(1) 金欠の— (2) へとへとの
(1)
My savings are tapped out.( 貯金が底をついた。)
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金欠の 状態。
–
(2)
I’m physically tapped out.( 肉体的にへとへとだ。)
–
疲労困憊した 状態。
–
◆ アメリカ人と話していると、時たま耳にする2つの
” tapped out “。
これから見ていくように、辞書によっては ” slang ” 扱い
するものもあるが、 職場でも普通に使える。
くだけた言い回しだが、 下品さはない。
定訳とされる和訳は見当たらないが、 語感的に合うと
私が考えるのは、それぞれ 「 金欠 」 と 「 へとへと 」。
–
きんけつ【 金欠 】
金銭がなくなること。金銭をもっていないこと。
( 精選版 日本国語大辞典 )
–
–
へとへと
ひどく疲れて体力や気力がなくなっているさま。
( 広辞苑 第七版 )
–
「 金欠 」については、『 広辞苑 第七版 』及び
『 大辞林 第四版 』は、「 金欠病の略 」と説明する。
「 金欠病 」は、早くも明治時代に使われている。
上記『 精選版 日本国語大辞典 』は、1907年発表の
『 滑稽界 』から文例を引用している。
てっきり若者言葉くらいに考えていたが、そうでなかった。
「 無一文 」 「 からっけつ 」 「 すってんてん 」 「 すかんぴん 」
などと比べ、 「 金欠 」こそ ” tapped out ” の語調に合う気がする。
–
◆ ” tapped out ” を句動詞 ( phrasal verb ) の
過去形 ( past tense )・ 過去分詞形 ( past participle ) と考え、
いつも通り英英辞典を引いたところ、 思いのほか厄介なことになった。
–
実は、 主な使い道は、 句動詞ではなく「 形容詞 」。
(1) 金欠の 状態
(2) 疲労困憊した 状態
→ 状態だから形容詞
「 形容詞ゆえ、be動詞 に続くのが、基本パターン 」
冒頭の (1) (2) も 「 be動詞 」に続いている。
(1) are
(2) am ( I’m = I am )
–
なぜ、 形容詞が「 be動詞 」に続くのかは、
” aware ” と ” vocal about ” で事細かに記した ( 図入り )。
英文法の基本であるので、ぴんとくる ことがなければ、
この機会におさらいしていただくとよいかもしれない。
–
(2)の意義と重なる、これらと同じ構造の形容詞である( 後述 )。
- tired out
- worn out
- burn out
- stressed out
形容詞 ” Unaccounted for ” とも似通う感じ。
–
◆ 今回調べた英英辞典は8点。
その経緯は次の通り。
1) まず、” tap out ” の過去形または過去分詞形と考えたため、
” tap out ” で調べたところ、出てきたのは無関係な意味ばかり。
代表格はこちら。
–
” tap something out ” / ” tap out something ”
1. to hit a surface gently to the rhythm of music.
2. to write something using a computer or a mobile /
cell phone.
( OALD9、オックスフォード )
【発音】 ˌtæpt ˈaʊt
–
【 参考和訳 】
1. リズムに合わせて、何かを叩く
→ 拍子を取ること
–
2. コンピュータや携帯電話を用いて、何かを書く
→ 文字を打つこと
◇ LDOCE6( ロングマン )、Macmillan( マクミラン、後述 )及び
Merriam-Webster’s Learner’s Dictionary( メリアム ウェブスター )
の語釈と同一内容。
” tap ” の語源は、 中期英語 「 こつこつ叩く 」( tappen )。
※ 「 蛇口 」「 栓 」 の ” tap ” は、 完全に別の単語。
→ 同源説もある
2) 次に、” tap ” 及び ” tapped ” の各単語を引くと、
同様の内容だった。
すなわち、 「 叩く 」 中心。
3) 最後に、 丸ごと ” tapped out ” でリサーチ。
ヒットしたものの、 項目立てしていたのは、一部の英英辞書のみ。
要するに、 英英辞典に当たり前に載るフレーズではなかった模様。
珍しい表現と思っていなかったので驚いた。
ー
◆ 日々頼りにしている 3大学習英英辞典( EFL辞典 )のうち、
求める解説があった唯一の辞書は、CALD4( ケンブリッジ )。
しかも、オンライン版 のみで見つかった。
絶対おかしいと思い、 目を皿にして、 各種CALD4を 入念に 調べた。
それでも、 結論は既記の通り。
LDOCE6( ロングマン ) と OALD9(オックスフォード)には、
(1)も(2)も見つからなかった。
ー
◆ 「 弊サイトがお勧めする EFL辞典 の選び方 」として、
- 自ら選んだ「 1冊 」のみを使い倒す方が、 達成感が強まる
- 専門家以外の一般学習者は、 1冊だけの方が効率的
と持論を展開してきたが、 それが揺らぐ結果となった。
確かに、 ” tapped out ” はアメリカ英語に属する( 後述 )。
3大EFL辞典はすべて イギリス系 の辞書 である。
→ その他、コウビルド( COBUILD )もイギリス系
3冊とも、 米語表現も概ね網羅している。
だからこそ、 英語学習者に推薦できる。
単に、 選に漏れたということなのだろうか。
詳細は分からない。
しかし、 このレベルの表現が掲載されていないことを
初めて知り、「 1冊だけ 」だと危険かも、と認識した。
もっとも、英語ネイティブ向けの
にも記載はなかった。 ともに イギリス系 である。
よって、 EFL辞典に漏れても、 不思議はないとの見方もできる。
ー
◆ では、8点の英英辞典の中から探し当てた語釈を
すべてご紹介したい。
「 1. 金欠の 」「 2. へとへとの 」を意味する
” tapped out ” に直結する記述は、 以下の通り。
–
” tapped out “
–
■ US INFORMAL
adjective
1. having spent all your money
2. very tired; with no energy
( CALD4、ケンブリッジ ) ※ オンライン版 のみ
【注意】
書籍版 CALD4 と アプリ版 CALD4 には未収録( 上述 )。
■ Slang
1. US
having no ready money; broke.
2. US
exhausted or depleted.
( Webster’s New World College Dictionary, 5th Edition )
■ adjective
1. out of money; broke.
2. spent; exhausted.
( Merriam-Webster )
–
” tap out “
–
■ intransitive verb
to run out of money by betting.
( Merriam-Webster )
■ PHRASAL VERB TRANSITIVE
1. to create a particular pattern of sounds by
hitting a surface gently with your fingers.
1a. to use your fingers to do something such as
call a telephone number or write something using
a computer keyboard.
( Macmillan )
< 初出年 と 語源 >
–
tap (v.2)Tapped out ” broke ” is 1940s slang, perhaps from the notion
of having tapped all one’s acquaintances for loans already
( compare British slang on the tap ” begging, making requests
for loans ” 1932 ).https://www.etymonline.com/word/tap
↑ 有力な語源サイト
–
【 要約 】
「 一文無し 」の意味での ” tapped out ” は、
1940年代のスラング。
知人全員に借金をせがんだ様子
から生じたと推測される。
【発音】 ˌtæpt ˈaʊt
–
ハイライトが示すように、 ” slang ” と明記する辞書もある。
この ” Webster’s New World College Dictionary ” は、
英語ネイティブ向け。
既出の ” Merriam-Webster ” と同じくアメリカ系。
–
「 ウェブスター 」 の名を冠する辞書は、 アメリカ系
–
最新の「 第5版 」は、2018年6月発売。
全 1,703 ページ。
B5判より、 一回り小ぶりのハードカバー。
–
–
” Webster’s New World College Dictionary, Fifth Edition ”
( 書籍版 ) より転載※ 黄色い下線は引用者
–
< ネイティブ向け辞書を1冊 > ならば、 これがよい。
使用者の私はこう考える。
※ 2024年11月 現在
–
日本人の 中級学習者 に おすすめできる
–
冗長 気味な反面、 丁寧な語釈が特徴。
ー
お手頃 価格で、 日本で入手しやすい点も高評価。
( Amazon Japan / Amazon US )
ー
上の表紙写真に掲げられているように、 AP通信の
公式辞書 ( ” The official dictionary ” )である。
語義の配列は、 頻出順でなく、 発生順 ( 歴史主義 )。
この点、 英語学習者には、 やや使いにくい。
【参照】 ” just checking in ”
そのため、 先述のEFL辞典と 併用するとよい。
また、無機質な 白黒印刷( 1色刷 ) なのもいただけない。
おまけに、 紙質が悪く、色気なさすぎ。
にもかかわらず、 短所を補って余りある強み
を力説したい。
iOS版 は、2018年7月発売。
–
” Webster’s New World College Dictionary “
( アプリ版 )より転載◇ 「 書籍版 」 は1色刷、 「 アプリ版 」 はカラフル
–
やはり、” adj. ” = ” adjective “( 形容詞 )とある。
さらに、 この辞書が示す「 スラング 」の解釈もある
とはいえ、 ” tapped out ” は 下品でない点は既に触れた。
「 金欠 」 「 へとへと 」 に似た語感であることも述べた。
ー
両方とも、 人前で使える日本語。
ほぼほぼ同格。
–
【参照】
■ 語義の配列 → 発生順( 歴史主義 )か頻度順か
■ 英語辞書は「 紙 」 か 「 電子版 」 か
■ 「 自炊本 」 「 紙 」 の辞書を含む 使用辞書一覧
—→ 世界最大 “ OED ” と 日本最大 『 日国 』 入手済み
–
◆ 上記 ” Merriam-Webster ” によれば、 動詞 ” tap out ” は、
” intransitive verb “( 自動詞 ) と書いてある。
つまり、 句自動詞 ( intransitive phrasal verb )。
片や、 上記 ” Macmillan ” には、 動詞 ” tap out ” は、
” PHRASAL VERB TRANSITIVE ” ( 句他動詞 ) と書いてある。
辞書間で判断が割れているが、 割と見かける現象である。
両方使われるということだろう。
◆ 形容詞 ” tapped out ” は、「 複合形容詞 」( compound adjective )。
自動詞 ” tap “( 叩く ) の過去分詞に、 副詞 ” out “
を足したもの。
このようなパターンでは、 ハイフンでつなぐこと
が多いが、 ” tapped out ” の場合、 ハイフン入りは
ほとんど見かけない。
上掲の英英辞典にもハイフンなし。
【 要約 】 にあるように、 借金めぐりを「 徹底的に 」行う
様子から、「 金欠 」 の ” out ” が幅を利かせる。
また「 へとへと 」の ” out ” も、類義の複合形容詞( 前出 )、
- tired out
- worn out
- burn out
- stressed out
と同じ用法の副詞 ” out “。
ー
◆ それなりに使われている感覚がある表現であっても、
有力辞書に載っていないケースがある。
これまでの私は、3大学習英英辞典 中、2点に掲載されて
いなければ、「 無視しても構わない 」 くらいに考えてきた。
けれども、本稿で取り上げた、
形容詞 ” tapped out ” → (1) 金欠の (2) へとへとの
は、中級学習者 であれば押さえておきたい。
米語スラングだから、と唾棄すべき対象ではない。
「 主要辞書に載ってないから不要 」 との思い込みは危険、
と反省するきっかけとなった。
感謝。
–
–きついわ
- “I was tapped out after paying my rent.”
(家賃を支払ったら、無一文になった。)
– - “I was mentally tapped out during my college years.”
(大学生の頃は、精神的に疲れ切っていました。)