プロ翻訳者の単語帳

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Disparity

      2020/11/02

相違、  格差

世界的に「格差」が注目されている。

21世紀に入り、インターネットとSNSの普及に伴い、
当事者自ら発信できるようになった効果が大きい。

そのため、従来型のメディア(legacy media)報道を
待つまでもなく、世間一般が実態を知るところとなり、

より身近な話題になったのが「格差」。

日本で「ブラック企業」「パワハラ」「セクハラ」「虐待」
表沙汰になる際も、個人レベルの情報発信が契機となる昨今。


1960年代末頃から「一億総中流」との国民意識を保ってきた
我が国では、2006年の国会で「格差社会」が議論されている。
当時から、構造改革と規制緩和が槍玉に挙げられていた。

あれから10年以上経過した。

今や「格差」を見聞きしない日はないほど。
時代のキーワードよろしく、手近な日常語に格上げされている。

◆  今月2019年8月発表の国内ニュースの「格差」例。

  •  賃金格差
  •  所得格差
  •  報酬格差
  •  情報格差
  •  通信格差
  •  放送格差
  •  教育格差
  •  学力格差
  •  雇用格差
  •  労働格差
  •  地域格差
  •  医療格差
  •  福祉格差
  •  消費格差
  •  経済格差

この中に、今回初めて出会う言葉は含まれるだろうか。

現在も、メディアが頻繁に取り上げる語であるとすれば、
「格差社会の到来」を裏付けていると考えることもできる。

◆  「格差」は、名詞では “gap” と “disparity” が多用される。

前者は過去に記載したので、本稿では “disparity” をご案内。

【参照】  “Bridge the gap” (橋渡しをする)

英語圏でも問題視されている「格差」。

特に米国では、もともと貧富の差が激しいのに、ますます拡大中。
近年頻発する乱射事件の一因に、格差社会のひずみが指摘されている。

【参考】  「米国の銃問題」のニュース (CNN)   ※  外部サイト
https://www.cnn.co.jp/topic/us-gun-violence/


◆  不満をもたらす格差が難問を突き付け、課題が浮き彫りになる。

話題に事欠かないおかげで、新鮮な英文素材が日々提供されて
いる点は強調したい。

“disparity” でニュース検索すると、わんさと出てくる。

それでも、英単語全体から見れば、”disparity” の頻出度は高くない。

  •  重要度:<6001~9000語以内>
  •  書き言葉頻出度:3000語圏外
  •  話し言葉頻出度:3000語圏外
    (ロングマン “LDOCE6” 指標より)

◆  “disparity” の字面からは、意味を推測しにくい。

多義でないので、語源を学べば、きっと頭に残りやすい。

【参照】   語源に遡ることで、理解への足掛かりを作る   

“disparity” の主な意味は、冒頭の通り「相違」「格差」の2つ。

似通った意味合いなので、厳密に区別せず使う場面が少なくない。
しかし、”disparity” の成り立ちを調べると違いが見られる。

 

(1) 種類の異なるものの間の違い「相違

異種間の違い相違


難しいことを考えるまでもなく、本質的に違う “disparity”。
価値判断抜きで、客観的に同じでないと分かる様子を指す。

  そうい【相違】

たがいに違っていること。一致しないこと。ちがい
(広辞苑 第七版)

二つの物・事の間にちがいがあること。
(大辞林 第三版)

初出は、1550年代。
語源は、中期フランス語「不同」「不均衡」(disparité)。

unequal“(不同 、等しくない)と説明する語源辞典が多い。

続いて、1590年代に生じた語義が、こちら。

(2) 同類のものの間の格付け上の差「格差

同類間の水準の差格差


inequality“(不平等)ということ。

  • 接頭辞 “dis“(~の反対、~なし)
  • 名詞 “parity“(同等、等価) 

先述(1)の “unequal” は、単純に「同じでない」。
片や “inequality” は「同等ではない」。

つまり、「等級」「程度」「水準」が同じではないこと。

一見して分かる外観的・表面的な違いにとどまらず、
格付けするための判断を要する。

ここから、「不平等」「不公平」に転じた。
以下の反対を意味する。

  びょうどう【平等】

差別することなく、同じように扱うこと。
(明鏡国語辞典 第二版)

かたよりや差別がなく、すべてのものが一様で
等しいこと。
(広辞苑 第七版)

  こうへい【公平】

判断や行動が公正でかたよっていないこと。
特定の人のえこひいきをしないこと。
また、そのさま。くびょう。
(精選版 日本国語大辞典)

どちらにもかたよらないで正しくするようす。
(三省堂国語辞典 第七版)

さらに、「格差」につながる。

  かくさ【格差】

同類のものの間の、価値・資格・等級・水準などのひらき。
(三省堂国語辞典 第七版)

同類のものの間における、価値・資格・等級・水準などの
格付け上の差。

(大辞林 第三版)

格差の代表格が「男女格差」。

ここまで決まりきった言い回しは、英語には見当たらない。
よく起用される表現は、

  • a gender gap
  • a disparity between men and women

複数形は、

  • gender gaps
  • disparities between men and women

“gender”(dʒéndər は、社会的・文化的役割の性を表すため、
専門用語としては同義ではないものの、
日常的には併用されている。

見栄えのする “Gender Gap” で記事見出しを飾り、
本文中は “disparity” で言い換える英文記事はざら。

同一労働・同一賃金は “equal pay for equal work” 

 




宇宙人と人間は、明らかに<異種>。
上記の国語辞典の語釈によれば、「格差」は該当しない。

すなわち「同類のもの」でないから、宇宙人と人間の間の
「格差」は想定しがたい。

男女の場合は、人間同士なので<同類>。
その反面、
性別という「ちがい」がある。
これまた、価値判断抜きで分かる「相違」。

<同類>であると同時に、<異質>な側面も有する。
したがって、男女間では「相違」も「格差」も適用できる。

◆  折も折、先月2019年7月に「FIFA女子ワールドカップ」で、
米国が歴代最多4回目の優勝を果たした。

その女子サッカー米国代表選手が、報酬格差の是正を求めて、
訴訟を起こしている。

米代表にもかかわらず、常に兼業でプレーせざる得ない現状。
男子のW杯選手なら、ありえないだろう。

久しく指摘されてきた待遇差別が、2019年に一気に浮上した印象。

◆  英語では「相違」も「格差」も “disparity” で表現できる。

そもそも「相違」と「格差」に大差ない点は、既に述べた。
図を添えて長々と論じたのは、英語学習上の便宜のため。

成り立ちに基づく語意の微差を押さえておけば、もっと理解
しやすく、かつ和訳時に予め注意できるようになると考える。

次の3大学習英英辞典(EFL辞典)から、このような区別は
読み取りずらいかも。

“disparity” 

  • [countable, uncountable]
    formal
    a difference between two or more things, 
    especially an unfair one.
    (LDOCE6、ロングマン)
  • [uncountable, countable](pl. disparities)
    formal
    a difference, especially one connected with unfair
    treatment.

    (OALD9、オックスフォード)
  • [C or U]
    Formal
    a lack of equality or similarity, especially in a way
    that is not fair.
    (CALD4、ケンブリッジ)

【発音】  dispǽrəti
【音節】  dis-par-i-ty  (4音節)

キーワードにハイライトを施した。

先ほどの和訳と合わせると、こんな感じ。

“disparity” 

(1) 種類の異なるものの間の違い「相違

  •  difference
  •  lack of similarity

(2) 同類のものの間の格付け上の差「格差

  •  lack of equality
  •  not fair / unfair

いかがだろう。

母語の「相違」「格差」と一緒だと、すんなり把握できるのでは。

◆  何度も繰り返すように、普段遣いの(1)と(2)は大同小異。

3大EFL辞典の語釈が、いずれも二分されていないことからも察知できる。
<異種><同類>にも、触れられていない。

赤枠内が理解できれば、”disparity” の基本はOK。
先に「多義でない」と述べた通りである。

◆  留意すべきは、可算名詞と不可算名詞を兼ねること。

この点、3大EFL辞典全部が明記している。

ほぼ同趣旨の報道内容であっても、メディアによって、
単数形と複数形に分かれていたりする。

今年2019年発表のニュース見出しから3つ挙げる。

——————————————————————–
【単数】
“Lawsuits filed to nullify election outcome over vote disparity
(1票の格差により、選挙無効を求め提訴)

【複数】
“Lawyers seek to nullify election over vote-value disparities
(1票の価値の格差により、選挙無効を求め弁護士らが提訴)

——————————————————————–

【単数】
“Racial Disparity in Traffic Stops has Gotten Worse”
(交通検問の人種格差が悪化)

【複数】
“The truth behind racial disparities in police shootings”
(警官発砲事件における人種格差の真相)

——————————————————————–

【単数】
“Racial Disparity in Care Starts in NICU”
(新生児集中治療室から始まる治療の人種格差)

【複数】
“Racial disparities exist in use of palliative care”
(緩和ケアの利用にも人種格差あり)
——————————————————————–

◆  英単語全体における “disparity” の位置づけが、
目立たない程度であることは既述した。

再掲すると、

  •  重要度:<6001~9000語以内>
  •  書き言葉頻出度:3000語圏外
  •  話し言葉頻出度:3000語圏外
    (ロングマン “LDOCE6” 指標より)

その割に、”disparity” のコロケーション(連語)
に紙面を割く辞書も見られる。

代表格の辞書2点をご紹介。

Oxford Collocations Dictionary for Students of English
(アプリ版)より転載 
 –

新編 英和活用辞典』 (アプリ版)より転載  

どちらも詳細に記されている。

“LDOCE6” ではノーマークに近かったのに、
分不相応で破格の待遇ではないか。 なぜか。

これは <実務上の需要> があることを示唆する。

全体的な立ち位置は取るに足らなくても、特定の
実務分野では欠かせない単語というのが存在する。
“disparity” 以外にも、例えば、

  •  threshold (敷居、境界、しきい値、基準値)
  •  presence (存在感)
  •  downfall転落、失脚、没落)
  •  bombshell (爆弾、突発事件 、衝撃)

◆  仕上げとして、上掲の国内ニュース「格差」を単数形の
“disparity” を用いて英訳してみる。
  •  賃金格差 wage disparity
  •  所得格差 income disparity 
  •  報酬格差 pay disparity 
  •  情報格差 information disparity  
  •  通信格差 telecommunications disparity
  •  放送格差 broadcast disparity
  •  教育格差 education disparity
  •  学力格差 academic achievement disparity   
  •  雇用格差 employment disparity
  •  労働格差 labor disparity
  •  地域格差 regional disparity
  •  医療格差 healthcare disparity
  •  福祉格差 welfare disparity
  •  消費格差 consumption disparity
  •  経済格差 economic disparity

各英訳は、あくまでも一例。

言い様はいくつかあったりする。
本稿の表題が “disparity” だから、あえて優先したまで。

現に「通信格差」や「消費格差」のように、“gap” の方が
一般的なものもあるが、”disparity” でも間違いではない。

弊サイトでは、裏打ちのリサーチは、必ず行っている。

少なくとも、大手メディアによる使用は確認済みである。

【参考】     ※  外部サイト

 

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