プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Vocal about –

      2020/11/20

~ について、自分の意見を明言する

自分の考えをはっきり言う。

それが形容詞 “vocal”。

良くも悪くも、自分の意見を主張している。

形容詞だから「状態」を示す。

  • “vocal” は形容詞であり、動詞でない。
  • “vocal” に動詞はない。

私たち日本人学習者にとって、手ごわい英単語が、
  動詞のような意味合いの形容詞。

“vocal” が「意見を主張する」なら、
動詞ではないかと感じる。

確かに、次の動詞・句動詞と意味が重なる。

  • insist
    (主張する、他動詞・自動詞)
  • speak out
    (意見を述べる、句自動詞)
  • express
    (表現する、他動詞)
  • voice
    (言葉に表す、他動詞)
  • articulate
    (はっきり述べる、他動詞・自動詞・形容詞)
    –  動詞:アーティキュレイトɑːrtíkjəlèit
    –  形容詞:アーティキュレットɑːrtíkjələt
    【音節】   ar-tic-u-late  (4音節)

しかも、”vocal about” の和訳は動詞同然の
「~について主張する」「~について明言する」など。

なぜ、これが形容詞なのか。
どう考えても、動詞ではないか。

さっぱりわけ分からない。

意味が重なるため、動詞と形容詞を混同してしまう

ここでつまずく日本人学習者は少なくない。

◆  この問題については、”aware” で詳述した。

意識している」「気づいている」を意味する “aware”
もまた、動詞と間違いやすい形容詞である。

動詞  “know“、”notice“、”perceive”  などと似た意味合い。

再掲すると、

“aware” は、
「気づいている」状態(→  形容詞)

「気づく」行為(→  動詞)ではない

  和訳すると同然で、見分けがつかず、混乱  

類語は、”conscious“(意識している)。
これも、状態を表す形容詞

【参照】
・ “sick” は名詞でなく、形容詞
“dead” は動詞でなく、形容詞
・ “limbo” は形容詞でなく、名詞

同様に、

“vocal” は、
「明言する」状態(→  形容詞)

「明言する」行為(→  動詞)ではない

  和訳すると同然で、見分けがつかず、混乱  

代表的な類語は、

  • outspoken(率直に言う)
  • voiced(声に出した)
  • blunt(率直な)

これらもすべて、状態を表す形容詞

動詞のような意味合いの形容詞は、日本人が
英語嫌いになる<隠れた鬼門>と私は考えてきた。

動詞と間違いやすい形容詞は、基礎単語に数多く含まれる。

“aware” の他には、例えば、

  1.  ambitious (野心のある)
  2.  angry (怒って)
  3.  anxious (切望する)(不安で)
  4.  careful (心配する)(注意深い)
  5.  choice (選択する)
  6.  confident (確信する)(自信がある)
  7.  crazy (熱中している)(正気でない)
  8.  desperate (死に物狂いの)(絶望的な)
  9.  eager (熱望する)
  10.  thirsty (切望する)(喉が渇く)

10語、いずれも  動詞は存在しない

◆  「動詞まがいの形容詞」について、以下考察してみる。

実務の通訳・翻訳に長年従事し、経験的に知ったこと。
日本の学校教育にて、教えることのない中身かもしれない。

思うに、混迷脱落をきたす最大原因は、細かい文法面にない。
それより、ずっと単純な理由。

英語の形容詞を、日本語の形容詞に置き換えても、

日本語として不自然になることが多いため、
もっと分かりやすい
動詞として和訳する

そんな傾向が昔から存在した。

受け手に通じなければ、翻訳として失格。

一般的な日本語母語話者(日本語ネイティブ)
にすんなり通じるように、工夫して和訳する。

意味が理解できることが肝要で、品詞は不問

◇  「形容詞丸出し」な和訳との比較は、”aware” 参照

こんな考え方。

そもそも、言語として、根本的に大きな違いがある。

例えば、英語とドイツ語(ゲルマン語)は親戚。
英語は、5世紀のドイツ語の方言のようなもの。

ヨーロッパ言語の大半と等しく、ラテン語、
ギリシア語由来の言葉も多い。

弊サイトで、<語源>をご案内しているのは、
学習の一助になると信じるから。

【参照】   語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る

◆  しかるに、日本語のルーツはまったく別。

言語学的に、系統的関連性が認められない。

当然、文法も格段に異なる。

表記・発音・音節・語順にも、類似点はない。

日本語の起源は、今なお解明されておらず、とされる。

【参照】   母語が日本語だと、英語習得のハードルは恐ろしく上がる



◆  業務上、匿名の和文投書を英訳することがある。

文面にもかかわらず、主語や目的語が欠けていたりする。
苦情の場合、主格によって矛先が違ってくる(労使など)。

アメリカ人上司に相談しても、決して分かってもらえない。
主語が抜けても通じることもある、日本語の論理が理解できないから。

  •  主語なしで通じるなんて、彼らの多くにとって「超能力」近い
  •  英語との違いを真剣に説明しても、にわかには信じてもらえない
  •  「主語がないのに、なぜ分かるのか」と本気で疑われてしまう。

非常に厄介なので、こうした疑問は外国人の上司には相談しない。
とりわけ、語学のセンスに乏しい方であれば、不毛な努力である。

うざい質問ばかり、むやみやたらのしかかり、正直言って時間の無駄

書き出されていない以上、全体の流れと経験で推論する。
匿名だから確認のしようがなく、実に翻訳者泣かせ。

◇  主語や目的語を述べなくても通じる
ことが普通にある。  それが日本語。

◆  もっとも、英語でも主語なし場面は少なくない。

【参照】  “Hope this helps.”

だが、大抵は状況から簡単に判断できる。

基本的に主語はついて回る。
英語では主語の明示を要す。
目的語にも言えること。

■  主語・目的語を省ける言語は、世界的にも珍しい。
■  日本語の持ち味のひとつ。
■  日本語のすごさ、ユニークさを誇りに思ってよい。

とにかく、歴史から成り立ちから共通点がなく、
日英は大きく乖離していると考えるのが正しい。

だからこそ、英語の形容詞を日本語の形容詞に
訳そうとすると、へんてこりんな和訳になって
しまうことが多々ある。

すなわち、一読して分からない日本語。

これを避けるため、誰にでも理解しやすい動詞
を用いて、すっと通じるようにする。

概して、形容詞より動詞の方が理解しやすい。

幼児の言語習得プロセスでも、動詞が先。

形容詞が欠けても意思疎通はできるが、動詞は必須

多くの言語に共通する原則である。

英語の形容詞を、分かりやすい動詞で和訳した結果、
上記の混乱が生じてしまった。

私はこう考えている。

◆ 「動詞まがいの形容詞」と先述した(緑字)。

しかし、こう考えるのは、私たち日本人側の勝手な解釈。

英語の形容詞の大半は、形容詞の特徴「状態を表す」を維持している。

実は「動詞まがい」でない のだ。

先のリストに例示した形容詞も例外ではない。

日本語と英語が違いすぎるので、
便宜上、分かりやすくするため、
英語の形容詞を「動詞」で和訳。

日英のギャップを埋めるには、大切な作業。

上に説明した混乱の原因を踏まえた上で、
次の基本を押さえるとよい。

■ 動詞  →  行為

■ 形容詞  →  状態

区別の基本は、たったこれだけ。

昔から不動の大原則。

日本人学習者が混乱する原因は、

英語の形容詞を自然な日本語に訳すため、
日本語の動詞に転換せざるえないから。

◇  「形容詞丸出し」な和訳との比較は、”aware” 参照


まとめると、

日英は違いすぎる。

そのまま訳しても、ろくに通じないことも。

したがって、和訳時は「品詞の転換
を頻繁に要する。

【例】 気づいている状態   →  気づいている行為
形容詞の  “aware”   →    和訳は動詞「気づいている」

結果的に、英語学習上の混乱 を招いた。

日本語オンリーならば、気にならない悩みである。

【参照】  意味さえつかめれば、十分なのが世間一般

【参考記事】    ※  外部サイト

AI翻訳が人間超え、言葉の壁崩壊へ
2019年8月19日付


◆  表題 “vocal about – ” に話を戻す。

“vocal” には、形容詞と名詞がある。動詞はない。
語源は、ラテン語「声」(vōx)。

基本的意味は、すべて「声」がらみ。
カタカナからも、イメージは容易である。

  ボーカルvocal

声楽。歌唱。
(大辞林 第三版)

–  形容詞「声の」「口頭の」「よくしゃべる
–  名詞「声楽」「有声語」「ボーカル」

名詞は可算のみ。

複数形 “vocals” が通例の「複数名詞」
(plural)として表示する英英辞典もある。

vocal

countable usually plural
the part of a piece of music that is sung
rather than played on an instrument.

(ロングマン、LDOCE6)

【発音】  vóukəl
【音節】  vo-cal  (2音節)

ボーカル1名でも、”vocals” と複数形になる。
次の3文が「複数名詞」の用例。

  • “The band ‘ZARD’ was formed in 1991,
    with Izumi Sakai on vocals.”
    (バンド「ZARD」は、坂井泉水をボーカル
    にして、1991年に結成された。)
  • “The song features Izumi Sakai on vocals.”
    (この歌のボーカルは、坂井泉水である。)
  • “She wrote the songs and sang the vocals.”
    (彼女は歌詞を書き、ボーカルとして歌った。)

カタカナ「ボーカル」は名詞だが、英語の “vocal”
の用途は形容詞が中心。

表題も形容詞。

「声」がらみだが、他とは毛色の変わった使い道である。

ニュースなどで、ひときわ目立つため、
本稿で取り上げている。

“vocal”

adjective

  • expressing strong opinions publicly,
    especially about things that you disagree.
    (ロングマン、LDOCE6)
  • telling people your opinions or protesting
    about something loudly and with confidence.
    (オックスフォード、OALD9)
  • often expressing opinions and complaints
    in speech.
    (ケンブリッジ、CALD4)

    ※  下線は引用者

    【発音】  vóukəl
    【音節】  vo-cal  (2音節)

3大学習英英辞典(EFL辞典)の語釈の共通項は、
青字 “opinions”。

3本の下線が、鼻っ柱の強さを示唆する。

これに、関連の前置詞 “about“(~について)
を加えた表現が、表題 “vocal about”。

「~についてよくしゃべる」感じ。

代わりに、範囲の前置詞 “in“(~について)
を使うこともあるが、”about” が圧倒的。

◆  この “vocal” は形容詞なので、”be動詞
に続くのが最多パターン。

では、なぜ「形容詞なので、”be動詞” に続く」のか。
その理由には、再び日英の形容詞の違いが関わる。

基本かつ重要なので、もう一度 “aware” から引用。

 

日本語の形容詞は用言の一つで、
単独で述語 になることができる。

  • 私は悲しい
  • 彼女はきれい
  • それが楽しかった

太字は形容詞。
「は」と「が」は、助詞postpositional particle)。

名詞・代名詞の後ろに置き、
他の語との文法的関係を示す語。
前置詞(preposition)の反対の 後置詞(こうちし)。

それが、日本語の助詞。

※  『』の語釈全文を後掲

一方、英語の形容詞は「be動詞などの
助けを借りないと、述語になれない。

日本語の形容詞に比べて、
力が弱いから。

  • I am sad.
  • She is beautiful.
  • It was fun.

黒の下線部が “be動詞“。

be動詞be、am、was、been、will be、is、were、are


要するに、英語の形容詞は、

  弱すぎて述語として自立不能。

先述の文例を比べると、

  <日本語の形容詞>  単独で述語 ○  

強くて独立しているので「助詞」が欠けても可。
少なくとも「話し言葉」なら、大抵問題ない。

私、悲しい
彼女、きれい
それ、楽しかった

  <英語の形容詞>  単独で述語 X  

弱くて依存している
ので、「be動詞」などは不可欠
よって、以下は完全に間違い。

X  I sad.
X  She beautiful.
X  It fun.


◆  “vocal” の場合、次のいずれかと組むのが通例  (※  後述)

動詞に 「助けを借りる」 ためである
→  英語の形容詞は、ひ弱で「自立」できず

片や、日本語の形容詞は、力強く「自立」できる

  1. be動詞
  2. 自動詞become(~になる)
  3. 自動詞get( ~になる)

ほとんどこの3つに収まるから、シンプル。
シンプルでないのは、和訳。

定訳がないに等しいので、文脈を考慮して訳す。

「~の状態」という形容詞のまま和訳すると、不自然に
なりがちなため、動詞を起用する説は既述の通り。

  • “He became increasingly vocal about
    employees’ rights.”
    (彼は従業員の権利について、ますます主張
    するようになった。)
  • “My boss has been very vocal about
    the company’s policy.”
    (私の上司は、会社の方針について、
    積極的に話していた。)
  • “She is the first to get vocal about that.”
    (彼女こそ、このことについて明言した
    最初の人である。)
  • “She was very vocal in her support of me.”
    (彼女はかなりはっきりと私を支持してくれた。)
  • Disgruntled clients were very vocal
    about their dissatisfaction.”
    (不満を抱いた顧客たちは、自分たちの不平を
    相当口にしていた。)

◆  日本語の特徴の1つは、非言語のコミュニケーションにある。

以下、”I have a question for you.” より再掲。

日本語の特徴の1つは、非言語のコミュニケーション
が多い点である。

調和や協調を重視する密接な人間関係に基いて
発達したため、相手側の状況判断と相まって
言葉に表さなくても会話が成立してしまう。

人口密度が高く、体験を共有している濃い関係。
言葉以外の「場の雰囲気」「あうんの呼吸
を自ら察知して、すんなり理解できる。

そのため、あいまいな表現が多く、他の言語で通常
不可欠な主語を略しても、難なく通じたりする。

日本語の持ち味である。

一方、英語は個人主義的な文化から生まれた言語で、
個性重視の主体性がある。

とかく、自我が強い

人口密度が低めで、事前に共有している情報が少ない。
同質的でないため、言語化しないとお互い分かりえない

日本語が相手側の状況判断にかなり依存する言語に対し、
英語は伝達情報を言語にはっきり表す姿勢を基本とする。

同質社会でなく、共有体験が少ないため、日本人のように
場の雰囲気」「あうんの呼吸」にゆだねるのは困難。
ゆえに、きちんと言葉で示さなければ通じない。

  言語化しない内容は「存在しない」ようなもの  

↑↑↑↑↑  これぞ、英語の大原則  ↑↑↑↑↑


【参照】    ※  外部サイト、和文

高コンテクスト文化と低コンテクスト文化
文化人類学者 E.T.ホール の賛否両論ある学説
High-context and low-context cultures (英文)

このような文化・言語の違いがあるため、
非言語コミュニケーションを基盤とする日本語
訳出すると、くどくどしくなったり、皮肉を帯びる
英語が多発
する。

【参照】   ※  外部サイト、英文

“Aimai: A Dynamic Intertwined in Japanese Culture and Language”

英語ネイティブの日本語学習者による「あいまいさ」の考察。

学者による論文より読みやすく、的を射た指摘の数々がすばらしい。
主語なしで通じる不思議についても言及する。

Japanese is an implicit language while
English is an explicit language.

Since often times a clear definition of the
subject is not known
, translating from
implicit to explicit requires the ability to
infer meaning and insert the appropriate
words/phrase into the explicit.

“Aimai: A Dynamic Intertwined in Japanese Culture and Language”
by Kyle Von Lanken

2015年1月30日付

中級学習者の実力があれば、一読して把握できるだろう。

 

 

◆  日本最大規模の国語辞典の名を誇る『日国』がこちら。

「助詞」全文である。


日本国語大辞典 第二版』第7巻、p. 357、
小学館(2001年刊)より転載

おまけに、「形容詞」全文。


日本国語大辞典 第二版』第4巻、p. 1287、
小学館(2001年刊)より転載

緑の傍線が、既記の

英語の形容詞は「be動詞などの助けを借りないと、述語になれない

に該当する。

◆  英語も「印欧語」。

インド・ヨーロッパ語族(the Indo‐European languages)とも言う。

「印欧語」と「形容動詞」は、”conclusive” で触れている。

 

◆  日本語の文の種類は、3種類に大きく分けられる。

1.  名詞文
2.  形容詞文
3.  動詞文

1. 「名詞文」 →  述語に名詞が使われる

1-1  私は学生です。
1-2  父は今ニューヨークです。

2. 「形容詞文」 →  述語に形容詞または形容動詞が使われる

2-1  富士山は美しい。(形容詞)
2-2  京都は有名である。(形容動詞)

3. 「動詞文」 →  述語に動詞が使われる

3-1  彼はそこに行きました
3-2  私は昼食を食べました

上記を英訳してみる。  青字は動詞 (下線部は “be動詞”)。

1-1  I am a student.
1-2  My father is in New York now.

2-1  Mt. Fuji is beautiful.
2-2  Kyoto is famous.

3-1  He went there.
3-2  I ate lunch.

動詞が「3. 動詞文」に用いられることは言うまでもない。

ところが、

「1. 名詞文」と「2. 形容詞文」にも
動詞be動詞)が使われている。

日本語の「1. 名詞文」「2. 形容詞文」には動詞はないのが普通なのに、

英語になると、必ず動詞が出てくる。

「名詞文」「形容詞文」「動詞文」
すべてに、英語では動詞が使われる。

日本語と英語の大きな違いである。

 

 

 

 

 

 

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