To the extent possible
2021/01/06
可能な限り、 できる限り
堅めのビジネス文書でよく見る<4語ワンセット>。
文頭・文中・文末を問わない。
主な定訳は、
- 可能な限り
- できる限り
- できるだけ
- できる範囲で
- 可能な範囲で
“to the extent possible” をご紹介する理由は、
使いやすく、応用範囲が広いから。
後述の表現と異なり、個別具体的な形容詞や副詞、
活用形、時制などを考える必要はない。
<4語ワンセット>だけで済んでしまうのである。
–
◆ こうした強みは、次の2つに共通する。
-
as follows
(以下の通り) -
to what extent
(どの程度まで)
主に文書で使うが、いずれも<ビジネス慣用句>
で、筆舌不問が原則。
カジュアルトークには少々場違いだが、
ビジネストークでは違和感ない感じ。
日常用途であれば、次の類似表現の方が一般的。
<「可能な限り」「できるだけ」の主な英訳 >
- as far as possible
as much as possible
(できる限り)
– - as ______as possible
※ 下線 = 形容詞・副詞・形容詞を伴う名詞
【例】
・ fast (できるだけ速い)
・ large (できるだけ大きい)
・ long (できるだけ長い)
・ many (できるだけ多い)
・ often (しょっちゅう) ※ 副詞
・ soon (できるだけ速やかに) ※ 副詞
・ thoroughly (徹底的に) ※ 副詞
– - as ______as practical
※ 下線 = 形容詞・副詞・形容詞を伴う名詞
※ 【例】 と同じ
※ 「現在の条件で実行可能な限り」の意
– - the most ______ possible
※ 下線には形容詞
–
・ accurate (できるだけ正確に)
・ thorough (徹底的に)–
ー
- as ______as XX can
- as ______as XX could
※ XX = 主格、下線には形容詞
【例】 とほぼ同じだが、次の例外もある
–
best (できるだけベストで)
△ as best as possible
○ as best as you can imagine
○ as best as I could run
– - as ______as XX possibly can
- as ______as XX possibly could
※ XX = 主格、下線には形容詞
–
・ “I will study as hard as I possibly can.”
(できる限り頑張って勉強します。)
–
・ “Call me as soon as you possibly could.”
(できるだけ早めに私に電話して。)
– - as best XX can
- as best XX could
※ XX = 主格
–
・ “He is preparing as best he can.”
(彼はできる限り準備している。)
–
・ “She answered their questions as best she could.”
(彼らの質問に彼女はできるだけ答えた。)
– - to the best of YY ability
※ YY = 所有格
–
・ “I will cooperate to the best of my ability.”
(自分に可能な限り協力します。)
–
- maximize / minimize
(最大限にする・最小限にする)
–
・ “I need to maximize the chances of
receiving a scholarship.”
(奨学金受給の可能性を最大限にする
必要がある。)
–
・ “We want to minimize the likelihood
of food poisoning.”
(食中毒の可能性を最小限に抑えたい。)
日本語は「できるだけ」で済むが、英語の場合、
ざっと挙げてもこんなに数多い。
ほとんどが基本レベルで、中級学習者であれば、
一度は目にしたことがあるはず。
「できるだけ」の意味が漠として厳密さを欠くため、
言い回しが多彩に広がったとも考えられる。
ー
ー
◆ <程度>表現は、一般実務でも多様性に富む。
ー
国家行政の場でも、混乱が見られる模様。
一例を挙げると、
「できるだけ速やかに」
カナダ政府の規定する連邦法(Federal legislation)
で採用されている表現が以下。
- as soon as possible
- as soon as practicable
- as soon as reasonably practicable
- as soon as practical
- forthwith ※ 直ちに(副詞)
- immediately ※ 至急に(副詞)
- without delay
- within __ days
現在、標準化と統一を目指している様子だが、
推奨または努力義務の段階にとどまっている。
【出典】 カナダ司法省HP
“Describing Time Periods”
“Date modified : ”
http://canada.justice.gc.ca
表現の標準化は、産業分野を問わず課題となる。
私はこれまで産学官軍を渡ってきたが、どの組織も
「用語統一」に手を焼いていた。
弊サイトで何度も触れているように、
人間の感覚には驚くほど差がある。
言語や文化が異なると、なおさらだ。
ある程度の見解の一致が望めなければ、
円滑に実行できず、運用に支障が出る。
ー
とりわけ、時間感覚に違いがあるのは確実。ー
この意識の差異の厄介さは、繰り返し取り上げてきた。ー
–
例えば、以下で説明している。
- “from time to time” (時々)
- “a while back” (先日、このあいだ)
- “Take a moment to – ” (〜する時間をとる)
- “foreseeable future” (近い将来)
仕事で「できるだけ速やかに」と命じられれば、
「当日中」と構える人も、「今週中」と考える人もいる。
「今月中」もありうるだろう。
ー
事前に明確な日時を取り決めておかないと、泣きを見る。
【参考】 “Let somebody down“
「異文化理解力」をもろに試されるのが、時間の認識である。
ー
ー
◆ 表題の「できる限り」も似たようなもの。
ー
努力の度合いの物差しは、人それぞれ。
ー
ことによると、「できる限り」の含むあいまいさに乗じて、
自分に都合よく解釈し、サボることもできる。
そのため法律では、定義を明文化したり、判例を適用したりして、
基準に一定の拘束力をもたせて、あいまいさを排除
しようとしている。
–
◆ しかし、実際の英文契約書において、
“to the extent possible” を使うことはままある。
その狙いは、この文言を挿入することで、
■ あえて不明瞭にしておき、履行責任を回避する。
–
■ たとえ履行できなくとも、契約上の不履行
として賠償責任を負わないようにする。
ー
■ 「できる限り」のことさえ実行すれば、
基本的に契約違反を問えなくなるようにする。
–
◆ 再度掲げると、”to the extent possible” の
一般ビジネス用法は、
- 可能な限り
- できる限り
- できるだけ
- できる範囲で
- 可能な範囲で
◇ “to” は、範囲の前置詞「~まで」。
◇ “extent” は、不可算名詞のみの単語。
【発音】 ikstént
【音節】 ex-tent (2音節)
–
ラテン語「広げる」(extenta)が語源。
■ “extent” の基本的意味は、
–
「広さ」「大きさ」「長さ」「量」–
さらに「範囲」「限度」もカバーし、
–
「程度」をほぼ網羅する。
冠詞は、程度が規定されていれば、定冠詞 “the” 、
「ある」程度なら、不定冠詞 “an”。
表題は「可能な限り」なので、限度いっぱい。
すなわち、ベスト の状態だから、「 唯一 」。
「ある」程度みたいな選択の余地はなく、
事実上 規定されている ため、定冠詞の “the“。
–
【類似表現】
■ to the extent allowed by laws
—(法律が許す範囲内で)–
■ to the extent feasible
—(実行可能な範囲内で)
–
–
◇ “possible“ には、形容詞と名詞がある。
【発音】 pɑ́səbəl
【音節】 pos-si-ble (3音節)
–
語源は、ラテン語「なされ得る」(possibilis)。
ここでは、形容詞「可能な」「実行できる」。
目安として、”possible” は、公算が50%以下。
50%超であれば、”probable” または “likely“。
probable = likely > possible
50%超 50%以下
この根拠は、アメリカの『ブラックス法律辞典』。
判例などに最も引用される辞典である。
1891年刊で、100年以上の歴史を誇る。
最新版は、第10版(2014年刊)。
※ 2017年12月 初稿時点
【追記】
2019年6月に「第11版」が発行された。
(Amazon Japan / Amazon US)
-
“probable“
having more evidence for than against.–
-
“likely“
probable.–
-
“possible“
feasible, not contrary to nature of things; free to happen or not;
sometimes equivalent to “practicable” or “reasonable”.
–
“Black’s Law Dictionary, 10th Edition” より抜粋
3語とも形容詞。 “likely” も、ここでは副詞ではない。
“to the extent possible” の和訳は難しくない。
定訳があるため、その通り当てはめればよい。
それより英文が問題。
本当に使いやすく、応用範囲が広いのか、これから見ていこう。
- “I hope you would take advantage of this website
to the extent possible.”
(このサイトをできる限り活用していただければ幸いです。)
–
- “I will accept your suggestions to the extent possible.”
(皆様のご提案をできるだけ取り入れます。)
– - “I’ll get back to you quick to the extent possible.”
(できるだけ迅速にご返信いたします。)–
– - “To the extent possible, I will take good care of
your personal information.”
(可能な限り、皆様の個人情報を確実に管理いたします。)
–
–
- “She took care of the dog to the extent possible.”
(彼女はできる範囲でその犬の面倒を見た。)
– - “Make sure your requests meet their requirements
to the extent possible.”
(ご要望はできるだけ彼らの条件を満たすようお願いします。)–
—
- “He is advised to refrain from visiting the country
to the extent possible.”
(できるだけその国に行くなと彼は言われている。)
—
- “Face masks shall, to the extent possible, be worn
at all times.”
(マスクを可能な限り常時着用すること。)
–
◆ このような英文を見ると、文体の堅さを感じる。
–
上掲リストの “as much as possible” などに比べて堅苦しい。
「可及的速やかに」に似通うくらい堅い。
–
ビジネス場面では堅めの文体の方が適切だったりする。
【参照】
先述の通り、カジュアルトークには不似合いでも、
ビジネス用途ならば普通。
その観点から、やはり応用力と利便性は認められる。
–
たった4語。 ぜひ押さえておきたい。
ー
◆ なお、表題の応用編がこちら。
–
日常使用では、意味することは大同小異。
–「 目一杯 」の趣旨は同然ということ。
■ to the fullest extent possible
■ to the greatest extent possible
■ to the maximum extent possible
■ to the maximum extent practical
→ 「 可能な限り最大限に 」
「最高限度」までという具合。
より意欲的・積極的な勢いが加わる感。
「極力」の極み。
これらを上回る激越な調子は、公文書にそう見当たらない。
ビジネス英語のうち「 最も深刻な表現 」の部類に属する。
和訳に手こずる。
翻訳会社や法律事務所などが担当する、専門性の高い内容であれば、
社内規定の定訳がある場合が多い。
そうでないとすれば、素直に置き換えると、「激甚」「激切」「凄烈」
「酷烈」「厳烈」のごとく、見慣れない日本語になってしまいがち。
不自然さを避けるべく、”to the extent possible” と一緒の和訳にすることも。
「趣旨は同然」なので、通常の使い方であれば、それで大丈夫だろう。
もしも、同一文書内に併用されていれば、区別して訳さなければ
ならないものの、併用されているケースはあまり見たことない。
- “X ordered to shelter in place.
Residents should remain in their homes
to the maximum extent possible.”
(X地区に外出禁止令。 住民は、可能な限り自宅にいること。)
–
- “We will promote the use of telework
to the maximum extent possible.”
(弊社では、テレワークの利用を、可能な限り最大限に
促進していきます。)
– - “To the maximum extent practical,
employees should minimize the use of perfumes.”
(従業員は、香水の使用をできるだけ最小限に抑えること。)
“practical” では 「現在の条件で実行可能な限り」
の意味合いが強調される点は、既に述べた。
普段使う際は、”possible” や “feasible” とさほど違わない印象である。
–
■ to a reasonable extent
→ 「 常識の範囲内 」
表題のような「 唯一の限界状態 」ではなく、
常識内の「ある」程度なので、選択の余地あり。
だから、不定冠詞の “a“。