プロ翻訳者の単語帳

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Tapped out

      2019/04/02

(1) 金欠の  (2) へとへとの  

(1)

My savings are tapped out.
(貯金が底をついた。)

金欠の状態

(2)

I’m physically tapped out.
(肉体的にへとへとだ。)

疲労困憊した状態

◆ アメリカ人の同僚と話していると、時たま耳にする
2つの “tapped out”。

これから見ていくように、辞書によっては “slang” 扱い
するものもあるが、職場でも普通に使える。
くだけた言い回しだが、下品さはない。

定訳とされる和訳は見当たらないが、語感的に最適と
私が考えるのは、それぞれ「金欠」と「へとへと」。

  きんけつ【金欠】
金銭がなくなること。金銭をもっていないこと。
(精選版 日本国語大辞典)

  へとへと  
ひどく疲れて体力や気力がなくなっているさま。
(広辞苑 第七版)

「金欠」については、『広辞苑 第七版』及び
『大辞林 第三版』は「金欠病の略」と説明する。

「金欠病」は、早くも明治時代に使われている。
上記『精選版 日本国語大辞典』は、1907年発表の
『滑稽界』から文例を引用している。

てっきり若者言葉くらいに考えていたが、そうでなかった。

「無一文」「からっけつ」「すってんてん」「すかんぴん」
などと比べ、「金欠」こそ “tapped out” の印象に合うと考える。

◆ “tapped out” を句動詞と考え、いつも通り英英辞典を引いた
ところ、思いのほか厄介なことになった。
※ 後述の

実は、句動詞ではなく形容詞。

金欠の状態」「疲労困憊した状態

→ 状態だから形容詞

 【参照】”aware“、”vocal about – ” 

(2)の意義と重なる “tired out“、”worn out“、
burn out“、”stressed out” と同じ構造の
形容詞である(後述)。

◆ 今回調べた英英辞典は8点。その経緯は次の通り。

1)まず、”tap out” の過去形または過去分詞形と考えたため、
“tap out” で調べたところ、出てきたのは無関係な意味ばかり。
代表格はこれ。

 “tap something out” / “tap out something”

1. to hit a surface gently to the rhythm of music.
2. to write something using a computer or a mobile /
cell phone.

(OALD9、オックスフォード)

<参考和訳>
1. リズムに合わせて、何かを叩く
→ 拍子を取ること
2. コンピュータや携帯電話を用いて、何かを書く
→ 文字を打つこと

LDOCE6(ロングマン)、Macmillan(マクミラン)及び
Merriam-Webster’s Learner’s Dictionary
(メリアム ウェブスター)の語釈と同一内容。

“tap” の語源は、中期英語「こつこつ叩く」(tappen)。
この意味合いを引き継ぐ他動詞の句動詞(句他動詞)。

「蛇口」「栓」の “tap” は、完全に別の単語
※ 同源説もある

2)次に、”tap” 及び “tapped” の各単語を引くと、
同様の内容だった。すなわち「叩く」中心。

3)最後に、丸ごと “tapped out” でリサーチ。
ヒットしたものの、項目立てしていたのは、
一部の英英辞書のみ。

要するに、英英辞典に当たり前に載るフレーズではなかった。
珍しい表現と思っていなかったので驚いた。

◆ 日々頼りにしている3大学習英英辞典(EFL辞典)のうち、
求める解説があった唯一の辞書は、CALD4(ケンブリッジ)。

しかも、オンライン版のみで見つかった。
書籍版アプリ版には載っていない。
絶対おかしいと思い、目を皿にして、3種のCALD4を
入念に調べた。それでも、結論は既記の通り。

LDOCE6(ロングマン)とOALD9(オックスフォード)
には、(1)も(2)も見つからなかった。

◆「弊サイトがお勧めする EFL辞典 の選び方」として、

  • 自ら選んだ「1冊」のみを使い倒す方が、達成感は大きい
  • 専門家以外の一般学習者は、1冊だけの方が効率的

と持論を展開してきたが、それが揺らぐ結果となった。

確かに、”tapped out” はアメリカ英語に属する(後述)。
一方、3大EFL辞典はすべてイギリス系の辞書である。
※ その他、コウビルド(COBUILD)もイギリス系

だが、3冊とも、主な米語表現は網羅している。
だからこそ、英語学習者に推薦できる。

単に、選に漏れたということなのだろうか。

詳細は分からない。しかし、このレベルの表現が
掲載されていないことを初めて知り、「1冊だけ」だと
危険かも、と気づいた。

もっとも、英語ネイティブ向けの

にも記載はなかった。  ともにイギリス系である。

よって、EFL辞典に漏れても、不思議はない
との見方もできる。

◆ では、8点の英英辞典の中から探し当てた語釈を
すべてご紹介したい。

「1. 金欠の」「2. へとへとの」を意味する
“tapped out” に直結する記述は以下の通り。

tapped out 

US INFORMAL

adjective
1.  having spent all your money
2.  very tired; with no energy
(CALD4、ケンブリッジ)※ オンライン版のみ

【注意】書籍版 CALD4アプリ版 CALD4
には未収録(上述)。

Slang
1. US
having no ready money; broke.
2. US
exhausted or depleted.
Webster’s New World College Dictionary,
5th Edition

■ adjective
1.
out of money; broke.
2.
spent; exhausted.
Merriam-Webster)

 

tap out 

intransitive verb
to run out of money by betting.
Merriam-Webster)

初出年と語源

tap (v.2)

Tapped out “broke” is 1940s slang,
perhaps from the notion of having
tapped all one’s acquaintances for
loans already 
(compare British slang
on the tap “begging, making requests

for loans” 1932).

https://www.etymonline.com/word/tap
↑ 有力な語源サイト

<要約>
「一文無し」の意味での “tapped out” は、
1940年代のスラング。知人全員に借金を
せがんだ様子から生じたと推測される。

ハイライトが示すように、”slang” と明記する辞書もある。

この “Webster’s New World College Dictionary” は、
英語ネイティブ向け。

既出の “Merriam-Webster” と同じくアメリカ系。

ウェブスター」の名を冠する辞書は、アメリカ系  

最新の「第5版」は、2018年6月発売
全1,703ページ。
B5判より一回り小ぶりのハードカバー。

 <ネイティブ向け辞書を1冊>ならば、これがよい。
使用者の私はこう考える。 ※ 2018年12月現在

日本人の中級学習者に、大いにおすすめできる。
冗長気味な反面、丁寧な語釈が特徴。

お手頃価格で、日本で入手しやすい点も高評価。
Amazon Japan / Amazon US

上の表紙写真に掲げられているように、AP通信
公式辞書(”The official dictionary”)である。

  語義の配列は、頻出順でなく、発生順。
この点、英語学習者には不都合ではある。
【参照】”just checking in

そのため、先述のEFL辞典と併用する必要が出てくる

また、無機質な白黒印刷なのもいただけない。
おまけに、 紙質が悪く、色気なさすぎ

にもかかわらず、短所を補って余りある強み
を強調したい。

iOS版は、2018年7月発売。

image.png
Webster’s New World College Dictionary
(アプリ版)より転載

やはり、”adj.”= “adjective”(形容詞)とある。

さらに、この辞書が示す「スラング」の解釈もある
とはいえ、”tapped out” は下品でない点は既に触れた。

「金欠」「へとへと」に似た語感であることも述べた。

両方とも、人前で使える日本語。総じて同格。

◆ 上記 “Merriam-Webster” によれば、表題の
tap out” は自動詞、つまり句自動詞である。

“tapped out” は「複合形容詞」である。
自動詞 “tap”(叩く) の過去分詞に、副詞 “out”
を足したもの。

このようなパターンでは、ハイフンでつなぐこと
が多いが、”tapped out” の場合、ハイフン入りは
ほとんど見かけない。上掲の英英辞典にもハイフンなし。

<要約>にあるように、借金めぐりを「徹底的に」行う
様子から、「金欠」の “out” が幅を利かせる。

また「へとへと」の “out” も、類義の複合形容詞
tired out“、”worn out“、”burn out“、”stressed out
と同じ用法。

◆ それなりに使われていると感じる表現であっても、
有力辞書に載っていないケースがある。

これまでの私は、3大学習英英辞典中、2点に掲載されて
いなければ、「無視しても構わない」くらいに考えてきた。

けれども、本稿で取り上げた
形容詞 “tapped out” → (1) 金欠の  (2) へとへとの
は、中級学習者であれば押さえておきたい。

米語スラングだから、と唾棄すべき対象ではない。

<主要辞書に載ってないから不要>との思い込みは危険、
と反省するきっかけとなった。感謝。

“I was tapped out after paying my rent.”
(家賃を支払ったら、無一文になった。)

“I was mentally tapped out during college years.”
(大学生の頃は、精神的に疲れ切っていました。)

 

 

 

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