In private
2022/08/15
2人だけで、 2人きりで、 非公開で
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- Can I talk to you in private ?
- Can I speak to you in private ?
- Can we talk in private ?
- Can we speak in private ?
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こう同僚に声をかけたり、 かけられたり。
目上にお伺いを立てる際は、 丁寧かつ堅い言い振りで、
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- May I talk to you in private ?
- May I speak to you in private ?
- May we talk in private ?
- May we speak in private ?
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どれも便利な言い回しである。
決まり文句に近いので、丸ごと覚えておきたい。
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◆ 意味は分かるだろうか。
文末の ” in private ” がポイント。
中級学習者にとっては、既習の基本フレーズのはず。
それでも取り上げたいのは、日本人学習者に誤解されがちだから。
再確認のきっかけになればと考えた。
【正】 2人だけで
【誤】 プライベートな時間に、 勤務後に
( ただし、完全に間違い、 とまでは言えない要素も残る )
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◆ ” in ” は、時を表す前置詞「 ~ のうちに 」「 ~ に」。
- in 2018( 2018年に )
- in July( 7月に )
- in summer / in the summer( 夏に )
- in the morning( 午前に )
- in my lifetime( 私の一生の間に )
” in private ” → 「 private に 」 → 「 プライベートに 」
この流れが、誤解の根源。
カタカナ「 プライベート 」そのままの解釈である。
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プライベート【private】
個人的。 私的。
( 広辞苑 第七版 )
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◆ 大正文学にも出てくる「 プライベート 」の用法。
これを引きずると 「 個人的な時間に 」 などと考えてしまう。
もっとも、 これは英語 “ private ” の基本的意味でもある。
そのため、 明らかなミスとまでは言いにくい。
この微妙な加減が、 本稿執筆の動機につながった。
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◆ ” private ” には、 形容詞と名詞がある。
語源は、 ラテン語 「 私的な 」( prīvātus )。
カタカナ 「 プライベート 」 は、 語源に忠実なのである。
日常用途は形容詞ばかりで、 基本的意味は、
- 形容詞
「 個人的な 」「 私的の 」「 私用の 」「 秘密の 」
「 非公開の 」「 在野の 」「 民間の 」「 独りの 」
– - 名詞
「 兵卒 」「 私学 」「 陰部( 複数形 ” privates ” )」
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これらの意味は、 法律用法とも重なる。
有力な英米法辞典 『 ブラックス法律辞典 』 にはこうある。
( Amazon Japan / Amazon US )
1. 私的の、民間の 2. 非公開企業の 3. 秘密の
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※ 参考和訳 ( 拙訳 )
※ 2は、 主にイギリスで使う
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“ Black’s Law Dictionary, 10th Edition ”
p. 1389. (Thomson Reuters 2014).
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1891年刊で、130年以上の歴史を誇る。
判例などに最も引用される辞典である。
英米法を学ぶ学生で、知らない者は皆無レベルの 存在感。
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◆ 第11版は、 2019年刊。
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( Amazon Japan / Amazon US )
第10版から、 5年経過したものの、 こうして一言一句一致している。
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“ Black’s Law Dictionary, 11th Edition ”
p. 1448. (Thomson Reuters 2019).
◆ 形容詞 ” private ” は、 英単語全体から見ても、
最頻出かつ最重要。
次の全3項目で、 最高ランク。
- 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
- 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
( ロングマン、 LDOCE6 )
【発音】 ˈpraɪ.vət
【音節】 pri-vate (2音節)
↑ 受け手 が、 ” in private ” を 誤解 している様子
( 話者の意図 = 仕事 の相談を 「 2人きり 」 で話したい )
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◆ 3大学習英英辞典 ( EFL辞典 ) の解説は鮮やか。
あいまいさがなく、 誤解の余地を与えない。
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” in private ”
■ without other people being present.
( LDOCE6、ロングマン )
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■ with nobody else present.
( OALD9、オックスフォード )
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■ if you do something in private,
you do it without other people present.
( CALD4、ケンブリッジ )
※ 下線は引用者
–
下線 ” present ” は形容詞。
「 居合わせる 」「 同席している 」の意。
” presence “( 存在感 )と同源の、
ラテン語 「 他人の前にいる 」( praesēns )由来。
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◆ この ” present ” も、 日本人学習者が間違いやすい語。
「 プライベート 」同様、カタカナが誤解の根源 と考えられる。
よい機会なので触れておきたい。
主な ” present ” は、3語に分かれる。
それぞれ別物として考えた方がよい。
形容詞と名詞は、発音・アクセントが同じだが、
動詞は、発音もアクセントも異なるので注意。
「 プリ ゼント↑ 」などと聞こえる。
「 プレ 」 でなく 「 プリ 」。
上掲英英3冊の ” present ” は「 1 」。
カタカナ「 プレゼント 」は「 3 」。
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” present ”
・ 形容詞 「 居合わせる 」「 同席している 」「 現在の 」
・ 名詞 「 現在 」「 今 」
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【発音】 préznt ( プレゼント、前にアクセント )
【音節】 pre-sent (2音節) -
” present ”
・ 他動詞 「 贈呈する 」「 提供する 」「 紹介する 」
「 放送する 」「 出頭する 」「 見せる 」
・ 自動詞 「 現れる 」
––
【発音】 prizént ( プリゼント、 後ろにアクセント )
【音節】 pre-sent (2音節)
◆ 冒頭の会話での ” in private ” は「 2人だけで 」
または「 2人きりで 」と和訳される事例が目立つ。
しかし、 先の英英3冊の語釈が明示するのは、
” without other people “
” with nobody else “
であり、 そこに「 他の人が いない 」 こと。
したがって、 実は、 「 2人だけ 」に限定されない。
例えば、 話者がその場の 「 3人 」 に同じ発言をすれば、
本人を含む 「 4人だけ 」 になる。
発言時の状況を常識的に想像すると、 大抵は
「 2人だけ 」 または 「 3人だけ 」。
だから、” in private ” の定訳扱いされてしまう
わけだが、そうでないことは 上述の語釈で明らか。
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◆ この視点は、形容詞 ” alone “( ~ だけで )にも共通する。
以下は ” in private ” の例と同義。
同じく「 2人だけで 」 に限らない。
- Can we talk alone ?
- Can we speak alone ?
- May we talk alone ?
- May we speak alone ?
◆ 本稿の発言は、 どれも日常的に耳にするレベル。
常用されるということだが、使用上、他の人への
気遣いも大切である。
ー
ご自分が居合わせた者と仮定すれば、分かりやすい。
「 2人だけで 」 などと眼前で会話されると、
のけ者扱いされた感じがしないだろうか。
決して 感じのよいものではない。
- 2人だけで何を話すの ?
- 私の陰口かな …
- なぜ私を外すの ?
疑心暗鬼になっても、 不思議でない。
人を 脇に連れ出す のも、 簡単ではなかったりする。
これは言語の問題ではない。
コミュニケーション能力や、他者への配慮を含む
ソフトスキル が問われる場面である。
次の米国の相談サイトでも、 失礼か否かが議論されている。
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Is it polite to say
” Can I talk to you in private ”
when you have company like they do on TV?
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https://answers.yahoo.com/question/index?qid=20110628180837AA9RNY0
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※ ” have company ” = 誰かと一緒にいる
【 反義語 】
- ” in public ”
( 人前で、 公然と )
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【関連表現】
- “I want to sit down with you.”
https://mickeyweb.info/archives/15627
(あなたと話し合いたい。)
– - “Could I have a word with you ? ”
(2人きりでお話させていただけますか。)
– - “Could I talk to you for a minute ? ”
(ちょっといいですか?)
– - “in person”
じかに( 生で )、 対面で、 直接に