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The benefit of the doubt

      2020/01/05

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 3 minutes

有利に対応する、無罪放免する 

I’ll give the benefit of the doubt this time.
(今回は大目に見てやる。)

相手を無罪放免する時に出てくる。
これ以上は追及せず、もうおしまい。

だが、本音は別のところにあったりする。

<温情で見逃してやる>
という感じで使うことが多い。

疑いが完全に晴れているならば、
この表現は失礼なので使わない
のが一般的。

清廉潔白なハッピーエンディングというより、
実際には疑いが残っていること。

「とりあえず可」レベル。

本人にしてみれば、喜びよりも、
かろうじて逃げ切った気分だろう。
だが、背に腹は変えられない。
“Thank you.” などと短く応じる。

何だか後味が悪い。
真に無実であれば、失礼な言い回し。

◆ この表現は、大きく3つに分解できる。

the benefit“(その利益)+
所属の前置詞 “of“(~の)+
the doubt“(その疑い)

直訳は「その疑いのその利点」。
他動詞 “give”(与える)を伴い、
「その疑いのその利点を与える」。

意味が今一つ分からなくても、
尊大で<上から目線>な物言いを
感じ取ることはできる。

◆ ポイントは、
the benefit” と “the doubt“。

ここではどちらも名詞。
両方とも可算と不可算を兼ねる。
“benefit”(利益)
“doubt”(疑い)
この表現では、それぞれ定冠詞 “the” が常。

「その利益」「その疑い」とは何を指すか。

調べていくと、複数の解釈が見つかった。

◆ 最有力説は、

  • “the benefit”  相手にとって利益になる解釈
  • “the doubt”   相手の話の信憑性に対する疑い
    → 相手の話の信憑性に疑いは残るものの、
    相手に都合よく解釈する

一見とても自然な解釈である。
ところが、別説では「疑い」の指すものが異なる。

  • “the benefit” 相手にとって利益になる解釈
  • “the doubt”  状況が不確かなことへの疑い
    → その状況は疑わしいが、相手に都合よく解釈する

この別説の根拠は、”the doubt”。
もし相手の話が疑いの対象ならば、そのあいまいさ
ゆえに、疑い自体を特定できない
よって、“without a doubt”(間違いなく)
と同じく、不定冠詞の “a doubt” になるはず。

したがって、「疑い」は相手の話ではなく、
ある状況の不確かさを指す。
そのため、”the doubt”。

いずれにせよ、刑事訴訟法や世界人権宣言に
うたわれる原則「疑わしきは罰せず」、通称、
“the principle of the benefit of the doubt”
“the principle of innocent until proven guilty”
が通底している。

「疑わしきは被告人の利益に」とも言い、
犯罪事実がはっきりと証明されないときは、
被告人の利益になるように決定すべき>の意。

この2本の下線部が、それぞれ “the doubt” と
“the benefit” に当たる。
十分な証拠がないなら、罰しないということ。

◆ 日常用法では、法律知識のない一般人も使う。
法律と無関係なのが普通。

give someone the benefit of the doubt” =

to accept that somebody has told the truth or
has not done something wrong because you
cannot prove that they have not told
the truth/have done something wrong.
(オックスフォード、OALD9)

to accept what someone tells you,
even though you think they may be wrong
or lying but you cannot be sure
.

(ロングマン、LDOCE6)

to decide that you will believe someone,
even though you are not sure that what
the person is saying is true.
(ケンブリッジ、Academic Content Dictionary

※ 青字・下線は引用者

太字の “someone”(または “somebody”)には、
目的格を入れる。
人称代名詞では、you、me、him、her、us、them。

上掲枠内の下線が “the doubt” で「疑い」の意味合い。
「はっきり証明できないため」が共通点。
一方、”the benefit” に該当するのは、
青字 “to accept” と “to decide” に続く部分である。

毛色が異なるのがCALD。

to believe something good about someone,
rather than something bad, when you have
the possibility of doing either.
(ケンブリッジ、CALD4)

「どちらもありうる」場合に、相手を信じるとする。
どこか後ろ向きな「はっきり証明できないため」
に比べて好意的である。

◆ 弊サイトで何度も述べているように、
成句や熟語は、基礎文法を学ぶためには特殊すぎる
ケースが多い。

“the benefit of the doubt” もその一例。
基本に忠実とは言いがたく、説も分かれる。

こんな慣用句がある、くらいの気持ちで覚えるとよい。
文法解釈に時間をかけすぎるのはよくない。

“I gave her the benefit of the doubt
and let her go.”
(彼女を咎めることなく、解放した。)

“We gave him the benefit of the doubt
and let him live with us.”
(彼をそのまま信じて、我が家に住ませた。)

“She should not be given the benefit of the
doubt just because she is ill.”
(病気だからといって、彼女を無罪放免する
のはよくない。)

“We gave the benefit of the doubt to our
long-time customers.”
(長期顧客に有利に応対した。)

“Why should we give girls the
benefit of the doubt ? ”
(なぜ少女たちを大目に見なければ
ならないの?)

“I think referees gave him the benefit of
the doubt because of his nationality.”
(審判員は、彼の国籍で有利に判定したと思う。)

 

【関連表現】
“Who benefits ? ”
https://mickeyweb.info/archives/21127
(誰が得するの? )

 

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