転落、 没落 、 失脚
大企業または大物の不祥事が明るみに出た際、
決まって紙面を飾る名詞。
今月2018年12月発表のニュースから、ちゃちゃっと抽出。
見出し、計10件。
- X’s porn ban could be its downfall
(ポルノ禁止が招くX転落の可能性)
– - X says his own attitude led to his downfall
(自らの態度が転落を招いたと述懐するX)
– - With X’s downfall, hosting the Oscars got harder
(X失脚でアカデミー賞司会がますます困難に)
– - Lessons of X’s downfall
(Xの失脚からの教訓)
– - Reasons behind X’s downfall
(Xの転落の背後にある原因)
– - Election results indicate downfall of X
(選挙結果が示すXの没落)
– - Arrogance, ego led to downfall
(傲慢さとエゴが招いた没落)
– - What Can We Learn From X’s Downfall ?
(Xの失脚から学べること)
– - Most downfall of men are caused by multiple girlfriends
(男性の転落の大半は多数の恋人が原因)
– - PM staggers on towards eventual downfall
(よろめく首相の向かう先は失脚)
◇ 「見出し」英語の解説は、ここが秀逸 ↓
英語ニュースの読み方(見出し編)RNN時事英語
10分足らずで、採集完了。
“downfall” が頻出なのか。それとも、転落が多いのか。
–
◆ 今回調べた9点の英英辞典 に基づけば、重要度・頻出度とも、
特筆に値しない。
例えば、LDOCE6(ロングマン)では、全3項目ランク外。
-
重要度 :9000語圏外
-
書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
そして、Collins オンライン辞書の頻出度は、
“10000 most commonly used words in the
Collins dictionary” (トップ10000語以内)。
以上より、”downfall” は頻出単語でない模様。
となれば、尾羽をうち枯らす大勢ひしめく師走かな。–
ー
–
◆ “downfall” は、単数名詞。
単数名詞(singular noun)とは、
単数形で使われるのが一般的な名詞。
英英辞書では “S” または “sing” と略記されたりする。
3大学習英英辞典(EFL辞典)の全部が明示する。
“downfall”
■ [singular]
1. complete loss of your money, moral standards,
social position etc, or the sudden failure of an organization.
2. something that causes a complete failure or loss of
someone’s money, moral standards, or social position etc.
(LDOCE6、ロングマン)
■ [singular]
the loss of a person’s money, power, social position, etc.;
the thing that causes this.
(OALD9、オックスフォード)
■ [S]
(something that causes) the usually sudden destruction
of a person, organization, or government and their loss
of power, money or health.
(CALD4、ケンブリッジ)
※ 下線は引用者
【発音】 dáunfɔ̀ːl
【音節】 down-fall (2音節)
一方、同じく学習英英辞典(EFL辞典)として有力な
COBUILD(コウビルド)は、説を異にする。
「単数名詞」の代わりに、「可算名詞」(countable noun)
と表示する上、複数形 “downfalls” を添える。
“downfall”
■ plural downfalls
1. countable noun [usually with poss]
The downfall of a successful or powerful person or
institution is their loss of success or power.
2. countable noun [usually with poss]
The thing that was a person’s downfall caused them
to fail or lose power.
(COBUILD9、コウビルド)
※ 下線は引用者
- “plural” = 複数形
【発音】 plúərəl
【音節】 plu-ral (2音節)
– - “usually with poss” = usually with possessive
【和訳】 通常、所有格を伴う
–
<人称代名詞の所有格>
my / your / his / her / their / our / its
「単数名詞」の辞書表記のばらつきについては、
弊サイトで何度か触れてきている。
この食い違いは「矛盾」とまでに至らないと考える。
英語学習者には厄介どころではある。
このようなケースでは、次のように理解すればよい。
■ 原則 「単数名詞」:
単数扱いされるのが一般的な名詞
□ 例外 「可算名詞」:
「複数形」もありうる
さらに、日本を代表する英和大辞典4点を調べてみた。
結果は「単数名詞」の表記も、”downfalls” も皆無。
大辞典の場合、名詞の例文には複数形を含むのが通例。
軒並みゼロということは、一様に「単数名詞」と解釈
していると推定できる。
この点、3大EFL辞典と軌を一にする。
これら3点の示す例文にも、”downfalls” は見られず、
単数 “downfall” のみ。
繰り返すが、「単数名詞」をめぐる辞書間の相違は珍しくない。
上記の黄枠ぐらいに把握し、神経質になりすぎないことが大切。
–
◆ 「単数名詞」の論点はさておき、中身を見ていこう。
4点のEFL辞典の語釈の共通語は “loss“(下線の青字)。
カタカナでも根付いた名詞である。
ロス【loss】
無駄にすること。失うこと。損失。
(大辞林 第三版)
【発音】 lɔ́(ː)s
【音節】 loss (1音節)
上述のEFL辞典でも、この意味合いで使われている。
では、その主体と失ったものとは何か。
EFL4点を、もれなくまとめると、この通り。
<主体>
- person(個人)
- organization(組織)
- government(政府、為政者)
- institution(機関)
<失ったもの>
- money(資力)
- power(権力)
- moral standards(品性)
- social position(社会的地位)
- success(成功)
- health(健康)
個人・組織を問わず、矜持を保つ上で重要なものばかり。
外聞ざらしで、プライドが根こそぎ奪われる事態である。
“downfall” の定訳が「転落」「没落」「失脚」
なのも納得できよう。
転落
1. ころびおちること。
2. おちぶれること。身をもちくずすこと。
(三省堂国語辞典 第七版)
没落
栄えていたものが衰えて滅びること。
(明鏡国語辞典 第二版)
失脚
[足を踏みはずす意]
地位や立場を失うこと。
(大辞林 第三版)
気が滅入る言葉のオンパレード。
それもそのはず、名詞 “downfall” の成り立ちは、
“fall down”(下へ落ちる)の名詞化。
(ジーニアス英和大辞典)
また、
副詞 “down”(下へ)+ 動詞 “fall”(落ちる)
の語源説もある。
(https://www.etymonline.com/)
どちらも大同小異。 “down” と “fall” という暗い
単語の合体語に変わりはない。
先述のように、辞書における名詞 “downfall” の
重要度・頻出度は取るに足りない。
打って変わって最強レベルなのが、副詞 “down” と
動詞 “fall”。
LDOCE6(ロングマン)の指標では、
- 重要度:最上位 <トップ3000語以内>
- 書き言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
- 話し言葉の頻出度:最上位 <トップ1000語以内>
全項目最上位で、英単語全体における位置づけが
最高ランクに属する。
つまり、最重要かつ最頻出の基礎単語が合わさった
“downfall”。
見た目もインパクトがある。
しかも、暗澹たる語感の組み合わせなので、非運な
イメージに行き着くのは自然の数。
高転びに転ぶ大企業や大物の格落ちを、惨めな1語
で表現するには、もってこいなのである。
【類似表現】
- “fall from grace“(失脚する、失脚する)
–
◆ 実用性が高いことは、コロケーション(連語)辞書に
独立項目が設けられていることにも表れている。
代表格の『オックスフォード コロケーション辞典』がこちら。
これほど紙幅を尽くしている。
『新編 英和活用大辞典』(アプリ版)より転載
既に確認してきた通り、名詞 “downfall” の
重要度・頻出度は大したことない。
にもかかわらず、堂々記載されている。
これは<実務上の需要>が高いことを示唆する。
以下に重なる持ち味である。
ー
< コロケーションについて >
・ “aware”
・ LDOCE(ロングマン現代英英辞典)
・ 辞書の「自炊」と辞書アプリ
・ 英語辞書は「紙」か「電子版」か
–
【実例】 ※ 辞書アプリの転載あり
“threshold“、”damage“、 “scrutiny“、
“backdrop“、”paperwork“、”struggle”、
“bombshell“、”alternative”、“feasible”、
”disparity”、”presence”