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Ring a bell

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ぴんとくる。心当りがある。思い出させる。

  • Does it ring a bell ?
  • It rings a bell.
  • It doesn’t ring a bell.

初めて接したら理解不能だろう。

ここでの “ring a bell” の定訳は「ぴんとくる」。
日英で似通う語感と成り立ちの<3語ワンセット>。

“ring a bell” は、日常会話を少々上回るくらいの難易度。
重要でも頻出でもないが、いつ出てきても不思議はない。
これまた「ぴんとくる」とよく似た立ち位置である。

話し言葉を中心に、公私不問で使える強みも共通する。


◆ 冒頭3文は、”ring a bell” の代表的な言い回し。

多用される代名詞は、”it” と “that”。
“that” で置き換えると、

  • Does that ring a bell ?
  • That rings a bell.
  • That doesn’t ring a bell.

ring a bell” =「ぴんとくる」だから、
ざっくりとした意味合いは上から順に、



◆ “it” も “that” も、ここでは「それは」と和訳される。

正しい理解だが、もう少し掘り下げてみよう。

  “it” は人称代名詞、”that” は指示代名詞  

この違いをきちんと認識されているか。
よい機会なので、おさらいしてみたい。


◆ “it” は、人称代名詞の三人称単数主格「それは」。

人称とは、”person” の訳語で、名詞 である。
人称代名詞は “personal pronoun“。
名詞 “person” が形容詞に派生した “personal” を用いる。
pronoun” は「代名詞」。

3人称とは、「私(一人称)」と「あなた(二人称)」以外の第三者。
主格とは、助詞の「〜が、〜は」を用いる主語。
単数とは、複数人でなく、1名のこと。

三人称単数主格は、”it” 以外に “he” と “she” がある。
三人称複数主格は、共通の “they”。

複数の和訳は異なり、「それらは」「彼らは」「彼女らは」。
文脈に応じて、助詞は「は」または「が」。

人称代名詞「主格」は、
I / you / he / she / it / we / you / they

事物など、主に無生物を示す “it” が「人称代名詞」。
違和感を覚えるかもしれない。

この違和感こそ、”that” との相違点のポイント。
日本語の人称代名詞は「人物」に対してのみ。

“it” は、無生物を含む「名詞のみ」を代用するのが基本。
  名詞が “it” の守備範囲
“it” が「人称代名詞」たるゆえんである。

※「人称代名詞」の解説は、ここが秀逸↓
ちょいデブ親父の英文法「人称代名詞


◆ 例外的な用法として、名詞のみならず、内容も含む “it” がある。

英文法上、例外扱いされているものの、日頃よく見聞きする使い方である。

身近に親しんでいる「それ」の “it” であり、なんら珍しくない。
本稿の “that” と同じく、全体を指し示すため、区別はつけがたい。

「人称代名詞」でありながら、時に「名詞」以外も代用する。

本稿でご案内する<基本的な差異>を押さえた上で、”that” 同然
の “it” も、ごく普通に使用されていると考えるとよい。


◆ 次いで “that“。 ここでは指示代名詞である。

「示す」を意味する形容詞を伴い、”demonstrative pronoun” 。

→ 後掲『日本国語大辞典 第二版』第6巻の写真参照

【発音】  dimɑ́nstrətiv

“it” が原則名詞」を代用するのに対し、

 “that” が指し示す領域はずっと広い

前出の内容を、幅広くカバーする代名詞が “that”。
実際の “that” がどこまで指すかは、話の中身による。

英語の「指示代名詞」は、学校でこう教わる。

近いものは “this“(これ)で、遠いものは “that“(あれ)。
複数なら、それぞれ “these“(これら) と “those“(あれら)。

これでは物足りない。

人称代名詞 “it” より、領分が広い性質を強調すべきである。
もっとも、”it” のように「名詞」だけの場合もある。

文脈次第で「1語」も「全部」も表せる。
それが指示代名詞 “that”。

したがって、代用対象は名詞に限らない。
だから「人称代名詞」でなく「指示代名詞」。


◆ 日本語の主要な「指示代名詞」を挙げる。

どの国語辞書を引いても、上記のいずれかが顔を出す。
総称としても、領域が狭い印象である。

日本最大規模の国語辞典の名を誇る『日国』でも、この通り。


日本国語大辞典 第二版』第6巻、p. 654、
小学館(2001年刊)より転載

→「Demonstrative)といふ 」と記されている

これが全文。

日本語の「指示代名詞」の味気なさを証明するかのよう。
英語の指示代名詞 “that” の領分と大差がある感じ。

その反面、日本語の「人称代名詞」は膨大。
「二人称」が好例で、これぞ日本語の持ち味である。

英語の「二人称単数」に相当する、主な「対称詞」を挙げる。

盛り沢山で、実に壮観。

役職を含む上下関係や場面に応じて変化する、
役割語」も兼ねるからである。

陰影豊かで繊細な表現に恵まれた日本語。
これほど素晴らしい母語を、私たちは誇らかに思ってよい。

片や英語は、単複共通の “you” 一択で、無味乾燥。
当然、”you” の和訳は一筋縄ではいかなくなる。

日本国語大辞典 第二版』第10巻、p. 563 – 564、
小学館(2001年刊)より転載


繰り返すと、日本語の「人称代名詞」は人物対象のみ。
日本語の場合、事物・場所・方向などは「指示代名詞」。

◆ “that” の重要な働きには、「関係代名詞」と「that節」がある。

【参考】※ 外部サイト

指示代名詞 “that” は、これらに比べると容易で、
感覚的に分かる気がする。

だが、”that” が「何を指すか」をその場で判断するには、
全体の流れを理解している必要がある。

私たち英語学習者にとって、全体像を把握しつつ、
自ら発言し、会話を進めるのはそう簡単ではない。

それができれば、きっと「ぺらぺら」の域に達している。

相手の述べる指示代名詞の “that” がすんなり飲み込める
のであれば、少なくとも聞き取りはできていることになる。


◆ 先ほどの「3文セット」を改めて考察してみる。

学校の教えに従い、定訳の「それは」を用いて訳すと、

これまでの説明に納得できれば、満足しずらくなる和訳。
“it” と “that” の範囲が、気になるからである。

「それ」って、なんなの?

もちろん、和訳は間違っていない。
その話題に通じていなければ、こう訳すほかない。

基本に基づくと、概ねこんな具合。

  • 人称代名詞 “it
    → 具体的な名詞中心(静的)
    【例】個人名、写真、日付、製品名
  • 指示代名詞 “that
    背景などを含む状況(動的)
    【例】出来事、事件、言動、話の流れ

 

◆ 例えば、このようなケースを想定してみる。

「 私の財布をくすねた疑いのある知人がいる 」

表沙汰になる前に、願わくば2人だけ秘密裏話し合いたい。

やんわりと聞き出そうと、1 または 2 で問いかけてみる。

I left my wallet on the desk.
It’s brown.
(机の上に財布を忘れちゃった。茶色なんだ。)

  1. “Does it ring a bell ? “
  2. “Does that ring a bell ? “

質問の 1 と 2 では、目の付け所が異なると考えられる。
目当ての「モノ」か。 それとも「ストーリー」か。

  1. it” →「財布」そのものに着目している。
    「茶色の財布にぴんとこない?」
    「茶色の財布に心当りない?」
  2. that” →「置き忘れた話」に主眼を置く。
    「机に置き忘れたんだけど、何かぴんとこない?」
    「机に置き忘れたんだけど、何か心当りない?」

普段遣いでは、”it” と “that” は厳密に区分されないことが多い。
日本語でもそうだが、さほど頭を絞らずに使われているのが代名詞。

それでも、以上の「人称代名詞」と「指示代名詞」の基礎知識は、
中級学習者なら身につけておきたい。

 

◆ “ring a bell” の定訳は「ぴんとくる」。

ぴんと来る

  • 直感的にわかる。
    (三省堂国語大辞典 第七版)
  • 直感でそれとすぐに感じとる。
    (大辞林 第三版)

ぴんと

  • 《副》
    心に強く感じるさま、すぐにさとるさまを表わす語。
    (精選版 日本国語大辞典)
  • 《副》
    直感的に感じとるさま。見聞きしてすぐにわかるさま。
    (明鏡国語辞典 第二版)

    ※ 語釈の該当項のみ引用

さらに、「心当りがある」も英和辞典では目立つ。

  こころあたり【心当】

  • 《名》
    思い当たるふし。それと心につける見当。見込み。
    存じ寄り。
    (精選版 日本国語大辞典)

  こころあたり【心当り】

  • 思いあたること。
    (広辞苑 第七版)

    ※ 語釈の該当項のみ引用

3大学習英英辞典(EFL辞典)は次の通り。

ring a bell

  • informal
    if something rings a bell, it reminds you 

    of something, but you cannot remember 
    exactly what it is.
    (LDOCE6、ロングマン)
  • (informal)
    to sound familiar to you, as though
    you have heard it before.

    (OALD9、オックスフォード)
  • to sound familiar.
    (CALD4、ケンブリッジ)

    ※ 下線は引用者

「LDOCE6 → OALD9 → CALD4」の順に、
簡略な説明になっている。 ままあるパターン。

「聞き覚えがあること」と記す “CALD4″。
往々にしてシンプルすぎる向きのある “CALD” だが、
最低限の解説をクリアしているのは言うまでもない。

「ぴんとくる」「心当りがある」に重なることは、
既に引用した国語辞典より自明である。

その他にも「思い出させる」「記憶を呼び起こす」
が多用される。

“LDOCE6″ の下線部「しかし具体的には思い出せない」
は、他の2つの辞書にない要素。

これは、”ring a bell” が 否定文 に伴うことが多いことを示唆する。

現に、3大EFLの例文すべてが否定文。

“CALD4” は、同義語 “ring any bells” の分と併せて、
例文2つを挙げているが、両方とも否定文。

おまけに、英和辞典にも同じ傾向が見られた。

とすれば、先の 「しかし具体的には思い出せない」(LDOCE6)
の出番は多いと推量できる。

この点、日本語の「ぴんとくる」「心当りがある」は非該当かも。

「ぴんときたが、具体的には思い出せない」はちょっと妙。
いかがだろうか。

◆ “ring” には、自動詞・他動詞・名詞がある。

指輪の “ring” は、語源(古英語 hriung=「輪」)の異なる別物。
発音は同じ。

【発音】  ríŋ

表題 “ring” の語源は、「擬音語」でベルの鳴り響く音が由来。

擬音語(onomatopoeia)とは、実際の音を真似た言葉。
擬声語」「オノマトペ」とも言う。

Tingling sensation (ASMR)” で取り上げている。

“ring” は、中期英語の “hringan” が語源。

「リンリン」といった感。

– 自動詞「鳴る」「鳴らす」「鳴り響く」
– 他動詞「鳴らす」「告げる」「合図する」
– 名詞「鳴る音」「響き」「鳴らすこと」

なお、「ぴんと」の「ぴん」は、音響以外の状態を言葉
にした「擬態語(a mimetic word)。

  ぎたいご【擬態語】

視覚・触覚など聴覚以外の感覚印象を言語音で表現した語。
(広辞苑 第七版)

身ぶりや状態をそれらしくあらわしたことば。
(三省堂国語辞典 第七版)

【参照】 “thrill“(ぞくぞくする)


「ぴんと」で副詞扱い。

◆ ベル音の擬音語の代表格は次の通り。

ベルの大きさと音色などで使い分ける。
※ 和訳は一例

  • jingle (チリンチリン)
  • tinkle (チリンチリン)
  • ding-dong (ゴーンゴーン)(ガランガラン)
  • ding-ding (ゴーンゴーン)(ガンガン)
  • ding-a-ling (チリンチリン)
  • ting-a-ling (チリンチリン)
  • bong (ボーン)(ゴーン)
  • ring (リンリン)
  • ding (ガンガン)

“ring a bell” の “ring” は、他動詞「鳴らす」。
よって、直訳は「ベルを鳴らす」。

頭の中でベルが勝手に鳴り響く」イメージ。

  神経を弾かれたかのように、瞬時に「ぴんとくる」様子。

【語形変化】ring – rings – rangrung – ringing

上述の3大学習英英辞典の項目立てと同様、
「ぴんとくる」は “ring a bell” に統一されている。

“ring the bell” とすると、文字通り「ベルを鳴らす」。

しかし、こちらにも「うまくいく」「脳震盪を起こす
などの口語的意味合いがあるので、要注意。

また、呼び鈴を鳴らす際、”ring a bell” を使う場合もある。
あいまいな側面を含むため、そう単純には済まされない。

とにかく、 ベルと無関係な会話に出てくる “ring a bell” は、
「ぴんとくる」「心当りがある」「思い出させる」。

 

 

 

 

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