プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Better yet

      2020/07/20

できることなら

If you would like to go have lunch, let me know,
better yet, I would like to have lunch with you.

基礎単語ばかりの1文だが、一読して把握できるだろうか。

僭越ながら、英語ネイティブ発の上記表現を分析してみたい。
内容は問わず、文体のみ取り上げて検討する。

あたかも、話し言葉をそのまま文面に落とした感じ。
親しみは見え隠れするものの、ビジネスには不適切。

主節、従属節、独立節が組み合わされた複雑な文。
すなわち「混文」である。

よくあるカジュアルな文体。

丁寧文言(would like)を盛り込み、謙虚さを精一杯アピール
する姿勢が目を引く。

だが、バランスがなんだか妙。

もし、対外的なビジネス文書に用いる場合、
書き直しを命じられる可能性があるレベル。

これは、近頃、仲違いした同性の同僚より届いたメッセージ。
もとより私的用途なのは、用件から推し量ることができよう。

句読点など気に留めることなく、気さくにメールを打って
寄こしてくれた印象。

他見を予定していない場面では、このような社会人も珍しくない。
一方、文章に精通した方は、概ね普段から手抜かりなくしたためる。

こうした私信を公開するのはどうかと思うが、要は昼食のお誘い。

特殊でも機密でもない。

仲直りした暁には、悪文の好例として教材に採用させていただいた
旨をご報告し、厚くお礼を申し上げたい。

◆ さて、冒頭の文。

中級学習者であれば、意味をつかむのは難しくないだろう。

文法と語彙の運用に、明らかな間違いはない。
すらすら口にできる円滑な流れも素晴らしい。
さすが、ネイティブ。

ところが、文字を眺めると、軽妙な筆致とは言い難い出来具合。

爽快な話しぶりのはずが、一転して雑駁な匂いを放つ。
滑らかな口調とは打って変った、洗練されていない文。
見るからに野暮。

やはり、「話し言葉」と「書き言葉」は違うのだ。

句読点の理解からして怪しい、と感づく。
「さすが、ネイティブ」どころでないかも。

文の種類の基本3型は、米国では小学校で学ぶ内容。
教材も多数公開されている。

【例】 “Simple, Compound or Complex Sentence Worksheet

  •   “simple sentence” = 単文(たんぶん)
    従属節なしで、主節のみの文。
    つまり、主語・述語を1組だけ含む文。
    → 「S+V~」の単一の節からなる独立節。
  •   “compound sentence” = 重文(じゅうぶん)
    従属節なしで、2つ以上の主節が「等位接続詞」でつながる。
    つまり、主語・述語が2組以上あり、対等(=等位)にある文。
    →  等位接続詞(and、or、but、so、for、yet など)、
    —-コロン(:)または セミコロン(;)で結ばれる。
  •   “complex sentence” = 複文(ふくぶん)
    主語・述語が2組以上あり、対等にない文。
    つまり、節と属節で、主従関係にある(=対等にない)文。
    →  従属接続詞(when、if、whether、while、though、although、
    —-as、since、because など)または
    —-関係代名詞(that、which、who など)で結ばれる。

くだんの文は、ごちゃまぜの「混文」に他ならない。
「複文」+「単文」で、「混文」。

  1. 仮定・条件の従属接続詞 “if” を伴う「複文
    If you would like to go have lunch属節),
    let me know節)”
  2. 成句
    better yet
  3. 単文」= 独立節(independent clause)
    “I would like to have lunch with you”

「混文」は、通称 “mixed sentence” と言う。
基本は、単文と複文、または複文同士を結んだ文を指す。

さらに、次のパターンも含む。

  • 複文に重文が加わった重複文
  • 重文の中に従属節が入る文

◆ 混文は、初等教育では推奨されない。

上掲の基本3型から外れている。

もっとも、メディア報道では混文が普通。
無論、間違いではない。

プロの手掛ける文章のすごいところは、混文にも
かかわらず、すんなり読めて誤解を招きにくい点。

それだけの力量を誇負する方ならよいが、私たち
英語学習者は、「単文」「重文」「複文」の基本
を心得てから、英作文に取り組む方が無難と考える。

英語ネイティブたちも、最初はそう教わるのが一般的。

我流に凝ったり、崩したりすると、あらぬ疑いを招く。
磨き抜かれたプロとの違いである。

 

◆ “better yet” の “yet” は、副詞。

【発音】   jét  (1音節)

1音節だから、腹の底から ゲロする勢いで、
一気に吐き出して発音。

上述の赤字にあるように、「等位接続詞」
coordinating conjunction)にもなる。

成り立ちは古英語「さらに、まだ」(gīet)。
これは副詞。
その後、接続詞に派生した。

  • 副詞
    「さらに」「その上」「これから」
    「まだ」「いまだに」→ 否定語の直後または文尾で多用
    「もう」「すでに」→ 疑問文で多用
    「なおいっそう」→ 比較級を強める
  • 接続詞
    「けれども」「しかし」「それにもかかわらず」
    → “but”、”however” より対比の意がやや強い
    (『ジーニアス英和大辞典』”yet” の解説より)

“better yet” では、比較級 “better” を強める「なおいっそう」。
「なおいっそう better」ということ。

yet

副詞
6a.
(正式)〔比較級を強めて〕なおいっそう、
その上 (still, even

(『ジーニアス英和大辞典』”yet” )

【発音】   jét  (1音節)

※  語釈の該当項のみ引用

青字の副詞を用いて、こうして換言可能(後述)。

  • better still 
  • even better


◆ “better” は、お馴染み「ベター」。

  ベター【better】

もっとよいこと。比較的よいこと。
(広辞苑 第七版)

よりよいさま。最善・最高ではないが、
比較的よいさま。
(明鏡国語辞典 第二版)

「比較級を強める」副詞 “yet” が「なおいっそう」を
意味することは既に述べた。

“better yet” の “better” は、副詞の比較級。
副詞 “better” は、”well” と “very much” の比較級。
形容詞 “better” は、”good” と “well” の比較級。

混乱しがちだが、「よりよい」の意味合いは重なる。

大枠をまとめると、

  •   副詞 “better” 「よりよく」
    → “well”、”very much” の比較級
  •   形容詞 “better” 「よりよい」
    → “good”、”well” の比較級

「ベター」のイメージ通りで、先の国語辞典の語義に沿う。

カタカナ「ベター」は、「形容詞」でなく「形容動詞」。
したがって、形容詞と異なり、「ベターである」と表現できる。

日本語の形容詞と形容動詞の違いは、”conclusive” で触れた。


◆ “better” には、形容詞・副詞・他動詞・自動詞・名詞がある。

【発音】   bétər
【音節】   bet-ter  (2音節)

語源は、古英語「すぐれている」(betera)。
“best” と同語源であり、ともにポジティブな語感を帯びる。

既述したように、”better yet” の “better” は、副詞
よって、「よりよく」を表す。

既出の副詞 “yet”「なおいっそう」を加えて、

  • 副詞 “better” 「よりよく」
  • 副詞 “yet” 「なおいっそう」

ここでの “yet” は「比較級を強める」用法なので、
直訳「なおいっそうよりよく」はくどくて当然。


◆ 副詞2語で “better yet”。

実際は、決まり文句(成句)として接続詞的に使われる。

再度『ジーニアス英和大辞典』を引用。

better 1

[(or) ~ still ; (or) even ~ ; ~ yet ; 接続詞的に
いっそのこと、もっと0いいのは

(『ジーニアス英和大辞典』”better1” )

【発音】   bétər
【音節】   bet-ter  (2音節)

※  語釈の該当項のみ引用

再び、副詞の “still” と “even” がお目見え。

同一の英和辞書だからこそ、一貫しているなどと言われぬよう、
英英辞書2点を援用する。

■ “better still” (also even better

used to say that a particular choice would be more satisfactory.

(CALD4、ケンブリッジ)

 

■ “better still / yet

used when you are adding a new idea that you think
is better than a good one already mentioned.

Macmillan、マクミラン

常時参照する4大学習英英辞典(EFL辞典、※)のうち、
“better yet” として項目立てしていたのは、CALDのみ。

※ LDOCE6、OALD9、CALD4、COBUILD9
2019年12月1日 初稿時点の最新版

我が最愛のLDOCEが掲載していたのは、こちらの変わり種。

■ “better / harder / worse etc still

(also still better / harder / worse etc)

even better, harder etc than something else.

(LDOCE6、ロングマン)

【参照】  英英辞典の基本:スラッシュ( / )=「または (or) 」
→  “better still” または “harder still” または “worse still”

ここでの “still” も「比較級を強める」役割の「なおいっそう」。

“harder”(より激しく)と “worse”(より悪く)は、
形容詞ではなく、副詞の比較級である点は “better” 同様。

LDOCEが選んだのは、表題の “yet” でないため、飽き足らない思い。

駄目押しの1点を食らえ。

■ “better yet

もっといいことに

NHK やさしいビジネス英語実用フレーズ辞典
p.89、杉田 敏 (編集)、NHK出版、2003年刊

シンプルすぎて、ますます欲求不満が高じた感。

 

◆ 以上のように、”better yet” と “better still” を同義扱いする
辞書もある。

普段使いでは、厳格に区別されていないと経験的にも思える。

しかし、異説を唱える記事もある。

‘Better still’ と ‘Better yet’ は、全く正反対の意味を持ち、
使い方も正反対である。

  • Better still
    used someone makes a good suggestion,
    but you have an even better one

    (中略)
  • Better yet
    Used to offer a better suggestion to replace a bad idea

https://english.e-and-a.org/2019/06/29/1736/
2019年12月1日 アクセス

※ 下線は引用者

ざっくり訳すと、

  • “better still” は、よいアイデア以上の「よりよい」アイデアの提案
  • “better yet” は、悪いアイデアを「よりよい」アイデアで置き換える

英英辞典と英和辞典を10点以上調べてみたものの、ここまで明確に
線引きする根拠は見当たらなかった。

特に、下線部 “replace a bad idea”(悪いアイデアを置き換える)
は該当しないケースが少なくないと考える。

例えば、冒頭文に適用すると、「1人で昼食に行く」ことは
「悪いアイデア」で、「一緒に行く」ことが「よいアイデア」。

こういう決めつけは、相手に対して失礼になりうる。
そのため、気軽に “better yet” を使えなくなる。

そもそも、良し悪しの判断はそう単純ではない。

ゆえに、枠内の「全く正反対」は言い過ぎと考える。
すなわち、過度に一般化しており、あまりよろしくない。

それでも、”better still” の方が若干印象がよいかもしれない。

  • If you would like to go have lunch, let me know,
    better still, I would like to have lunch with you.

文脈によっては、”better yet”、”better still” の前に、
選択の接続詞 “or” を入れる方が適切とする説もある。

“or better yet” の「3語ワンセット」の場合、英和辞典では
「いっそのこと」が定訳となっている模様。

文中のコンマの位置(”or” の前か後)には、ばらつきが見られた。
辞書では後付けが目立つ。

  • If you would like to go have lunch, let me know or,
    better yet, I would like to have lunch with you.

混文を2文に分けてみる。

  • If you would like to go have lunch, let me know.
    Better yet, I would like to have lunch with you.

  • If you would like to go have lunch, let me know.
    Or better yet, I would like to have lunch with you.

いくらか落ち着いた気がする。いかがだろう。

  • “Can you help me? Or better yet, can you do this for me?”
    (助けてくれない? できれば、代わりにやってくれない?)
  • “Stay here for a weekend or, better yet, stay for a whole week.”
    (週末ここに泊まれば。もしできれば、1週間ずっといれば。)
  • “Let’s call her, better yet, let’s see her.”
    (彼女に電話しようよ。できれば、会いに行こう。)
  • “How about Shinjyuku or, better yet, Shibuya ? ”
    (新宿、できれば渋谷はどう?)
  • “Keep your speaker volume low. Or better yet, power off.”
    (スピーカーの音量を下げて、できれば電源切って。)

 

◆ 正直、”would like to” の連発に驚いた。

「よろしければ~したいのですが」と低姿勢で要望する、
正式な丁寧表現である。

冒頭文を訳してみる。

  • If you would like to go have lunch, let me know,
    better yet, I would like to have lunch with you.
    (昼食のため外出される際は、ぜひ教えてください。
    できましたら、お供させていただければ幸いです。)

日頃、この同僚は  “want to” と率直な言い回しをする。
ストレートな物言いが持ち味の人物。

こんな感じ。

  • If you want to go have lunch, let me know.
    I want to have lunch with you.
    (昼食に出たければ教えて。一緒に食べたいから。)

 

今回のトラブルは、よほどきつかったのかも。

 

 

 

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