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Tingling sensation (ASMR)

      2023/05/17

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 4 minutes

ぞくぞくする感覚

世界的に “ASMR” の動画が広まるにつれて、目にする
機会が増えた。

ASMR動画やブログ・エッセイで見かける可算名詞
医療関係者ではなく、主に一般人の表現に登場する印象がある。

“tingling sensation” は、ぞくぞくする快感 のこと。

ASMR” は、”Autonomous Sensory Meridian Response”
の頭字語(acronym)。

直訳自律 感覚 絶頂 反応

発音は、そのままアルファベットを読み上げる A-S-M-R が基本。
ただし、別説 も存在する。

  • autonomous  (形容詞:自治の、自律の)
  • sensory  (形容詞:感覚の、知覚の)
  • meridian  (名詞:子午線、絶頂、頂点)
  • response  (名詞:反応、応答)

私は専門家でないため、生理的反応の詳細な解説は無理。

あくまでも、素人による概論としてご了承いただければと願う。

その代わり、語学面はしっかりご案内できるはず。

◆  既存の英和辞典で “tingling sensation” を調べると、
ピリピリ感 」「 ヒリヒリ感 」「 チクチク感 」とある。

やたらと神経質で痛そうな感じで、眉をひそめたくなる。

実際のASMR は、<快感>の権化。
さながら身も心もとろける甘美な陶酔感。

 

快感 !

 

その中枢を担う感覚が、ぴりぴり・ひりひり・ちくちくでは、
ASMRの甘くリラックスしたイメージが台無しである。

実にけしからん。

本稿で取り上げる理由は、この誤解を解きたいから。

◇  愉絶快絶のあまり、
全身がしっぽり潤む気持ちよさ

これが “tingling sensation”。

短期間でジャンルを確立し、動画サイトでも幅を利かせる
ようになったのは、”ASMR” の持ち味である即効性のおかげ。

ネット環境さえあれば、下準備なく味わえる超絶気分。
人種、性別、年齢、経験など、一切不問。
世界的に流行しているのも、調べるほどにうなずける。

耳をすますだけで、自律的な感覚 autonomous sensory)
が、最高潮に反応 meridian response)する。

音を知覚して得る快感なので、日本で同義扱いされているのが
「音 (おと) フェチ」。

近頃は「音フェチ」と検索すれば、” ASMR ” が姿を見せる。

音フェチ

音フェチとは、耳をくすぐるように刺激する、麻薬のような
音声の動画につけられるタグである。
ニコニコ大百科

※  「フェチ」身体の一部や物品などに過度の執着や
性的興奮を示す傾向。
フェティシズム(fetishism)の略。

定評のある 国語辞書 (後述の5点含む) には載っていない語。

なんだか エロい が、先の「下準備なく味わえる超絶気分」など、
確かに性感に近い。

ASMR ” の定着前は、

  •  head orgasm
  •   brain orgasm

などと呼ばれていた現象 に他ならない。

すなわち、

◇  頭 ・ 脳のオルガスム  →  「 性的的絶頂感 」

である。

本稿執筆に備え、真面目にリサーチを重ねる中、そっち方面
と相当重なる要素に気づき、題材適否の不安が頭をもたげた。

しかし、「人類みな快感好き」と思い返し、敢行してしまった。

◆  先に触れた「既存の英和辞典」とは、オンライン辞書2点を指す。

※  2018年9月7日アクセス

弊サイトで常々お世話になっている次の英和辞書に、
“tingling sensation” の記載はない。

「ぞくぞく」「ぴりぴり」「ひりひり」「ちくちく」
などの擬態語は、音のしない <状態><心情>を
象徴的に音で表すため、本質的にあいまいである。


◆  そこで、本題に入る前に意味を確認しておこう。

用いた国語辞典は5点。カッコ内は辞書名。凡例は末尾。
本稿に直結する語義を2点ずつ抄出した。

個性的な記述に分かれたゆえ、公平性を期して各2点。

ぞくぞく

■  期待や快い興奮で気持が高ぶるさま。わくわく。(広)
■  嬉しさに心が浮きたつさまを表す語。うきうき。(精)

ぴりぴり

■  不安・恐怖などで神経が張り詰めるさま。
刺激に敏感に反応するさま。(林)
■  皮膚や粘膜が刺激されて、しびれるような痛み
や辛味を感じるさま。(鏡)

ひりひり

■  皮膚・のどなどに痛みや辛みなどの刺激を感じるさま。(林)
■  いたみやからみを続けて感じるようす。(三)

ちくちく

■  肌や心に繰り返し刺されるような痛みを感じるさま。(広)
■  先のとがったものを浅く繰り返して突き刺すさま。
また、そのような痛みを感じるさま。(鏡)

・ (広) 広辞苑 第七版
・ (精) 精選版 日本国語大辞典
・ (林) 大辞林 第三版
・ (三) 三省堂国語辞典 第七版
・ (鏡) 明鏡国語辞典 第二版

※  (精) によれば、4語とも「副詞

こう見ると、「ぴりぴり」「ひりひり」「ちくちく」
は的外れであることが分かる。

◆  “ASMR” は、2010年頃に英語圏の「音フェチ」
から浸透し始め、2014年以降、主に YouTube を
通じて一般人にも知られるようになった。

日本人の動画に “ASMR” の語が目立つようになったのは、
2017年頃。

YouTube界で市民権を得るレベルに達したのも、ちょうどこの頃。

【参照】  ASMRという言葉はいつ生まれたの?

比較的新しい概念であり、情報収集はウェブサイト中心となった。

◆  唯一読んだ本はこちら。  今月2018年9月発売。

[Richard, Craig]のBrain Tingles: The Secret to Triggering Autonomous Sensory Meridian Response for Improved Sleep, Stress Relief, and Head-to-Toe Euphoria (English Edition)

Brain Tingles
Craig Richard (著) Adams Media (2018/9/4)

“ASMR” の最有力サイトと目される、
ASMR University
の創設者 Craig Richards 博士の著書である。

Newsweekの書評(2018年8月30日付)によれば、
the first book-length how-to guide“(初のハウツー本)。

とすれば、現段階(2018年9月)では、最良の参考書と考えられる。

使用単語は、LDOCE(ロングマン)で十分すぎる難易度。

中級学習者であれば無理なく読めるので、音フェチの
方には手に取っていただければと思う。

キンドル版(計3792頁)の場合、直リンクが豊富に設けられている。

日本のASMRサイトは、先の ASMR University
を参照するものが多い。

盤石な中身を伴うものほど、この傾向が見られる。

とすれば、書籍 Brain Tingles” 組んで学習すれば、
ネット上で情報提供できるレベルに達するかも、と考えた。

それでも、本稿はやはり素人目線による概説である。
内容は受け売りに過ぎない。

語学面は、通常通り調べている。

 

◆  ぞくぞく感の経路は、ウィキペディア(英語版)には、
次の通り説明されている。

 

【出典】  https://commons.wikimedia.org/wiki/

※  和訳は追加

オンライン版のMacmillan Dictionary は、
このように表現する。

“ASMR”

a pleasurable tingling that usually begins in 
the head and scalp and moves down the 
neck and back, triggered by soft whispering 
sound or rustling sounds.

https://www.macmillandictionary.com/dictionary

※  下線は引用者

◇  “rusting sound” = サラサラ、カサカサという音

【発音】  A-S-M-R  

ある刺激を引き金に、無意識に感じる心地よさ。

未知の部分も残るが、その「ぞくぞく感」が脳内
から生じるのは、検証済みである。

上掲の本によれば、ASMR とは “biological response”
(生物学的な反応)であり、最重要の脳内ホルモンとして、

を挙げている。
その他、明記されている脳内物質は、

ASMR の引き金は、”make you feel relaxed”
(気分をリラックスさせる)なものと書いてある。

ASMRの興味深い点は、この引き金(トリガー、trigger)
が人それぞれ異なること。

その後の生理的反応、つまり “tingling sensation”
(ぞくぞく感)をはじめとする快感の構造に大差は
見られない。

しかるに、引き金「トリガー」の好き嫌いの個人差は激しい。

◆  その筆頭は「咀嚼音」(そしゃくおん、eating sounds)。

気持ち悪いと嫌悪丸出しの人もいれば、うっとり
聞き惚れる人もいる。

【参照】
コロナショック下でなぜ、人は「咀嚼音」に惹かれるのか
https://forbesjapan.com/articles/detail/37292
2020年10月1日付


同じ咀嚼音でも、人間の「クチャラー」は絶対無理だが、
子犬・子猫がクチャクチャするのは、かわいくて大好き
という人も少なくない。

不思議なものだ。

◆  「タイピング音」も好みが分かれる代表格。

キーボードのカチカチ音は、職場を思い出すから
拷問と言う人がいる一方、入眠時に活用する人も
大勢いるとか。

万人受けする音には「耳かき」や「水の流れ
が挙げられる。

◆  “tingling sensation” は<2語ワンセット>
の可算名詞と記したが、分解するとこうなる。

■  tingling(発音はクリック)

  • 可算名詞「うずき」「痛み」
  • 形容詞「ちくちくする」「ひりひりする」

もともとは動詞 “tingle” 由来。

  • 自動詞「ひりひりする」「ぞくぞくする」
  • 他動詞「ひりひりさせる」「ぞくぞくさせる」
  • 可算名詞「うずき」「ひりひりする痛み」

ぞくぞくする興奮」 →   名詞 “tingling” と重なる意味

既述の題名 ”Brain Tingles” は、可算名詞の複数形

“tingle” の語源は、
中期英語の動詞「チリンチリン鳴る」(tinklen)。-.
→  “ring a bell” 参照

実際の音を真似た擬音語onomatopoeia擬声語)。

無音の<状態><心情>を象徴的に表す
「ぞくぞく」「ちくちく」「ひりひり」
などの擬態語と異なる。

動詞 “tingle” の現在分詞としても “tingling” は使われる。

■  sensation は、名詞のみ。

語源は、中世ラテン語「感覚」(sēnsātiō)。
“feeling” より堅めの語である。
可算と不可算を兼ねるが、この区別が複雑である。

–  可算・不可算「感覚」「感じ」
※  外的刺激に対する感覚(五感
–  可算「感じ」
–  不可算「(主に触覚による)感覚」
–  可算「センセーション」「物議」

センセーション【sensation】

人の耳目をひくこと。世間をあっと言わせる事件。
大騒ぎ。大評判。
(広辞苑 第七版)

  英語では「可算名詞

英英辞書によっても、可算、不可算の多少
のばらつきが見受けられるから厄介である。

3大学習英英辞典(EFL辞典)で最も分かりやすい
と感じた語釈は、LDOCE6。

“sensation”

noun
1. [countable, uncountable]
a feeling that you get from one of your five
senses, especially the sense of touch.

burning / prickling / tingling  etc sensation

2. [countable] a feeling that is difficult to describe, 
caused by a particular event, experience, or memory.
strange / curious / odd sensation

3. [uncountable]
the ability to feel things, especially through your
sense of touch.

4. [countable usually singular]
extreme excitement or interest, or someone or
something that causes this.

cause / create a sensation
pop / fashion / media etc sensation

(LDOCE6、ロングマン)

※  “singular” = singular noun = 単数名詞
—-→  単数形で使われるのが一般的な名詞

“usually singular” は「単数名詞が通例」。

“tingling sensation” は上のハイライトの通り、
可算・不可算兼用として扱われている。

一方、OALD9 では、”a” つきの可算名詞。

1. [countable]
a feeling that you get when something affects
your body.

a tingling  / burning, etc. sensation

(OALD9、オックスフォード)

先に述べた「多少のばらつき」の一例である。

実際の用例を調べると、可算・不可算両方ある模様。

先述の洋書では、”the tingling sensations” と
<定冠詞 + 複数形>で表している。

“sensation” は可算名詞が多用される。

したがって、”tingling sensation” は、あえてどちらかと言う
ならば、OALD9 に従い「可算名詞」としてとらえればよいだろう。

 

【類似表現】


<オノマトペ情報>

オノマトペとは何か?その意味と語源
・ 英語のオノマトペ一覧
英語マンガの擬音語
鳴き声(擬音語)の英語
動作(擬態語)の英語
・ 「ニコニコ大百科」のオノマトペ(日本語)
重ね言葉オノマトペ一覧(日本語)
英語のオノマトペの象徴メカニズム
(呂佳蓉 京都大学大学院、PDF 1.4MB、2004年)

<ASMR情報>

【英語】– 

・ “Some People Get ‘Brain Tingles’ From These Slime Videos.
—-What’s Behind The Feeling?”  2019年10月17日付
・ “Achieving a ‘brain orgasm’”  2018年8月30日付
・ “Why Is My Brain Tingling?”  2017年10月25日付

 

【日本語】   ※  主に動画集

・「脳の快感を呼ぶ ASMR って何?」 2019年1月16日付
https://asmr-life.com
https://asmr-ears.com/

 

 

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