Vocal about –
2020/11/26
~ について、自分の意見を明言する
自分の考えをはっきり言う。
それが形容詞 “vocal”。
良くも悪くも、自分の意見を主張している。
形容詞だから「状態」を示す。
-
“vocal” は形容詞であり、動詞でない。
-
“vocal” に動詞はない。
私たち日本人学習者にとって、手ごわい英単語が、
動詞のような意味合いの形容詞。
“vocal” が「意見を主張する」なら、
動詞ではないかと感じる。
確かに、次の動詞・句動詞と意味が重なる。
- insist
(主張する、他動詞・自動詞)
– - speak out
(意見を述べる、句自動詞)
– - express
(表現する、他動詞)
– - voice
(言葉に表す、他動詞)
– - articulate
(はっきり述べる、他動詞・自動詞・形容詞)
– 動詞:アーティキュレイト:ɑːrtíkjəlèit
– 形容詞:アーティキュレット:ɑːrtíkjələt
【音節】 ar-tic-u-late (4音節)
しかも、”vocal about” の和訳は動詞同然の
「~について主張する」「~について明言する」など。
なぜ、これが形容詞なのか。
どう考えても、動詞ではないか。
さっぱりわけ分からない。
意味が重なるため、動詞と形容詞を混同してしまう。
ここでつまずく日本人学習者は少なくない。
ー
◆ この問題については、”aware” で詳述した。
「意識している」「気づいている」を意味する “aware”
もまた、動詞と間違いやすい形容詞である。
–
動詞 “know“、”notice“、”perceive” などと似た意味合い。
再掲すると、
“aware” は、
「気づいている」状態(→ 形容詞)
「気づく」行為(→ 動詞)ではない
和訳すると同然で、見分けがつかず、混乱
類語は、”conscious“(意識している)。
これも、状態を表す形容詞。 ー
【参照】
・ “sick” は名詞でなく、形容詞
・ “dead” は動詞でなく、形容詞
・ “limbo” は形容詞でなく、名詞
同様に、
“vocal” は、
「明言する」状態(→ 形容詞)
「明言する」行為(→ 動詞)ではない
和訳すると同然で、見分けがつかず、混乱
代表的な類語は、
- outspoken(率直に言う)
- voiced(声に出した)
- blunt(率直な)
これらもすべて、状態を表す形容詞。 ー
動詞のような意味合いの形容詞は、日本人が
英語嫌いになる<隠れた鬼門>と私は考えてきた。
動詞と間違いやすい形容詞は、基礎単語に数多く含まれる。
“aware” の他には、例えば、
- ambitious (野心のある)
- angry (怒って)
- anxious (切望する)(不安で)
- careful (心配する)(注意深い)
- choice (選択する)
- confident (確信する)(自信がある)
- crazy (熱中している)(正気でない)
- desperate (死に物狂いの)(絶望的な)
- eager (熱望する)
- thirsty (切望する)(喉が渇く)
10語、いずれも 動詞は存在しない。
–
◆ 「動詞まがいの形容詞」について、以下考察してみる。
–
実務の通訳・翻訳に長年従事し、経験的に知ったこと。
日本の学校教育にて、教えることのない中身かもしれない。
思うに、混迷脱落をきたす最大原因は、細かい文法面にない。
それより、ずっと単純な理由。
英語の形容詞を、日本語の形容詞に置き換えても、
日本語として不自然になることが多いため、
もっと分かりやすい動詞として和訳する
そんな傾向が昔から存在した。
受け手に通じなければ、翻訳として失格。
一般的な日本語母語話者(日本語ネイティブ)
にすんなり通じるように、工夫して和訳する。
意味が理解できることが肝要で、品詞は不問。
◇ 「形容詞丸出し」な和訳との比較は、”aware” 参照
こんな考え方。
そもそも、言語として、根本的に大きな違いがある。
例えば、英語とドイツ語(ゲルマン語)は親戚。
英語は、5世紀のドイツ語の方言のようなもの。
ー
ヨーロッパ言語の大半と等しく、ラテン語、
ギリシア語由来の言葉も多い。
弊サイトで、<語源>をご案内しているのは、
学習の一助になると信じるからである。
【参照】 語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る
ー
◆ しかるに、日本語のルーツはまったく別。
言語学的に、系統的関連性が認められない。
当然、文法も格段に異なる。
表記・発音・音節・語順にも、類似点は少ない。
日本語の起源は、今なお解明されておらず、謎とされる。
【参照】 母語が日本語だと、英語習得のハードルは恐ろしく上がる
–
ー
◆ 業務上、匿名の和文投書を英訳することがある。
ー
文面にもかかわらず、主語や目的語が欠けていたりする。
苦情の場合、主格によって矛先が違ってくる(労使など)。
アメリカ人上司に相談しても、決して分かってもらえない。
主語が抜けても通じることもある、日本語の論理が理解できないから。
- 主語なしで通じるなんて、彼らの多くにとって「超能力」に近い
- 英語との違いを真剣に説明しても、にわかには信じてもらえない
- 「主語がないのに、なぜ分かるのか」と本気で疑われてしまう。
非常に厄介なので、こうした疑問は外国人の上司には相談しない。
とりわけ、語学のセンスに乏しい方であれば、不毛な努力である。
うざい質問ばかり、むやみやたらのしかかり、正直言って時間の無駄。
書き出されていない以上、全体の流れと経験で推論する。
匿名だから確認のしようがなく、実に翻訳者泣かせ。
◇ 主語や目的語を述べなくても通じる
ことが普通にある。 それが日本語。
ーー
◆ もっとも、英語でも主語なし場面は少なくない。
ー
【参照】 “Hope this helps.”
だが、大抵は状況から簡単に判断できる。
基本的に主語はついて回る。
英語では主語の明示を要す。
目的語にも言えること。
■ 主語・目的語を省ける言語は、世界的にも珍しい。
■ 日本語の持ち味のひとつ。
■ 日本語のすごさ、ユニークさを誇りに思ってよい。
とにかく、歴史から成り立ちから共通点がなく、
日英は大きく乖離していると考えるのが正しい。
だからこそ、英語の形容詞を日本語の形容詞に
訳そうとすると、へんてこりんな和訳になって
しまうことが多々ある。
すなわち、一読して分からない日本語。
これを避けるため、誰にでも理解しやすい動詞
を用いて、すっと通じるようにする。
概して、形容詞より動詞の方が理解しやすい。
幼児の言語習得プロセスでも、動詞が先。
形容詞が欠けても意思疎通はできるが、動詞は必須
多くの言語に共通する原則である。
英語の形容詞を、分かりやすい動詞で和訳した結果、
上記の混乱が生じてしまった。
私はこう考えている。
ー
◆ 「動詞まがいの形容詞」と先述した(緑字)。
ー
しかし、こう考えるのは、私たち日本人側の勝手な解釈。
英語の形容詞の大半は、形容詞の特徴「状態を表す」を維持している。
実は「動詞まがい」でない のだ。
ー
先のリストに例示した形容詞も例外ではない。
日本語と英語が違いすぎるので、
便宜上、分かりやすくするため、
英語の形容詞を「動詞」で和訳。
日英のギャップを埋めるには、大切な作業。
上に説明した混乱の原因を踏まえた上で、
次の基本を押さえるとよい。
■ 動詞 → 行為
■ 形容詞 → 状態
区別の基本は、たったこれだけ。
昔から不動の大原則。
日本人学習者が混乱する原因は、
英語の形容詞を自然な日本語に訳すため、
日本語の動詞に転換せざるえないから。
◇ 「形容詞丸出し」な和訳との比較は、”aware” 参照
–
まとめると、
日英は違いすぎる。
そのまま訳しても、ろくに通じないことも。
したがって、和訳時は「品詞の転換」
を頻繁に要する。
【例】 気づいている状態 → 気づいている行為
形容詞の “aware” → 和訳は動詞「気づいている」
結果的に、英語学習上の混乱 を招いた。
日本語オンリーならば、気にならない悩みである。
–
【参照】 意味さえつかめれば、十分なのが世間一般
–
【参考記事】 ※ 外部サイト
AI翻訳が人間超え、言葉の壁崩壊へ
2019年8月19日付–
–
◆ 表題 “vocal about – ” に話を戻す。
“vocal” には、形容詞と名詞がある。動詞はない。
語源は、ラテン語「声」(vōx)。
基本的意味は、すべて「声」がらみ。
カタカナからも、イメージは容易である。
ボーカル【vocal】
声楽。歌唱。
(大辞林 第三版)
– 形容詞「声の」「口頭の」「よくしゃべる」
– 名詞「声楽」「有声語」「ボーカル」
名詞は可算のみ。
複数形 “vocals” が通例の「複数名詞」
(plural)として表示する英英辞典もある。
“vocal“
countable usually plural
the part of a piece of music that is sung
rather than played on an instrument.
(ロングマン、LDOCE6)
【発音】 vóukəl
【音節】 vo-cal (2音節)
ボーカル1名でも、”vocals” と複数形になる。
次の3文が「複数名詞」の用例。
- “The band ‘ZARD’ was formed in 1991,
with Izumi Sakai on vocals.”
(バンド「ZARD」は、坂井泉水をボーカル
にして、1991年に結成された。)
– - “The song features Izumi Sakai on vocals.”
(この歌のボーカルは、坂井泉水である。)
– - “She wrote the songs and sang the vocals.”
(彼女は歌詞を書き、ボーカルとして歌った。)
カタカナ「ボーカル」は名詞だが、英語の “vocal”
の用途は形容詞が中心。
表題も形容詞。
「声」がらみだが、他とは毛色の変わった使い道である。
ニュースなどで、ひときわ目立つため、
本稿で取り上げている。
“vocal”
adjective
- expressing strong opinions publicly,
especially about things that you disagree.
(ロングマン、LDOCE6) - telling people your opinions or protesting
about something loudly and with confidence.
(オックスフォード、OALD9) - often expressing opinions and complaints
in speech.
(ケンブリッジ、CALD4)
–
※ 下線は引用者
–
【発音】 vóukəl
【音節】 vo-cal (2音節)
3大学習英英辞典(EFL辞典)の語釈の共通項は、
青字 “opinions”。
3本の下線が、鼻っ柱の強さを示唆する。
これに、関連の前置詞 “about“(~について)
を加えた表現が、表題 “vocal about”。
「~についてよくしゃべる」感じ。
ー
代わりに、範囲の前置詞 “in“(~について)
を使うこともあるが、”about” が圧倒的。
ー
◆ この “vocal” は形容詞なので、”be動詞“
に続くのが最多パターン。
では、なぜ「形容詞なので、”be動詞” に続く」のか。
その理由には、再び日英の形容詞の違いが関わる。
基本かつ重要なので、もう一度 “aware” から引用。
日本語の形容詞は用言の一つで、
単独で述語 になることができる。
- 私は悲しい。
- 彼女はきれい。
- それが楽しかった。
太字は形容詞。
「は」と「が」は、助詞(postpositional particle)。
名詞・代名詞の後ろに置き、
他の語との文法的関係を示す語。
前置詞(preposition)の反対の 後置詞(こうちし)。
それが、日本語の助詞。
※ 『日国』の語釈全文を後掲
–
一方、英語の形容詞は「be動詞」などの
助けを借りないと、述語になれない。
日本語の形容詞に比べて、
力が弱いから。
- I am sad.
- She is beautiful.
- It was fun.
黒の下線部が “be動詞“。
※ 「be動詞」= be、am、was、been、will be、is、were、are
要するに、英語の形容詞は、
弱すぎて述語として自立不能。
–
先述の文例を比べると、
<日本語の形容詞> 単独で述語 ○
強くて独立しているので、「助詞」が欠けても可。
少なくとも「話し言葉」なら、大抵問題ない。
△ 私、悲しい。
△ 彼女、きれい。
△ それ、楽しかった。
–
<英語の形容詞> 単独で述語 X
弱くて依存しているので、「be動詞」などは不可欠。
よって、以下は完全に間違い。
X I sad.
X She beautiful.
X It fun.–
–
◆ “vocal” の場合、次のいずれかと組むのが通例 (※ 後述)。
動詞に 「助けを借りる」 ためである
→ 英語の形容詞は、ひ弱で「自立」できず
片や、日本語の形容詞は、力強く「自立」できる。
-
be動詞
-
自動詞 “become“(~になる)
-
自動詞 “get“( ~になる)
ほとんどこの3つに収まるから、シンプル。
シンプルでないのは、和訳。
定訳がないに等しいので、文脈を考慮して訳す。
「~の状態」という形容詞のまま和訳すると、不自然に
なりがちなため、動詞を起用する説は既述の通り。
–
- “He became increasingly vocal about
employees’ rights.”
(彼は従業員の権利について、ますます主張
するようになった。)
– - “My boss has been very vocal about
the company’s policy.”
(私の上司は、会社の方針について、
積極的に話していた。)
– - “She is the first to get vocal about that.”
(彼女こそ、このことについて明言した
最初の人である。)
– - “She was very vocal in her support of me.”
(彼女はかなりはっきりと私を支持してくれた。)
– - “Disgruntled clients were very vocal
about their dissatisfaction.”
(不満を抱いた顧客たちは、自分たちの不平を
相当口にしていた。)
–
◆ 日本語の特徴の1つは、非言語のコミュニケーションにある。
以下、”I have a question for you.” より再掲。
日本語の特徴の1つは、非言語のコミュニケーション
が多い点である。
調和や協調を重視する密接な人間関係に基いて
発達したため、相手側の状況判断と相まって、
言葉に表さなくても会話が成立してしまう。
人口密度が高く、体験を共有している濃い関係。
言葉以外の「場の雰囲気」「あうんの呼吸」
を自ら察知して、すんなり理解できる。
そのため、あいまいな表現が多く、他の言語で通常
不可欠な主語を略しても、難なく通じたりする。
日本語の持ち味である。
一方、英語は個人主義的な文化から生まれた言語で、
個性重視の主体性がある。
とかく、自我が強い。
人口密度が低めで、事前に共有している情報が少ない。
同質的でないため、言語化しないとお互い分かりえない。
日本語が相手側の状況判断にかなり依存する言語に対し、
英語は伝達情報を言語にはっきり表す姿勢を基本とする。
同質社会でなく、共有体験が少ないため、日本人のように
「場の雰囲気」「あうんの呼吸」にゆだねるのは困難。
ゆえに、きちんと言葉で示さなければ通じない。
言語化しない内容は「存在しない」ようなもの
↑↑↑↑↑ これぞ、英語の大原則 ↑↑↑↑↑
–
【参照】 ※ 外部サイト、和文
■ 高コンテクスト文化と低コンテクスト文化
–↑ 文化人類学者 E.T.ホール の賛否両論ある学説 ↓
■ High-context and low-context cultures (英文)
–
このような文化・言語の違いがあるため、
非言語コミュニケーションを基盤とする日本語に
訳出すると、くどくどしくなったり、皮肉を帯びる
英語が多発する。
【参照】 ※ 外部サイト、英文
“Aimai: A Dynamic Intertwined in Japanese Culture and Language”
英語ネイティブの日本語学習者による「あいまいさ」の考察。
学者による論文より読みやすく、的を射た指摘の数々がすばらしい。
主語なしで通じる不思議についても言及する。
Japanese is an implicit language while
English is an explicit language.
Since often times a clear definition of the
subject is not known, translating from
implicit to explicit requires the ability to
infer meaning and insert the appropriate
words/phrase into the explicit.
“Aimai: A Dynamic Intertwined in Japanese Culture and Language”
by Kyle Von Lanken
2015年1月30日付
中級学習者の実力があれば、一読して把握できるだろう。
◆ 日本最大規模の国語辞典の名を誇る『日国』がこちら。
「助詞」全文であ
『日本国語大辞典 第二版』第7巻、p. 357、
小学館(2001年刊)より転載–
おまけに、「形容詞」全文。
『日本国語大辞典 第二版』第4巻、p. 1287、
小学館(2001年刊)より転載–
緑の傍線が、既記の
–
<英語の形容詞は「be動詞」などの助けを借りないと、述語になれない>
–
に該当する。
–
◆ 英語も「印欧語」。
インド・ヨーロッパ語族(the Indo‐European languages)とも言う。
画像の拡大
–
【出典】 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説より
「印欧語」と「形容動詞」は、”conclusive” で触れている。
◆ 日本語の文の種類は、3種類に大きく分けられる。
1. 名詞文
2. 形容詞文
3. 動詞文
1. 「名詞文」 → 述語に名詞が使われる
1-1 私は学生です。
1-2 父は今ニューヨークです。
2. 「形容詞文」 → 述語に形容詞または形容動詞が使われる
2-1 富士山は美しい。(形容詞)
2-2 京都は有名である。(形容動詞)
3. 「動詞文」 → 述語に動詞が使われる
3-1 彼はそこに行きました。
3-2 私は昼食を食べました。
–
上記を英訳してみる。 青字は動詞 (下線部は “be動詞”)。
1-1 I am a student.
1-2 My father is in New York now.
2-1 Mt. Fuji is beautiful.
2-2 Kyoto is famous.
3-1 He went there.
3-2 I ate lunch.
動詞が「3. 動詞文」に用いられることは言うまでもない。
ところが、
「1. 名詞文」と「2. 形容詞文」にも
動詞(be動詞)が使われている。
日本語の「1. 名詞文」「2. 形容詞文」には動詞はないのが普通なのに、
英語になると、必ず動詞が出てくる。
「名詞文」「形容詞文」「動詞文」
のすべてに、英語では動詞が使われる。
日本語と英語の大きな違いである。