自動詞 : 急上昇する
他動詞 : アルコール・薬物を こっそり混ぜる
「 スパイク 」 と言えば、「 靴 」 または 「 タイヤ」 。
これが日本の世間一般の認識だろう。
【発音】 spáik (1音節)
平板で、 均一なリズムの日本語では、
4音節の 「 ス – パ – イ – ク 」。
–
ところが、 英語では 「 1音節 ( one syllable )」。
腹の底から ゲロする 迫力で、 一息に発声する。
–
ス パイク ッ
–
破裂音[p]に力を込めて、「 パイ 」を強調。
「 音節 」( syllable、シラブル ) とは、 発音の最小単位。
「 1音節 」の場合、「 発音の最小単位 」 に切れ目がないため、
ゲロ の凄みが出る。
日英の 「 音節 」 は、 ” integrity ” でかなり深掘りしている。
( 図入り、 動画入り )
–
◆ 普段使いの英語は、それぞれ、
- 「 スパイク靴 」 cleats、 spikes、 spiked shoes
- 「 スパイクタイヤ 」 studded tires
靴のスパイクは、 米国では “ cleats ” が多用される。
“ cleat ” の語源は、 中期英語の 「 くさび 」( clete )。
電気器具・船具の 「 クリート 」 もこれ。
–
【発音】 klíːt (1音節)
–
複数形 ” spikes ” 1語、 または形容詞 ” spiked ” を
複数形 ” shoes ” に冠した、 ” spiked shoes ” も使う。
通常、 左右一組( = 2つの靴 )を指すため、複数形が原則。
–
片や、「 スパイクタイヤ 」は 和製語。
スパイクなしの「 スタッドレスタイヤ 」は、
英語でも ” studless tire “。
” stud ” は「 スタッドボルト」「 スタッドベルト 」
のそれで、「 鋲( びょう )」を表す。
語源は、古英語「 柱 」( studu )。
【発音】 stʌ́d (1音節)
–
動詞 ” stud ” は、 他動詞「 鋲を打つ 」「 ちりばめる 」。
ここでの ” studded ” は、 形容詞「 ちりばめられた 」。
【発音】 stʌd.ɪd
【音節】 stud-ded (2音節)
語源 「 大くぎ 」
先端の尖ったものが苦手な方なら、 身の毛がよだつ絵かも。
ー
一瞥した途端、 皮膚が ぞわぞわし、 鳥肌 が立ったりする。
あるいは、 ぼつぼつした突起物の集合体に 吐きそう になったり。
【発音】 fóubiə
【音節】 pho-bi-a (3音節)
–
” spike ” の理解には欠かせない構図なので、 あえて図示した次第。
–
◆ ” spike ” には、名詞・他動詞・自動詞がある。
語源は、 古ノルド語 「 大くぎ 」( spīkr )。
ー
英語の ” spike ” は多義だが、 この語源につながる
意味合いが多い。
とりわけ、名詞 はその傾向が顕著。
” spike ” は、可算名詞である。
- 先端の尖ったもの
- 靴底の金具
- スパイクシューズ・スパイクヒール ( 複数形 )
- 伝票差し
- ( 防犯用の ) 忍び返し
- グラフ図の波型の尖頭 ( ピーク )
- 急騰
- 血糖値スパイク ( glucose spike ) 血糖値の急上昇・乱高下
- 棘波 ( きょくは = とがった脳波 )
- スパイクタンパク質 ( spike protein ) ウイルス表面の突起物
- 鋭く振幅の大きい山形のパルス
- 瞬時性電圧上昇
- 飲み物に加えるアルコール
–
◆ 名詞・他動詞・自動詞から、 最も基本となる
” spike ” の語義を1つずつ挙げると、
-
名詞 「 先端の尖ったもの 」
-
他動詞 「 くぎを打ち付ける 」
-
自動詞 「 急上昇する 」
–
◆ 英和辞書で “ spike ” を引くと、 名詞 「 犬くぎ(いぬくぎ) 」も目立つ。
鉄道レールを枕木に固定する太いくぎのこと。
頭部が犬の頭に似ているから 「 犬くぎ 」。
” dog spike ” の訳語で、「 スパイキ 」とも言う。
バレーボールの「 スパイク 」とは、味方がトスした
ネット際の球を、相手側コートに鋭く打ち込む攻撃法。
別称「 アタック 」。
–
ジャンプして強打する激烈さが、
鋭利なスパイクのイメージそのものである。
また、 アメフトの 「 スパイク 」 は、 タッチダウン後に
ボールを地面に叩きつける勝利のアクション。
さらに、 競技中 「 スパイクされた 」 と言えば、
靴底の金具で相手に傷つけられたことを示す。
野球、 サッカーなどに出てくる。
すべて強く激しくシャープな様子。
語源 「 大くぎ 」 の尖りを連想できるものばかり。
とげとげしい、 先ほどの図を見返していただきたい。
ー
ー
◆ 数ある語義から、 本稿で取り上げる語意の選択基準は、
ニュース全般に比較的頻出だが、
意味を推測しにくい
自動詞と他動詞をひとつずつ
すなわち、
- 自動詞 「 急上昇する 」
- 他動詞 「 アルコール・薬物をこっそり混ぜる 」
【活用形】 spike – spikes – spiked – spiked – spiking
–
【参考】 ※ 外部サイト
–
メディア報道に多用される ” spike “。–
これで選んだ。
ー
ー
◆ 実際のところ、英単語全体から見た ” spike ” の
重要度・頻出度は目立たない。
LDOCE6(ロングマン)の表記によれば、
- 名詞 ” spike ”
– 重要度:<6001~9000語以内>
– 書き言葉の頻出度:3000語圏外
– 話し言葉の頻出度:3000語圏外
– - 自動詞・他動詞 “ spike ”
– 重要度 :9000語圏外
– 書き言葉の頻出度:3000語圏外
– 話し言葉の頻出度:3000語圏外
いずれも特筆すべきものはない。
名詞用法の方が、 少しばかり格上な感。
現に「 スパイク靴 」や「 忍び返し 」は身近に存在する。
ー
しかし、ニュースに登場する場面はまれ。
単体として事件沙汰になり、報道価値 が生じる可能性も低い。
おまけに、 語源に沿っており、 一度学べば把握可能なレベル。
一方、 上掲の自他動詞の用途は、 年がら年中ニュースを賑わせる。
当然、 紙面を飾る機会も多い。ー
使い道が 確立して いるからに他ならない。
その割に、「 スパイク 」 からは思いつきにくい。
先述の名詞一覧に比べれば、ずっと疎遠な印象。
だからこそ、 自他動詞に焦点を定めて考察していく。
ー
ー
◆ 順繰りに見ていこう。
自動詞 「 急上昇する 」
–
語源から、 なんの脈絡を見出すことができない感があるが、
そんなことはない。
「 大くぎ 」みたいに、 鋭く飛び出ると「 急上昇 」する。
こんな感じ。
–
先端の尖った矢印から、語源の「 大くぎ 」を思い浮かべる
ことは難しくない。
なだらかな流れが、 ピュッと一気にとんがり、 上向いていく。
そんな 急テンポな右上がりの推移 が、” spike “。
大くぎ状に跳ね上がる勢いから、
- 急騰
- 急伸
- 急増
などと訳される。
ー
自動詞 ” spike” 1語でも通じるが、副詞 “up” を加えた
” spike up ” もよく見聞きする。
自動詞の句動詞なので、” spike up ” は「 句自動詞 」 。
逆に ” spike down ” なら「 急降下 」。
同じく「 句自動詞 」。-s
” spike up ” も、”spike down” も句自動詞 ( intransitive phrasal verb ) 。
” spike down ” の出番は少なめ。
参考程度に押さえておけばよい。
ー
ー
◆ 自動詞 ” spike “、 ” spike up ” は、「 急上昇 」「 急騰 」「 急伸 」。
数値を扱う報道に馴染むことが分かる。
特に、情勢の急転を告げる経済記事で重宝する。
ー
物価 ・ 株価 ・ 価格 ・ 金利 ・ 原材料 ・ 相場 ・ 地価
これらの変動をカバーする。
急騰すれば、速報が流れることもある。
歓迎すべき急上昇かどうかは、立場によりけり。
がらりと急変後、関係者に緊張が走る現象はきっと共通する。
–
–
◆ 3大学習英英辞典( EFL辞典 )は次の通り。
“ spike ”
- if the number or rate of something spikes,
it increases quickly and by a large amount.
( LDOCE6、ロングマン )
– - ( especially North American English )
to rise quickly and reach a high value.
( OALD9、オックスフォード )
– - to rise to a higher amount, price, or level,
usually before going down again.
( CALD4、ケンブリッジ )
–
–※ 下線は引用者
【発音】 spáik (1音節)
–
そろって容易と言える語釈だろう。
CALD4の下線部 「 通常は再び下降する前 」 は、
言い得て妙。–
–
–
What goes up must come down.( 上がったものは、必ず下がる。)
アイザック・ニュートン
Sir Isaac Newton ( 1642-1727 )
–
こうした格言を彷彿する。
ー
浮き沈みは世の理。
先に触れた物価や株価などに限らない。
「 山あり谷あり 」ゆえに、 名詞 ” spike ” でご紹介した
以下の語意が成立する。
- グラフ図の波型の尖頭 ( ピーク )
- 棘波 ( きょくは = とがった脳波 )
- 鋭く振幅の大きい山形のパルス
「 山あり 」が ” spike “。
- “Oil prices spiked this morning.”
(今朝、石油価格が急騰した。)
– - “Pageviews for my website spiked yesterday.”
(昨日、私のサイトの閲覧数が急上昇した。)
– - “Gas prices spiked another 7 cents per gallon.”
(ガソリン価格はガロンあたり、さらに7%も急上昇した。)
ー - “Youth suicides spiked after release of the movie.”
(その映画の公開後、若者の自殺が急増した。)
ー - “The teacher did not elaborate on the spike in violations.”
(その教師は違反が急上昇したことについて、詳しく触れなかった。)
ー - “Defense spending has spiked by 90% in a decade.”
(10年間で、防衛費は90%も急増した。)
– - “Sales of face masks are spiking.”
(マスクの売上げが急激に伸びている。)
– - “Tokyo has seen a noticeable spike in COVID-19 cases.”
(東京ではCOVID-19の感染者が目立って増えている。)
– - “U.S. inflation just spiked”
(米インフレ、急激に悪化)
※ ニュース見出し
– - “The U.S. Is Seeing a Massive Spike in Anti-Asian Hate Crimes”
(アジア系に対するヘイトクライムが激増する米国)
※ ニュース見出し
– - “COVID-19 Is Spiking”
(新型コロナウイルスが急増中)
※ ニュース見出し
– - “Virus cases in X spike by nearly 950%”
(X州のウイルス感染者急増、約950%)
※ ニュース見出し–
–
- “Coronavirus Cases Are Spiking at Federal Agencies”
(コロナ感染者数が連邦政府機関で急増中)
※ ニュース見出し
– - “Lifting shelter-in-place orders would lead to a
spike in infections this summer.”
(外出禁止令の解除は、今夏の感染者急増をもたらす)
※ ニュース見出し
– - “Huge Spike in Coronavirus Cases”
(コロナウイルス感染者急増)
※ ニュース見出し
–
- “X says number of coronavirus cases spiked
from three to 132”
(X国:コロナウイルス感染者が3名から132名に急増)
※ ニュース見出し
– - “In Y, coronavirus cases are spiking”
(Y地区でコロナウイルス感染者が急増中)
※ ニュース見出し
– - “White House in denial over coronavirus spikes”
(コロナウイルス急増に否定的なホワイトハウス)
※ ニュース見出し
– - “Are bars responsible for COVID-19 spikes ? ”
(新型コロナウイルス急増、酒場が原因なのか)
※ ニュース見出し
– - “Spike in COVID Cases Prompts Japan to Extend State of Emergency”
(日本のコロナ感染者急増が、緊急事態宣言の延長を促す)
※ ニュース見出し
–
【類似表現】
–
” skyrocket ”
https://mickeyweb.info/archives/44447
( 急上昇する )
–
–
◆ お次は、 新聞沙汰の他動詞。
他動詞 「 アルコール・薬物をこっそり混ぜる 」
–
手始めにご指摘したいことは、 必ずしも 「 こっそり 」 でない点。
風味を増すため、調味料などを加える ” spike ” もありうる。
- “He loves hotdogs spiked with mustard.”
(彼はマスタードをかけたホットドッグが大好き。)
CALD4 の記載する例文のひとつは、
- “The pasta was served in a cream sauce spiked
with black pepper.”
(そのパスタは黒コショウで味付けしたクリームソース
で和えられていた。)
該当する語釈はこちら。
“ spike ”
- to make a drink stronger by adding alcohol, or
to add flavor or interest to something.
( CALD4、ケンブリッジ )–
–
–※ 下線は引用者
【発音】 spáik (1音節)
–
” alcohol ” も含むが、「 知らぬ間に 」のニュアンスは見当たらない。
ー
だが、 LDOCE6 と OALD4 は明記する。
ハイライト部分に着目。
–
“ spike ”
- to secretly add strong alcohol or a drug to
someone’s drink or food.
( LDOCE6、ロングマン )
– - to add alcohol, poison or a drug to somebody’s
drink or food without them knowing.
( OALD9、オックスフォード )
–
–※ 下線・ハイライトは引用者
【発音】 spáik (1音節)
–
無論、 事件沙汰になるのは 「 こっそり 」系。
–
LDOCE6 と OALD4 が示すように 「 他者 」( 下線部 )
の飲み物や食べ物に 無断で 混ぜる行為である。
ー
その後の出来事は、 言わずもがな。
周知の話であろう。
ー
ーー
◆ 意識もうろうに追い込む物質は、 上記の 3大EFL辞典 によると、
- alcohol ( アルコール )
- drug ( 薬物 )
- poison ( 毒物 )
飲み物なら、 こういう具合か。
ー
–
–
薬物としては、 睡眠薬( 「 サイレース 」など ) が代表格。
俗に ” date rape drugs ” と総称
–
主に、 顔見知りとのデート中に起こるので、 ” date rape “。
そのデートの相手を ” date ” と表す可算名詞もある。
そいつが襲うから、 ” date rape ” とする解釈も。
日付 ” date ” と同じ単語で、 語源はラテン語 「 与える 」( data )。
【発音】 déit (1音節)
” rape ” の語源もラテン語で、「 強奪する 」( rapere )。
【発音】 réip (1音節)
カタカナ 「 レイパー 」 を見かけることがあるが、
英語では ” raper ” よりは、 ” rapist ” が一般的。
【発音】 réipist
【音節】 rap-ist (2音節)
” er ”、” ist ” は両方とも 「 ~ する人 」 を意味する接尾辞。
” Grope ” で代表例を一覧にした。
–
◆ 日本では、「 スピリタス 」 に 「 梅酒 」 を混ぜる方法が
横行しているとも聞く。
スピリタスは、 アルコール度数 96% の 「 世界最強ウォッカ 」。
口当たりのよい梅酒と合わせれば、 酔いを自覚しにくくなる。
ー
この種の情報は、 インターネットで調べると無限に出てくる。
各国にて問題になっている犯罪でもあり、 防犯 意識を高める
情報も大量に出回っている。
注意喚起の目的で、 液体に溶かすと、 派手に変色( 真っ青など )
する睡眠薬も増えてきた。 ↓
–
–
– 「 レイプドラッグ、 後絶たず 」
https://mainichi.jp/articles/20230419/ddl/k23/040/176000c
2023年4月19日付
ー
ー
◆ 表現の基本パターンは、
spike ● with ■
● 飲み物、食べ物 ( 目的語 )
■ アルコール、 薬物、 毒物
–
ここでの ” with ” は、「 手段・材料 」の前置詞。
” with ■ ” の部分は、 概ね固定されている反面、
● は 所有格 ( possessive ) に伴う言い回しもある。
ー
この場合、 英文法に従って、 単語の移動がある。
- “Her orange juice had been spiked with vodka.”
(彼女のオレンジジュースにはウォッカが混入されていた。)
ー - “She spiked his food with drugs.”
(彼女は彼の食べ物に薬物を混入した。)
– - “I was given milk spiked with alcohol.”
(頂いた牛乳にアルコールが混入されていた。)
– - “They served desserts spiked with booze.”
(彼らはアルコール入りのデザートを出したの。)
– - “My drink must have been spiked with steroids.”
(私の飲み物にステロイドが入れられたに違いない。)
–– 「 レイプドラッグから身を守る3箇条 」
( NHK クローズアップ現代+ )
https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/144/index.html
2019年7月3日付 ( リンク切れ )