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Skyrocket

      2024/07/23

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急上昇する、 うなぎのぼりになる

物価などが、とどまることなく、
どんどん上がることを 「 うなぎのぼり 」 という。
ウナギが、 水中で上へ上へと昇ることが由来。
  うなぎのぼり【 鰻登り・鰻上り 】

■ (ウナギが水中で身をくねらせて垂直に登ることから)
物価・温度、また人の地位などが、見る見るうちに
のぼること。
( 広辞苑 第七版 )

■  物事の程度や段階が急激に上がっていくこと。
( 大辞林 第四版 )

※  下線は引用者

「 見る見るうちに 」「 急激に 」なので、 急ピッチな様子。

例えば、 消費税の増税は「 うなぎのぼり 」とは言えないと考える。
  •  1989年4月 施行 : 3%
  •  1997年4月 施行 : 5%
  •  2014年4月 施行 : 8%
  •  2019年10月 施行 : 10%
主要な国語辞典は 「 物価 」 を筆頭例に挙げるものの、
近年の日本では物価の急速な上昇は、めったに見られない。


主に通貨の 「 ハイパーインフレーション 」 時に発生する現象である。

国際会計基準では、「 3年間で累積100%以上の物価上昇
が、
「 ハイパーインフレ 」の定義 ( 2022年現在 )。

この基準は高く、我が国で起こる可能性は低い。


したがって、国語辞典に頻出の「 物価 」のうなぎのぼりは、
日本人にとって、現実離れしていると考えられる。

それよりは、「 売上 」「 人気 」「 成績 」「 評判 」
のうなぎのぼりの方が、
よほど身近であろう。


◆  表題  ” skyrocket ”  の定訳のひとつが、「 うなぎのぼりになる 」。

 


ところが、  日本語の「 うなぎのぼり 」は、
上図の「 ロケット 」のような

物理的な物体の急上昇には使わない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/うなぎのぼり

こうした食い違いが、 語学の興趣だと感じるが、 いかがだろう。
自家撞着する図を添えたのは、 記憶に刻むには有効と考えたため。


◆  ” skyrocket ” の由来は「 打ち上げ花火 」。

【発音】  skáɪrɑ̀kət
【音節】  sky-rock-et  (3音節)

17世紀から 使われていた名詞で、「 ロケット花火 」を意味する。

無論、 宇宙船・ミサイルなどを打ち上げるロケットエンジンは、

当時は存在しない。
一方、 花火の歴史は長く、 中国の宋( 960–1279年 )王朝以降、
既にロケット推進式の花火が「 のろし 」として活用されていた。


  のろし【 狼煙・烽火 】

■  1. 戦時、非常時の緊急連絡のためにあげる煙。
( 精選版 日本国語大辞典 )

■  1. 昔、戦争や事件が起こったあいずに、火をもやしてあげたけむり。
( 三省堂国語辞典 第八版 )

※  語釈該当引用


「 ロケット 」とは、火薬などの爆発で生じるガス噴射
の反動力を利用した装置を指す。

ロケット推進式の打ち上げ花火なので、「 ロケット花火 」。

空に向けて打ち上げるので、 名詞 ” sky ” が加わり、” skyrocket ” に。

動詞「 急上昇する 」「 うなぎのぼりになる 」は、2世紀後の19世紀
より使われ始めた。

動詞は、自動詞中心。

他動詞に触れない辞書が多いが、後述の辞書が記すように、他動詞もある。

意味する内容は同然。

  •  名詞  「 ロケット花火
  •  動詞  「 急上昇する 」「 うなぎのぼりになる
    【活用形】  skyrockets – skyrocketed – skyrocketed – skyrocketing

現在分詞  ” skyrocketing ”  で、時に次のように和訳されるのが、
「 物価 」「 株価 」「 地価 」をはじめとする価格関連。

  •  青天井 ( 天井知らずで、長期間無制限に上がること )
  •  暴騰 ( 急に大幅に上がること  ↔  暴落 )

” skyrocketing ” は、形容詞的にも用いられ、意味は重なる。

  •  高騰している ( 高く上がること  ↔  低落 )
  •  急騰している ( 急激に上がること  ↔  急落 )

◆  これまで見てきたように、” skyrocket ” の成り立ちと意味合いは、
比較的単純である。

しかし、単語は「 3音節 」で「 R 」入り。

日本人にとって、難易度高めの発音。

【発音】  skáɪrɑ̀kət
【音節】  sky-rock-et  (3音節)

「 音節 」( syllable、シラブル ) とは、 発音の最小単位

日本語の場合、  原則として 「 仮名一字が1音節 」。

そのため、 音節を意識する機会は乏しい。

音節の日英比較は、” integrity ” で事細かに取り上げた。
( 図入り、 動画入り )


◆  実際のところ、” skyrocket ” を普段使う機会は、そうそう訪れない。

一般市民の平穏無事な日常に、
「 ロケット花火 」 やら 「 うなぎのぼり 」やら、
物騒がしい雰囲気が入り込む余地は生じにくい。

普段使いには過激かつ極端すぎて、 使い勝手はよくない感。

  • ” Her goal is to effortlessly skyrocket her income. ”
    ( 彼女の目標は、楽々と収入を急増させることです。)

自ら使うより、 見聞きする場面がずっと多い印象なのが、
“skyrocket”。


現に、
LDOCE6( ロングマン )の指標によれば、
全3項目ランク外。

・  重要:9000語圏外
・  書き言葉の頻出:3000語圏外
・  話し言葉の頻出:3000語圏外

それでも、海外の時事や経済ニュースを読んでいると、
姿を現すこと頻り。

英単語全体から見れば、 重要でも頻出でもない。
なのに、経済分野では確固たる 存在感 を放つ。

それが、” skyrocket “。

カタカナで馴染み深い「 スカイ 」と「 ロケット 」が
組み合わされた語であることが鮮明に見て取れる。

初めて接した場合でも、中級学習者 であれば、
ぐっと興味を引き付けられる面構えではなかろうか。

こういう個性豊かな単語は、 一度しっかり学べば覚えやすい。

ここで理解しておけば、 次回は自力でいける。


◆  さっそく、 今月2019年9月発表のニュース見出し。

どれも典型的な用法であり、 難しくはない。

  • “Obesity rates skyrocket in Texas dogs”
    (テキサスの犬の肥満率が急上昇)
  • “US measles cases skyrocket”
    (米国のはしか患者急増)
  • “Oil shipping rates skyrocket”
    (石油輸送料が急上昇)
  • “X Sales Expected to Skyrocket”
    (Xの売上が急上昇の見込み)
  • “Store Closures Skyrocket in First Half of 2019”
    (閉店が急増した2019年上半期)
  • “Gas prices skyrocket in X”
    (Xにてガス価格が急騰)
  • “Sexually transmitted infections skyrocketed in X”
    (Xにて性感染症が急増)
  • “X skyrockets more than 38% after IPO”
    (X社、新規株式公開後に38%高騰)
    ※  ” IPO ”  =  initial public offering
  • “X’s failure causes flight prices to skyrocket”
    (X社の破綻で、航空運賃が急上昇)
  • “Gold prices are about to skyrocket 50% higher”
    (金価格が50%引き上げ寸前)
  • “Tech giants cause local rents to skyrocket”
    (テクノロジー大手がもたらした、地元家賃の急上昇)


◆  2020年以降のニュース報道からも、追加でご紹介。

  • “More coronavirus cases confirmed as public
    anxieties skyrocket”
    (国民の不安が急激に高まる中、
    コロナウイルス感染者増加確認)
  • “X’s coronavirus deaths skyrocketed past 5,000 today”
    (X国のコロナウイルス死者急増、本日5千人を突破)
  • “Companies Battle Another Pandemic:
    Skyrocketing Hacking Attempts”
    (企業が戦う、もうひとつのパンデミック:
    急増するハッキング未遂)
  • “The number of hate crimes against Asian Americans
    continues to skyrocket”
    (アジア系米国人に対するヘイトクライムの急増続く)
  • “She skyrocketed to fame after starring in the movie.”
    (その映画で主演を演じてから、 彼女は一躍有名になった。)
  • “The number of deepfake videos is skyrocketing.”
    ディープフェイク の動画数が急増している。)
  • “The Omicron variant caused cases to skyrocket. ”
    (オミクロン株が患者数を急増させた。)
  • “Skyrocket Your Business Growth with Our
    Comprehensive Digital Marketing Strategy ”
    ( 貴社のビジネスの成長を加速させる、
    弊社の包括的デジタルマーケティング戦略 )
  • “The costs of housing, utilities, and even food
    have all skyrocketed.”
    (住宅費、水道光熱費のみならず、食費さえも高騰した。)
  • “Global losses from cybercrime skyrocketed to nearly
    $1 trillion in 2020”
    (サーバー犯罪急増、2020年は世界中で1兆ドルに迫る損失)

    【発音】  sáibəkràim
    【音節】  cy-ber-crime  (3音節)

 

◇  「 見出し 」英語の解説は、ここが秀逸  ↓
英語ニュースの読み方( 見出し編 )RNN時事英語

◆  先に ” skyrocket ” の意味合いは、 比較的単純であると述べた。

3大学習英英辞典( EFL辞典 )もこの通り。
skyrocket

■  [intransitive] informal
if a price or an amount skyrockets, it greatly increases 
very quickly.
( LDOCE6、ロングマン )

■  [ intransitive ]
(of prices, etc.) to rise quickly to a very high level.
(OALD9、オックスフォード)

■  [ intransitive ]
to rise extremely quickly or make extremely quick
progress towards success.
( CALD4、ケンブリッジ )

【発音】  skáɪrɑ̀kət
【音節】  sky-rock-et  (3音節)
※  下線は引用者

これまた  ” very quickly “、” extremely quickly ” と、
上掲の
国語辞典「 見る見るうちに 」「 急激に 」とお揃い。

にわかで激しい要素は、 やはり不可欠なのである。

” price ” は、ここでは主に「 物価 」( commodity  price )を指すと
考えられるため、 この点もほぼ同様。

” intransitive ” は、 自動詞 ” intransitive verb ” のこと。

3辞書とも、他動詞 ” transitive verb ” の表示は省かれている。


◆  これらの語釈では物足りないので、さらに兄弟辞典を援用してみる。

各系列のビジネス辞書、すなわち “Business English Dictionary”。

唯一、ロングマンには、他動詞が顔を出す。

skyrocket

■  [Intransitive, Transitive]
to increase quickly and suddenly.
Longman Business English Dictionary

■  verb
to go up very high and very fast.
Oxford Business English Dictionary

■  [intransitive]
to rise or become successful extremely quickly.
Cambridge Business English Dictionary

【発音】  skáɪrɑ̀kət
【音節】  sky-rock-et  (3音節)
※  下線は引用者

三者三様の専門性に期待したのに、
EFL辞典を上回る素っ気なさ。

当てが外れて、 がっかり。

本質的に簡素な語意なので、 これ以上説明しようがないのだろう。

埋め合わせに、上記  ” Oxford Business English Dictionary ”
に掲載された、新聞向け「 増減 」がこちら。

Oxford University Press,   2006.

※  漢字は追加


◆  おまけに、同義語の自動詞  ” rocket ” の語釈もご案内。

初出は、” skyrocket ” と同じく、17世紀

語源は、イタリア語「 糸巻き棒 」( rocca )。

ロケットの形が、糸巻き棒に似ていることから。

rocket

■  [Intransitive] also rocket up
if a price or amount rockets, it increases quickly and suddenly.
Longman Business English Dictionary

■  verb
to increase very quickly and suddenly.
Oxford Business English Dictionary

■  [intransitive] (also skyrocket) informal
to increase extremely quickly or make extremely quick
progress
towards success.
Cambridge Business English Dictionary

【発音】  rɑ́kət
【音節】  rock-et  (2音節)
※  下線は引用者

やたらと既視感を覚える文面。– 
同義語なので不思議はないかも。

大切なことは、” skyrocket ” と同義扱いで、 経済面などに用いられる点。

両語とも、引用した英英辞典の一部に、
informal ”  ( くだけた表現、 非正式 )
と明記されている。

にもかかわらず、 お堅いニュースにも年中出てくる。

初見だと、「 ロケット 」のイメージが邪魔して、 場違いな感じ。

だが、 事前に意味を押さえておけば、 その場ですんなり把握できる。

” skyrocket ” と一緒に、頭に格納してしまおう。

【類似表現】

“ spike ”
https://mickeyweb.info/archives/38396
( 急上昇する )

 

 

 

 

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