プロ翻訳者の単語帳

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To the extent possible

      2019/03/20

可能な限り、できる限り

堅めのビジネス文書でよく見る<4語ワンセット>。
文頭・文中・文末を問わない。

主な定訳は、

  • 可能な限り
  • できる限り
  • できるだけ
  • できる範囲で
  • 可能な範囲で

“to the extent possible” をご紹介する理由は、
使いやすく、応用範囲が広いから。

後述の表現と異なり、個別具体的な形容詞や副詞、
語形変化、時制、その他の文法面を考える必要はない。

<4語ワンセット>だけで済んでしまうのである。

◆ このような強みは、次の2つに共通する。

主に文書で使うが、いずれも<ビジネス慣用句>
で、筆舌不問が原則。

カジュアルトークには少々場違いだが、
ビジネストークには違和感はない感じ。

日常用途であれば、次の類似表現の方が一般的。

<「可能な限り」「できるだけ」の主な英訳 >

  • as far as possibleできる限り)
  • as much as possible(できる限り)
  • as ______as possible
    ※ 下線 = 形容詞・副詞・形容詞を伴う名詞
    【例1】
    ・ fast(できるだけ速い)
    ・ large(できるだけ大きい)
    ・ long(できるだけ長い)
    ・ many(できるだけ多い)
    ・ often(しょっちゅう)※ 副詞
    ・ soon(できるだけ速やかに)※ 副詞
    ・ thoroughly(徹底的に)※ 副詞
  • as ______as practical
    ※ 下線 = 形容詞・副詞・形容詞を伴う名詞
    ※ 【例1】と同じ
    ※ 「現在の条件で実行可能な限り」の意
  • the most ______ possible
    ※ 下線には形容詞
    【例】
    accurate(できるだけ正確に)
    thorough(徹底的に)

  • as ______as XX can
  • as ______as XX could
    ※ XX = 主格、下線には形容詞
    【例1】とほぼ同じだが、次の例外もある

    best(できるだけベストで)
    △ as best as possible
    ○ as best as you can imagine
    ○ as best as I could run
  • as ______as XX possibly can
  • as ______as XX possibly could
    ※ XX = 主格、下線には形容詞
    【例】
    ・ “I will study as hard as I possibly can.”
    (できる限り頑張って勉強します。)
    ・ “Call me as soon as you possibly could.”
    (できるだけ早めに私に電話して。)
  • as best XX can
  • as best XX could
    ※ XX = 主格
    【例】
    ・ “He is preparing as best he can.”
    (彼はできる限り準備している。)

    ・ “She answered their questions as best she could.
    (彼らの質問に彼女はできるだけ答えた。)
  • to the best of YY ability
    ※ YY = 所有格
    【例】
    ・ “I will cooperate to the best of my ability.”
    (自分に可能な限り協力します。)

  • maximize / minimize
    (最大限にする・最小限にする)
    【例】
    ・ “I need to maximize the chances of
    receiving a scholarship.”
    (奨学金受給の可能性を最大限にする
    必要がある。)
    ・ “We want to minimize the likelihood
    of food poisoning.”
    (食中毒の可能性を最小限に抑えたい。)

日本語は「できるだけ」で済むが、英語の場合、
ざっと挙げてもこんなに数多い。

ほとんどが基本レベルで、中級学習者であれば、
一度は目にしたことがあるはず。

「できるだけ」の意味が漠として厳密さを欠くため、
言い回しが多彩に広がったとも考えられる。

<程度>表現は、一般実務でも多様性に富んでいる。
国家行政の場でも、混乱が見られる模様。

【例】「できるだけ速やかに」

カナダ政府の規定する連邦法(Federal legislation)
で採用されている表現が以下。

  • as soon as possible
  • as soon as practicable
  • as soon as reasonably practicable
  • as soon as practical
  • forthwith  ※ 直ちに(副詞)
  • immediately  ※ 至急に(副詞)
  • without delay
  • within __ days

現在、標準化と統一を目指している様子だが、
推奨または努力義務の段階にとどまっている。

【出典】カナダ司法省HP
http://canada.justice.gc.ca

表現の標準化は、産業分野を問わず課題となる。

私はこれまで産学官軍を渡ってきたが、どの組織も
用語統一」に手を焼いていた。

弊サイトで何度も触れているように、
人間の感覚には驚くほど差がある。

言語や文化が異なると、なおさらだ。

ある程度の見解の一致が望めなければ、円滑に実行
できず、運用に支障が出ても不思議はない。

例えば、業務で「できるだけ速やかに」と命じられれば、
「当日中」と構える人も、「今週中」と考える人もいる。
「今月中」もありうるだろう。

状況は様々だが、個々の時間感覚に違いがあるのは確実。

表題の「できる限り」も似たようなもの。
努力の度合いには差が出る。

「できる限り」の含むあいまいさに乗じて、
自分に都合よく解釈し、サボることもできる。

そのため法律では、定義を明文化したり、判例を適用
したりして、基準に一定の拘束力をもたせることで、
あいまいさを排除しようとしている。

◆ しかし、実際の英文契約書においても、
“to the extent possible” を使うことはある。

その狙いは、この文言を挿入することで、

■ あえて不明瞭にしておき、履行責任を回避する。

■ たとえ履行できなくとも、契約上の不履行
として
賠償責任を負わないようにする。

「できる限り」のことさえ実行すれば、
 基本的に契約違反を問えなくなるようにする。


繰り返すと、”to the extent possible” の

一般ビジネス用法は、

  • 可能な限り
  • できる限り
  • できるだけ
  • できる範囲で
  • 可能な範囲で

to は、範囲の前置詞「~まで」。

extent は、不可算名詞のみの単語。
ラテン語「広げる」(extenta)が語源。

“extent” の基本的意味は、
広さ」「大きさ」「長さ」「

さらに範囲」「限度もカバーし、
「程度」をほぼ網羅する。

冠詞は、程度が規定されていれば、定冠詞 “the” 、
「ある」程度なら、不定冠詞 “an”。

表題は「可能な限り」なので、限度いっぱい
すなわち、ベストの状態なので<唯一>

「ある」程度みたいな選択の余地はなく、
事実上規定されているため、冠詞は “the

【類似表現】
to the extent allowed by laws”
(法律が許す範囲内で)

possible には、形容詞と名詞がある。
語源は、ラテン語「なされ得る」(possibilis)。

ここでは、形容詞「可能な」「実行できる」。

目安として、”possible” は、公算が50%以下
50%であれば、”probable” または “likely“。

probable = likely  > possible
       50%超                50%以下

この根拠は、アメリカの『ブラックス法律辞典』。
判例などに最も引用される辞典である。

1891年刊で、100年以上の歴史を誇る。
最新版は、第10版(2014年刊)。

  • probable
    having more evidence for than against.

  • likely
    probable.

  • possible
    feasible, not contrary to nature of things;
    free to happen or not;
    sometimes equivalent to “practicable” or
    “reasonable”.

    Black’s Law Dictionary, 10th Edition”  ※ 抜粋

3語とも形容詞。”likely” も、ここでは副詞ではない

“to the extent possible” の和訳は難しくない。
定訳があるため、その通り当てはめればよい。

それより英文が問題。

本当に使いやすく、応用範囲が広いのか、
これから見ていこう。

Inline image 1

  • “I hope you would take advantage of
    this website to the extent possible.”
    (このサイトをできる限り活用して
    いただければ幸いです。)

  • “I will accept your suggestions to the extent possible.”
    (皆様の
    ご提案をできるだけ取り入れます。)
  • I’ll get back to you quickly to the extent possible.”
    (できるだけ迅速にご返信いたします。)
  • To the extent possible, I will take good care of
    your information.”
    (可能な限り、皆様の個人情報を確実に管理いたします。)

    Inline image 1
  • “She took care of the dog to the extent possible.”
    (彼女はできる範囲でその犬の面倒を見た。)
  • “Make sure your requests meet their requirements
    to the extent possible.”
    (ご要望はできるだけ彼らの条件を満たすようお願いします。)

  • “He is advised to refrain from visiting the country
    to the extent possible.”
    (できるだけ
    その国に行くなと彼は言われている。)

◆ これらの英文を見ると、文体の堅さを感じる。
上掲リストの “as much as possible” などに比べて堅苦しい。

「可及的速やかに」ほどではないものの、やはり堅い。

しかし、ビジネス用途で「できる限り」を用いる場合、
堅い文体の方が適切であったりする。

【参照】”Please be advised that –
(~をご承知おきください。)

先述の通り、カジュアルトークには不似合いでも、
ビジネス関連ならば問題ない。

その観点から、やはり応用力と利便性は認められる。
たった4語なので、ぜひ覚えておきたい。

◆ なお、表題の応用編として、次の2つがある。
趣旨は同じ。

  • to the fullest extent possible
  • to the maximum extent possible
    → 「可能な限り最大限に」
    より意欲的、積極的。
    “full” も同様。
  • to a reasonable extent
    →「常識の範囲内」
    表題のような<唯一の限界状態>
    ではなく、「ある」程度で選択の余地あり。
    だから、冠詞は “an”。

 

 

 

 

 

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