蔵書の「自炊」記録(2)
2021/01/20
幼少期から読書が好きだったものの、
私は「ビブリオマニア」(蔵書癖のある人)ではない。
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利用価値を認めない書籍類は、すべて処分してきた。
それでも、なお4,000冊以上を擁する理由は、
自分の職業及び再読習慣のためである。
では、なぜ「自炊」実行までの準備に、
6年(2010~2015年)も費やしたのか。
それは、以下3点の検討に手間取ったからである。
1) 選択肢
2) 「自炊」方法
3) 「自炊代行」訴訟の行方
それぞれ説明してみる。
1) 選択肢
2010年は、日本の「電子書籍元年」とされる。
電子書籍市場が活況を呈し始めたのが、ちょうどこのころである。
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キンドル(米2007年~)は未上陸で、iPadも発売されたばかり。
ハード面もソフト面も、一向に先が見えない状況であった。
日本における電子書籍の可能性を見出そうと、私なりに必死だった。
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電子書籍にもし未来があるならば、わざわざ「自炊」しなくても、
時間が解決してくれるだろうと考えた。
この場合、電子書籍で買い直す費用がかかる。
しかし、「自炊」にもかなりのコストがかかる。
外注するにせよ、自分で行うにせよ、
時間を含む相当なコストが伴う点は疑いない。
不案内の市場において、素人が対費用効果の算用を試みるのは、
今から考えると無理があった。
2) 「自炊」方法
「自炊」のメリット・デメリットを学ぶため、
本とインターネットで関連知識を漁りまくった。
2010年時点で、数点しか出版されていなかった<自炊解説書>は、
2015年には、電子書籍を含めて10点以上発売されている。
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この6年間で、主な解説書とめぼしいネット記事すべてに目を通したと思う。
「自炊」の利点はすぐに理解できた。
場所をとらない、検索可能、どこででも読書できる等、
夢のような世界が広がることは容易に想像できる。
「マイ本棚」を持ち歩くかのようで、読書好きにはたまらない。
欣喜雀躍、まさに飛び跳ねる喜びだ。
一方、問題点については、コスト面を除き、イメージしにくかった。
PDF等は読み慣れているので、電子読書に真新しさはなく、
目が疲れるくらいだろうと想像した。
大切な蔵書を裁断するのはつらいが、じき慣れるはずだと判断した。
結果的に、「自炊」への期待が上回り、否定要素は急速にしぼんだ。
次なる検討は、外注か自力かである。
自分で行うためのノウハウを、着々と収集し続けた。
2011年4月には、スキャナー「ScanSnap S1500」を購入した。
「アクロバット9」がバンドルされていた。
3) 「自炊代行」訴訟の行方
「自炊」の法的問題は、2010年以前より議論されていた。
劣化しない電子コピーと著作権との関連である。
他のデジタル媒体と同様、「私的利用目的」で、
かつ自ら電子化するならば問題はない、と解説されていた。
ところが、リサーチを重ねるうちに、自分で行うには時間がかかりすぎる、
自力で数千冊は無謀、やはりプロに任せようという思いが芽生えてきたのである。
2011年後半には、専門業者に依頼(外注)する方がよいとの考えが固まっていた。
そして、時期同じくして勃発したのが、作家によるアクションである。
- 自炊代行業者への質問状(2011年9月)
- 東京地裁:業者2社を提訴(2011年12月)
- 業者の「認諾」(2012年4月、5月)
- 業者廃業で訴訟終結(2012年5月)
- 東京地裁:業者7社を提訴(2012年11月)
- 知財高裁判決:業者側の控訴棄却(2014年10月)
- 最高裁判決:「自炊」代行は著作権侵害(2016年3月)
【参考】
http://www.patentsalon.com/topics/self_scanning
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG17HA3_X10C16A3CR8000)
複数の著名作家による裁判沙汰は、私の想定外の展開である。
訴訟に伴い、零細・中小企業を中心とする自炊代行業者が、
事業縮小や廃業に追い込まれていった。
雲行きが怪しい。
外注で電子化した、蔵書の権利関係が不安定になると困る。
しばし様子を見守ろうと判断するに至った。