ってきたが、どの組織も
「  用語統一  」に手を焼いていた。

弊サイトで何度も触れているように、

人間の 感覚 には、驚くほど差がある。

言語や文化が異なると、 なおさらだ。

ある程度の 見解の一致 が望めなければ、
円滑に実行できず、 運用に支障が出る。

とりわけ、時間感覚 に違いがあるのは確実。

この意識の差異の厄介さは、 繰り返し取り上げてきた。

私自身が、 もう散々な目に遭ってきているからである。

例えば、 以下で説明している。

仕事で「 できるだけ速やかに 」と命じられれば、
「 当日中 」と構える人も、「 今週中 」と考える人もいる。
「 今月中 」もありうるだろう。

個人差が目立つとはいえ、おいそれと修正しようがない。

したがって、事前に明確な日時を取り決めておかないと、
泣きを見る。

異文化理解力 」をもろに試されるのが、時間の認識である。


◆  表題の「 できる限り 」も似たようなもの。

努力の度合いの物差しは、人それぞれ。

ことによると、「 できる限り 」の含むあいまいさに乗じて、
自分に都合よく解釈し、サボることもできる。

そのため法律では、定義を明文化したり、判例を適用したりして、

基準に一定の拘束力をもたせて、あいまいさを排除

しようとしている。

◆  しかし、実際の英文契約書において、
” to the extent possible ” を使うことはままある。

その狙いは、この文言を挿入することで、

■  あえて不明瞭にしておき、 履行責任を回避する。

 たとえ履行できなくとも、契約上の不履行
としての 
賠償責任を負わない ようにする。

「 できる限り 」のことさえ実行すれば、
 基本的に 契約違反を問えなくなるようにする。


◆  再度掲げると、” to the extent possible ” の

一般ビジネス用法は、

  •  可能な限り
  •  できる限り
  •  できるだけ
  •  できる範囲で
  •  可能な範囲で

◇  to は、範囲の前置詞「 ~ まで 」。

◇  extent は、不可算名詞 のみの単語。

【発音】  ikstént  
【音節】  ex-tent  (2音節)

ラテン語 「 広げる 」( extenta ) が語源。

  ” extent ” の基本的意味は、

広さ 」 「 大きさ 」 「 長さ 」 「
さらに、
範囲 」 「 限度

「 程度 」 を 概ね網羅  


◆  冠詞は、程度が規定されていれば、 定冠詞 ” the “。

「 ある 」程度なら、 不定冠詞 ” an “。

表題は「 可能な限り 」なので、 限度っぱい

すなわち、 ぎりぎり状態の  べスト だから、唯一

最高  ゆえに唯一

「 ある 」程度みたいな、 選択の余地はなく、

事実上、 規定された「 唯一 のため、定冠詞の ” the “。

【類似表現】

  to the extent  allowed  by laws
( 法律が許す範囲内で )

  to the extent  feasible
( 実行可能な範囲内で )


◇ 
possible には、形容詞と名詞がある。

【発音】  pɑ́səbəl 
【音節】  pos-si-ble  (3音節)

語源は、ラテン語「 なされ得る 」( possibilis )。

ここでは、形容詞「 可能な 」「 実行できる 」。

目安として、” possible ” は、公算が 50% 以下 。

50% であれば、” probable ”  または  ” likely “。

probable = likely  > possible
       50%超                50%以下


この根拠は、米国の『 ブラックス法律辞典 』。

判例などに最も引用される辞典である。

1891年刊で、130年以上の歴史を誇る。

英米法を学ぶ学生で、知らない者は皆無レベルの 存在感

1990年刊の「 第6版 」には、こうある。

  • probable
    Having the appearance of truth.
    ( p. 1201 )
  • likely
    probable.
    ( p. 925 )
  • possible
    free to happen or not; the word denotes improbability,
    without excluding the idea of feasibility.  It is also
    sometimes equivalent to ” practicable ” or ” reasonable “.
    ( p. 1166 )

    “ Black’s Law Dictionary, 6th Edition ”
    (West Publishing Co. 1990).   より抜粋


◆  その後、およそ四半世紀を経た「 第10版 」及び「 第11版 」
に至ると、形容詞 ” possible ” は、 大見出しから消えている。

第10版は、2014年刊。

Amazon Japan  /  Amazon US


” possible ” の代わりに、最も近いと考えられる
名詞  ” possibility ” をご案内。

  • probable
    having more evidence for than against.
    ( p. 1395 )
  • likely
    probable.
    ( p. 1069 )
  • possibility
    the word often ( but not always ) conveys
    a sense
    of uncertainty or improbability.
    ( p. 1353 )

    Black’s Law Dictionary, 10th Edition
    (Thomson Reuters 2014).   より抜粋

第11版は、2019年刊。


Amazon Japan  /  Amazon US

  • probable
    Likely to exist, be true, or happen.
    ( p. 1454 )
  • likely
    Apparently true or real;  probable.
    ( p. 1113 )
  • possibility
    the word often ( but not always ) conveys a sense
    of uncertainty or improbability.
    ( p. 1410 )

    Black’s Law Dictionary, 11th Edition
    (Thomson Reuters 2019).   より抜粋

likely ” は、ここでは副詞でなく、どれも形容詞。


◆  もっとも、” possible ”  が 「 50% 」 を含むか否かは、
解釈が割れる。

ジーニアス英和大辞典 』は、 ” possible ” の語釈にて、
「 起る公算が 50%より小さい と話し手が考えている場合 」
と記す。

『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、2001年刊 ( アプリ版
<大修館書店HP>


つまり、” possible ” は、公算が 50% 未満  とする説を採用。

◆  ” to the extent possible ” の和訳は、大して難しくない。

定訳があるため、その通り当てはめればよい。

それより英文が問題。

本当に使いやすく、応用範囲が広いのか、これから見ていこう。

  • “I hope you would take advantage of this website
    to the extent possible.”
    (このサイトをできる限り活用していただければ幸いです。)

  • “I will accept your suggestions to the extent possible.”
    (皆様の
    ご提案をできるだけ取り入れます。)
  • I’ll get back to you quickly to the extent possible.”
    (できるだけ迅速にご返信いたします。)
  • To the extent possible, I will take good care of
    your personal information.”
    (可能な限り、皆様の個人情報を確実に管理いたします。)


  • “She took care of the dog to the extent possible.”
    (彼女はできる範囲でその犬の面倒を見た。)
  • “Make sure your requests meet their requirements
    to the extent possible.”
    (ご要望はできるだけ彼らの条件を満たすようお願いします。)

  • “He is advised to refrain from visiting the country
    to the extent possible.”
    (できるだけ
    その国に行くなと彼は言われている。)

  • “Face masks shall, to the extent possible, be worn
    at all times.”
    (マスクを可能な限り常時着用すること。)

◆  このような英文を見ると、文体の堅さ を感じる。

上掲リストの ” as much as possible ” などに比べて堅苦しい。

「 可及的速やかに 」に似通うくらい堅い。

ビジネス場面では堅めの文体の方が適切 だったりする。

【参照】

先述の通り、カジュアルトークには不似合いでも、
ビジネス用途ならば普通。

その観点から、やはり応用力と利便性は認められる。

たった4語。  ぜひ押さえておきたい。

◆  なお、表題の発展編 がこちら。

日常使用では、意味することは大同小異。

目一杯 の趣旨は同然。

■  to the fullest extent possible
■  to the greatest extent possible
■  to the maximum extent possible
■  to the maximum extent practical

→  「 可能な限り 最大限

「 最高限度 」までという具合。

より意欲的・積極的な勢いが加わる感。

「 極力 」の極み。

これらを上回る激越な調子は、公文書にそう見当たらない。

ビジネス英語のうち「 最も深刻な表現 」の部類に属する。

和訳に手こずる。

翻訳会社や法律事務所などが担当する、専門性の高い内容であれば、
社内規定の定訳がある場合が多い。

そうでないとすれば、素直に置き換えると、「 激甚 」「 激切 」「 凄烈 」
「 酷烈 」「 厳烈 」のごとく、  見慣れない日本語になってしまいがち。

不自然さを避けるべく、” to the extent possible ” と一緒の和訳にすることも。

「 趣旨は同然 」なので、通常の使い方であれば、それで大丈夫だろう。

もしも、同一文書内に併用されていれば、区別して訳さなければ
ならないものの、併用されているケースはあまり見たことない。

  • “X ordered to shelter in place.
    Residents should remain in their homes
    to the maximum extent possible.”
    (X地区に外出禁止令。 住民は、可能な限り自宅にいること。)

  • “We will promote the use of telework
    to the maximum extent possible.”
    (弊社では、テレワークの利用を、可能な限り最大限に
    促進していきます。)
  • To the maximum extent practical,
    employees should minimize the use of perfumes.”
    (従業員は、香水の使用をできるだけ最小限に抑えること。)


◆  ” practical では、「 現在の条件で、実行可能な限り 」
の意味合いが強調される点は、既に述べた。

換言すれば、「 手近な手段によってなし得る 」。

普段使う際は、” possible ”  や  ” feasible
とさほど違わない印象である。

  to a reasonable extent

→  「 常識 の範囲内

表題のような 「 唯一の限界状態 」ではなく、

常識内の「 ある 」程度なので、 選択の余地あり。

ぎりぎりではない。

だから、不定冠詞の ” a “。

 

◆  仕上げに、英文読解。

先ほど抄出した『 ブラックス法律辞典 』。

各項目を全文読んでみよう。

■  Black’s Law Dictionary, 6th Edition
(West Publishing Co. 1990).

( p. 1201 )

( p. 925 )

( p. 1166 )


 「 第10版 」 「 第11版 」 との比較に、possibilty  追加 

( p. 1165 )

 

■ Black’s Law Dictionary, 10th Edition
(Thomson Reuters 2014).

( p. 1395 )
( p. 1069 )
( p. 1353 )

 

■  Black’s Law Dictionary, 11th Edition
(Thomson Reuters 2019).

( p. 1454 )
( p. 1113 )

( p. 1410 )


いかがだろう。

これが、 世界一有名な英米法辞典。

法律家とその卵たちが用いる専門辞典であっても、案外、読めたのでは。

中級学習者 の場合、単語集・表現集などの市販の教材よりも、
リアルな英文を読む方が、 きっと「 自信 」がつく。

力量相応の英文を がんがん読もう

 

勇気を奮って、教材以外の英文を読みまくれば、ご自分の英語力を
把握しやすくなるということ。

「 単語力 」 以上に 「 多読 」 を優先することを強く
お勧めする理由は、” no need
にて詳らかにしている。

 

 

 

 

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