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Initial

      2019/07/01

最初の、初期の

“initial” は「イニシャル」のこと。

日本の一般社会に根付いた「イニシャル」は、
通常「頭文字(かしらもじ)」を指す。

 イニシャル 

《名》(英 initial)
ローマ字で書いたもの、または欧文のことばの、
最初の文字。特に人名の姓や名の最初の文字
さしていうことが多く、これらはふつう大文字
で書く。頭文字。  [新しい言葉の字引 (1918)]

(精選版 日本国語大辞典)

《名》が示すように、名詞である。

image.png

名+姓」のイニシャル 複数形 initials
(「名」or「姓」のみ → 単数形 “initial” )


◆ “initial” には、形容詞・名詞・動詞がある。

名詞 “initial” の重要度は同等だが、頻出度では
形容詞が上回る。

LDOCE6(ロングマン)の表記によれば、

 形容詞 “initial”  → 最初の、初期の

  • 重要:<3001~6000語以内>
  • 書き言葉頻出:<1001~2000語以内>
  • 話し言葉頻出:<2001~3000語以内>

 可算名詞 “initial”  → 頭文字

  • 重要:<3001~6000語以内>
  • 書き言葉頻出3000語圏外
  • 話し言葉頻出3000語圏外

さらにマイナーなのが動詞。 完全ノーマーク。
自動詞はなく、他動詞のみ。

 他動詞 “initial”  → 頭文字を書く

  • 重要9000語圏外
  • 書き言葉頻出3000語圏外
  • 話し言葉頻出3000語圏外

<語形変化>
initials – initialed – initialed – initialing
※ イギリス英語 (”l” が2重に)
initials – initialled – initialled – initialling

  • Please initial your name.
    (イニシャルでご署名ください。)

  • You have to initial every correction.
    (すべての訂正箇所にイニシャルをご記入ください。)

  •  I initialed each page of the contract.
    (その契約書の全ページにイニシャルを記した。)

◆ 発音は共通。

3音節で少々難しい。
ショー 」などと聞こえる。

  • 【発音】 iníʃəl
  • 【音節】 in-i-tial

「音節」(syllable)とは、発音の最小単位。
日本語の場合、原則として「仮名一字が1音節」。
そのため、音節を意識する機会は乏しい。


◆ 語源も共通。 ラテン語「最初」(initiālis)である。

嚆矢となったのは、形容詞で1520年代から。
続いて名詞が1620年代、最後に動詞で1830年代。

「 形容詞 → 名詞 → 動詞 」の発生順は、
上掲の重要度・頻出度の順位と同じ。

こうした単語では、語義の順序は辞書間でほぼ一致する。
つまり、出てくる意味の順番は、英和・英英問わず、
どの辞書を引いても変わらないということ。

だが、このような単語は多くない。

語義の配列は、各辞書の編集方針に従う。
それゆえ、頻度順または発生順の方針次第で、
使い勝手に差が生じてしまう。

その具体例は、”check” でご紹介した。

発生順は「歴史主義」と言われ、語義を系統的にたどるには最適。
しかし、
一般的な英語学習者には、頻度順の方が実用的と考える。


手元にある著名英和を調べると、概ね以下の模様。

学習者対象の学習英英辞典(EFL辞典)は、大方「頻度順」。
英語ネイティブ向けの英英辞典は「発生順」が目立つ印象。

例えば、弊サイトが日本人にお勧めするネイティブ用辞書がこれ。

世界最大の英語辞典の “OED” =『オックスフォード英語辞典
発生順(歴史主義)。成り立ち重視の表れである。
【公式サイト】  http://www.oed.com/

国語辞典では、『広辞苑』は発生順、『大辞林』は頻度順


◆ 英語辞典を選ぶ上で、語義の配列は大切な着眼点である。

配列の違いの意義と影響を真に実感できるようになるのは、
おそらく中級の実力に達してから。

初学者に、差異はよく分からないだろう。 私もそうだった。

そもそも、有名どころの学習者向け辞書は、先述の通り、
どれも様々な工夫を凝らして構成されている。

学習目的に特化しており、もともと親切な作りなのである。

だから、心配無用。 その代り、学習専一の限界も伴う。
とりわけ、英和辞典には、実際とかけ離れた用例が
今なお散見される。

語学の持ち味は、学ぶほどに、難儀が増えてくること。

「 あの頃は英語が楽しく、質問にも即答できたのに … 」
過ぎ去りし日々をしきりに思い起こし、悩ましさが増していく。

こんなに勉強してるのに …
もう英語なんか辞めたい …

このしんどい段階(plateau)をどうにか乗り越えれば、
きっと 英語を見る目が一変する

【参照】
語学は「きりがない」と割り切る覚悟が必要

【参考】 ※ 外部サイト
成長の停滞時期「プラトー現象」とは?



◆  “initial” に話を戻す。

形容詞・名詞・動詞の全部が、語源「最初」を継承する
意味合い。 それぞれの基本的意味は、上表の青字が表す。

すなわち、

  • 形容詞 → 最初の、初期の
  • 可算名詞 → 頭文字
  • 他動詞 → 頭文字を書く

見事なまでに、語源「最初」に忠実。
“initial” の基本は、青字を押さえれば十分。

こうして眺めると、形容詞以外の使い道に応用力は
見込めない
ことに気づく。

普段使いでは、「頭文字」関連だらけの名詞と動詞。
発展性は望むべくもない。

したがって、本稿では形容詞に主眼を置く。


◆ ビジネス用法の “initial” も、形容詞中心。

  1. initial cost  (初期費用)
  2. initial investment(初期投資)
  3. initial payment(頭金)
    ※ “down payment” と同義
  4. initial phase(初期段階)
  5. initial planning(初期計画)
  6. initial preparation(初期準備)
  7. initial price(当初価格)
  8. initial public offering(新規株式公開、IPO
  9. intial stage(初期段階)
  10. initial value(初期値、デフォルト値)

◆ お次は、感情あらわな使用例。

プライベートはもちろん、職場でも使われる。

  1. initial enthusiasm(最初の情熱)
  2. initial excitement(最初の興奮)
  3. initial hesitation(最初の戸惑い)
  4. initial impression(最初の印象、第一印象)
  5. initial instinct(最初の直感)
  6. initial reaction(最初の反応)
  7. initial response(初期反応、初動対応)
  8. initial shock(最初のショック、初震)
  9. initial surprise(最初の驚き)
  10. initial thought(最初に思ったこと)

後に覆される感情であるがゆえに「最初」を示す
形容詞 “initial” を名詞に添えている。

当初の知覚が、必ずしも当てにならないことを示唆する。
誰しも経験上分かるに違いない。 感情は水物だ。


◆ 以上、20点の<2語単語>は、代表的な用例。

日頃、見聞きするものばかりで、日常にしっくりなじむ感。
形容詞 “initial” を用いた「決まり文言」に近い。
出番がまれな表現は、ひとつもない。

4大学習英英辞典(EFL辞典)よりかき集めたのだから、当然。

形容詞 “initial” の語釈は実にスマート。

“initial”

happening at the beginning.
(LDOCE6、ロングマン)
happening at the beginning; first.
(OALD9、オックスフォード)
of or at the beginning.
(CALD4、ケンブリッジ)
You use initial to describe something that happens
at the beginning of a process.
(COBUILD9、コウビルド)

【発音】 iníʃəl  【音節】 in-i-tial

4辞書とも、可算名詞 “beginning”(最初)を含む。
COBUILDの個性的だが、冗長気味の語釈は相変わらず。

語源「最初」を一貫して引き継いでいる点は、既述した。
要するに、”beginning” としか表しようがないほど、
単純な意味合いなのである。


◆ 本稿では形容詞に焦点を絞ってきた。

初出年・重要度・頻出度を比較検討した結果、名詞・動詞用法
よりも、形容詞用法の位置づけが上回ったからである。

「頭文字」で凝り固まりがちな “initial” を語源から再確認
し、理解をぐっと深めるのが趣旨。

取っ掛かりさえ見つければ、なんてことない表現も多い。

中級学習者であれば、そうした有力な手掛かりを、既に
いくつも握っているはずなのだ。自信をもってよい。


◆ 弊サイトで語源を重視している一因がここにある。

  語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る試み。
万能ではないものの、有益な場面は数多い。

まさしく、手始め(at the initial stage)に役立つ。
機械的に辞書を引く作業だけで、ほとんど手間なし

本稿で挙げた英和・英英辞典のうち、語源解説をことさら強化
しているのは、次の3辞書。

その他の辞書にも語源の記載はあるが、この3点は格別。

加えて、オンラインの語源辞典がこちら。

“Online Etymology Dictionary” を冠する名の通り、
語源専門の英文サイトである。

※ etymology( ètəmɑ́lədʒi )= 語源(学)

◆ 医学博士・文学博士であった森鴎外(1862-1922)
も、語源に立ち返る学習効果に着目していた。

その日の講義のうちにあった術語だけを、
希臘拉甸(ギリシャラテン)の語原を調べて、
赤インキでペエジの縁に注して置く。

教場の外での為事は殆どそれ切である。

人が術語が覚えにくくて困るというと、
僕は可笑しくてたまらない。

何故語原を調べずに、器械的に覚えようと
するのだと云いたくなる。

森鴎外『ヰタ・セクスアリス』(1909年刊)

術語  = 専門語 (technical term の訳語)
語原  = 語源

発禁処分を受けた自伝的な短編小説。
鴎外(森林太郎)の医学生時代の勉強法は参考になる。

著作権が消滅しているため、パブリックドメインに属する
作品として、青空文庫などで全文公開されている。

 

 

 

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