できることなら
–
If you would like to go have lunch, let me know,
better yet, I would like to have lunch with you.
–
基礎単語ばかりの1文だが、一読して把握できるだろうか。
僭越ながら、英語ネイティブ発の上記表現を分析してみたい。
内容は問わず、文体のみ取り上げて検討する。
あたかも、話し言葉をそのまま文面に落とした感じ。
親しみは見え隠れするものの、ビジネスには不適切。
主節、従属節、独立節が組み合わされた複雑な文。
すなわち「 混文 」である。
よくあるカジュアルな文体。
助動詞入りの丁寧文言( would like )を盛り込み、
謙虚さを精一杯アピールする姿勢が目を引く。
だが、バランスがなんだか妙。
もし、対外的なビジネス文書に用いる場合、
書き直しを命じられる可能性があるレベル。
これは、近頃、仲違いした同性の同僚より届いたメッセージ。
もとより私的用途なのは、用件から推し量ることができよう。
句読点など気に留めることなく、気さくに メールを打って
寄こしてくれた印象。
他見を予定していない場面では、このような社会人も珍しくない。
一方、文章に精通した方は、概ね普段から手抜かりなくしたためる。
こうした私信を公開するのはどうかと思うが、要は昼食のお誘い。
特殊でも機密でもない。
仲直りした暁には、悪文の好例として教材に採用させていただいた
旨をご報告し、厚くお礼を申し上げたい。
–
◆ さて、冒頭の文。
中級学習者 であれば、意味をつかむのは難しくないだろう。
文法と語彙の運用に、明らかな間違いはない。
すらすら口にできる円滑な流れも素晴らしい。
さすが、ネイティブ。
ところが、じっと文字を眺めると、軽妙な筆致とは言い難い出来具合。
爽快な話しぶりのはずが、一転して雑駁な匂いを放つ。
滑らかな口調とは打って変った、洗練されていない文。
見るからに野暮。
やはり、「 話し言葉 」と「 書き言葉 」は違うのだ。
句読点の理解からして怪しい、と感づく。
「 さすが、ネイティブ 」どころでないかも。
文の種類の基本3型は、米国では小学校で学ぶ内容。
教材も多数公開されている。
【例】 ” Simple, Compound or Complex Sentence Worksheet ”
- simple sentence = 単文( たんぶん )
–
従属節なしで、主節のみの文。
つまり、主語・述語を1組だけ含む文。
–
→ 「 S + V ~」の単一の節からなる独立節。
–
– - compound sentence = 重文( じゅうぶん )
–
従属節なしで、2つ以上の主節が「等位接続詞」でつながる。
つまり、主語・述語が2組以上あり、対等( = 等位 )にある文。
–
→ 等位接続詞( and、or、but、so、for、yet など )、
—-コロン(:)または セミコロン(;)で結ばれる。
–
– - complex sentence = 複文( ふくぶん )
–
主語・述語が2組以上あり、対等にない文。
つまり、主節と従属節で、主従関係にある(=対等にない)文。
–
→ 従属接続詞( when、if、whether、while、though、although、
—-as、since、because など )または
—-関係代名詞( that、which、who など )で結ばれる。
–
◆ くだんの文は、ごちゃまぜの「 混文 」に他ならない。
「 複文 」+「 単文 」で、「 混文 」。
- 仮定・条件の従属接続詞 ” if ” を伴う「 複文 」
” If you would like to go have lunch(従属節),
let me know(主節)”
– - 成句
” better yet “
– - 「 単文 」= 独立節( independent clause )
” I would like to have lunch with you “
「 混文 」は、 通称 ” mixed sentence ” と言う。
基本は、 単文と複文、 または複文同士を結んだ文を指す。
さらに、次のパターンも含む。
- 複文に重文が加わった重複文
- 重文の中に従属節が入る文
【参考】 ※ 外部サイト
・ 文の種類
・ 文の種類( 構造上の分類 )
・ 混文の組み合わせのパターン
–
◆ 混文は、初等教育では推奨されない。
上掲の基本3型から外れている。
もっとも、メディア報道では混文が普通。
無論、間違いではない。
プロの手掛ける文章のすごいところは、混文にも
かかわらず、すんなり読めて誤解を招きにくい点。
それだけの力量を誇負する方ならよいが、私たち
英語学習者は、「 単文 」「 重文 」「 複文 」の基本
を心得てから、英作文に取り組む方が無難と考える。
英語ネイティブたちも、最初はそう教わるのが一般的。
我流に凝ったり、崩したりすると、あらぬ疑いを招く。
とことん徹底的に、磨き抜かれたプロとの違いである。
◆ ” better yet ” の ” yet ” は、副詞。
【発音】 jét (1音節)
1音節だから、腹の底から ゲロする 勢いで、
一気に吐き出して発音。
音節の日英比較は、” integrity ” で詳らかにしている。
上述の赤字にあるように、「 等位接続詞 」
( coordinating conjunction )にもなる。
成り立ちは、古英語「 さらに、まだ 」( gīet )。
これは副詞。-
その後、接続詞に派生した。
- 副詞
「 さらに 」「 その上 」「 これから 」
「 まだ 」「 いまだに 」 → 否定語の直後または文尾で多用
「 もう 」「 すでに 」 → 疑問文で多用
「なおいっそう」 → 比較級を強める
– - 接続詞
「 けれども 」「 しかし 」「 それにもかかわらず 」
「 but, however より対比の意がやや強い 」
『 ジーニアス英和大辞典 』 … “ yet ” の語釈より
” better yet ” では、比較級 ” better ” を強める「 なおいっそう 」。
「 なおいっそう better 」ということ。
” yet ”
副詞
6a.
(正式)〔 比較級を強めて 〕なおいっそう、
その上 ( still, even )
–
『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、 2001年刊 ( ロゴヴィスタ アプリ版 )
… “ yet ” の語釈より
<大修館書店HP>
–
【発音】 jét (1音節)
※ 語釈の該当項のみ引用
–
青字の副詞を用いて、こうして換言可能(後述)。
- better still
- even better
–
◆ ” better ” は、お馴染み「 ベター 」。
以下、 それぞれ全文。
ベター 【better】
もっとよいこと。 比較的よいこと。
( 広辞苑 第七版 )
〔形動〕 他よりよいさま。 比較的よいさま。
( デジタル大辞泉 )
〔形動〕 よりよいさま。 最善・最高ではないが、
比較的よいさま。
( 明鏡国語辞典 第三版 )
よりよいようす。 もっといい。
( 三省堂国語辞典 第八版 )
–
「 比較級を強める 」 副詞 ” yet ” が、「 なおいっそう 」を
意味することは既に述べた。
” better yet ” の ” better ” は、副詞 の比較級。
– 副詞 ” better ” は、” well ” と ” very much ” の比較級。
– 形容詞 ” better ” は、” good ” と ” well ” の比較級。
混乱しがちだが、「 よりよい 」 の意味合いとしては重なる。
大枠をまとめると、
- 副詞 ” better ” 「 よりよく 」
→ ” well “、” very much ” の比較級
– - 形容詞 ” better ” 「 よりよい 」
→ ” good “、” well ” の比較級
「 ベター 」のイメージ通りで、先の国語辞典の語義に沿う。
カタカナ「 ベター 」は、「 形容詞 」でなく「 形容動詞 」。
したがって、形容詞と異なり、「 ベターである 」と表現できる。
日本語の形容詞と形容動詞の違いは、 日本最大の国語辞典 と
名高い 『 日国 』 を交えて、 ” conclusive ” で事細かに触れた。
–
◆ ” better ” には、形容詞・副詞・他動詞・自動詞・名詞がある。
【発音】 bétər
【音節】 bet-ter (2音節)
語源は、 古英語「 すぐれている 」( betera )。
” best ” と同語源であり、 ともにポジティブな語感を帯びる。
【参照】 ” He is in a better place now. ”
既述したように、 ” better yet ” の ” better ” は、 副詞。
よって、「 よりよく 」を表す。
既出の副詞 ” yet ” 「 なおいっそう 」を加えて、
- 副詞 ” better ” 「 よりよく 」–
- 副詞 ” yet ” 「 なおいっそう 」
ここでの ” yet ” は「 比較級を強める 」用法なので、
直訳「 なおいっそうよりよく 」はくどくて当然。
–
◆ 副詞2語で ” better yet “。
実際は、決まり文句( 成句 )として接続詞的に使われる。
再度『 ジーニアス英和大辞典 』を引用。
–
” better 1 ”
[ (or) ~ still ; (or) even ~ ; ~ yet ; 接続詞的に ]
いっそのこと、もっと0いいのは
–
『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、 2001年刊 ( ロゴヴィスタ アプリ版 )
… “ better1 ” の語釈より
<大修館書店HP>
–
【発音】 bétər
【音節】 bet-ter (2音節)
※ 語釈の該当項のみ引用
–
再び、副詞の ” still ” と ” even ” がお目見え。
同一の英和辞書だからこそ、一貫しているなどと言われぬよう、
英英辞書2点を援用する。
–
■ ” better still ” ( also even better )
used to say that a particular choice would be more satisfactory.
( CALD4、ケンブリッジ )
■ ” better still / yet ”
used when you are adding a new idea that you think
is better than a good one already mentioned.
( Macmillan、マクミラン )
–
常時参照する 4大学習英英辞典( EFL辞典、※ )のうち、
” better yet ” として項目立てしていたのは、 CALDのみ。
※ LDOCE6、 OALD9、 CALD4、 COBUILD9
→ 2019年12月1日 初稿時点の最新版
–
◆ 我が最愛の LDOCE が掲載していたのは、こちらの変わり種。
■ ” better / harder / worse etc still ”
(also still better / harder / worse etc)
even better, harder etc than something else.
( LDOCE6、ロングマン )
–
【参照】 英英辞典の基本 : スラッシュ( / )=「または (or) 」
→ ” better still ” または ” harder still ” または ” worse still ”
–
ここでの ” still ” も「 比較級を強める 」役割の「 なおいっそう 」。
” harder “( より激しく )と ” worse “( より悪く )は、
形容詞ではなく、副詞の比較級である点は ” better ” 同様。
LDOCE が選んだのは、表題の ” yet ” でないため、飽き足らない思い。
–
ならば、 駄目押しの1点を食らえ。
–
–
シンプルすぎて、ますます欲求不満が高じた感。
◆ 以上のように、” better yet ” と ” better still ” を同義扱いする
辞書もある。
普段使いでは、 厳格に区別されていないと経験的にも思える。
しかし、異説を唱える記事もある。
–
‘ Better still ’ と ‘ Better yet ’ は、 全く正反対 の意味を持ち、
使い方も正反対である。
- Better still
used someone makes a good suggestion,
but you have an even better one
–
(中略)
–- Better yet
Used to offer a better suggestion to replace a bad ideahttps://english.e-and-a.org/2019/06/29/1736/
2022年10月3日 アクセス
※ 下線は引用者
–
ざっくり訳すと、
- ” better still ” は、よいアイデア以上の「 よりよい 」アイデアの提案
- ” better yet ” は、悪いアイデアを「 よりよい 」アイデアで置き換える
英英辞典と英和辞典を 10点以上 調べてみたものの、 ここまで明確に
線引きする 根拠は見当たらなかった。
特に、下線部 ” replace a bad idea “( 悪いアイデアを置き換える )
は該当しないケースが少なくないと考える。
例えば、冒頭文に適用すると、「 1人で昼食に行く 」ことは
「 悪いアイデア 」で、「 一緒に行く 」 ことが 「 よいアイデア 」。
こういう 決めつけ は、 相手に対して失礼になりうる。
これでは、 気軽に ” better yet ” を使えなくなる。
そもそも、 良し悪しの判断はそう単純ではない。
ゆえに、 枠内の「 全く正反対 」は 言い過ぎ と考える。
すなわち、 過度に一般化 ( overgeneralize ) しており、
あまりよろしくない。
それでも、” better still ” の方が若干印象がよいかもしれない。
- If you would like to go have lunch, let me know,
better still, I would like to have lunch with you.
文脈によっては、” better yet “、” better still ” の前に、
選択の接続詞 “ or ” を入れる方が適切とする説もある。
” or better yet ” の「 3語ワンセット 」の場合、英和辞典では
「 いっそのこと 」が定訳にひとつとなっている模様。
文中のコンマの位置( ” or ” の前か後 )には、ばらつきが見られた。
辞書では後付けが目立つ。
- If you would like to go have lunch, let me know or,
better yet, I would like to have lunch with you.
混文を2文に分けてみる。
- If you would like to go have lunch, let me know.
Better yet, I would like to have lunch with you.
–
- If you would like to go have lunch, let me know.
Or better yet, I would like to have lunch with you.
いくらか落ち着いた気がする。–いかがだろう。
できることなら
–
- “Can you help me ? Or better yet, can you do this for me ? ”
(助けてくれない ? できれば、代わりにやってくれない ?)
– - “Stay here for a weekend or, better yet, stay for a whole week.”
(週末ここに泊まれば。もしできれば、1週間ずっといれば。)
– - “Let’s call her, better yet, let’s see her.”
(彼女に電話しようよ。できれば、会いに行こう。)
– - “How about Shinjyuku or, better yet, Shibuya ? ”
(新宿、できれば渋谷はどう?)
– - “Keep your speaker volume low. Or better yet, power off.”
(スピーカーの音量を下げて、できれば電源切って。)
◆ 正直、” would like to ” の連発に驚いた。
「 よろしければ ~ したいのですが 」
と低姿勢で要望する、正式な丁寧表現である。
冒頭文を訳してみる。
- If you would like to go have lunch, let me know,
better yet, I would like to have lunch with you.
( 昼食のため外出される際は、ぜひ教えてください。
できましたら、お供させていただければ幸いです。)
日頃、この同僚は ” want to ” と率直な言い回しをする。
ストレートな物言いが持ち味の人物。
こんな感じ。
- If you want to go have lunch, let me know.
I want to have lunch with you.
(昼食に出たければ教えて。 一緒に食べたいから。)
–
今回のトラブルは、よほどきつかったのかも。
–