Initial
2021/01/04
最初の、 初期の
“initial” は「イニシャル」のこと。
日本の一般社会に根付いた「イニシャル」は、
通常「頭文字(かしらもじ)」を指す。
イニシャル
《名》(英 initial)
ローマ字で書いたもの、または欧文のことばの、
最初の文字。特に人名の姓や名の最初の文字を
さしていうことが多く、これらはふつう大文字
で書く。頭文字。 [新しい言葉の字引 (1918)]
(精選版 日本国語大辞典)
《名》が示すように、名詞である。ー
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「 名+姓 」の イニシャル → 複数形 ” initials ”
( 「名」or「姓」のみ → 単数形 “ initial ” )
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◆ “initial” には、形容詞・名詞・動詞がある。
名詞 “initial” の重要度は同等だが、頻出度では
形容詞が上回る。
LDOCE6(ロングマン)の表記によれば、
■ 形容詞 “initial” → 最初の、初期の
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:<1001~2000語以内>
- 話し言葉の頻出度:<2001~3000語以内>
■ 可算名詞 “initial” → 頭文字
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
さらにマイナーなのが動詞。 完全ノーマーク。
自動詞はなく、他動詞のみ。
■ 他動詞 “initial” → 頭文字を書く
- 重要度:9000語圏外
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
【活用形】
initials – initialed – initialed – initialing
–
イギリス英語 (”l” が2重に)
initials – initialled – initialled – initialling
- Please initial your name.
(イニシャルでご署名ください。)
–
- You have to initial every correction.
(すべての訂正箇所にイニシャルをご記入ください。)
–
- I initialed each page of the contract.
(その契約書の全ページにイニシャルを記した。)
–
イニシャルでご署名ください
◆ 発音は共通。
–
3音節で少々難しい。
「 イニッショー 」などと聞こえる。
【発音】 iníʃəl
【音節】 in-i-tial (3音節)
「音節」(syllable)とは、発音の最小単位。
日本語の場合、原則として「仮名一字が1音節」。
そのため、音節を意識する機会は乏しい。
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◆ 語源も共通。 ラテン語「最初」(initiālis)である。
嚆矢となったのは、形容詞で1520年代から。
続いて名詞が1620年代、最後に動詞で1830年代。
「 形容詞 → 名詞 → 動詞 」の発生順は、
上掲の重要度・頻出度の順位と同じ。
こうした単語では、語義の順序は辞書間でほぼ一致する。
つまり、出てくる意味の順番は、英和・英英問わず、
どの辞書を引いても変わらないということ。
だが、このような単語は多くない。
語義の配列は、各辞書の編集方針に従う。
それゆえ、頻度順または発生順の方針次第で、
使い勝手に差が生じてしまう。–
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その具体例は、”just checking in” でご紹介した。
–
発生順は「歴史主義」と言われ、語義を系統的にたどるには最適。
しかし、一般的な英語学習者には、頻度順の方が実用的と考える。
–
手元の著名英和を調べると、概ね以下の模様。
- 『リーダーズ英和辞典 第3版』 → 発生順
- 『ランダムハウス英和大辞典 第2版』 → 発生順
- 『ジーニアス英和大辞典』 → 発生順
- 『研究社 新英和大辞典 第6版』 → 頻度順
学習者対象の学習英英辞典(EFL辞典)は、大方「頻度順」。
英語ネイティブ向けの英英辞典は「発生順」が目立つ印象。
–
弊サイトが日本人にお勧めするネイティブ用辞書は、
- “Webster’s New World College Dictionary” → 発生順
※ 辞書のご案内(写真入り): ” tapped out “
世界最大の英語辞典の “OED” = 『オックスフォード英語辞典』
も、発生順(歴史主義)。–
成り立ち重視の表れである。
【公式サイト】 http://www.oed.com/
国語辞典では、『広辞苑』は発生順、『大辞林』は頻度順。
【参照】
■ 英語辞書は「紙」か「電子版」か
■ 「自炊本」「紙」の辞書を含む 使用辞書一覧
— –→ 世界最大 “ OED ” と 日本最大『 日国 』入手済み
–
◆ 英語辞典を選ぶ上で、語義の配列は大切な着眼点である。
ー
配列の違いの意義と影響を真に実感できるようになるのは、
おそらく中級の実力に達してから。
初学者に、差異はよく分からないだろう。 私もそうだった。
そもそも、有名どころの学習者向け辞書は、先述の通り、
どれも様々な工夫を凝らして構成されている。
学習目的に特化しており、もともと親切な作りなのである。
だから、心配無用。
その代り、学習専一の限界も伴う。
とりわけ、英和辞典には、実務とかけ離れた用例が散見される。
ー
語学の持ち味は、学ぶほどに、難儀が増えてくること。
「 あの頃は英語が楽しく、質問にも即答できたのに … 」
過ぎ去りし日々をしきりに思い起こし、悩ましさが増していく。
- こんなに勉強してるのに …
- もう英語なんか辞めたい …
このしんどい段階(plateau)をどうにか乗り越えれば、
きっと 英語を見る目が一変する。
ー
【参照】
語学は「きりがない」と割り切る覚悟が必要
–
【参考】 ※ 外部サイト
成長の停滞時期「プラトー現象」とは?
–
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◆ “initial” に話を戻す。
形容詞・名詞・動詞の全部が、語源「最初」を継承する
意味合い。 それぞれの基本的意味は、上表の青字が表す。
すなわち、
- 形容詞 → 最初の、初期の
- 可算名詞 → 頭文字
- 他動詞 → 頭文字を書く
見事なまでに、語源「最初」に忠実。
“initial” の基本は、青字を押さえれば十分。
こうして眺めると、形容詞以外の使い道に応用力は
見込めないことに気づく。
普段使いでは、「頭文字」関連だらけの名詞と動詞。
発展性は望むべくもない。
したがって、本稿では形容詞に主眼を置く。
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◆ ビジネス用法の “initial” も、形容詞中心。
- initial cost (初期費用)
- initial finding (初期所見)
- initial investment (初期投資)
- initial payment (頭金)
–※ ” down payment ” とほぼ同義 - initial phase (初期段階)
- initial planning (初期計画)
- initial preparation (初期準備)
- initial price (当初価格)
- initial public offering (IPO、新規株式公開)
- intial stage (初期段階)
- initial value (初期値、デフォルト値)
- initial investigation (初動調査)
◆ お次は、感情あらわな使用例。
プライベートはもちろん、職場でも使われる。
- initial enthusiasm (最初の情熱)
- initial excitement (最初の興奮)
- initial hesitation (最初の戸惑い)
- initial impression (最初の印象、第一印象)
- initial instinct (最初の直感)
- initial reaction (最初の反応)
- initial response (初期反応、初動対応)
- initial result (初期結果、初期成果、初期成績)
- initial shock (最初のショック、初震)
- initial surprise (最初の驚き)
- initial thought (最初に思ったこと)
後に覆される感情であるがゆえに「最初」を示す
形容詞 “initial” を名詞に添えている。
これは、当初の知覚が当てになるとは限らない
ことを示唆する。
誰しも経験上分かるに違いない。
感情は水物だったりする。
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◆ 以上、23点の<2語単語>は、代表的な用例。
日頃、見聞きするものばかりで、日常にしっくりなじむ感。
形容詞 “initial” を用いた「決まり文言」に近い。
出番がまれな表現は、ひとつもない。
4大学習英英辞典(EFL辞典)よりかき集めたのだから、当然。
形容詞 “initial” の語釈は実にスマート。
“initial”
■ happening at the beginning.
(LDOCE6、ロングマン)
■ happening at the beginning; first.
(OALD9、オックスフォード)
■ of or at the beginning.
(CALD4、ケンブリッジ)
■ You use initial to describe something that happens
at the beginning of a process.
(COBUILD9、コウビルド)
【発音】 iníʃəl
【音節】 in-i-tial (3音節)
4辞書とも、可算名詞 “beginning”(最初)を含む。
COBUILDの個性的だが、冗長気味の語釈は相変わらず。
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語源「最初」を一貫して引き継いでいる点は、既述した。
要するに、”beginning” としか表しようがないほど、
単純な意味合いなのである。
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◆ 本稿では、形容詞に焦点を絞ってきた。
初出年・重要度・頻出度を比較検討した結果、名詞・動詞用法
よりも、形容詞用法の位置づけが上回ったからである。
「頭文字」で凝り固まりがちな “initial” を語源から再確認
し、理解をぐっと深めるのが趣旨。
取っ掛かりさえ見つければ、なんてことない表現も多い。
中級学習者であれば、そうした有力な手掛かりを、既に
いくつも握っているはずなのだ。–自信をもってよい。
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◆ 弊サイトで語源を重視している一因がここにある。
語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る試み。
万能ではないものの、有益な場面は数多い。
まさしく、手始め(at the initial stage)に役立つ。
機械的に辞書を引く作業だけで、ほとんど手間なし。
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本稿で挙げた英和・英英辞典のうち、語源解説をことさら強化
しているのは、次の3辞書。
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その他の辞書にも語源の記載はあるが、この3点は格別。
- 『ランダムハウス英和大辞典 第2版』
- 『ジーニアス英和大辞典』
- “OALD10” オックスフォード現代英英辞典 第10版
加えて、オンラインの語源辞典がこちら。
“Online Etymology Dictionary” を冠する名の通り、
語源専門の英文サイトである。
※ etymology( ètəmɑ́lədʒi ) = 語源(学)
–
◆ 医学博士・文学博士であった森鴎外(1862-1922)
も、語源に立ち返る学習効果に着目していた。
その日の講義のうちにあった術語だけを、
希臘拉甸(ギリシャラテン)の語原を調べて、
赤インキでペエジの縁に注して置く。
教場の外での為事は殆どそれ切である。
人が術語が覚えにくくて困るというと、
僕は可笑しくてたまらない。
何故語原を調べずに、器械的に覚えようと
するのだと云いたくなる。
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森鴎外『ヰタ・セクスアリス』(1909年刊)
・ 術語 = 専門語 (technical term の訳語)
・ 語原 = 語源
発禁処分を受けた自伝的な短編小説。
鴎外(森林太郎)の医学生時代の勉強法は参考になる。
著作権が消滅しているため、パブリックドメインに属する
作品として、青空文庫などで全文公開されている。