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Disparity

      2023/09/27

・ Estimated Read Time ( 推定読了時間 ): 7 minutes

相違、  格差

世界的に「 格差 」が注目されている。

21世紀に入り、インターネットとSNSの普及に伴い、
当事者自らが発信できるようになった効果が大きい。

そのため、従来型のメディア( legacy  media )報道を
待つまでもなく、世間一般が実態を知るところとなり、

より身近な話題になったのが「 格差 」。

日本で「 ブラック企業 」「 パワハラ 」「 セクハラ 」「 虐待 」
表沙汰になる 際も、 個人レベルの情報発信が契機となる昨今。


1960年代末頃から「 一億総中流 」との国民意識を保ってきた
我が国では、2006年の国会で「 格差社会 」が議論されている。

当時から、 構造改革と規制緩和が槍玉に挙げられていた。

あれから10年以上経過した。

今や「 格差 」を見聞きしない日はないほど。

時代のキーワードよろしく、手近な日常語に格上げされている。

◆  今月2019年8月発表の 国内ニュースの「 格差 」例。

  •  賃金格差
  •  所得格差
  •  報酬格差
  •  情報格差
  •  通信格差
  •  放送格差
  •  教育格差
  •  学力格差
  •  雇用格差
  •  労働格差
  •  地域格差
  •  医療格差
  •  福祉格差
  •  消費格差
  •  経済格差
  •  貧富の格差
  •  世代間格差

この中に、今回初めて出会う言葉は含まれるだろうか。

現在も、メディアが頻繁に取り上げる語であるとすれば、
「 格差社会の到来 」を裏付けていると考えることもできる。

◆  「 格差 」は、名詞では ” gap ” と ” disparity ” が多用される。

【発音】   gǽp
【音節】   gap  (1音節)

【発音】  dispǽrəti
【音節】  dis-par-i-ty  (4音節)

前者は過去に記載したので、 本稿では ” disparity ” をご案内。

【参照】  ” Bridge the gap ” ( 橋渡しをする )

英語圏でも問題視されている「 格差 」。

特に米国では、もともと貧富の差が激しいのに、ますます拡大中。

近年頻発する乱射事件の一因に、 格差社会のひずみが指摘されている。

【参考】    ※  外部サイト

 「 米国の銃問題 」 のニュース ( CNN )

https://www.cnn.co.jp/topic/us-gun-violence/


◆  不満をもたらす格差が、難問 を突き付け、 課題が浮き彫りになる。

話題に事欠かないおかげで、新鮮な英文素材が日々提供されて
いる点は強調したい。

” disparity ” で ニュース検索 すると、わんさと出てくる。

それでも、英単語全体から見れば、” disparity ” の頻出度は高くない。

  •  重要度:<6001~9000語以内>
  •  書き言葉頻出度:3000語圏外
  •  話し言葉頻出度:3000語圏外
    ( ロングマン  “ LDOCE6 ” 指標より )

◆  ” disparity ” の字面からは、意味を推測しにくい。

多義でないので、語源を学べば、きっと頭に残りやすい。

  •  接頭辞  ” dis ” ( 無、不、非 )
  •  名詞  parity ” ( 同等、等価 ) 

【参照】   語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る   

” disparity ” の主な意味は、冒頭の通り「 相違 」「 格差 」の2つ。

似通った意味合いなので、厳密に区別せず使う場面が少なくない。

しかし、 ” disparity ” の成り立ちを調べると違いが見られる。

 

(1) 種類の異なるものの間の違い 「 相違


< 異種 > 間の違い 「 相違


難しいことを考えるまでもなく、本質的に違う ” disparity “。

価値判断抜きで、 客観的に同じでないと分かる様子を指す。

  そうい【相違】

たがいに違っていること。一致しないこと。ちがい
( 広辞苑 第七版 )

二つの物・事の間に ちがい があること。
( 大辞林 第四版 )


初出は、1550年代。

語源は、中期フランス語「 不同 」「 不均衡 」( disparité )。

unequal “( 不同 、等しくない )と説明する語源辞典が多い。

  •  接頭辞  ” un ” ( 不、無 )
  •  形容詞  equal ” ( 同一の、~ と同じ、~ と等しい ) 

【発音】   ʌníːkwəl
【音節】   un-e-qual  (3音節)

 

◆  続いて、1590年代に生じた語義が、

(2) 同類のものの間の格付け上の差 「 格差


同類 間の水準の差 格差


inequality “( 不平等 )ということ。

  •  接頭辞  ” in “( 不、非、無、欠 )
  •  名詞  equality “( 平等、対等 ) 

先述(1)の ” unequal ” は、 単純に「 同じでない 」。

片や、 ” inequality ” は「 同等ではない 」。

【発音】   ìnikwɔ́ləti
【音節】   in-e-qual-i-ty  (5音節)

つまり、「 等級 」「 程度 」「 水準 」が同じではないこと。

一見して分かる外観的・表面的な違いにとどまらず、
格付けするための判断を要する。

ここから、「 不平等 」「不公平」に転じた。

こちらの反対を意味する。

  びょうどう【平等】

差別することなく、同じように扱うこと。
( 明鏡国語辞典 第三版 )

かたよりや差別がなく、すべてのものが一様で
等しいこと。
( 広辞苑 第七版 )

  こうへい【公平】

判断や行動が公正でかたよっていないこと。
特定の人のえこひいきをしないこと。
また、そのさま。 くびょう。
( 精選版 日本国語大辞典 )

ひいきをしないで、 すべてを平等にあつかうようす。
( 三省堂国語辞典 第八版 )


さらに、
「 格差 」につながる。

  かくさ【格差】

同類のものの間の、価値・資格・等級・水準などのひらき。
( 三省堂国語辞典 第八版 )

同類のものの間における、価値・資格・等級・水準などの
格付け上の差。

( 大辞林 第四版 )


◆  格差の代表格が 「 男女格差 」。

よく起用される表現は、

  •  a gender gap 
  •  a disparity between men and women

複数形は、

  •  gender gaps    ※  頻出
  •  disparities between men and women

” gender “( dʒéndər は、社会的・文化的役割の性を表すため、
専門用語としては同義ではないものの、
日常的には併用されている。
- 
見栄えのする 「 頭韻 」( head rhymealliteration ) の
Gender  Gap ”  で記事見出し ( headline ) を飾る。

すなわち、 語頭で韻を踏む ( 押韻 )。

本文中は  ” disparity ”  で言い換える英文記事はざらに見かける。

頭韻は、 下記で取り上げた。

Wonder  Wonders、 First and ForemostWorks Wonder
Crystal Clear、 Blond Bombshell


同一労働・同一賃金 」  ” equal pay for equal work ” 



◆  宇宙人と人間は、 明らかに < 異種 >。

上記の国語辞典の語釈によれば、 「 格差 」は該当しない。

同類のもの 」 でないから、 宇宙人と人間の間の
「 格差 」 は想定しがたい。

男女の場合は、 人間同士なので < 同類 >。

その反面、性別という「 ちがい 」がある。

これまた、価値判断抜きで分かる「 相違 」。

< 同類 >であると同時に、< 異質 > な側面も有する。

したがって、男女間では「 相違 」も「 格差 」も適用できる。

◆  折も折、 先月2019年7月に「 FIFA女子ワールドカップ 」で、
米国が歴代最多4回目の優勝を果たした。

その女子サッカー米国代表選手が、 報酬格差の是正を求めて、
訴訟を起こしている。

米代表にもかかわらず、 常に兼業でプレーせざる得ない現状。

男子のW杯選手なら、 ありえないだろう。

久しく指摘されてきた待遇差別が、 2019年に一気に浮上した印象。

スポーツにおける男女間の賃金格差は、 米国では深刻な社会問題。

 

【参考】    ※  外部サイト

◇  「 見出し 」 英語の解説は、 ここが秀逸   ↓
英語ニュースの読み方( 見出し編 )RNN時事英語

 

◆  不用意な差別発言をしたばかりに、 足をすくわれる人は昔から絶えない。

それは、数々の失脚の歴史が証明している。

キャリアに傷をつけた、 政治家・高官・組織幹部・芸能人・スポーツ選手
は枚挙に暇がない。

辞任・引退を迫られるケースもあり、 これまでの努力があたら台無しに。

人種差別男女差別  と併せて、 性の多様性を尊重する 「 LGBTQI+
にも常日頃から配慮したい。

社会的に許容されなくなってきている ( socially  unacceptable )。

◆  英語では「 相違 」も「 格差 」も  ” disparity ” で表現できる。

そもそも「 相違 」と「 格差 」に大差ない点は、既に述べた。

図を添えて長々と論じたのは、英語学習上の便宜のため。

成り立ちに基づく語意の微差を押さえておけば、もっと理解
しやすく、かつ和訳時に予め注意できるようになると考える。

次の 3大学習英英辞典( EFL辞典 )から、このような区別は
読み取りずらいかも。

” disparity ” 

  • [countable, uncountable]
    formal
    a difference between two or more things, 
    especially an unfair one.
    ( LDOCE6、ロングマン )
  • [uncountable, countable](pl. disparities)
    formal
    a difference, especially one connected with unfair
    treatment.

    ( OALD9、オックスフォード )
  • [C or U]
    Formal
    a lack of equality or similarity, especially in a way
    that is not fair.
    ( CALD4、ケンブリッジ )

【発音】  dispǽrəti
【音節】  dis-par-i-ty  (4音節)


キーワードにハイライトを施した。

先ほどの和訳と合わせると、こんな感じ。

” disparity ” 

(1) 種類の異なるものの間の違い「 相違

  •  difference
  •  lack of similarity

(2) 同類のものの間の格付け上の差「 格差

  •  lack of equality
  •  not fair / unfair


いかがだろう。

母語の「 相違 」「 格差 」 と一緒だと、すんなり把握できるのでは。

◆  何度も繰り返すように、 普段遣いの(1)と(2) は大同小異。

3大EFL辞典の語釈が、 いずれも二分されていないことからも察知できる。
< 異種 >  < 同類 >  にも、 触れられていない。

赤枠内が理解できれば、 ” disparity ”  の基本はOK。

先に「 多義でない 」 と述べた通りである。

◆  留意すべきは、 可算名詞と不可算名詞を兼ねること。

この点、3大EFL辞典全部が明記している。

ほぼ同趣旨の報道内容であっても、メディアによって、
単数形と複数形に分かれていたりする。

今年2019年発表のニュース見出しから3つ挙げる。

——————————————————————–
【 単数 】
“Lawsuits filed to nullify election outcome over vote disparity
(1票の格差により、選挙無効を求め提訴)

【 複数 】
“Lawyers seek to nullify election over vote-value disparities
(1票の価値の格差により、選挙無効を求め弁護士らが提訴)

——————————————————————–

【 単数 】
“Racial Disparity in Traffic Stops has Gotten Worse”
(交通検問の人種格差が悪化)

【 複数 】
“The truth behind racial disparities in police shootings”
(警官発砲事件における人種格差の真相)

——————————————————————–

【 単数 】
“Racial Disparity in Care Starts in NICU”
(新生児集中治療室から始まる治療の人種格差)

【 複数 】
“Racial disparities exist in use of palliative care”
(緩和ケアの利用にも人種格差あり)
——————————————————————–

◆  英単語全体における “disparity” の位置づけが、
目立たない程度であることは既述した。

再掲すると、

  •  重要度:<6001~9000語以内>
  •  書き言葉頻出度:3000語圏外
  •  話し言葉頻出度:3000語圏外
    ( ロングマン  “ LDOCE6 ” 指標より )

その割に、 ” disparity ”  のコロケーション( 連語 )
に紙面を割く辞書も見られる。

代表格の辞書2点をご紹介。

 


 –

新編 英和活用辞典
( アプリ版 )


どちらも詳細に記されている。

” LDOCE6 ” ではノーマークに近かったのに、
分不相応で破格の待遇ではないか。

なぜか。

これは < 実務上の需要 > があることを示唆する。

全体的な立ち位置は取るに足らなくても、 特定の
実務分野では欠かせない単語というのが存在する。
” disparity ” 以外にも、  以下を弊サイトで取り扱っている。

  •  threshold ( 敷居、境界、しきい値、基準値 )
  •  presence ( 存在感 )
  •  downfall転落、失脚、没落 )
  •  bombshell ( 爆弾、突発事件 、衝撃 )

◆  仕上げとして、上掲の国内ニュース「 格差 」を
単数形 ” disparity ”  を用いて英訳してみる。
  •  賃金格差 wage disparity
  •  所得格差 income disparity 
  •  報酬格差 pay disparity 
  •  情報格差 information disparity  
  •  通信格差 telecommunications disparity
  •  放送格差 broadcast disparity
  •  教育格差 education disparity
  •  学力格差 academic achievement disparity   
  •  雇用格差 employment disparity
  •  労働格差 labor disparity
  •  地域格差 regional disparity
  •  医療格差 healthcare disparity
  •  福祉格差 welfare disparity
  •  消費格差 consumption disparity
  •  経済格差 economic disparity
  •  貧富の格差 wealth disparity
  •  世代間格差 generational disparity

各英訳は、あくまでも一例。

言い様はいくつかあったりする。

本稿の表題が ” disparity ” だから、 あえて優先したまで。

現に「 通信格差 」や「 消費格差 」のように、 ” gap ” の方が
一般的なものもあるが、 ” disparity ” でも間違いではない。

弊サイトでは、 裏打ちのリサーチは、 必ず行っている。

少なくとも、 大手メディアによる使用は確認済みである。

【参考】    ※  外部サイト

【参考】

アメリカ合衆国憲法 修正第2条 ( 武器保有権 )

Right to Bear Arms
Constitution of the United States Second Amendment

A well regulated Militia,  being necessary to the security of a free State,
the right of the people to keep and bear Arms,  shall not be infringed.

Ratified December 15, 1791.


参考和訳 >

武器保有権

アメリカ合衆国憲法 修正第2条

規律ある民兵団は、 自由な国家の安全にとって必要であるため、
国民が武器を保有し携行する権利を侵してはならない。

1791年12月15日成立

https://constitution.congress.gov/constitution/amendment-2/
https://constitutioncenter.org/interactive-constitution/amendment/amendment-ii
https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2569/

 

趣旨は  「 自由を守る 」 ことであり、 「 国民の権利 」。

自由を脅かすあらゆる敵から、 自らを守るため国民が武器を保有する権利。

大まかに知るだけでも、 いかに繊細で難しい問題か察することができよう。

 

 

 

 

 

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