プロ翻訳者の単語帳

Professional Interpreter / Translator at Government Agency

Wet ink / Wet sign / Wet signature

      2021/10/22

本人が自分の氏名を手書きしたもの  ( = 本人の直筆サイン

  •  wet ink  ( wet-ink )
  •  wet sign  ( wet-sign )
  •  wet signature
  •  physical signature
  •  physical sign

この5つは、一般実務では、ほぼ同じ意味合いで使用されている。

 電子認証   と反対の立ち位置。

大半の使い方は、こちらを指す。

「 本人が 自分の氏名を 手書きしたもの 」

つまりご本人の直筆サイン、肉筆サイン、自署。

■  本来は技術用語として、別の語義があるのだが、

   実務では、3つとも「 自署 」を意味する。

   ひいては「 原本 」を示唆 る。


まずは、表題の 「 3つの wet 」  を見ていきたい。

” physical signature ” と ” physical sign ” については後述する。


◆  ” wet ” には、形容詞・名詞・自動詞・他動詞がある。

語源は、古期英語 「 濡れた 」 「 湿った 」 ( wǣt )。

【発音】  wét  (1音節)

” wet ” は、「 1音節 ( one syllable )」の単語。

「 音節 」( syllable、シラブル )とは、発音の最小単位。

1音節だから、腹の底から ゲロする 勢いで、思いっきり、

ウエット


と吐き出し、一息に発声する。

まさに、ゲロ同然の響き。

ウエット


「 発音の最小単位 」に切れ目がない1音節のため、
一気にゲロするような迫力が出る。

ここでは、形容詞 「 湿った 」 の意。

  •  ダイビング用の潜水服「 ウェット スーツ 」は、 ” wet suit “
  •  「 ウェット シェービング 」では、 肌を 湿らせ、ひげを剃る
  •  ” Wet Paint ” は、「 湿った ペンキ 」で「 ペンキ塗りたて 」

ウエット


よって、直訳は、

  •  ” wet ink ”   湿ったインク 
  •  ” wet sign ”   湿った記号 
  •  ” wet signature ”   湿ったサイン 

いずれも「 自署 」として多用される。

【発音】  sign   /sáin/  1音節
【発音】  signature   /sígnətʃər/   sig-na-ture  (3音節)

” wet ” の直後にハイフンを入れる、
複合名詞 の表記( wet-ink )もある。

加えて、” ink ” の他動詞用法には「 署名する 」の意も含む。

【発音】  íŋk  (1音節)

  • “I have inked a contract with the company.”
    (その会社との契約に署名しました。)
    (その会社と契約を結びました。)

語源は、ギリシア語「 紫色のインク 」(enkauston)。

※  同義扱いの 「 イン」は、オランダ語  ” inkt ” より

平板で、均一なリズムの日本語では、「3音節」の

英語では「1音節」なので、 こっちも ゲロ

イン

→  音節の差異が顕著な日英比較は、” integrity ” 参照

 

◇  湿った 」とはいえ、通常は ボールペン でもよい。

wet ” は、自署に用いる
< 筆記具の種類 >よりは、

「 直筆 」及び「 原本 」の指示 が趣旨 

 

wet ” 指定ならば、直筆 」かつ「 原本

■  「 原本 」を提出 ( 持参か郵送が一般的 )
■   メール添付は不可 ( 後述 ” dry ” 参照 )


◆  なお、手書きでなく、ゴム印や印鑑 による署名
( 後述の「 記名押印 」や「 記名 」)も、” wet ink “、
“ wet sign ”、” wet signature ” に含むとする解釈がある。

「 湿った 」( wet )点で、条件を満たすからである。

A wet signature is created when a person
physically  marks a document.
Other cultures use name seals to the same effect.

https://www.laserfiche.com

【 参考和訳 】

” wet signature ” とは、人が  物理的に 文書に署名すること。
文化によっては、同じ用途に 印鑑 を用いることがある。

◇  人間の手で書いたり押したりする 「 理的 」 サインゆえ、

  •  physical  signature
  •  physical  sign

と表すこともある。

しかし、表題の 「 3つの wet 」  に比べれば、出番はずっと少ない。

【発音】  physical  /fízikəl/
【音節】  phys-i-cal  (3音節)

※  上記の形容詞  ” physical ” には、
「 身体の 」 「 肉体の 」 「 好色の 」
の意味もある。

 

日本では「 記名 」に入るが …

 

ゴム印や印鑑が、” wet signature ” として、
実際に通用するかと言えば、心許ない。

提出先などに確認する方が、一安心できる。

◆  表題の対となるのが、 dry signature “、” dry sign “。

【発音】  drái  (1音節)

  これらは 「 原本 」ではない  

  コピー や ファックス を通した署名  のこと。

直訳は「 乾いたサイン 」。

後掲の「 デジタル署名 」もろとも、カラッと乾いた印象である。

  •  衣類用「 ドライ クリーニング 」 は、“ dry clean(ing) ”
  •  「 ドライ アイス 」は、” dry ice ” で、もともと商標
  •  眼球の表面が 乾くドライ アイ 」は、” dry eye “

例えとしての「直筆」が、” wet ” なのは想像できるだろう。

◇  「 原本 」の英訳  

  原本は、本質的に  唯一の存在  なので、
定冠詞 ” the ”  が原則。

  ただし、特定の原本ではなく、単なる呼称  としての
「原本」には不定冠詞も使う。

なぜなら、どんな原本でも用をなし、唯一の存在でないから。

【 例 】  ” wet ink copy—-※  後述

■  原本が複数枚に渡ったり、種類が多数ある場合、
「 複数の文書 」を意味する複数形の単語
documents  や  documentations  など )
を付け加えて、無冠詞 または  “ the ”。

  日常実務では、枚数や種類にかかわらず、シンプルな
the original ” と ” the original copy ”  が 多用される。

【発音】  original   /ərídʒənəl/  o-rig-i-nal  (4音節)
【発音】  copy   /kɑ́picop-y  (2音節)

【 ご注意 】

  この用法の  “ copy ” は「 原稿 」の意味合い

【誤】  X 写し  X 控え  X コピー  

・ a  wet ink copy  =  直筆の「 原本
・ a  wet copy  =  同上   ←  原本そのもの

【誤】  X 原本のコピー 」  


一般的には、こう考えてよい。

 ” 〇〇 copy ” は 「 〇〇 の  写し 」  ←  原本  

「 原本 」

  •  the original
  •  the original copy
  •  the original paper
  •  the original version
  •  the original  ____
    【例】  manuscript( 原稿 )
  •  original document(s)
  •  wet ink original
  •  wet ink document(s)
  •  wet ink documentation(s)
  •  wet ink version 
  •  wet ink copy 
  •  wet copy 


< ” copy ”  語源 >

ラテン語「 たくさん 」(cōpia) → 「 たくさん 書く 」
→ 「 原本を たくさん 写し取る 」 → 「 複写 する 」

▼ 「 複写 」「 写し 」以外 の意味 ( 名詞 ” copy ” )▼

■ 
1部・1冊・1枚
■ 
原稿
■ 
広告文

translated copy  =  翻訳版   ←  翻訳版の「写し」ではない
translated version  =  同上

duplicate copy  =  副本   ←  副本の「写し」ではない
a
  copy of the DVD  =  そのDVD1枚   ←  コピーしたDVDではない
a  copy of the book  =  その本1冊   ←  コピーした本ではない

  • ” We need to provide a  translated copy  to her. ”
    ( 彼女には  翻訳版  を提供する必要があります。)

英和辞典の語釈はあいまいなものが多く、やや紛らわしい感触。

 

【 マイナー用法 】    ※  ” Loud and clear. ”  参照

無線では、「 了解 」を表す決まり文句。

市民ラジオ由来の表現とされる。

Do you copy ?  ” ( 聞こえますか) →   ” Copy that ! “( 了解 ! )。

” I have received your transmission. ”  ひいては
” I understand what was said. ”  の意。

無線に限らず、社内メールの返信でも見かける。

  •  ” Copy that. ”  ( 了解しました。)
  •  ” Copy all.”  ( 内容を全部了解しました。)

→  目上に対する「 了解 」の可否 についても、
Loud and clear. ”  参照

 

◆  さらに、

■  digital signature ( デジタル署名 )
■  electronic signature ( 電子署名 ) 

これらも  ” wet ink “、” wet sign “、” wet signature ”
に 該当しない

「直筆」でも「原本」でもないからである。

一般実務における「デジタル署名」「電子署名」は、
「原本」の概念にそぐわない。

そもそも、 何枚でも印刷( print out )できてしまう。

◇  本人確認 と 認証 こそ、
デジタル署名 ・ 電子署名 の役目

 電子認証 

  • “Please digitally sign on the document.”
    (この文書にデジタル署名をお願いします。)

Wet ”  では ない 代表例

 電子認証   ( 以下は 例示 )

【 例1 】  ” digital signature ” ( デジタル署名 )

【 例2 】  ” digital signature ” ( デジタル署名 )


【 例3 】  ” electronic signature ” ( 電子署名 )


電子サインと電子署名で業務プロセスを変革
アドビ システムズ 株式会社
https://www.adobe.com/content/dam/dx-dc/pdf/jp/adobe-sign-electronic-and-digital-signatures-wp-jp.pdf
2021年4月 発表
※  PDF 全11頁、287KB

【注意】
  上記資料で、アドビー社が「 電子サイン 」と和訳するものは、
本稿の「 電子署名 」( electronic signature )を指す。

◇  ” electronic signature ” の定訳は「 電子署名 」

本稿も定訳に従った。

  日本政府のサイトでも「電子署名」

『 電子署名及び認証業務に関する法律 』

施行日 : 2016年4月1日

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=412AC0000000102

【参考英訳】  日本法令外国語訳データベースシステム
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/


  米国の電子署名法 “E-Sign Act” は、2000年施行
米政府発行
Electronic Signatures in Global and National Commerce Act
https://www.govinfo.gov/content/pkg/PLAW-106publ229/pdf/PLAW-106publ229.pdf
2000年6月30日付
※  PDF 全14頁、223KB


■  世界各国の電子サイン情報へのリンク(英文)

アドビ システムズ 株式会社
https://www.adobe.com/trust/document-cloud-security/cloud-signatures-legality.html

 

電子署名、脱ハンコで急拡大  3年後は200億円市場に
2020年10月13日付

新型コロナウイルス禍で「脱ハンコ」が進むなか、
電子署名の利用が急増している。

(中略)

電子署名はオンラインで契約を結ぶ際、契約者本人であることなどを
証明するのに必要となる。

(中略)

背景には電子署名の方式が2つに分かれていることがある。

「電子署名、脱ハンコで急拡大 3年後は200億円市場に」
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64908610S0A011C2TJ2000/
2020年10月13日付

  『 電子契約サービスに関するQ&A
総務省 ・ 法務省 ・ 経済産業省 

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/denshishomei_qa.pdf
2020年7月17日付

※  PDF 全3頁、221KB


かつて、署名は「 自署 」が原則であった。

今では、「 記名押印 」や「 記名 」も広く採用されている。

◆  日本のビジネス慣習上、法律的な証拠能力の有効性は、
次の順とされている。

  1.  署名捺印
  2.  署名
  3.  記名押印
  4.  記名
  •  「 署名 本人が氏名を筆記具で書く
       →  wet inkwet signwet signature
  •  「 記名 ゴム印・印刷・代筆を含む
  •  「 捺印 」「 押印 印章を押すこと

【参考記事】     ※  外部サイト

  『 押印についてのQ&A
内閣府 ・ 法務省 ・ 経済産業省 

http://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf
2020年6月19日付

※  PDF 全5頁、137KB


近年、世界標準の実務にて定着しつつあるのが、
「 デジタル署名 」( 上図参照 )。

◇  本人確認 や 改ざん防止機能 の実用性
から、認証用 に導入された。

wet ink“、”wet sign“、”wet signature” では ない


文書を電子的にやり取りするのが日常になって以来、
自署やハンコ代わりに使われている。

 

◆  それでも、自署を要する場面はまだまだ健在だ。

  日本語では、

自署 」「 自筆 」「 手書き 」「 直筆 」「 署名 」「 肉筆

  近頃、とみに見聞きするようになった英語が、

wet ink “、” wet sign “、” wet signature


直筆サインを求められる機会は、今後も消えないだろう。

一般組織では、2010年頃 から散見

 電子認証  の導入に伴う

 ★ 新しい現 ★

■  wet ink

■  wet sign

■  wet signature

直筆 かつ 原本     ポイント


◆  昔は、もっぱら  ” handwritten signature ”  だった。

 電子認証   導入後は ” wet ” ばかり目にする印象。

in は、手段前置詞 ~ を使って ~ で


直 筆

 

wet 指定ならば、直筆 」かつ「 原本

■  「 原本 」を提出 ( 持参か郵送が一般的 )
■  メール添付は不可 ( 上述の通り ” dry ” )

 

◆  ” wet ink “、” wet sign “、” wet signature ”
の基本的意味を解説する英文サイトは数多く存在する。

また、直筆を求める要求事項( requirements )には、
今なお “wet” を 引用符 で囲んだものが目立つ。

  • A “wet” signature is required on Page 3.
    (3頁目に「直筆」サインをお願いいたします。)

2021年現在、世間一般には、まだまだ認知されていない証左であろう。

  • “All signatures on the document must be wet ink.”
    (その文書上の署名は自署に限ります。)
  • This document must be wet ink signed by the CEO.”
    (この文書への署名はCEOが自署すること。)

  • “All signatures must be wet ink originals.”
    (すべての署名は直筆でなければならない。)
  • “All documents must be certified in wet-ink by the spouse.”
    (配偶者は、すべての文書に直筆で署名すること。)

  • “Must be wet signature and not digital signature.”
    自署が必要で、デジタル署名は不可です。)
  • “We will require your wet signature for documentation.”
    (文書には自署していただきます。)
  • Wet signatures of all his creditors are needed to
    exonerate him.”
    (彼を免除するには、債権者全員の直筆サインが必要です。)
  • “All certificates will be signed electronically and no
    longer contain a wet ink signature.”
    (すべての証明書は電子署名を採用し、
    手書きの署名は廃止されます。)
  •  “Electronic signatures to replace ‘wet ink’ signatures
    自署から電子署名へ移行)     ※  見出し

 

【類似表現】

■  ” sign off ”  

  •  他動詞  ” sign “( 署名する )
  •  副詞  ” off “( 完全に、すっかり )

他動詞の句動詞だから「句他動詞」( transitive phrasal verb )。

副詞 ” off ” は、” top off “(締めくくる)と同じ用法。

意味は 「 署名して承認する 」。
要は、承認のサインをする こと。

日常業務で重宝する句動詞である。

主な使用場面は、次の2つ。

  1. 承認権限のある部門・人物による 決裁

  2. 契約書・合意書の 締結

 

■  ” autograph

【発音】  ɔ́ːtəgræ̀f
【音節】  au-to-graph  (3音節)

–  名詞  「自筆」「有名人のサイン」     ※  可算・不可算兼用
–  他動詞  「自署する」「自筆で書く」     ※  自動詞はない
–  形容詞  「サイン入りの」「肉筆の」

  •  an autographed copy of her book
    …  単数形、特定作品のサイン本1冊
  •  autographed copies of her book
    …  複数形、ある特定の作品のサイン本がたくさん
  •  autographed copies of her books 
    …  複数形、複数の著作物のサイン本がたくさん
    ( 当該著者のサイン入りの本 )
    ※  その著者が男性なら、 所有格は ” his “

意味合いは表題に重なるものの、
ごく普通のビジネス向けではない。

文芸 が主用途

すなわち、文学 学問 芸術  一般。

著作者  または  芸能人  などの 有名人に使うのが通例。

autograph letter
( 手書きの手紙 )    ※  タイプ打ちでなく、肉筆

autograph letter,  signed
( 署名入り肉筆手紙 )

autograph manuscript
( 手書きの原稿、 肉筆原稿 )

autograph manuscript,  signed
( 署名入り肉筆原稿 )    【 略 】  a.ms.s.

【発音】  mǽnjəskrìpt
【音節】  man-u-script  (3音節)

 

【参考記事】     ※  外部サイト

■  脱ハンコで攻勢。
電子契約 “ 国内利用1位 ” VS “ 世界1位 ” それぞれの闘い方
https://www.businessinsider.jp/post-230201
2021年2月25日付

■  行政手続きの認め印全廃 婚姻届や車検 実印は継続
【和文】
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66173380T11C20A1AM1000/
【英文】
https://asia.nikkei.com/Politics/Japan-to-drop-seal-requirement-in-99-of-administrative-procedures
2020年11月13日付

■  弁護士の解釈「電子署名」と「電子サイン」の違い
https://toyokeizai.net/articles/-/375564
2020年9月30日付

■  ハンコは「抵抗勢力」か 印章制度の本質と過度なデジタル化の危険
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200812/pol/00m/010/013000c
2020年8月13日付

■  「脱ハンコ」へ整備加速  電子書類の公的認証、年内に  テレワークの拡大契機
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59355130Q0A520C2EE8000/
2020年5月21日付

■  在宅勤務で「電子印」広がる 慣行見直し加速か
https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/200521/ecd2005210655001-n1.htm
2020年5月21日付

■  「紙」「ハンコ」「手書き」の三悪を撲滅せよ
アフターコロナ、「IT後進国」の日本は生まれ変われるか
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00868/050100079/?P=4
2020年5月12日付

■  英語の「サイン」の書き方・使い方・求め方
https://eikaiwa.weblio.jp/column/knowledge/tourism/signature_autograph
2016年11月8日付
↓↓↓

自筆署名は「 信頼 」と「 信用 」そのもので、

意思表示 」と「 自己同一性 」の証明手段

 

 

 

 

 

 

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