プロ翻訳者の単語帳

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Better yet

      2025/01/31

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 7 minutes

できることなら


If you would like to go have lunch, let me know,

better yet,  I would like to have lunch with you.


基礎単語ばかりの1文だが、 一読して把握できるだろうか。

僭越ながら、英語ネイティブ発の上記表現を分析してみたい。
内容は問わず、文体のみ取り上げて検討する。

あたかも、話し言葉をそのまま文面に落とした感じ。
親しみは見え隠れするものの、ビジネスには不適切。

主節、従属節、独立節が組み合わされた複雑な文。

すなわち 「 混文 」 である。

よくあるカジュアルな文体。

助動詞入りの丁寧文言( would like )を盛り込み、
謙虚さを精一杯アピールする姿勢が目を引く。

だが、バランスがなんだか妙。

もし、対外的なビジネス文書に用いる場合、
書き直しを命じられる可能性があるレベル。

これは、近頃、仲違いした同性の同僚より届いたメッセージ。

もとより私的用途なのは、用件から推し量ることができよう。

句読点など気に留めることなく、気さくに メールを打って
寄こしてくれた印象。

他見を予定していない場面では、このような社会人も珍しくない。
一方、文章に精通した方は、概ね普段から手抜かりなくしたためる。

こうした私信を公開するのはどうかと思うが、要は昼食のお誘い。

特殊でも機密でもない。

仲直りした暁には、悪文の好例として教材に採用させていただいた
旨をご報告し、厚くお礼を申し上げたい。

◆  さて、冒頭の文。

中級学習者 であれば、意味をつかむのは難しくないだろう。

文法と語彙の運用に、明らかな間違いはない。
すらすら口にできる円滑な流れも素晴らしい。

さすが、ネイティブ。

ところが、じっと文字を眺めると、軽妙な筆致とは言い難い出来具合。

爽快な話しぶりのはずが、一転して雑駁な匂いを放つ。
滑らかな口調とは打って変った、洗練されていない文。
見るからに野暮。

やはり、「 話し言葉 」と「 書き言葉 」は違うのだ。

句読点の理解からして怪しい、と感づく。

「 さすが、ネイティブ 」どころでないかも。

文の種類の基本3型は、米国では小学校で学ぶ内容。

教材も多数公開されている。

【例】  ” Simple, Compound or Complex Sentence Worksheet

  •   simple sentence  =  単文( たんぶん )

    従属節なしで、主節のみの文。
    つまり、主語・述語を1組だけ含む文。

    →  「 S + V ~」の単一の節からなる独立節。

  •    compound sentence  =  重文( じゅうぶん )

    従属節なしで、2つ以上の主節が「等位接続詞」でつながる。
    つまり、主語・述語が2組以上あり、対等( = 等位 )にある文。

    →   等位接続詞( and、or、but、so、for、yet など )、
    —-コロン(:)または セミコロン(;)で結ばれる。

  •    complex sentence  =  複文( ふくぶん )

    主語・述語が2組以上あり、対等にない文。
    つまり、節と属節で、主従関係にある(=対等にない)文。

    →   従属接続詞( when、if、whether、while、though、although、
    —-as、since、because など )または
    —-関係代名詞( that、which、who など )で結ばれる。


◆  くだんの文は、ごちゃまぜの「 混文 」に他ならない。

「 複文 」+「 単文 」で、「 混文 」。

  1.  仮定・条件の従属接続詞 ” if ” を伴う「 複文
    If you would like to go have lunch属節),
    let me know節)”
  2.  成句
    better yet
  3.  「 単文 」=  独立節( independent clause )
    ” I would like to have lunch with you “

「 混文 」は、 通称 ” mixed sentence ”  と言う。

基本は、 単文と複文、 または複文同士を結んだ文を指す。

さらに、次のパターンも含む。

  •  複文に重文が加わった重複文
  •  重文の中に従属節が入る文

【参考】    ※  外部サイト

・  文の種類
・  文の種類( 構造上の分類 )
・  混文の組み合わせのパターン

◆  混文は、初等教育では推奨されない。

上掲の基本3型から外れている。

もっとも、メディア報道では混文が普通。

無論、間違いではない。

プロの手掛ける文章のすごいところは、混文にも
かかわらず、すんなり読めて誤解を招きにくい点。

それだけの力量を誇負する方ならよいが、私たち
英語学習者は、「 単文 」「 重文 」「 複文 」の基本
を心得てから、英作文に取り組む方が無難と考える。

英語ネイティブたちも、最初はそう教わるのが一般的。

我流に凝ったり、崩したりすると、あらぬ疑いを招く。

とことん徹底的に、磨き抜かれたプロとの違いである。

 

◆  ” better yet ” の ” yet ” は、副詞。

【発音】   jét  (1音節)

1音節だから、腹の底から ゲロする 勢いで、
一気に吐き出して発音。

音節比較、” integrity ” で詳らかにしている。

上述の赤字にあるように、「 等位接続詞 」
coordinating conjunction )にもなる。

成り立ちは、古英語「 さらに、まだ 」( gīet )。
これは副詞。

その後、接続詞に派生した。

  • 副詞
    「 さらに 」「 その上 」「 これから 」
    「 まだ 」「 いまだに 」  →  否定語の直後または文尾で多用
    「 もう 」「 すでに 」  →  疑問文で多用
    「なおいっそう」  →  比較級を強める
  • 接続詞
    「 けれども 」「 しかし 」「 それにもかかわらず 」
    「  but,  however  より対比の意がやや強い  」
    ジーニアス英和大辞典 』 …  “ yet ”  の語釈より

” better yet ” では、比較級 ” better ” を強める「 なおいっそう 」。

「 なおいっそう better 」ということ。


yet

副詞
6a.
(正式)〔 比較級を強めて 〕なおいっそう、
その上 ( still, even

『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、 2001年刊 ( ロゴヴィスタ アプリ版 )
…  “ yet ”  の語釈より
<大修館書店HP>

【発音】   jét  (1音節)

※   語釈の該当項のみ引用


青字の副詞を用いて、こうして換言可能(後述)。

  •  better still 
  •  even better


◆  ” better ” は、お馴染み「 ベター 」。

以下、 それぞれ全文。


  ベター 【better】

もっとよいこと。  比較的よいこと。
広辞苑 第七版

〔形動〕 他よりよいさま。  比較的よいさま。
デジタル大辞泉

〔形動〕 よりよいさま。  最善・最高ではないが、
比較的よいさま。
明鏡国語辞典 第三版

よりよいようす。  もっといい。
三省堂国語辞典 第八版


「 比較級を強める 」 副詞  ” yet ” が、「 なおいっそう 」を
意味することは既に述べた。

” better yet ”  の  ” better ” は、副詞 の比較級。

–  副詞  ” better ” は、” well ” と ” very much ” の比較級。
–  形容詞  ” better ” は、” good ” と ” well ” の比較級。

混乱しがちだが、「 よりよい 」 の意味合いとしては重なる。

大枠をまとめると、

  •   副詞 ” better ” 「 よりよく 」
    →  ” well “、” very much ” の比較級
  •   形容詞 ” better ” 「 よりよい 」
    →  ” good “、” well ” の比較級

「 ベター 」のイメージ通りで、先の国語辞典の語義に沿う。

カタカナ「 ベター 」は、「 形容詞 」でなく「 形容動詞 」。

したがって、形容詞と異なり、「 ベターである 」と表現できる。

日本語の形容詞と形容動詞の違いは、 日本最大の国語辞典
名高い 『 日国 』 を交えて、 ” conclusive ”  で事細かに触れた。


◆  ” better ” には、形容詞・副詞・他動詞・自動詞・名詞がある。

【発音】   bétər
【音節】   bet-ter  (2音節)

語源は、 古英語「 すぐれている 」( betera )。

” best ” と同語源であり、 ともにポジティブな語感を帯びる。

【参照】  ” He is in a better place now.

既述したように、 ” better yet ” の ” better ” は、 副詞

よって、「 よりよく 」を表す。

既出の副詞  ” yet ” 「 なおいっそう 」を加えて、

  • 副詞  ” better ” 「 よりよく 」
  • 副詞  ” yet ” 「 なおいっそう 」

ここでの ” yet ” は「 比較級を強める 」用法なので、
直訳「 なおいっそうよりよく 」はくどくて当然。


◆  副詞2語で ” better yet “。

実際は、決まり文句( 成句 )として接続詞的に使われる。

再度『 ジーニアス英和大辞典 』を引用。


better 1

[ (or) ~ still; (or) even ~ ; ~ yet ; 接続詞的に
いっそのこと、 もっといいのは

『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、 2001年刊 ( ロゴヴィスタ アプリ版 )
…  “ better1 ”  の語釈より
<大修館書店HP>

【発音】   bétər
【音節】   bet-ter  (2音節)

※   語釈の該当項のみ引用


再び、副詞の  ” still ” と ” even ”  がお目見え。

同一の英和辞書だからこそ、一貫しているなどと言われぬよう、
英英辞書2点を援用する。


better still  ( also even better

used to say that a particular choice would be more satisfactory.

( CALD4、ケンブリッジ )

 

better still / yet

used when you are adding a new idea that you think
is better than a good one already mentioned.

Macmillan、マクミラン


常時参照する 4大学習英英辞典( EFL辞典、※ )のうち、
” better yet ”  として項目立てしていたのは、 CALDのみ。

※  LDOCE6、 OALD9、 CALD4、 COBUILD9
→  2019年12月1日  初稿時点の最新版


◆  我が最愛の LDOCE が掲載していたのは、こちらの変わり種。


better / harder / worse etc still

( also still better / harder / worse etc )

even better, harder etc than something else.

( LDOCE6、ロングマン )


【参照】  英英辞典の基本 : スラッシュ( / )=「または (or) 」

→  ” better still ”  または  ” harder still ”  または  ” worse still


ここでの ” still ” も「 比較級を強める 」役割の「 なおいっそう 」。

” harder “( より激しく )と ” worse “( より悪く )は、
形容詞ではなく、副詞の比較級である点は ” better ” 同様。

LDOCE が選んだのは、表題の ” yet ” でないため、飽き足らない思い。

ならば、 駄目押しの1点を食らえ。


better yet

もっといいことに

NHK やさしいビジネス英語実用フレーズ辞典 』  p.89.
杉田 敏 (編集)、 NHK出版、 2003年刊


シンプルすぎて、ますます欲求不満が高じた感。

 

◆  以上のように、” better yet ” と ” better still ”  を同義扱いする
辞書もある。

普段使いでは、 厳格に区別されていないと経験的にも思える。

しかし、異説を唱える記事もある。


‘ Better still ’ と ‘ Better yet ’ は、 全く正反対 の意味を持ち、
使い方も正反対である。

  •  Better still
    used someone makes a good suggestion,
    but you have an even better one

    ( 中略 )
  •  Better yet
    Used to offer a better suggestion to replace a bad idea

https://english.e-and-a.org/2019/06/29/1736/    ※  リンク切れ

2022年10月3日 アクセス

※  下線は引用者


ざっくり訳すと、

  •  ” better still ” は、よいアイデア以上の「 よりよい 」アイデアの提案
  •  ” better yet ” は、悪いアイデアを「 よりよい 」アイデアで置き換える

英英辞典と英和辞典を  10点以上  調べてみたものの、 ここまで明確に
線引きする  根拠は見当たらなかった。

特に、下線部  ” replace a bad idea “( 悪いアイデアを置き換える )
は該当しないケースが少なくないと考える。

例えば、冒頭文に適用すると、「 1人で昼食に行く 」ことは
「 悪いアイデア 」で、「 一緒に行く 」 ことが 「 よいアイデア 」。

こういう 決めつけ は、 相手に対して失礼になりうる。

これでは、 気軽に ” better yet ” を使えなくなる。

そもそも、 良し悪しの判断はそう単純ではない。

ゆえに、 枠内の「 全く正反対 」は  言い過ぎ と考える。

すなわち、 過度に一般化  ( overgeneralize )  しており、
あまりよろしくない。

それでも、” better still ”  の方が若干印象がよいかもしれない。

  • If you would like to go have lunch, let me know,
    better still, I would like to have lunch with you.

文脈によっては、” better yet “、” better still ” の前に、
選択の接続詞 “ or ” を入れる方が適切とする説もある。

” or better yet ” の「 3語ワンセット 」の場合、英和辞典では
「 いっそのこと 」が定訳にひとつとなっている模様。

文中のコンマの位置( ” or ” の前か後 )には、ばらつきが見られた。
辞書では後付けが目立つ。

  • If you would like to go have lunch, let me know or,
    better yet, I would like to have lunch with you.

混文を2文に分けてみる。

  • If you would like to go have lunch, let me know.
    Better yet, I would like to have lunch with you.

  • If you would like to go have lunch, let me know.
    Or better yet, I would like to have lunch with you.

いくらか落ち着いた気がする。いかがだろう。

 

できることなら

  •  “Can you help me ?  Or better yet, can you do this for me ? ”
    (助けてくれない ? できれば、代わりにやってくれない ?)
  • “Stay here for a weekend orbetter yet, stay for a whole week.”
    (週末ここに泊まれば。もしできれば、1週間ずっといれば。)
  • “Let’s call her,  better yet, let’s see her.”
    (彼女に電話しようよ。できれば、会いに行こう。)
  • “How about Shinjyuku or,  better yet, Shibuya ? ”
    (新宿、できれば渋谷はどう?)
  • “Keep your speaker volume low.  Or better yet,  power off.”
    (スピーカーの音量を下げて、できれば電源切って。)

 

◆  正直、” would like to ” の連発に驚いた。

「 よろしければ ~ したいのですが 」
と低姿勢で要望する、正式な丁寧表現である。

冒頭文を訳してみる。

  •  If you  would like to  go have lunch, let me know,
     better yet, I would like to  have lunch with you.
    ( 昼食のため外出される際は、ぜひ教えてください。
    できましたら、お供させていただければ幸いです。)

日頃、この同僚は  ” want to ” と率直な言い回しをする。

ストレートな物言いが持ち味の人物。

こんな感じ。

  •  If you  want to  go have lunch, let me know.
     I  want to  have lunch with you.
    ( 昼食に出たければ教えて。 一緒に食べたいから。)

 


今回のトラブルは、よほどきつかったのかも。

 

 

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