Initial
2023/05/30
最初の、 初期の
” initial ” は、 「 イニシャル 」。
日本の一般社会に根付いた 「 イニシャル 」 は、
通常 「 頭文字( かしらもじ )」 を指す。
–
イニシャル
《名》( 英 initial )
ローマ字で書いたもの、または欧文のことばの、
最初の文字。 特に人名の姓や名の最初の文字を
さしていうことが多く、これらはふつう大文字
で書く。 頭文字。 [ 新しい言葉の字引 ( 1918 ) ]
( 精選版 日本国語大辞典 )
–
《名》が示すように、名詞である。ー
ー
「 名+姓 」の イニシャル → 複数形 ” initials ”
( 「 名 」or「 姓 」のみ → 単数形 “ initial ” )
ー
ー
◆ ” initial ” には、形容詞・名詞・動詞がある。
名詞 ” initial ” の 重要度 は同等だが、
頻出度 は 形容詞が上回る。
LDOCE6 ( ロングマン ) の表記によれば、
■ 形容詞 “ initial ” → 最初の、初期の
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:<1001~2000語以内>
- 話し言葉の頻出度:<2001~3000語以内>
■ 可算名詞 “ initial ” → 頭文字
- 重要度:<3001~6000語以内>
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
–
さらにマイナーなのが動詞。
完全ノーマーク。
自動詞はなく、 他動詞のみ。
–
■ 他動詞 “ initial ” → 頭文字を書く
- 重要度:9000語圏外
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
【 活用形 】
initials – initialed – initialed – initialing
–
イギリス英語 ( ” L ” が2重 )
initials – initialled – initialled – initialling
- Please initial your name.
( イニシャルでご署名ください。)
–
- You have to initial every correction.
( すべての訂正箇所に イニシャルをご記入ください。)
–
- I initialed each page of the contract.
( その契約書の全ページに イニシャルを記した。)
–
イニシャルで ご署名ください
–
◆ 形容詞 ” initial ” に、 態様の接尾辞 ( suffix ) の ” ly ”
を付け加えると、 副詞 ” initially ” ( 最初は、 初期は )。
【発音】 iníʃəli
【音節】 in-i-tial-ly (4音節)
- ” Initially, I was fine with it.”
- ” I was fine with it initially.”
( 最初はそれでいいと思っていました。)
◆ 発音は共通。
–
3音節で少々難しい。
「 イ ニッ ショー 」 などと聞こえる。
【発音】 iníʃəl
【音節】 in-i-tial (3音節)
「 音節 」( syllable ) とは、 発音の最小単位。
日本語の場合、 原則として 「 仮名一字が1音節 」。
そのため、 音節を意識する機会は乏しい。
音節の差異が顕著な日英比較は、 ” integrity ” で詳らかにした。
ー
ー
◆ 語源も共通。
ラテン語 「 最初 」( initiālis )である。
嚆矢となったのは、 形容詞で1520年代から。
続いて名詞が1620年代、 最後に動詞で1830年代。
「 形容詞 → 名詞 → 動詞 」 の発生順は、
上掲の重要度・頻出度の順位と同じ。
こうした単語では、 語義の順序は辞書間でほぼ一致する。
つまり、出てくる意味の順番は、 英和・英英問わず、
どの辞書を引いても変わらないということ。
このような単語は多くない。
語義の配列は、 各辞書の編集方針に従う。
それゆえ、頻度順または発生順の方針次第で、
使い勝手に差が生じてしまう。–
–
その具体例は、 ” just checking in ” でご紹介した。
–
発生順は 「歴史主義」 と言われ、 語義を系統的にたどるには最適。
しかし、 一般的な英語学習者には、 頻度順の方が実用的と考える。
–
手元の 著名英和を調べると、概ね以下の模様。
- 『 リーダーズ英和辞典 第3版 』 → 発生順
- 『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』 → 発生順
- 『 ジーニアス英和大辞典 』 → 発生順
- 『 研究社 新英和大辞典 第6版 』 → 頻度順
学習者対象の 学習英英辞典(EFL辞典)は、大方「頻度順」。
英語ネイティブ向けの英英辞典は「発生順」が目立つ印象。
–
弊サイトが日本人にお勧めするネイティブ用辞書は、
- “ Webster’s New World College Dictionary ” → 発生順
※ 辞書のご案内(写真入り): ” tapped out “
世界最大の英語辞典の ” OED ” = 『 オックスフォード英語辞典 』
も、発生順(歴史主義)。–
成り立ち重視の表れである。
【公式サイト】 http://www.oed.com/
国語辞典では、『 広辞苑 』は発生順、『 大辞林 』は頻度順。
【参照】
■ 英語辞書は「 紙 」 か 「 電子版 」 か
■ 「 自炊本 」 「 紙 」 の辞書を含む 使用辞書一覧
— –→ 世界最大 “ OED ” と 日本最大 『 日国 』 入手済み
–
◆ 英語辞典を選ぶ上で、語義の配列は大切な着眼点である。
ー
配列の違いの意義と影響を真に実感できるようになるのは、
おそらく中級の実力に達してから。
初学者に、差異はよく分からないだろう。 私もそうだった。
そもそも、有名どころの学習者向け辞書は、先述の通り、
どれも様々な工夫を凝らして構成されている。
学習目的に特化しており、もともと親切な作りなのである。
だから、心配無用。
その代り、学習専一の限界も伴う。
とりわけ、英和辞典には、実務とかけ離れた用例が散見される。
ー
語学の持ち味は、学ぶほどに、難儀が増えてくること。
「 あの頃は英語が楽しく、質問にも即答できたのに … 」
過ぎ去りし日々をしきりに思い起こし、悩ましさが増していく。
- こんなに勉強してるのに …
- もう英語なんか辞めたい …
このしんどい段階 ( plateau ) をどうにか乗り越えれば、
きっと 英語を見る目が一変する。
ー
【参照】
–
【参考】 ※ 外部サイト
–
ー
ー
◆ ” initial ” に話を戻す。
形容詞・名詞・動詞の全部が、 語源「 最初 」を継承する意味合い。
]それぞれの基本的意味は、上表の青字が表す。
すなわち、
- 形容詞 → 最初の、初期の
- 可算名詞 → 頭文字
- 他動詞 → 頭文字を書く
見事なまでに、 語源「 最初 」に忠実。
” initial ” の基本は、 青字を押さえれば十分。
こうして眺めると、
形容詞以外の使い道に応用力は見込めない ことに気づく。
普段使いでは、「 頭文字 」関連だらけの名詞と動詞。
発展性は望むべくもない。
したがって、 本稿では形容詞に主眼を置く。
ー
ー
◆ ビジネス用法の ” initial ” も、 形容詞中心。
- initial cost ( 初期費用 )
- initial finding ( 初期所見 )
- initial investment ( 初期投資 )
- initial payment ( 頭金 )
→ ” down payment ” とほぼ同義 - initial performance ( 初期性能 )
- initial phase ( 初期段階 )
- initial plan / initial planning ( 初期計画 )
- initial preparation ( 初期準備 )
- initial price ( 当初価格 )
- initial public offering ( IPO、 新規株式公開 )
- initial release ( 初回リリース )
- intial stage ( 初期段階 )
- intial training ( 初期訓練 )
- initial value ( 初期値、 デフォルト値 )
- initial investigation ( 初動調査 )
官公庁で用いる “ initial appointment ” は、
「 職員の採用 」 の意味であり、 役所用語寄り。
◆ お次は、 もっと感情あらわな使用例。
プライベートはもちろん、職場でも使われる。
- initial enthusiasm ( 最初の情熱 )
- initial excitement ( 最初の興奮 )
- initial hesitation ( 最初の戸惑い )
- initial impression ( 最初の印象、 第一印象 )
- initial instinct ( 最初の直感 )
- initial reaction ( 最初の反応 )
- initial response ( 初期反応、 初動対応 )
- initial result ( 初期結果、 初期成果、 初期成績 )
- initial shock ( 最初のショック、 初震 )
- initial surprise ( 最初の驚き )
- initial thought ( 最初に思ったこと )
後に覆される感情であるがゆえに、
「 最初 」を示す形容詞 ” initial ” を名詞に添えている。
当初の 知覚 が当てになるとは限らないことを示唆する。
誰しも経験上分かるに違いない。
感情は水物だったりする。
ー
ー
◆ 以上の < 2語単語 > は、代表的な用例。
日頃、見聞きするものばかりで、日常にしっくりなじむ感。
形容詞 “initial” を用いた「決まり文言」に近い。
出番がまれな表現は、ひとつもない。
4大学習英英辞典(EFL辞典)よりかき集めたのだから、当然。
形容詞 “initial” の語釈は実にスマート。
“initial”
■ happening at the beginning.
(LDOCE6、ロングマン)
■ happening at the beginning; first.
(OALD9、オックスフォード)
■ of or at the beginning.
(CALD4、ケンブリッジ)
■ You use initial to describe something that happens
at the beginning of a process.
(COBUILD9、コウビルド)
【発音】 iníʃəl
【音節】 in-i-tial (3音節)
–
4辞書とも、 可算名詞 ” beginning “( 最初 ) を含む。
COBUILDの個性的だが、 冗長 気味の語釈は相変わらず。
ー
語源「 最初 」を一貫して引き継いでいる点は、既述した。
要するに、 ” beginning ” としか表しようがないほど、
単純な意味合いなのである。
–
–
◆ 本稿では、 形容詞に焦点を絞ってきた。
初出年・重要度・頻出度を比較検討した結果、 名詞・動詞用法
よりも、 形容詞用法の位置づけが上回ったからである。
「 頭文字 」で凝り固まりがちな ” initial ” を 語源から再確認
し、 理解をぐっと深めるのが趣旨。
取っ掛かりさえ見つければ、なんてことない表現も多い。
中級学習者 であれば、そうした有力な手掛かりを、既に
いくつも握っているはず。–
自信をもってよい。
–
–
–
◆ 弊サイトで、 語源を重視している一因がここにある。
語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る試み。
万能ではないものの、有益な場面は数多い。
まさしく、 手始め( at the initial stage )に役立つ。
機械的に辞書を引く作業だけで、 ほとんど 手間なし。
ー
本稿で挙げた英和・英英辞典のうち、
語源解説をことさら強化 しているのは、 次の3辞書。
ー
その他の辞書にも語源の記載はあるが、 この3点は格別。
- 『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』
- 『 ジーニアス英和大辞典 』
- “ OALD10 ” オックスフォード現代英英辞典 第10版 → 写真
加えて、 オンラインの語源辞典がこちら。
” Online Etymology Dictionary ” を冠する名の通り、
語源専門の英文サイトである。
※ etymology( ètəmɑ́lədʒi ) = 語源(学)
–
◆ 医学博士・文学博士であった森鴎外( 1862-1922 )
も、 語源に立ち返る学習効果に着目していた。
–
–
その日の講義のうちにあった術語だけを、
希臘拉甸( ギリシャラテン )の語原を調べて、
赤インキでペエジの縁に注して置く。教場の外での為事は殆どそれ切である。
人が術語が覚えにくくて困るというと、
僕は可笑しくてたまらない。何故語原を調べずに、 器械的に覚えようと
するのだ と云いたくなる。
–森鴎外 『 ヰタ・セクスアリス 』( 1909年刊 )
–
・ 術語 = 専門語 ( technical term の訳語 )
・ 語原 = 語源
発禁処分 を受けた自伝的な短編小説。
鴎外 ( 森林太郎 ) の医学生時代の勉強法は参考になる。
著作権が消滅しているため、 パブリックドメイン に属する
作品として、 青空文庫 では 全文公開 されている。