Not an option
2020/03/24
その選択肢はない
That is not an option here.
(そんなのだめだ。)
言下に否定する物言い。
有無を言わせない勢い。
ビジネス会議でも耳にする。
荒い語気から推知されるように、
反発・反感・軽蔑を帯びていることが多い。
<本音>はこんな感じ。
- お前、何言ってんの
- あんたは、アホか
- 頭、使えよ
つまり、愚かで的外れとみなして使っている。
言われた側は気分よくないはず。
–
◆ “option” には、名詞と他動詞がある。
語源は、ラテン語「選ぶ」(optīo)。
可算名詞を中心とするため、不定冠詞 “an” を
つけるのが原則。
- 可算名詞
「選択」「選択の自由」「オプション品」
– - 不可算名詞
「住民投票」※ 可算名詞にもなる
– - 他動詞
「オプションを得る・与える」 【例】 映画化、出版化
「オプション品を取りつける」 【例】 車、コンピュータ
以上の基本的意味からも、日常的には可算名詞が中心
となることが分かる。
–
表題でも “an” つきの可算名詞で、基本そのもの。
意味は「選択」または「選択肢」。
「選択肢」
1. 一定の質問に対する回答の候補として
用意された複数の回答の一組で、回答者が
そのうちの一つを選ぶようにつくられているもの。
2. 行動や条件などについて自ら選ぶことが
できる複数個のケース。
(精選版 日本国語大辞典)
“not an option” の場合、2の語釈が該当
◆ 類語名詞には “choice” が筆頭に挙がる。
【発音】 tʃɔɪs
–
“option” 同様、可算と不可算を兼ねる。
自分の自由意志(free will)に基づいて、
2つ以上から選ぶことを主眼とする常用語。
入念に選ぶことを表す “selection” より、
選択範囲が狭いことが多い(ジーニアス英和大辞典)。
- “option” も「自由意志」で選ぶが、選んでも
選ばなくてもよい自由さがポイント。
ー
まさに「オプション品」のイメージ通り。
“choose” よりも専門的で堅めの単語である。
– - “alternative“(ɔːltə́ːrnətiv)
は可算名詞で、やはり自由意志だが、
主に「二者択一」。
ー
日常用法では二者とは限らないが、
「必ず1つ選ばなければならない」という、
強迫的なニュアンスを伴いがちな点で、
“option” の自由さに欠ける。
ー
◆ “an option” を副詞 “not”(~でない)
で否定するのが、表題 “not an option”。
直訳は「選択ではない」または「選択肢ではない」。
これでは意味をなさないので、通常は「be動詞」に続く。
すなわち、be、am、was、been、will be、is、were、are 。
副詞 “not” は、be動詞の直後が原則。
※ 命令形は異なる
また、”not” の射程に従い、
「文否定」と「語否定」に分かれる。
- 文否定:文全体(主語+述語)を否定
- 語否定:特定の語・句・節のみを否定
【参照】
・ “It’s no joke.” (冗談ではない)
・ “no need” (不要です)
・ “not a fan” (あまり好きではない)
・ “No strings attached.” (条件なしで)
–
表題 “not an option” では、文否定が普通で、
否定の度合いが強い。
この表現では、縮約形 “n’t ” ではなく、
“not” と明示する のが一般的。
なぜなら、”not” こそ主役であり、
アクセントと意義を置くべき単語だから。
たとえ文法的に問題なくても、文脈上、
省くわけにはいかない印象。
ー
◆ 一例として、冒頭のむげない言葉を取り上げる。
- “That is not an option here.”
(そんなのだめだ。)
その場の状況にもよるが、この内容であれば、
力を込めるべきは太字。これが最も自然。
ネガティブな意味合いが文全体を貫く「文否定」。
真っ向から否定する様子。
先述の<本音>を思い出す。
- “That isn’t an option here.”
と縮約形を用いても、間違いではない。
だが迫力は劣る。
発声してみると分かりやすい。
ー
◆ 次の6文の下線部を、その縮約形 “isn’t ”
に置き換えて、違いを感じ取っていただければと思う。
- “Drinking alcohol is not an option
for me.”
(飲酒は私の選択肢にない。)
– - “No. That is not an option.”
(いや。それはだめ。)
– - “Reorganization is not an option.”
(再編成は選択肢にない。)
– - “Quitting is not an option.”
(辞めることは選択肢にない。)
– - “Retaliation is not an option.”
(仕返しは論外。)
– - “Giving up is not an option.”
(降伏するのは論外。)
– - “I’m afraid that is not an option.”
(申し訳ございませんが、それはできません。)
※ “I’m afraid” と低姿勢ながらも、
ぴしゃりとはねつけている点に注意
大意は変わらなくても、ニュアンスに差が出る。
この微差がつかめれば、英語学習者として、
なかなか語感が鋭いと考えられる。
【関連表現】
- leave one’s options open
- keep one’s options open
to wait before making a decision.
(ロングマン、LDOCE6)
選択を保留すること。
「態度保留」を示す。
“one’s” には、所有格。
人称代名詞の所有格は、
my / your / his / her / their / our 。