Equivocal
2024/05/20
煮え切らない、 どっちつかずの、 あいまいな
” equivocal ” とは、 態度がはっきりしない状態。
形容詞のみの単語。
【発音】 ikwívəkəl
【音節】 e-quiv-o-cal (4音節)
–
◆ 英単語全体から見れば、 重要でも頻出でもない。
LDOCE6 ( ロングマン ) の指標によれば、
以下3項目すべて、 ランク外。
- 重要度 :9000語圏外
- 書き言葉の頻出度:3000語圏外
- 話し言葉の頻出度:3000語圏外
–
◆ こんな ” equivocal ” を、 「 頻出英語 」 を本旨
とする弊サイトが取り上げる理由は3つ。
–
(1) 発音・音節が複雑で、単語認識が難しい
→ 聞き取れないから、 スルーしてしまう
–
(2) 字面から意味を推測しにくい
→ 事前に知らなければお手上げ
–
(3) ネガティブ用途中心で、話の焦点になりやすい
→ スルーすると、 文意・文脈がつかめない
–
重要・頻出ではないのに、 いざ出てきた際、
キーワードになりがちの単語の例を挙げる。
全部、 弊サイトで取り上げた。
booze、 exonerate、 hiatus、 lambaste、
woo 、 legitimate、 innuendo、 snap
キーワードを把握できないのでは、 内容の理解も怪しい。
弊サイトでは、 こうした表現も優先的にご紹介している。
–
◆ さっそく、 黄枠(1)~(3)を順に見ていこう。
–
(1) 発音・音節が複雑で、単語認識が難しい
発音は、 見かけによらずである。
スペルに ” vocal ” が丸ごと含まれている。
【発音】 vóukəl
【音節】 vo-cal (2音節)
–
ところが、下記のように4音節に分かれる。
【発音】 ikwívəkəl
【音節】 e-quiv-o-cal (4音節)
–
日本語からは程遠い、 せわしい発音。
第2音節( quiv )に、 強さアクセント( 強勢 )が来る。
「 音節 」( syllable、シラブル )とは、 発音の最小単位。
日本語の場合、 原則として「 仮名一字が1音節 」。
そのため、音節を意識する機会は乏しい。
「 音節 」 の日英比較は、 ” integrity ” で事細かに取り上げた。
( 図入り )
” equivocal ” 内の ” vocal ” は完全に分断されている。
vóukəl の発音は跡形もなく消えている印象。
したがって、
- 「 イクィヴォーカル 」 では通じない
- 「 イクィ ヴィコー 」 みたいに聞こえる
- 「 イクィ~ 」 と一気に吐き出し、 後半は消え入る感じ
字面から、 この発音は思い浮かばないだろう。
【発音】 ikwívəkəl
【音節】 e-quiv-o-cal (4音節)
ー
–
スペルと発音が一致するために、 反復訓練を要する。
すっと聞き取れるようになるまでには、 さらなる努力が必要。
時間を割いて練習しない限り、 おそらくスルーしてしまう。
つまり、 単語認識に至らない。
その結果、 目で見て意味が分かるレベルにとどまる。
となると、 ニュースや会話に出てきても気づかない。
]ー
(2) 字面から意味を推測しにくい
先述したように、形容詞 ” vocal ” を含む。
“ vocal ” には、形容詞と名詞がある。
語源は、ラテン語「 声 」( vōx )。
基本的意味は、すべて「 声 」がらみ。
一方、” equivocal ” の語源は、
後期ラテン語「 紛らわしい声の 」( aequivocus )。
- 接頭辞 ” equi– ” ( 等しい )
- 形容詞 ” vocal ” ( 声の )
「 等しい声の 」 → 「 同じ声の 」 → 「 紛らわしい声の 」
発音に残らなくても、 やはり ” vocal ” が関係する。
けれども、 初見で意味を類推できるほど、 簡単ではない。
ましてや、 ニュースなどで初めて見聞きしてピンとくる
ことは、 ほとんどありえないと思う。
中級学習者 であれば、 意味を推測する能力もかなり
身についているものだが、 ” equivocal ” は難関。
きちんと学習しない限り、 意味不明なので、
「 事前に知らなければお手上げ 」 となる。
ー
(3) ネガティブ用途中心で、話の焦点になりやすい
語源 「 紛らわしい声の 」 が示すように、” equivocal ” の
◇ 本質は 「 はっきりしない 」 こと
–
類語の筆頭は、 ” ambiguous “。
【発音】 æmbígjuəs
【音節】 am-big-u-ous (4音節)
同じく4音節で、厄介な発音。
しかし、 次の相違点が顕著。
–
◆ ” equivocal ” は、
–
■ ” ambiguous ” と違って
あいまいにしようとする意図を含む。『 ジーニアス英和大辞典 』
大修館書店、 2001年刊 ( ロゴヴィスタ アプリ版 )
… “ equivocal ” の語法より
<大修館書店HP>
––
■ ” ambiguous ” と同意であるが、
故意に相手を混乱させ、
言い逃れをしようとする意図を伴う。–■ ” ambiguous ” = 2つ以上の解釈が可能だが、
必ずしも多義性が意図されている
とは限らない表現や態度。『 ランダムハウス英和大辞典 第2版 』
小学館、1993年刊 ( 物書堂 アプリ版 )
… ” ambiguous ” の語釈より※ 赤色は引用者
–
作為的 な動機も含む ” equivocal “。
◇ 相手を 煙に巻く 言動
◇ 煮え切らない 態度
–
■ けむにまく【煙に巻く】大げさなことやわけのわからないことを
まくしたてて相手を 戸惑わせる。【 注意 】
この成句では 「 けむ 」を「 けむり 」 とするのは誤り。( 明鏡国語辞典 第三版 )
–
–■ にえきら【煮切】ない
いつまでも態度をはっきりさせない。
ぐずぐずして決定しない。( 精選版 日本国語大辞典 )
–
もし意図的だとすれば、 人を だます に近い行為で、
詐欺的な匂いがたなびく。
現実には、 多少なりとも意識しつつ、 あやふやにする機会
は多く、 むしろそれが人間社会の掟にかなっていたりする。
ー
正直が過ぎるのは、 無防備かつ幼稚であり、 我知らず
周囲に迷惑が及んだりするのが実社会。
【参照】 ” white lie “
相手を煙に巻いてごまかしたり、 煮え切らない返答で
逃げたり、 なんだかんだと時間稼ぎを図ったり。
このような経験は、 誰しも覚えがあるだろう。
社会人はもちろん、 中学生ですら、 この辺りの手加減を
察することができるに違いない。
無論、相手にとっては気分が悪い。
体よく、 はぐらかされてしまった …
その場逃れな姿が、 いやらしい …
–
そんな不快な様子を言葉で表さなければならない時は、
社会マナーに従い、 露骨さを避けたいもの。
その際、 あつらえ向きの 形容詞 が ” equivocal “。
頻出ではないものの、上述の事情より、 出番は絶えない。
悪印象をくるむ婉曲作用が本領なので、「 ネガティブ用途中心 」に。
先の 「 煙に巻く 」「 煮え切らない 」 のイメージがぴったり。
結局、 要領を得ないので、 わけ分からない。
–
◆ 4大学習英英辞典 ( EFL辞典 ) は次の通り。
–
–
” equivocal “■ 1. if you are equivocal, you are deliberately unclear
in the way that you give information or your opinion.
SYN: ambiguous
2. information that is equivocal is difficult to understand
or explain because it contains different parts which suggest
that different things are true.( LDOCE6、ロングマン )
–■ formal
1. ( of words or statements ) not having one clear or definite
meaning or intention; able to be understood in more than one way.
SYNONYM: ambiguous
2. ( of actions or behaviour ) difficult to understand or explain
clearly or easily.( OALD9、オックスフォード )
–■ not clear and seeming to have two opposing meanings,
or confusing and able to be understood in two different ways.
Opposite: unequivocal( CALD4、ケンブリッジ )
–■
1. [ formal ]
If you are equivocal, you are deliberately vague in what you say,
because you want to avoid speaking the truth or making a decision.
2. [ formal ]
If something is equivocal, it is difficult to understand, interpret,
or explain, often because it has aspects that seem to contradict
each other.( COBUILD9、コウビルド )
※ 下線・色・太字は引用者
–
【発音】 ikwívəkəl
【音節】 e-quiv-o-cal (4音節)
–
これまでの説明は、 これら英英の語釈で確認できる。
特に、 4点中2点は、 副詞 ” deliberately ” を用いて、
故意にあいまいにする意図 ( 赤字 )を明記する。
要は、 お茶を濁す気まんまん。
さらに、 ” equivocal ” が ” informal “( 青字 )である
ことを2点は示す。
残りの2点に表示はなく、 論が分かれるが、 堅めの表現であることは確か。
小学生の会話には出てこない類の形容詞である。
既記の通り、「 はっきりしない(not clear) 」 状態が
” equivocal ” の本質。
–
◇ ずるい言い逃れ ばかりでなく、
「 どうにでも解釈できる 」 多義性
の意味も兼ね備える。
–
両者を区別するため、 語釈は2項ずつ並ぶ。
( ただし、 CALD4のみ1項 )
–
◆ 以下、 新旧それぞれ全文。
–
–
–
『 最新日米口語辞典 [ 決定版 ] 』 p. 690.エドワード・G・サイデンステッカー(編)、 松本道弘(編)
朝日出版社、 2021年刊
<朝日出版社HP>
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『 最新日米口語辞典 [ 増補改訂版 ] 』 p. 604.エドワード・G・サイデンステッカー(編)、 松本道弘(編)
朝日出版社、 1982年刊
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–
◆ 典型シーンはこちら。
苦し紛れの空気が渦巻く雰囲気だが、 私たちの大多数が
双方の立場を幾度も味わってきているはず。
–
巧妙に はぐらかす
- “His answer was equivocal.”
“He gave an equivocal answer.”
(彼の答えはあいまいだった。)
(玉虫色 の返答だった。)
ー - “Her attitude was equivocal.”
“She showed an equivocal attitude.”
(彼女の態度は、はっきりしなかった。)
ー - “They were equivocal about the plan.”
(彼らはその計画について、どっちつかずだった。)
ー - “The results were rather equivocal.”
(結果はよく分からない感じだった。)
ー - “The evidence remains equivocal .”
(証拠は、今なおはっきりしない。)
ー - “She has been equivocal about her opinion.”
(彼女は自分の意見を、ずっとうやむやにしてきた。)
–
どれもよくある場面かも。
埒が明かないからと言って、 他人を完膚なきまでに
追い詰めない方がよいと思う。
大変危険。
相手の逃げ道を完全に奪うと、 執拗な恨みを買う。
その結果、 自分の運気を落とし、 思わぬ災難を
引き寄せることになりかねない。
「 窮鼠猫を噛む 」 という至言もある。
【反意語】
■ ” unequivocal “
( あいまいでない、 明白な )
【発音】 ʌ̀nikwívəkəl
【音節】 un-e-quiv-o-cal(5音節)
※ 否定の接頭辞 “ un “( ~ でない )を加えたもの