プロ翻訳者の単語帳

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Wet ink / Wet sign / Wet signature

      2019/05/17

本人が自分の氏名を手書きしたもの
(= 本人の直筆サイン

”wet ink”、”wet sign”、”wet signature” は、
一般実務では同じ意味合いで使用されている。

「本人が自分の氏名を手書きしたもの」

だから本人の直筆サイン、肉筆サイン、自署。

◆ 本来は技術用語として、別の語義があるのだが、

   実務では、3つとも「自署」を意味する。

   ひいては「原本」を示唆する。

wet には、形容詞・名詞・自動詞・他動詞がある。
ここでは、形容詞「湿った」。

  • ダイビング用「ウェット スーツ」は “wet suit”
  • Wet Paint” は「湿った ペンキ」で「ペンキ塗りたて」

よって、”wet ink” は「湿ったインク」。
“wet sign” と “wet signature” は「湿ったサイン」。

いずれも「自署」を指す。

“wet” の直後にハイフンを入れる表記(wet-ink)もある。
また、”ink” の他動詞用法には「署名する」の意も含む。

湿った」とはいえ、通常は ボールペン でもよい。

“wet” は、自署に用いる
<筆記具の種類>よりは、

「直筆」及び「原本」の指示が趣旨 


◆ なお、手書きでなく、ゴム印・印刷・代筆 による署名
(「記名押印」や「記名」)も、”wet ink”、”wet sign”、
“wet signature” に含むとする解釈もある。

「湿った」(wet)点で、条件を満たすからである。

A wet signature is created when a person
physically marks a document. 
Other cultures use name seals to the same effect.

https://www.laserfiche.com

【和訳】
“wet signature” とは、人が物理的に文書に署名する
こと。 文化によっては、同じ用途に印鑑を用いることがある。

<補足説明>

自らの手で記したり押したりする「物理的
なサインゆえ、

  • physical signature
  • physical sign

と表すこともある。

しかし、表題に比べれば、出番はずっと少ない。

ゴム印・印刷・代筆が実際に “wet signature”
として、通用するかと言えば心許ない。

提出先などに確認する方がよい。

◆ 表題の対となるのが、”dry signature“、”dry sign“。

  これらは「原本」ではない  

  コピーやファックスを通した署名  のこと。

直訳は「乾いた サイン」。
後掲の「デジタル署名」もろとも、カラッと乾いた印象である。

  • 衣類用「ドライ クリーニング」は “dry clean(ing)”
  • ドライ アイス」は乾いているので “dry ice”

例えとしての「直筆」が、”wet” なのは想像できるだろう。

「原本」の英訳  

■ 原本は、本質的に唯一の存在なので、
定冠詞 “the” が原則。

■ ただし、特定の原本ではなく、単なる呼称としての
「原本」には不定冠詞も使う。
なぜなら、一般的な原本
ならば、どんな原本でも用をなし、唯一の存在でないから。
【例】後述の “a wet ink copy

■ 原本が複数枚に渡ったり、種類が多数ある場合、
複数の文書」を意味する複数形の単語
documentsdocumentations など)
を付け加えて、無冠詞 または “the”。

■ 日常実務では、枚数や種類にかかわらず、シンプルな
the original” と “the original copy が多用される。

【注意】

この用法の copy” は「原稿」の意味合い

【誤】X 写し X 控え X コピー  

a wet ink copy直筆の「原本」

【誤】X「原本のコピー」

「原本」

  • the original
  • the original copy
  • the original paper
  • the original  ____
    【例】manuscript(原稿)
  • original document(s)
  • wet ink document(s)
  • wet ink documentation(s)
  • wet ink copy ーー※ 上掲の赤枠【注意】参照
    → 表題と同時期に使われ始めた

【”copy” 語源】

ラテン語「たくさん」(cōpia)→「たくさん書く」
→「原本をたくさん写し取る」→「複写する」

複写以外主な意味(名詞 “copy”)

  • 1部・1冊・1枚
  • 原稿
  • 広告文

※ 英和辞典の語釈はあいまいなものが多く、分かりにくい

さらに、

■  digital signature(デジタル署名)
■  electronic signature電子署名) 

これらも “wet ink”、”wet sign”、”wet signature”
に 該当しない

「直筆」でも「原本」でもないからである。

一般実務における「デジタル署名」「電子署名」は、
「原本」の概念にそぐわない。

そもそも、 何枚でも印刷(print out)できてしまう。

本人確認
認証こそ、デジタル署名・電子署名の役目(後述)。

  • “Please digitally sign on the document.”
    (この文書にデジタル署名をお願いします。)

【例1】”digital signature”(デジタル署名)
Inline image 4
【例2】”digital signature”(デジタル署名)Inline image 2

【例3】”electronic signature”(電子署名)Inline image 3

【出典元】https://acrobat.adobe.com
『電子サインと業務プロセスを変革』
アドビ システムズ 株式会社   ※ 2017年12月発表

【注意】
  上記資料で、アドビー社が「電子サイン」と和訳するものは、
本稿の「電子署名」(electronic signature)を指す。

  “electronic signature” の定訳は「電子署名」

本稿も定訳に従った。

◆ 日本政府のサイトでも「電子署名」

『電子署名及び認証業務に関する法律』

施行日:2016年4月1日

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/

【参考英訳】日本法令外国語訳データベースシステム
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/

◆ 米国の電子署名法 “E-Sign Act は、2000年施行
※ 米政府発行のPDF
Electronic Signatures in Global and National Commerce Act

『電子サイン関連法 グローバルガイド』
※ 国別の強制力に関する解説PDF
https://acrobat.adobe.com/content/dam/doc-cloud/jp/pdfs/
アドビ システムズ 株式会社   ※ 2017年発表

かつて、署名は「自署」が原則であった。
今では、「記名押印」や「記名」も広く採用されている。

◆ 日本のビジネス慣習上、法律的な証拠能力の有効性は、
次の順とされている。

  1. 署名捺印
  2. 署名
  3. 記名押印
  4. 記名
  • 署名本人が氏名を筆記具で書く
     = wet inkwet signwet signature
  • 記名ゴム印・印刷・代筆を含む
  • 押印・捺印印章を押すこと

【参考】 押印」「捺印」「押捺」の違い  

近年、世界標準の実務にて定着しつつあるのが、
デジタル署名」(上図参照)。

本人確認や改ざん防止機能の実用性から、認証用に導入された。

文書を電子的にやり取りするのが日常になって以来、
自署やハンコ代わりに使われている。

 

◆ それでも、自署を要する場面はまだまだ健在だ。

直筆サインを求められる機会は、今後も消えないだろう。

■ 日本語では、
自署」「自筆」「手書き」「直筆」「署名」「肉筆
などと指示される

■ 英文の場合、近頃はほとんどが、
wet ink“、”wet sign” または “wet signature

一般組織では、2010年頃から散見された新しい表現。

昔は、もっぱら “handwritten signature” だった。
電子認証導入後は “wet” ばかり目にする。


in” は、手段前置詞~を使って」「~で

◆ “wet ink”、”wet sign”、”wet signature”
の基本的意味を解説する英文サイトは数多く存在する。

また、直筆を求める要求事項(requirements)には、
今なお “wet” を引用符で囲んだものが目立つ。

  • A “wet” signature is required on Page 3.
    (3頁目に直筆サインをお願いいたします。)

一般社会では、まだまだ認知されていない証左であろう。

  • “All signatures on the document must be wet ink.”
    (その文書上の署名は自署に限ります。)
  • This document must be wet ink signed by the CEO.”
    (この文書への署名はCEOが自署すること。)

  • “All signature must be wet ink originals.”
    (すべての署名は直筆でなければならない。)

  • “Must be wet signature and not digital signature.”
    自署が必要で、デジタル署名は不可です。)
  • “We will require your wet signature for documentation.”
    (文書には自署していただきます。)
  • Wet signatures of all his creditors are needed to
    exonerate him.”
    (彼を免除するには、債権者全員の直筆サインが必要です。)
  • “All certificates will be signed electronically and no
    longer contain a wet ink signature.”
    (すべての証明書は電子署名を採用し、
    手書きの署名は廃止されます。)
  •  “Electronic signatures to replace ‘wet ink’ signatures
    自署から電子署名へ移行)  ※ 見出し


【発音】クリック

・ wet(wét
・ ink(íŋk
・ sign(sáin
・ signature(sígnətʃər
・ original(
ərídʒənəl)
・ copy(kɑ́pi

 

【類似表現】

■ autographɔ́ːtəgræ̀f

– 名詞「自筆」「有名人のサイン」 ※ 可算・不可算兼用
– 他動詞「自署する」「自筆で書く」 ※ 自動詞はない
– 形容詞「サイン入りの」「肉筆の」

表題と意味合いは重なるものの、
ごく普通の事務・ビジネス向けではない。

文芸 が主用途

すなわち、文学学問芸術一般。
著作者または芸能人などの有名人に使うのが通例。

autograph letter
(手書きの手紙) ※ タイプ打ちでなく肉筆

autograph letter, signed
(署名入り肉筆手紙)

autograph manuscript
(手書きの原稿、肉筆原稿)

autograph manuscript, signed
(署名入り肉筆原稿) ※【略】a.ms.s.

 

■ sign off

  • 他動詞 “sign“(署名する)
  • 副詞 “off“(完全に、すっかり)

他動詞の句動詞だから「句他動詞」。

副詞 “off” は、”top off“(締めくくる)
と同じ用法。

意味は「署名して承認する」。
要は、承認のサインをすること。

主な使用場面は次の2つ。

  1. 承認権限のある部門による決裁
  2. 契約書・合意書の締結

 

 

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