Well-liked
2020/03/08
人に好かれている、人気がある
人を褒めることは、容易ではない。
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特に組織においては、関係者への気遣いが必須であり、
特定の人を手放しで褒めちぎることは難しい。
また、双方の立場と表現次第で、周囲に与える印象
が左右されたりする。
「誉め殺し」などの邪悪な動機がなくても、当てこすり
をかすかに覚え、額面通りに受け取れない場合もある。
塵労に揉まれ、斜に構えた大勢の社会人の前で、個人を
褒める行為は、ある種の危険を伴う。
思いもよらない嫉妬を招き、仕事がしずらくなるなどして、
褒められた側が迷惑を被るケースも珍しくない。
とりわけ、我が国の文化は称賛しあうような色合いに乏しく、
受け手の嫉妬・ひがみを刺激しない工夫が必要となる。
【参照】 “stand tall“、”integrity”
褒めたり、褒められたりを喜べる素直さは大切だろう。
しかし、そんな無邪気さは、早ければ幼少期に喪失する。
こうして人間心理は複雑で、厄介なものである。
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その複雑さに、的確に対応する伝達手段を学ぶのが語学。
他者との無用な波風を避けるべく、嫌でも頭を使う。
外国語の学習が<老化防止><認知症予防>
に効果があると検証されたのは、当然に思える。
【参照】「自分の世界」が広がる英語
いくつになっても学べるのは、幸せなことであろう。
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◆ “well-liked” は、比較的よく使われる褒め言葉。
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メディアによる好意的な人物評及び生徒・学生の通知表や
推薦状に活用される。
他意や嫌味の生じる余地が少ないため、使い勝手がよい。
「多くの人から好かれている」状態を指す。
すなわち「人気がある」こと。
にんき【人気】
名詞
2. 世間の、それを好ましいものとして迎える感情。
人々の気受け。世間の評判。じんき。
(精選版 日本国語大辞典)
日本語「人気」は、名詞。
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片や、英語 “well-liked” は、形容詞。
「人気のある」という「状態」なので、形容詞。
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品詞が異なるので、要注意。
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【参照】
・ “aware” は動詞でなく、形容詞
・ “vocal” は動詞でなく、形容詞
・ “sick” は名詞でなく、形容詞
・ “limbo” は形容詞でなく、名詞
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◆ 今回調べた英英辞典7点のうち、4点が
“well-liked” または “well liked” で項目立てしていた。
なんと、4辞書すべての語釈が、完全一致している。
liked by many people.
・ CALD4、ケンブリッジ
・ Collins English Dictionary 12th Edition、コリンズ
・ Macmillan Dictionary、マクミラン
・ Merriam-Webster、メリアム ウェブスター
※ コリンズは “popular” も併記する
一方、
・ LDOCE6(ロングマン)
・ OALD9(オックスフォード)
・ COBUILD9(コウビルド)
には、項目立てされていなかった。
“well-liked” と “well liked” は、両方とも形容詞。
ハイフンなしは、名詞などの後に置く場合(post-positive)。
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だが、普段使いでは厳密に区別されていない模様。
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“well-liked” の方が一般的であるため、表題に
据えた上、本稿中の表記もハイフン入りで統一した。
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◆ では、いつものように、表題を分解してみたい。
“well-liked” は、2語をハイフンでつないだ
「複合形容詞」(compound adjectives)。
2語以上の語が他の語を修飾する場合、
その2語以上の語をハイフンで結び、
「複合修飾語」(compound modifier)と呼ぶ。
特に、修飾される語が名詞の場合が「複合形容詞」。
表題もこれに該当。
「複合形容詞」の例
“laid-back“、”unheard-of“、”fill
“self-explanatory“、”
“well-done“、”so-called“、”life-threatening”
”unhea
“long-overdue“、”shell-shocked”、”self-inflicted“、
“hassle-free”
※ 複合名詞(compound nouns)兼用も含む
“well-liked” の構造は、複合形容詞の基本に沿う。
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連結形 “well-“ (よく、十分に)
-
動詞の過去分詞 “liked“ (好まれた)
“liked” は、他動詞 “like” の過去分詞形。
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前置詞 “like”(~に似て、~のように)とは、
語源の異なる別物。
【参照】”like you’ve done for me“、”and the like”
- 動詞「好き」→ 古英語「喜びを与える」(līcian)
- 前置詞「~のように」→ 古英語「似ている」(gelīc)
発音は完全に同じで、1音節の「ライク」(láik)。
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◆ 「好き」の “like” には、自他動詞と名詞がある。
– 他動詞「好き」「好く」「好む」「望む」
– 自動詞「好む」「望む」
– 名詞「好み」 ※ 通常は複数形 “likes”
“well-liked” では、他動詞「好く」の過去分詞なので、
「好かれた」。
上掲赤枠の通り、これに連結形 “well”(よく、十分に)
を加えて「よく好かれた」で、「人気がある」。
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◆ 先述したように、”well-liked” は褒め言葉として多用される。
連結形 “well-” と結合した形容詞は、
総じてポジティブ
「よく、十分に」の意味が加わるからである。
日本語でも「よく、十分に」ときたら、プラスの内容を
期待する傾向がみられる。
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◆ 日頃頻繁に見聞きする複合形容詞を16件挙げる。
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中級学習者であれば、きっと一度は目にしている。
- well-balanced (バランスのとれた)
- well-behaved (行儀よい)
- well-done (よく焼けた、よくできた)
- well-dressed (身なりのよい)
- well-educated (教養のある)
- well-established (確立した、定評のある)
- well-fed (栄養十分な)
- well-founded (根拠の確実な)
- well-informed (精通している)
- well-intentioned (善意の)
- well-kept (隠し通された、手入れされた)
- well-known (有名な)
- well-meant (善意の)
- well-off (裕福な)
- well-paid (給料のよい)
- well-regarded (高い評価の)
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構造は、連結形 “well-” に動詞の過去分詞を足したもの。
意味は、概ね動詞を継承する。
だから、推測しやすい。
理解は難しくないだろう。
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◆ 留意すべきは、“well-” が「接頭辞」でない点。
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連結形(combining form)が正しい。
日本の参考書の一部は、2つを混同して説明している。
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独立した副詞・形容詞 “well” から生じた点で、
単独使用できない接頭辞と異なる。
■「接頭辞」prefix
単語の意味を変えたり、広げたりする。
【例】”un”(否定する)
“unrelenting“、”unrealistic”
■「連結形」combining form
組み合わせて新しい用語を作りだす。
技術・科学・医学など、理系の専門分野で重宝される
【例】”self”(自ら)
“self-explanatory“、”self-inflicted”
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※ “well-established” より再掲
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普段は意識しなくても問題ないものの、英文法上は、
「連結形」と「接頭辞」は区別すべきものである。
- “He is a well-liked leader.”
(彼は人気のあるリーダーです。)
– - “She is well-liked by students.”
(彼女は学生に人気がある。)
– - “He was well-liked and respected.”
(彼は人気があり、尊敬されていた。)
– - “Your son is well-liked by his friends.”
(息子さんは友達から好かれています。)
– - “This is a well-liked library.” ※ 名詞を修飾
(これは人気のある図書館です。)
– - “X is a well-liked amusement park.” ※ 名詞を修飾
(Xは人気のある遊園地です。)
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◆ “well-liked” は形容詞。
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よって、直接名詞を飾る場合(上の例文 5、6)でなければ、
“be動詞” (例文 1~4 下線部) に続くパターンが最も一般的。
※「be動詞」= be、am、was、been、will be、is、
この理由は、”aware” や ”vocal about” にて詳説している。
英文法の基本なので、ぴんとくることがなければ、
この機会におさらいしていただけると幸い。