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Cut corners

      2019/06/19

はしょる、手を抜く、節約する

「手抜きをする」といったらこれ。

定訳である。

私たちの大半は、内心<手抜き大好き>なので、
所構わず出てくる表現。

  てぬき【手抜】
〘名〙
1. 手を抜くこと。しなければならない手続・手段
を故意にしないでおくこと。するはずの一部を
省略しながら、完全になしとげたもののように
ごまかしておくこと。
(精選版 日本国語大辞典)

※ 下線は引用者

“cut corners” は、カタカナで定着済みの2語で
構成されているため、覚えやすい。

また、定訳の一つ「はしょる」と成り立ちが似通う。

  はしょる【端折る】
〘他五〙(ハシオルの転)
2. はぶいて短く縮める。省略する。簡単にする。
(広辞苑 第七版)

  •  はしょる   端折る端を折る を省略
  •  cut corners  = 角を切る を省略

この分かりやすい共通点こそ、人類みな「手抜き大好き」
な向きの一端を示す感がある。

——-<この表現では 複数形 “corners” が通例>


◆ “cut corners” の語源には諸説ある。

主要説は、以下の英文サイトに詳述されている。
What’s the origin of the idiom “cut corners”

このサイトが述べる有力な由来は3つ。

(1)屋根ふき工事(roofing)
上図のように、”corners”(角)を “cut”(切り落とす)。
継ぎ目を折り曲げる厄介な工程を省略し、切断してしまう。

(2)狩猟(hunting)  
ウサギ猟などで、獲物にぴったりついて(directly behind)
追うのが、優秀な猟犬。 ぐうたら犬は、コースを外れがち
で、近道を行く(cut corners)。

(3)船頭(gondolier)
ゴンドラ(平底船)の船頭が、大回りを避け、衝突すれすれ
にさばく、際どい漕ぎ方が “cut corners”。

サイト内で最も支持されているのは(3)。
※ 2018年9月25日現在

その根拠のひとつとして引用されているのが、
OED(オックスフォード英語辞典)の編集長による回答。

1997年の記事だが、今でも通じる説明だろう。

The OED documents the phrase from 1869,
when Mark Twain described a gondolier who
cuts a corner so smoothly, now and then,
or misses another gondola by such an
imperceptible hair-breadth that I feel myself
‘scrooching’, as the children say, just as one
does when a buggy wheel grazes his elbow”
(“Innocents Abroad“, chapter 23).

The original use was, therefore,
to pass round a corner as closely as possible“;
the modern extended use is recorded from
the latter end of the 19th century.

JOHN SIMPSON
Chief Editor
Oxford English Dictionary

https://www.independent.co.uk/voices/
July 3, 1997

※ “scrooching” = しゃがむ(自動詞)

シンプソン編集長は、米作家トウェイン(1835-1910)
の紀行『地中海遊覧記』から、スリル満点な船漕ぎの描写
を引き合いに出す。

その上で、出版年の1869年を初出とする。

その根拠は、OEDが記述するからに他ならない。

◆ “OED” = “Oxford English Dictionary” は、
1884年にイギリスで刊行が始まり、最新版の第2版
は1989年刊。

邦題『オックスフォード英語辞典』。

全20巻、2万1730ページ、29万1500の見出し語、62kg。
世界最大の英語辞典である。

語義の配列は、頻出順ではなく、発生順の「歴史主義」。
語義を系統的にたどれる利点がある。

【公式サイト】  http://www.oed.com/


◆ 間一髪のすれ違いを「馬車の車輪がひじをかすめる
際にするように、身をかがめた」とトウェインは記す。

ここから、本来の “cut corners” が意味するのは、
できる限り、ぎりぎり角を曲がる(赤ハイライト)。

無駄を省き、時間が短縮できる一方、安全は二の次。
安全面を犠牲にしかねない点で「手抜き」に派生した
とする解釈である。

生真面目に角にびっちり沿った進行であり、サボりから
程遠いのだが、むやみに接近しすぎて危険を招いている。

それゆえ「手抜き」となる。

何だか分かりにくい。

だが、安全確保の側面から見ると、「手抜き」の語釈
「しなければならない手続・手段を故意にしない」
に該当していると考えられる。

◆ 黄枠の3つの由来のうち、すんなり理解しやすいのは、
(2)の「近道」だろう。

すなわち、角をきちんと曲がらないずぼらな手抜きを示す。

猟犬がサボり主のようだが、人間でも同じ。

 

「近道する」も、”cut corners” の定訳のひとつである。

  ちかみち【近道・近路】
1. 距離の近い道(を行くこと)。
2. ぬけみち
3. はやくするための手段。はやみち。
(三省堂国語辞典 第七版)

  ぬけみち【抜け道】
1. 本道からはずれた近道。間道。
2. 法律の規制や責任を逃れるための手段・方法。
(明鏡国語辞典 第二版)

逆に「近道」の英訳の定訳は、可算名詞 “shortcut“。
上の国語辞典の「近道」にそのまま当てはまる意味。

take shortcuts で「近道を行く」「近道する」。

  • 形容詞 “short“(短い)
  • 名詞 “cut“(道)

で、こちらも理解しやすい。

“shortcut” の初出は16世紀。19世紀の “cut corners”
に比べて、ずっと早い。

◆ ここで、双方の “cut” を見てみよう。

“cut” の語源は、中期英語「切り込む」(cutten)。
非常に多義で、他動詞・自動詞・名詞・形容詞
がそろう。基本的意味は、

  • 他動詞
    「切る」「減らす」「横切る
  • 自動詞
    「切る」「切り替える」「横切る
  • 可算名詞
    「切ること」「切り口」「切片」「抜け道
  • 形容詞
    「切られた」「彫りの深い」

本稿と直結するのは、緑ハイライトの語義。
カタカナ「カット」にも、実は含まれる意味合い。

  カット【cut】
4. 野球で、他の選手への送球を途中に補給すること。
5. 球技で、相手チームがパスしたボールを途中で奪う
こと。
(大辞林 第三版)

どちらも、割り込んで<横取り>する。
相手側から見れば「横切る」方向になる。
語源「切り込む」から連想できるだろう。

本コースを無視しているから、「抜け道」にもつながる。

“cut corners” では他動詞、”shortcut” では名詞の “cut”。
基本的にそれぞれ「横切る」「抜け道」を意味する。

もっとも、先述の<3由来>ごとに検討すれば、

(1)屋根ふき工事(roofing)→ 切る
(2)狩猟(hunting)  → 抜け道を行く
(3)船頭(gondolier)→ 通り抜ける

動詞 “cut” の語形変化は、cuts-cut-cut。
過去形も、過去分詞形も “cut”。

◆ 他方の “corner” の語源は、ラテン語「角」(cornū)。

名詞・他動詞・自動詞があり、基本的意味はこの通り。

  • 可算名詞
    」「端」「分野」「苦境」
  • 他動詞
    「角をつける」「角に置く」「独占する」「詰め寄る」
  • 自動詞
    「角にある」「買い占める」「独占する」「急カーブを曲がる」

“cut corners” では、<3由来>すべてで可算名詞「角」。
基本的意味そのもので、これまたカタカナ共通。
あえて擬態語(赤字)も加えて和訳してみた。

(1)屋根ふき工事(roofing)→ 角をばさっと切る
(2)狩猟(hunting)  → 角をささっと駆け抜ける
(3)船頭(gondolier)→ 角をぎりぎり通り抜ける

◆ 4大学習英英辞典(EFL辞典)は次の通り。

“cut corners”

to save time, money, or energy by doing things
quickly and not as carefully as you should.
(LDOCE6、ロングマン)

■ (disapproving) to do something in the easiest, 
cheapest or quickest way, often by ignoring rules
or leaving something out.
(OALD9、オックスフォード)

to do something in the easiest, cheapest, or 
fastest way.
(CALD4、ケンブリッジ)

If you cut corners, you do something quickly
by doing it in a less thorough way than you should.
[DISAPPROVAL]
(COB9、コウビルド)

※ 下線は引用者

既記のように、複数形 “corners” で項目立てされている。

青字  disapproving” 及び “disapproval とは、
非難する表現を指す。英英辞典の凡例用語。

反意語は、”approval” または “approving“ で
「褒め言葉」。

CALD4の凡例によれば、

  • “approving”
    praising someone or something.
  • “disapproving”
    used to express dislike or disagreementwith someone or something.

この「非難する」ニュアンスは、下線部より明らか。
上から順に、

  • 注意を怠り(LDOCE6)
  • 手順無視または手数省略(OALD9)
  • 不徹底に(COB9)

これらは冒頭の「手抜き」と重なる。
日英等しく、非難を含む語勢であるのが分かる。

◆ 最後に注意点。

“disapproving” と “disapproval” のネガティブ用法
が原則の “cut corners” であるが、節約する
の意で起用されることもある。

無駄を省き、コスト削減という建設的な意図である。

先のEFL辞書でも、下線を除く前半部分を取り上げると、
極めてポジティブな内容である。

時間・経費・エネルギーを節減とあり、効率重視が目標。
明るく前向きな姿勢にあふれ、下線部の示す怠惰な雰囲気はない。

このように、ポジ用途で使われる場合もあるのは確かである。
例えば、予算削減が議題の場面なら、不自然はない。

  しかしやはり、圧倒的な印象は否定的

特に、ニュースに登場する “cut corners” は
たいてい 人聞き悪い「手抜き」を表す。

だから、まずネガ用法から押さえていこう。

 

◆ 皮切りは、安全標語(safety slogan)。

Cutting Corners Costs Lives
(手抜きは命を奪う)

  • “Never cut corners on safety.”
    (安全面で決して手を抜くな。)
  • “People love to cut corners and do things the easy way.”
    (人は手抜きが好きで、楽しようとするもの。)
  • “Don’t try to cut corners. Otherwise, you will regret it.”
    (手を抜こうとするな。さもないと後で後悔するよ。)
  • “They are forcing us to cut corners.”
    (彼らは我々に手抜きするよう強いている。)
  • “The manufacturer had cut corners everywhere.”
    (そのメーカーはあちこち手抜きした。)
  • “We could finish this early if we cut corners.”
    (手を抜けば、早く終えることができる。)
  • “We had to cut corners to meet the deadline.”
    (締切に間に合わせるため、手抜きせざるを得なかった。)

 

 

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